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月の海で君と笑う  作者: 雨月柚
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梅崎が青年に引っ張られて連れてこられたのは、ファミリー向けのマンションだった。

二人してエントランスを水で濡らしながら、エレベーターに乗り込む。エレベーターのボタンはいつの間にか五階に明かりがついていた。

二人の間に会話はなく、エレベーターが軽快な音を立てて目的の階に到着する。廊下の一番端にある部屋にたどり着くと、青年が扉の鍵を開けた。

「中に入って。お風呂沸かしちゃうから」

「ええっと」

「気にしないでいいよ。僕、一人暮らしだし」

 ちょっと待ってね、と梅崎を置いて、青年は玄関近くにあった扉の中に入っていく。おそらくそこがお風呂場なのだろう。青年が扉から顔を出して梅崎の事を手招きした。

 梅崎は慌ててその扉へと向かう。

「ええと、服は僕のだけど、緩めだから入ると思う。入らなかったらごめんね」

「いや、えっと」

「風邪ひく前に入っちゃって。」

「いや、あんたは」

「僕は、慣れてるから。暖かいもの入れるから大丈夫。温まってね」

 そう言って、青年は扉の向こう側へと行ってしまう。梅崎は頭を掻くと、仕方がないとシャワーを借りることにした。

 一通り温まった後、借りた服を着る。緩めの服が好きということだったが、梅崎にはぴったりだった。音のする方へと歩いていき、扉を開ける。

「あぁ、良かった。服着れたね」

「うっす・・・・・・」

「じゃぁ、暖かいもの飲んで待っててね。軽く、シャワー浴びてくるから」

「うっす」

 リビングの中央に置かれた机に、マグカップが置かれている。パタパタと出ていく背中を見送って、梅崎はその机の前に座った。暖かい飲物が入ったコップを手に取ると、その温かさにほっとしてしまう。

 飲物を飲みながらぼんやりとしていると、リビングの扉が開いた。

「体、温まった?」

「うっす」

「そう、良かった」

 小さく笑って青年が梅崎の前に座る。

「ええと、ありがとうございます。服とかお風呂とか」

「あぁ、いいよ。あのままだと風邪ひいちゃうしね」

「えっと・・・・・・」

「あ、自己紹介がまだだったね。僕は、宵宮涼、一応、小説家として働いてるよ」

「梅崎、弓弦です。えっと、一応、売れてないすけど、カメラマンです」

「そうなんだ。それで、なんで、あそこにいたの?」

 えっと、と梅崎はベンチで横になっていた経緯をかいつまんで青年――宵宮に話していく。さすがに、人の感情が音で聞こえるなんてのは伏せているが。

 一通り梅崎から話を聞いた宵之宮は、そっか、と呟いた。

「じゃぁ、君は行くところがないと」

「う、いや、家はあるんす、けど」

 家賃を払えなければ、追い出されるのも時間の問題だろう。と小さくため息をつく。

「‥‥‥君、家事とか得意?」

「へ?いや、まぁ、一通り」

「じゃぁ、僕の家に住んじゃいなよ」

「・・・‥‥はい?」

「僕の家。ちょうど、部屋も余ってるし。僕、仕事してると衣食住おろそかになるから、家事をしてくれる人いてくれたら助かるなぁ」

「いやいや、そこまでご迷惑おかけするわけには」

「あ、ちゃんとお金も払うよ?」

「いやいや、お金とかはいいんですけど」

「じゃぁ、決まり。きっと、あそこで出会ったのも」

 すっと目の前の宵宮の目が細められる。

「―――月の、導き、だろうし」

「?」

 あの、と言いかけて、ぐぅううと梅崎の腹から大きな音がする。それを聞いた宵宮は、少しきょとんとした後、噴き出してコロコロと笑った。

「す、すいません」

「いいよ。何か軽いものを用意しちゃうね」

 座って待っててねと笑う宵宮に梅崎は顔を真っ赤にして頷いた。


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