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世の中には音が溢れかえっている。それは人の生活音だったり、話し声だったりと、目を閉じても耳に飛び込んでくる。
溢れかえった音に顔を顰めながら、梅崎弓弦はふらふらと歩いていた。
「・・・・・・腹、減った」
もう何日食べていないのだろうか、と切実に空腹を訴える腹を撫でた。
梅崎自身はフリーのカメラマンとして活動しながら、カフェでアルバイトをしていた。むしろ、カメラマンの仕事よりもカフェの店員としての仕事の方が本業になりつつあったが。
そんなカフェが突然の閉店、給料日まではまだ一カ月以上ある。
ふらふらと歩いていた足を止めて、梅崎はポケットに入れていた財布を覗いた。
「‥‥‥はぁ」
財布を覗いたって、お金が増えるわけではない。空っぽの財布をポケットにねじ込んで、近くの公園に入る。
「お腹すいた」
口から出る言葉はそれしかない。お腹がすいた。
もう動く気力もなく、ぼんやりとベンチに寝転がって空を見上げる。灰色に染まった空は今にも振り出しそうだ。
「サイテー!!!」
「俺のせいじゃねぇよ!!」
「うるさい!!浮気したのはあんたでしょ!もう別れる!!」
「おい!!」
近くにいたカップルの会話が耳に入る。甲高い声、言い争う声に梅崎は顔を顰め、耳をふさいだ。
女性からは泣きそうな甲高い声と、キィキィと爪で引っ掻くような音が聞こえ、相手の男からは困った声と、何かを強く叩きつけているような音が聞こえてくる。
肉体的にも精神的にも疲れてるこの状況で、この感情たちは辛い。
「・・・・・・ぅ」
梅崎はベンチから転がり落ちるように、地面に座り込んだ。
梅崎には人の感情というものが音で聞こえてくる。負の感情が強いほど、梅崎自身の精神にも影響が出てくる。
ぽつり、ぽつり、と雨が降り出した。久々に強い感情にあてられたのか、体が動かない。というよりも動いたら、確実に胃から出てきてはいけないものが出てきてしまう気がする。
体が冷たく濡れていく。そんな梅崎にふっと影が差した。
「・・・・・・大丈夫?」
雨音に掻き消されそうなほどの小さな声。
梅崎が顔を上げると、青年が一人、傘を差さずに雨に濡れていた。
「・・・・・・なんで、濡れてるの」
聞くことはそこじゃないだろうと、心の中で自分自身にツッコミを入れる。
「君も、濡れてるよ」
「・・・・・・あぁ」
「気分悪い?」
「・・・・・・ちょっと」
「歩ける?」
「なんとか」
「そう、じゃぁ、いこうか」
青年が濡れた髪を耳に掛け、梅崎に向って手を差し出す。その不思議な雰囲気に梅崎は、その青年の差し出された手を取った。




