第08話:向日神社に行ってみた
◇永正13年1月(西暦1,516年)
昨年は、切り蕎麦と清酒の売り上げで、
・切り蕎麦:110.4貫文
・澄酒(炭濾過):67.6貫文
合計が、178貫文である。
商業利権は折半だという話で、勝龍寺との間で決めていたが、酒に関しては勝龍寺が販売を担当していて誤魔化しようもないので、そのまま折半した。
だが、切り蕎麦に関しては、完全にこちらが勝手に計算して作っている。
要は帳簿偽装だね。
二重帳簿とも言うけど。
彼らに見せた帳簿では、切り蕎麦の最終利益は28貫文になっている。
一個3文なのだ。
「そこまで利益なんて出てない」と言ってしまえば、そのまま通ってしまう。
3文が積み重なろうとも、彼らに取っては少額でしかないのだ。
まさか、"110貫文"にまで膨れ上がっているとは、誰も彼も思いもしなかったようだった。
そもそも、僕に付いている光念や宣賢様はほぼ、僕の味方側になっているし、勝龍寺から来てくれている文官の僧侶の方も、松永家の財政を把握するだけで精一杯だ。
普通なら、そこまで仕事はないはずなんだけど、ウチは灰持酒利権で急成長した家だ。
元々は、西岡の新参の上に弱小家でしかなかった弱小家でしかない。
当然、色々ところに無理が生じていて、金はあるのに返せていない借金、なんていうのも存在した。
お陰で、文官役の方には、かなりの負担になってしまっている。
「目付け役としてきたはずなのに…」と、厳念さんがぼやいていた。
さらに追加で言うと、この文官さん達には、複式簿記の知識も丸投げしてある。
そのせいで、余計に彼らの仕事は増えていたりする……。
だけど、この最新知識を、実地で学べたお陰で彼らの将来は安泰なんだからね!
苦労に見合う分の利はあるんだから、納得してくれる!はず……。
ちなみに、ウチに来た僧侶達は、宣賢様や光念を除くと3人。
さっきも言った、厳念様・豪盛様・宗立様。
この3人。
豪盛様は名前と違って、かなりおとなしい性格。
厳念様は、苦労人。
いや、もう本当に苦労人。
宗達様は、数学系エリート?
計算とかめっちゃ速いの!
どうにも、数独を考えた僕に興味を持って来てくれたらしい。
会うと、毎回数学系の話ばかりしている。
正直、僕はそこまで計算とかが好きって言うわけでもないから、辟易としてるんだけどね……。
とまぁ、そんな感じです。
結局、僕の手元に残った額は、"130貫文"(130.2)。
大内軍のお陰で、馬鹿みたいに稼げた。
本当、大内様サマサマだね!
お金持ちは、違うよー。
僕らも将来は、国際貿易とか色々してみたい。
作ったり売ったりするアイディアは、いくつもあるんだよね。
コンクリートも、リバーシも、水田に手を加えるのだってそうだし、石鹸も、電気やガラス、火薬も……。
でも、アイディアだけあっても、技術情報を秘匿できなきゃ意味がない。
コンクリートとか、流出してしまえばお終いだ。
あちこちでコンクリート製の拠点なんて作られたら、もう対処のしようがないし。
だから、ちょっとずつ影響力を強めていかなきゃならない。
「130貫文…。これだけあれば、向日神社も勝龍寺も。両方を味方にできるな。」
現代知識無双。
それは、こうやってするんだ、ってことを見せてあげよう。
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◇向日神社
僕は今日、母の実家の伝手を使って、向日神社へと寄進に来ていた。
家臣に持たせてあるのは、25貫文のお金。
これが、向日神社との取引用の資金である。
「して、今日はどのようなご用件で?」
数ヶ月前にも、古い雑穀を高値で買い取る交渉をしたからか、随分と向こうの対応がいい。
今回来たのは寄進だと言うことも伝えてあるから、余計に好印象なんだろう。
僕らは、西岡の末端も末端。
まだまだ新参で、西岡の他の国人衆からは、地元の人間だとさえ思われてないのだ。
だからこそ、地元密着型の神社であるここ、向日神社に好印象を抱いてもらうっていうのは、目に見えない重要性を持っているのだ。
「本日は、こちらの向日神社に寄進をしたく参上いたしました。」
前口上だけを先に僕は言わせてもらう。
「これはこれは……。聞きしに勝る英才ぶりですな。とても8歳などとは思えません。」
あぁ、そうそう。
今年で、8歳の数え年になる。
8歳といえば、小学三年生あたりか?
