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ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
京:西岡編

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第07話:大内軍相手に商売をさせた

◇永正12年8月中旬(西暦1,515年)


僕の父は亡くなったが、まだ母親がいる。

六人部の中でも、地下官人の家の出だ。


六人部家は、西岡にある向日神社という地域に根ざした神社のなかでも、実務や経済活動担う家で、その中でも更に下級の神職にあたるのが、母の家になる。



本来なら、松永の家いうのは、京西岡の地域の中でも新参で、地位も勢力も下から数えた方が早い部類だ。

けれど、そんな僕が勝龍寺というこの辺りの最高学府に、稚児として行くことができたのは、僕の作った灰持酒が成功したからなのだ。


生まれた灰持酒を販売する伝手のなかった父は、母の実家へと相談し、そのまま勝龍寺へと紹介され、勝龍寺の名を使って販売されるようになった、というのが今の流れなのだ。


だからこそ、松永の家の者達は、勝龍寺の者達に強く出ることができない。


そんな遠慮が、今の僕の状況に繋がっているのだ。

勝龍寺に来た当初から、僕の立場が相応にあったのはそのためのようだ。


普通なら、宣賢様や芳栄様が話を聞くなどということはないらしい。



そんな僕だが、ここに来て再度、勝龍寺へと戻って来ている。

理由は是非もない。


商談のためである。



「で、芳栄様。古い蕎麦でいいので、売ってくれません?小麦も少しつけてくれれば嬉しいなぁ?」



幼児の姿で持てる限りのアピールをしていく。

ぶりっ子作戦だ。



「………………おい。いい加減やめよ。気持ち悪い……」


芳栄様が、ために溜めて言ったのがそんなセリフだった。



「いやいやいや、こんな幼児が、貴方の孫のような年齢の幼児が、可愛く頼み込んでるんですよ?!言うに事欠いて、気持ち悪い?!酷くありませんか!芳栄様!」



7歳の幼児が、せっかく可愛く頼んでいるというのに、なんというク⚪︎ジジイだ。

自害してもらいたい。勝龍寺の利権を僕に渡してから。



「……酷い?酷いというのは、お主の今の有様であろう?……で、一体何が狙いだ?」


芳栄様とは、まだ一年程度の付き合いなのだが、それでも、僕の本性は見破られているらしい。

宣賢様には通用するのに、この方にはまるで通用しないのだ。



「狙いも何もありませんよ。今回は、孤児達を雇い入れたいので、そのための食糧が欲しいと思いまして、ここに来ました。」



そう、特別なことなど何もない。

単に、食料の買い付けに来ただけである。


「………」


芳栄様は、僕の本音を読み取ろうと、僕の目を睨みつけてくる。

だが、そんなことをしても、出てくるのは僕の可愛い顔だけだ。



「どうしたんです?そんなに見つめて。衆道は趣味じゃありませんよ?」


「誰が、貴様など抱くか。モノが腐り落ちるわ。」



苦々しい表情で、芳栄様は僕を見つめる。


「で、商談と言ったな?食料なら稗や粟、蕎麦ならいくらかあるが?」


「蕎麦と小麦、ついでに稗と粟もいただきたい。」


最初に言った通り、僕の要求はそれだけである。

他に求めているものは今の所はないのだ。



「………いいだろう。」


芳栄様は、苦虫を噛みつぶすように声を絞り出した。



「あ、そうそう。どうせなら蕎麦を多めに植えさせておいてくれません?収穫時にまた買い取りますよ?」


商談の承認をいただけた後、僕はそれだけを日英様に告げておく。

これは、僕の誠意だ。


僕は別に勝龍寺を潰したいわけでも、芳栄様を貶めたいわけでもないのだ。


「蕎麦を?」


芳栄様の顔には、「この時期になぜ?」と疑問が写っていた。



今、京は政争の真っ最中である。

勝龍寺には、細川高国陣営の拠点が作られ、勝龍寺城を起点に、高国と大内氏の軍勢が根を張っている。

勝龍寺は完全に取り込まれ、逃げ出すことさえできない有様だ。



大内氏や高国からは、頻繁に米や銭の納入を要請されているらしい。

お陰で、寺そのものもカツカツの生活だそうだ。


そんな中で僕のもたらした数独や交経格子クロスワードは、定のいい話の材料になったし、寺の利益にもなって助かった。

と、芳栄様は以前言っていた。


以前、僕に給金がもたらされたのも、そんな所からの事情だそうだ。

宣賢様だけの采配ではなかったらしい。



大内軍は、勘合貿易で財を成した西国の雄。

大内軍が、7年ほど前から、京の政治を左右していると言って良かったのだ。



「つまり、大内相手に商売を成功させれば、莫大な富が手に入る、とそういうわけだ。分かるか?九郎。」


僕は、自身の考えを側近の九郎に聞かせる。



「………で、そのきりそば?でしたか。それを、大内家相手に売り付けるのですか?」


「そうだ。その為に、孤児達を集めてきてもらいたい。対価は食料だ。」


「はっ!」



僕が今回買い集めてきたのは、

・小麦1俵(60kg)

・蕎麦5俵(300kg)

・稗、粟1俵(60kg)

・干し野菜(大根、芋がら)大籠1杯

・タレ味噌1樽

・塩3升(5kg)

・昆布2束

・雑魚大籠3杯


これに、竹炭として持ってきてもらっている真竹から、いくつか器を作って材料は全部だ。

後は、調理のための人手だな。


買ってきたのは、雇い入れる孤児達の食糧用と、この時代にはまだないはずの"切り蕎麦"を、大内軍の兵士に売り付けるためだ。


食事っていうのは、めちゃくちゃ効率いい商売だからな。

コスパがいい、って言った方がわかりやすいかな?


