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氷の王は、美しく啼く皇女という名の小鳥を飼う【連載版】  作者: しののめ


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 どこか皮肉を含んだ口調だったが、しかし玲華は彼が一体何に苛立っているのか、理解できない。第二皇子と自分の繋がり自体が、気に障るのだろうか。

 そうだとしても、これは血の繋がりによる絆であり玲華にはどうすることもできないことだった。だから、


「あの方は、私の後見人ですから」


と事実を短く述べることしかできない。ただ、玲華に対して関心の薄い龍綺のことだ。その説明で十分だと思ったのだが。


「……それだけか?」


 何故か相手はさらに食い下がってくる。


「え?」


 いつにない龍綺の反応に、冷華は戸惑いの声をあげた。それに対して、龍綺は思いも寄らないことを言い出した。


「異母兄弟は結婚が許される関係だ。……そういう仲だったんじゃないのか?」


と。

 正直なところ、玲華には一瞬、言われたことの意味が理解できなかった。想像だにしていなかった追及だったからだ。


 だが、やがてその言葉の意味を咀嚼できるようになるにつれて、嫌悪感が胸に宿り、眉をひそめた。

 しかし、感情的になるのはもってのほかだ。一呼吸置いた後、龍綺の言葉を訂正した。


「呉羽兄様は私を妹として迎えてくださいました。それ以上でも、それ以下でもありません」


 しかし龍綺は、


「どうだか」


と一言漏らした後、皮肉っぽく唇を歪めた。


「それにしても、お前も強情だな」


 突然の話題の転換に、玲華は首を傾けた。


「何のことです」

「この機会に、兄君に泣きついて離縁の話でもするかと思っていたが」

「……」


 つまり彼はこう言いたいのだろうか。先の呉羽の訪れの際、玲華の側から離婚を切り出して欲しかったと。


(確かに、龍綺様は皇女である私との離縁を切り出しにくい立場でしょうけれど)


 実質的な力関係では龍綺の方が上だが、身分は玲華の方が高い。しかし。


「私は、自ら離婚を切り出すことはございません」


 玲華はきっぱりと言い放った。自分にも譲れない理由がある。龍綺の瞳を強く見つめ返したが、相手は「ハッ」とせせら笑い、そして言った。


「金のため、だろう?」


 玲華ははっと息を呑み、龍綺を凝視した。龍綺は相変わらずあざ笑うような表情で、こちらを見つめていた。


「病の母がいると聞いた。第二皇子の庇護の元で療養していると」

「……」


 そこまで知っていたのかと一瞬驚いたが、冷静に考えれば、あり得ない話ではない。

 呉羽が、後々、揉め事の元とならないよう、敢えて明らかにしておいたのだろう。


(ということは、私の出自もご存知ということね……)


 玲華が貧民街で育った娘であることも、彼が自分を疎ましく思う理由のひとつであるのかもしれない。玲華はあくまで、張りぼての皇女でしかないことを、彼は知りすぎるほどに知っているのだろう。


 黙り込んだ玲華に対し、不意に、


「なあ」


と龍綺に声をかけられた。はっと思索を中断し相手を見やれば、彼は微笑んでいた。それは、彼がいつも貴婦人たちに見せる、よそ行きの魅惑的な笑みだ。しかし、繰り返すが玲華がそれに見とれてぼうっとなることなどない。ただ、一体なんの思惑があるのかと、訝るばかりだ。


「何でしょう」

「お前は病の母親のために、このくだらない政略結婚に応じた。……つまり対価のためだな」


 どこか、小馬鹿にしたようなその響きに玲華の身が強張る。


「そのために俺と結婚したならば、それに見合うだけの働きをするんだろう?」


 そして、はっと気がつくと、強い力で手首を掴まれていた。


「俺を悦ばせてみろよ。……金で体を売る卑しい娼婦のように」


 一転、暗い嗤いを浮かべる龍綺に底知れぬ恐怖を感じ、玲華は思わず手を振り払っていた。

 ――思いの外簡単に拘束が解けたので、そのまま立ち上がり、龍綺から距離を取った。そして、きっと睨み付ける。


「悪ふざけも大概なさいませ。……御用がお済みでしたら、私はこれで失礼いたします」


 そう気丈に告げたつもりが、語尾が震える。

 そんな自分を情けなく思いながらも、玲華はそのままきびすを返し、扉に向かった。平たく表現するならば、敵前逃亡である。


 背後からは、くつくつと嗤う声が聞こえた。


(最悪……)


 龍綺の部屋から脱した玲華は、壁に寄りかかり、天井を仰ぐ。膝から力が抜け、ずるずるとしゃがみ込んだ。

 そして、改めて実感した。やはり彼とは分かり合えそうにはない、と。

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