そんな子供が、ここまで難しいこと言えたら異常だろうね。
まぁ、言える子がいないわけじゃないってのはあるんだろうけど。
「ありがとうございます。」
感謝の言葉だけを述べて、そのまま雑談へと入る。
こっちは家臣主体だ。
あぁ、そうそう。
この家臣っていうのは、借金で首が回らなくなっていた松永家の部下を、僕が金で引き抜いたやつだ。
人と話すことだけが得意で、計算も武芸も、本当に大したことがない奴なんだけど、話だけは本当にうまい。
人を怒らせない天才ってやつかも。
話していて、相手を穏やかにさせる力があるっていうのかな?そんな感じの家臣。
名前は青木俊介。
祖父の代からの借金で、家が潰れかけていた。
僕が債権を買い取ることで、手駒にした。(→5貫文)
その青木が、向日神社の神主さんと始終話している。
僕は、この時点で完全に置き物だ。
だが、言わねばならないこともあるから、話を進めよう。
「で、今回参りましたのは、寄進だけが用件ではないのです。」
こっちが今回の話の本題なのだ。
「私どもの家には、水田の収穫量を上げる術がいくらか転がっておりまして、それをそちらの土地を借り受けて試させてもらいたいと考えております。」
「はぁ、借り受け、ですか。その間の収穫はそちらが持っていくと?」
流石に損することには敏感らしい。
だが、話は終わっていない。
「はい。ただ、生産量向上の手法が、成功し暁には、向日神社にも広めるためのお手伝いをいただけないかと思いまして…。」
そう、僕の狙いは実績作りだ。
神社の土地を借り受けて成果を上げれば、後々、他の農村へ広めるときにも説得力が増す。
今の僕には、まだ圧倒的に信用度が足りないのだ。
ちなみに、この土地を耕すために新しく雇い入れたのは浮浪者たちだ。
この時代、戦などで没落した元農家の浮浪者など珍しくもない。
だからこそ、こちらとしても雇い入れやすかった。
借り受けたのは、向日神社の東側にある休耕田だ。
戦で荒れ果て、耕す者もいなくなった土地である。
これは僕にとっても神社にとっても最良の結果だった。
こちらとしては既存の農家と面倒な交渉をせずに済むし、向こうにとっても収益を生まない無益な土地が、価値ある有益な土地となって返ってくる。
これだけでも、十分に手を組む意味があった。
こうして、僕の"モデル水田"作りが始まった。
25貫文の寄進と、そこに含まれる土地の借り賃。
そこに、さらに追加で20貫文という大金を投じる。(予定)
この20貫文が、歪な水田を四角く整え、水路や暗渠を作る資本となるのだ。
その他にも、唐箕や千歯扱き《せんばこき》といった、江戸時代でも使われていた効率的な農具を次々と作らせる。
10日、20日、一ヶ月と経つうちに、荒れ地が少しずつ、現代でも見るような理想の水田へと、姿を変えていく――。
───僕の新たなる施策が、始まっていった……
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◇多聞丸資金
130.2貫文→→→100.2貫文
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・厳念
苦労人の僧侶
・豪盛
気弱な感じの文官気質。
未来だと、メガネをかけていて「あ、あの…」とか言って、前に出れなさそうなタイプ。
・宗立
数学系のエリート。
世界は数学でできているとさえ思っていそうな数学フェチ。
・青木俊介
松永家家臣の一人。
祖父や父の代からの借金で、家が潰れかけていた。
そこを主人公が債権を買い取り、手駒とした。
主人公に悪感情はない。
助けてくれたことに感謝しているし、扱いも悪くないと感心している。
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