未来だと、飲食業っていうのは、なんか地獄みたいに語られがちだけど、それは人件費なんかの問題があるからだ。

今の時代だと、そんなことは関係ない。


どんなサービスだろうと、文句言われる筋合いはないのだ。

食事さえ適正価格で販売していれば。




────────────────────────────


◇永正12年8月中旬


京の大内軍陣営の近くで、変わった店が現れた。


掲げられた旗には、"西岡麺"という文字がひらめいていた。



「おい、なんだあれ?」


一人の兵士が、その暖簾を足を止めた。


「おい、店主。ここは何を売ってる店なんだ?西岡麺ってのは、なんだ?」



「へ、へい、お侍さま。ここで売ってるのはた、食べ物です。ど、どうでしょう。食べていきませんか?一杯三文なんですけど……」


店員は、慣れていないのだろう。

大人一人に子供数人が、調理に接客をしているようだった。



「(子連れか……)そうかい…、なら一杯もらえるかい?」



鰯一匹:0.5文

大鯵一匹:1文


そんな時代だ。

切り蕎麦一杯3文というのは、現代の500円未満だと考えてもらえればいいだろう。



孤児達は、持ってきた切り蕎麦とツユの昆布と雑魚から取っただし汁を、竹の器に入れて提供してくれた。

大内兵は、それを一口、これも竹の箸を使って口に入れる。


つるん、と口の中へと吸い込まれていった麺は、蕎麦の風味と出汁の味が染みていて、今までに食べたことのないほどの美味さを教えてくれた。


「………………」



蕎麦を食った大内兵の器は、すでに空になっていた。

しかし、兵士の心には、まだ麺を追い求めていた。


「………もう一杯。もう一杯くれないか?!」


店の子供は、兵士から器を受け取って、再度だし汁と麺を放り込む。



「…………ごくっ」


生唾を飲み込み、今度こそは味わって食べようと、兵士はその麺を口に入れた。



「…………はぁ…美味い…。」


その男の口からは、それだけしか出てこなかった。

持ってきた銭は、多くない。

すでに6文も使っている。



今度からは、もっと持ってこようと彼は心に決めていた。



───次の日。


西岡麺の店の前は、行列ができていた。

大内家の兵達が、どんどん並んでいき、食べたことのある者はその美味さを周囲に語り聞かせていた。


食べたことのない者も、語っている者達の勢いに圧倒され、「どんだけ美味いんだ…?」と心を躍らせていた。


食べた者の大半はその美味さに感動し、それをさらに周囲に語り、またそれに釣られて……と、大内陣営では、西岡麺が大流行となっていった。


三文という値段設定も、絶妙な値だったようだ。



そうして、売り出した切り蕎麦…、もとい西岡麺は瞬く間に捌け、多門丸は7貫文の利益を手にすることとなった。


「予想以上だな……」



僕としては、昆布と雑魚だけだと、ツユが薄すぎてイマイチなんだけど……

この時代の人には、そんなでもご馳走なんだろうな……。


売り上げ分は、母の出身である六人部の家経由で、向日神社から買い取ることで対応した。

ただし、1俵200文ではなくて、新蕎麦の値段と同じ、400文での買い取りだ。


それ以外にも、ツユの材料や孤児達の食料なども含めて買い占めていき、9貫文の売り上げは、瞬く間に無くなった。

だが、その追加分も、順当に売れていき………



12月の年末までには、110貫文の利益が出た。


販売の為や、竹炭造りなどで迎え入れた人員など全て含めて60人ほどが、新しく僕の直属に組み込まれることとなった。

ちなみに、竹炭の方も、9月には大量に出来上がってて、竹酢液の方は小屋に保管してタール抜きを行いつつ、炭の方は、酒造りに使った。


蕎麦の売り上げで、火落ち酒(腐造酒)やどぶろく(濁酒)を買い取っていったのだ。

買い取った酒は、鍋の底に気泡のたまる60℃ほどの温度に温めた後、砕いた竹炭を混ぜることで、中の成分を吸着させていくのだ。


最後は、竹炭を取り除くのに、複数の麻布で濾すだけだ。

それで完成。


灰持酒じゃない、本当の"清酒"の完成である。

技術的名称なら、"火入れ炭濾過酒"と言った所だろうか?



味に引っ掛かりのない、現代のものに極めて近い清酒のできあがりというわけだ。

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ご読了ありがとうございます♪

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