第5話 最初の晩餐
それは赤岩さんの何気ない「お腹すいたな」から始まった。
時計を見るともう7時半だった。体感的に夜の7時半だろう。
本来なら晩ご飯の時間なのだが、どうやってこの家で食事を摂取すればいいのだろうか。
台所へ行くと、そこには一台の冷蔵庫があった。
この冷蔵庫の中に食料があるんだろうか。あったとしても、そんな怪しいものを食べれるのだろうか。
皆が警戒している中、じゅんが冷蔵庫を開けた。
じゅんは顔色ひとつ変えないで冷蔵庫を開けた。
こいつには危機感とか警戒心とか無いのだろうか。
「じゅんくん、気をつけてね。」
ももさんが言った。
ももさんは優しい。
こんなやつの心配しなくてもいいのに。
別にじゅんのことが嫌いなわけではないが。
冷蔵庫の中には食材が入っていた。
じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、牛肉。
量的には4人分だろうか。
この中に大食いがいれば足りないんじゃないかと心配になるくらいの量だ。
「おい、これって…」
赤岩さんが不安そうに言う。
食材の奥には箱があった。
「そういうことですね。」
なんてことなんだ。
僕には記憶が無い。
しかし、記憶の無い僕でもこれがどういう意味かは分かった。
その箱は誰もが知ってるアレだった。
「まさかこんなところにもあるなんてビックリですね。」
ももさんが苦笑いしながら言う。
じゅんはわかっていないのか、なぜかキョトンとしていた。
これの意味がわからないなんて甘すぎる。
これからすることを考えると甘くてはダメなのだ。
少し辛口くらいが丁度いい。
その箱はハウスのカレーのルーだった。
「カレーはハウスってことかよ…」
赤岩さんに言われなくてもわかっている。
そういうことなんだ。
その箱は緑色で、中辛だった。
「うえ、自分辛いの無理なんすよね。」
じゅんが言った。
「中辛なら大丈夫でしょ。今夜はカレーだな。」
ここから役割分担の話になった。
台所を調べると包丁などの調理器具は一通りあった。
「自分切るの無理っす。」
じゅんは刃物がダメらしい。
「俺も切るのはあまり自信ないかなあ。俺とじゅんで皮剥こうぜ。」
赤岩さんとじゅんは皮剥き担当になった。
僕とももさんは二人が剥いた野菜を切る係だ。
「まあ、しょうがないっすよね。」
じゅんは不服そうだ。
野菜を切れないんだから皮を剥くのは当たり前だろ。
なにが気に入らないんだろうか。
「ゆうまくん、頑張ろうね!」
ももさんが元気よく言った。
元気はいいが、なぜか不安そうだ。
「ももさんって料理とかするの?」
一応聞いてみた。
「あんまりしないんだよね。あはは。」
笑って誤魔化そうとしている。
ここはチャンスだ。
僕がももさんをリードできる。
しかし、僕も料理に自信があるわけではない。
でも男なら背伸びしないといけない場面もあるだろう。
「ももさん、任せてよ!僕が全ての野菜を跡形もなく切り尽くすから。」
「跡形もなくはダメなんじゃ…」
赤岩さんが睨んできた。
「お前ら本当に大丈夫かよ…」
呆れながら言われた。
数分したらじゃがいもの皮が剥けてた。
じゅんと赤岩さんから渡されたじゃがいもを僕とももさんで切った。
こういうのは多分同じ大きさに切ればいいんじゃないか。
それだけを意識して切った。
「じゃがいも切り終わった!」
「私も切り終わったよ。」
ももさんと同時に終わった。
ももさんはとても素晴らしい笑顔をしていた。
しかしももさんのじゃがいもを見るとサイズがバラバラだ。
なのにももさんの顔は達成感で満ちている。
「まだにんじんと玉ねぎが残ってるよ。」
ももさんに言ったらハッとした表情になった。
じゃがいもだけで満足していたのだろうか。
僕らがじゃがいもを切り終わると同時に赤岩さんたちはにんじんの皮を剥き終えていた。
二人ともとても手際が良かった。
「そういえばご飯ってあるの?」
ももさんが言った。
冷蔵庫の中の材料が明らかにカレーの材料だったので、なんの疑いもなくカレーを作っていた。
大事なライスの部分を忘れていた。
「自分お米あるか探しますよ。」
じゅんがお米を探してくれた。
台所の下にお米と炊飯器があった。
この家は意外となんでも揃っているみたいだ。
全ての材料を切り終わった。
最後に玉ねぎを切ったのだが、涙が止まらなかった。
なぜかももさんは大丈夫そうだった。
なにかコツでもあるんだろうか?
牛肉はパックに入ってるこま切れの牛肉だった。
表には半額のシールが貼ってある。
「どこのスーパーで買ってきたんだ?」
赤岩さんが不思議そうに言う。
みんなで切った食材を鍋に入れて茹でた。
大体のタイミングでカレーのルーも入れた。
特に特別なことはしていないが、これで失敗もしないだろう。
カレーが出来たのと同時にご飯も炊けたみたいだ。
カレーとご飯をお皿へ盛り、四人ともリビングで食べることにした。
僕はスプーンでカレーをすくい、一口食べた。
感想としては普通のカレーだった。
じゃがいもが少し硬くって、カレーが薄味に感じた。
「カレー、どうかな?」
ももさんが聞いてきた。
正直に言うと思ったほど美味しくなかった。
水が多すぎたのだろうか。食べられないほどではなかったが…
ここで赤岩さんが口を開いた。
「人様に出せるカレーではないな。」
赤岩さんは何気なく言ったのだろう。
しかし、ももさんはショックそうな顔をしていた。
彼女のせいではないが責任を感じているんだろう。
彼女をフォローしなくてはいけないと思った。
「いや、でも…」
「でもみんなで作ったカレーだもんな。美味しいよ。」
赤岩さんが言った。
ももさんが少し微笑んだのが見えた。
そうだ、みんなで作ったんだから美味しいに決まっている。
僕も妙に納得してしまった。




