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氷の王は、美しく啼く皇女という名の小鳥を飼う【連載版】  作者: しののめ


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 それからしばらく、玲華は龍綺と極力顔を合わせないようにしていた。もちろん公務に穴を空けるわけにはいかないので、会食等には出席するが、打ち合わせは侍従たちに任せた。

 そもそも、結婚してから先日の遣り取りがあるまでは、それが普通だったのだ。相手も特に異論はないはず、と玲華はそう思っていたし、しばらくは何事もなく毎日が過ぎていた。


 しかし。


 ある日の夜。……それはとても静かな夜だったように思う。

 いつものように、本を読んで夜を過ごしていた玲華の元に、戸惑いを隠せないといった様子の千早が訪れた。


「玲華様」

「あら、千早、どうしたの?」


 このような夜更けに彼女が訪れるのは珍しい。しかし、珍しいからこそ、何か困ったことが起こったのだろうと当たりを付けて、玲華は彼女を部屋に招こうとした。

 だが、すぐに玲華は、千早の戸惑いの理由を知るところとなった。

 「それ」を見て、玲華は目を見張る。

 千早の後ろに、龍綺の姿があったからだ。


(龍綺殿……)


 何故、と疑問符が頭の中を渦巻く。今まで彼が自分の部屋を訪れたことなど、なかったのに、と。

 そんな玲華の困惑をよそに、龍綺は、


「お前は、ここまでで良い」


と千早に下がるよう促す。千早は心配げな表情で玲華と龍綺を交互に見やったが、当主である龍綺の意向に逆らうわけにはいかず、彼女は一度頭を下げると、静かにその場を離れていった。

 残されたのは龍綺のみであり、彼は玲華が声をかけるより先に、部屋に入り込んできた。


「何か火急の御用でしょうか」


 玲華はソファから立ち上がり、胡乱な目で夫を見やる。すると龍綺はくすりと笑い、


「夫が妻の元を訪ねるのに、何か理由が必要か?」


と問いかけてきた。その白々しさに、玲華は目を伏せる。


(今まで、用事があっても、ここに寄り付きもしなかったのに)


 しかし、そんな内心はひた隠しにし、玲華は微笑んだ。


「いえ、理由など必要ありません。どうぞ、お掛けください」


 そう言ってソファを勧める。龍綺がそれに応じて腰を掛けるのを見届け、玲華は言葉を継いだ。


「お茶でよろしいでしょうか」


 問いかけ、腰を浮かす。しかし、その手をぱしっと掴まれ、動きを制された。……先日のように。

 びくり、と身を固くした玲華に対し、龍綺はおかしそうに告げた。


「何も用意する必要はない」


 そのまま、じっと見つめられると、体が獰猛な獣に睨まれたかのように竦んだ。そんな玲華を眺めながら、龍綺は、


「たまには、夫婦の触れあいも悪くないだろう?」


と肩をすくめる。


「お戯れを……」


 拘束された手首を、しかし激しく振りほどくわけにもいかず、軽い力で引いてみるものの、相手は逃すつもりがないらしい。龍綺の真意が分からず、じっと見つめてみるものの、彼の瞳は深く沈んでいて、何を考えているのか窺い知ることはできなかった。

 ただ、そのまなざしの奥に、微かに揺らめく熱のようなものが見えたような気がした。


「……」


 互いの視線が絡む。それぞれの虹彩は、秘めた思惑を孕んで、相手の姿を映し出している。

 そうして、どれくらいの時間が経っただろうか。体感的には長かったが、実際はほんの刹那だったかもしれない。

 やがて玲華は体から力を抜いた。相手が「そう」と決めてここを訪れたのであれば、今は何を言っても無駄だと悟ったからだ。


(それに……)


 一度瞳を閉じ、そして覚悟を決める。


「貴方のおっしゃるとおりです」


 そう言って玲華は静かに龍綺の手を取った。


「私たちは夫婦です。ですから……」


 彼と自分は夫婦であり、夜を共に過ごすことは本来、当然のことである。

 玲華は視線をちらと寝室に向ける。それだけで十分だった。

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