第4話 いいやつ
階段を降りてくる足音が聞こえた。
その足音は弱々しかった。
「あのー、すみません」
降りてきたのは二階で倒れていた少年だった。
まるで寝坊したかのような表情をしている。
「ここ、どこですか?
どうして自分ここにいるんですか?」
少年は聞いてきた。
どちらかというとこちらがその答えを知りたいくらいだ。
とりあえずももさんと少年を連れてリビングへ行った。
リビングでは赤岩さんが落ち着こうとしている。
まだ少し興奮気味だが、さっきよりはマシになってる。
「上の子、降りてきましたよ。」
「あ?あー、起きたのか。」
相変わらず嫌な目つきだ。
ももさんが警戒してるのを背中から感じた。
みんなリビングに腰掛けた。
「自分、緑川じゅんって言います。
えーっと、17歳で高校2年生です。」
じゅんという名前らしい。
僕の2個下だ。
なぜだか彼からは余裕を感じる。
そのあと僕らは皆じゅんに自己紹介をして状況を説明した。
意外にもじゅんは怖がってる感じはしなかった。
「自分たち何者かにここへ連れてこられたんっすね。
誰が何の為にこんなことしたんすかね。」
じゅんは少し気を許したのか、部活敬語みたいな喋り方になった。
でもこいつからは不自然さを感じる。
「こういうのって大抵犯人グループの中にいませんか?」
じゅんが言った。
一同がじゅんを向いた。
犯人がこの中にいるとは誰も思っていなかったのだろう。
それはそうだ、僕たちはまだ自分たちの状況が信じられない。夢なんじゃないかと思ってるくらいだ。
それに、犯人がこの中にいるとしたら、一番怪しいのはじゅんだ。
「は?お前が犯人なんじゃねえのか?じゅん」
赤岩さんが言った。
「やだなあ、自分じゃないっすよ。
ただ明らかに普通の誘拐じゃなくないっすか。
それに犯人が大抵グループの中にいるってのは映画とかの話っすよ。」
赤岩さんがじゅんを睨み続けている。
また変に暴れ出さなければいいんだけど。
この二人の組み合わせはまずい気がする。
「お前さっきから変なんだよ。
ウゼーんだよ、なんか。」
じゅんは確かに学校とかでは浮いていそうな雰囲気がある。
僕は浮いていたのだろうか?
今はどうだっていいが。
「そんなハッキリ言わないでくださいよ」
じゅんがムスッと言った。
流石に直接ウザいと言われると気にするようだ。
ももさんは横で聞いているだけだった。
ももさんは人の話も聞けるいい女だ。
そこで赤岩さんが言った。
「でもお互いを捜索しあうのはよくねえよ。
じゅんはまだガキだから、わかんねえかもしれないけど気をつけろよ。」
確かに、この4人で共同生活をしなければならないのかもしれない。
お互いの仲を損なうことは言わないほうがいい。
口は災いのもとということだ。
しかしこのじゅんという少年、見た目は青少年なのにどこか闇を感じる。
寝てる時は気付かなかったが、よく見ると猫のような目をしていた。
なにかずる賢そうな顔だ。
それに比べて赤岩さんはある意味純粋そうだ。
嘘をつけないというか、ハッキリした人なんだろう。
まだ会って間もないがそう感じる。
だからこの人が隠し事が出来るとは思わない。
じゅんの言っている通り犯人がこの中にいるとしたら消去法でやっぱりじゅんだ。
「まず私たちで手分けして、この家を調べませんか。」
ももさんが言った。
赤岩さんもそれに賛成して、みんなで家の中を捜索することになった。
僕はあの二人が眠っていた二階を調べに行った。
二階にはトイレと二人が眠っていた大きな部屋があるだけだった。
そういえば一階にもトイレがあった。
押入れがあったので中を覗くことにした。
中には布団が四組あった。
全く考えていなかったが、今夜はどのように寝るのだろうか?
やはり、じゅんと赤岩さんが二階で僕とももさんが一階なのだろうか。
その場合は布団は三組でも構わない。
すると突然背後から気配がした。
「なんかイヤらしいこと考えてないっすか?」
「うわあ!」
じゅんだった。
全く気づかなかった。
「なんだよお前。
脅かすなよ。」
「ゆうまさん鼻の下が伸びてますよ。」
こいつは俺の顔を見ていたのか。
そっと近くんじゃなくって声をかけたりはしないのか。
「でも分かりますよ。
ももさん可愛いっすもんね。」
なぜももさんのことを考えていたのがわかったのか。
しかもこれは不味い。
ももさんは天使だし、じゅんは顔だけならイケメンだ。
この二人がくっついてもおかしくない。
「おい、じゅん。
変なこと言うんじゃねえぞ。」
こいつには、ももさんに近くという発想すら与えてはならない。
クラスで虐められてそうな雰囲気のくせに、どこかチャラそうなところがある。
可愛い子はこういうダメなヤツに惹かれることは確かにある。
記憶が無いのになぜそう思うかはわからないが。
するとじゅんが突然言った。
「自分、ゆうまさんとももさんってお似合いだと思いますよ。」
僕は馬鹿だった
じゅんはいいやつだ。
「やっぱりじゅんもそう思うか!」
「もちろんっすよ」
二人で笑い出した。
あの赤岩って人はわからないが、僕とももさんとじゅんなら仲良くやっていける。
そんな確信が僕にはあった。
「でもあの赤岩って人怖くないっすか?
自分あの人無理なんすけど…」
なぜだか心を読まれた気がした。
さっきもそうだ。なぜももさんの事を考えているのがわかったんだ。
まあ、じゅんも同じことを考えていただけだろう。
そもそも赤岩さんみたいな人と仲良くできる人間なんていないんじゃないか。
突然キレだすし、ウザいとか言うし…
「まあじゅんのことは僕とももさんが守るから。
何があったら言えな!」
「さすがっす!
頼もしいっすね、ゆうまさん。」
じゅんがニコニコしていた。
実際赤岩さんが襲ってきたらじゅんを本当に守れるかわからない。
恐らく見捨てるだろうが今はいい格好をしようと思った。
だがしかし、僕はじゅんの手のひらの上で転がされてる気がした…




