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ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
松永家拡大編

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第66話:京の町人による話

◇永正一八年二月


「蔵入地だと?」



朝廷の蔵入地が、京の南に大きく造られたという話は、あっという間に広がっていった。

ただ、蔵入地が設けられたというだけの話だが、その規模が問題だったのだ。


これまでは有象無象乱れる地域だった京南部に、大きく朝廷の領地が出来上がったことで、朝廷の権威が知らしめられ、その分だけ将軍の権威が落ちたのだ。



まぁ、もちろん、これは順当な出来事でしかない。

将軍家が、これまでの管領らの争いを抑えられなかったからこそ、こうなっているのだ。言い訳のしようもない。


しかし、そんなふうに殊勝な考えを抱けるだけが、人間じゃない。

将軍の足利義維も、管領の細川澄元も、これを逆恨みすることとなった。


だが、逆恨みしたからといってどうこうできるわけじゃない。


そもそもが、管領や将軍家の力が落ちたからこその出来事がコレなのだ。



現在の幕府は、東中西という三つに分かれてしまっている。


・東の関東管領や古河公方を中心とした"関東府"。

・西の大内義興を中心とした"周防幕府"。

・畿内の京を中心とした細川澄元と足利義維による"室町幕府"である。


実態としては、室町幕府が中心であるのだが、その他にも足利の血縁が蔓延り幕府を名乗っているために、相当にややこしいことになってしまっているのだ。

幕府としての実権は京の幕府が担っているとはいえ、影響力の低下は避けられなかったのだ。


現在では、東国にも西国にも、朝廷の威光は届いても、正当な将軍家の威光はほとんど届いていないのが現状だ。

最南の島津や北方の伊達などは、室町の幕府の方を立ててくれてはいるのだが、関東圏や周防周辺には、義維の影響力はほぼ届かない。


そのことが、余計に澄元と義維の心に不満を作り出していた。


ただ、朝廷としても、将軍家を落としめようとしていたわけではない。

だが、三好家を筆頭とする武家の横暴は、今回のことで帝らの堪忍袋の緒を切らせる結果となった。

細川にも散々警告したにも関わらず、三好之長は京の南部を略奪し尽くし、京南部の宗教勢力は、朝廷とゆかりの深い泉涌寺なども含めて略奪されてしまった。



三好家には、朝廷から管領を通じて賠償を求めたが、未だ三好は賠償には応じていない。

かの家が、京から撤兵した理由にはそういったものもあるのだ。


だからこそ朝廷は、管領や現将軍に対して、関東の古河公方や西国の周防公方の討伐か従属を、早急に行うようにと指示を出したのだ。期限は設けられていないが、それでも、幕府自身が行うべき職務として扱うようにと指図したのだ。


今の幕府に、それを無視できる土壌はない。


威信は低下し、三好家を残したことで京内外からの支持も大幅に落ちているのだから、管領には逆らいようのない命令となっているのだ。



だが、実際のところ、幕府にそれを為せるだけの武力や経済力はない。


現在の幕府主力は、

・管領と彼の抱える三好家

・現在の管領に与した丹波の内藤家

・実質的な同盟者の立ち位置にいる六角家

以上である。


若狭武田なども一応は現在の幕府側ではあるが、宗主国たる朝倉家がそれを認めない。

朝倉家としては、幕府の役職は欲しいが、今以上の出費はごめん被りたいという思いだった。


ただでさえ、加賀の一向宗との戦がある上に、管領 細川澄元との関わりが薄かったのだ。

まして、先年の永正一七年に朝倉孝景は美濃の継承戦争にも介入し、土岐頼武を美濃守護に就任させている。


史実と大きな流れこそ変わらないが、武田領を実質的に領有できている事実は大きい。

朝倉家には、京と関わらないだけの余裕があったのだ。


「禁裏御料所が、ここに……?」


「あぁ、確かにここが御料所になるらしいぞ?」


「嘘だろう!?」


「嘘じゃねぇよ。三好のやらかしたせいで、ここいらの土地の所有権が浮いたらしくてな。大手の寺社がそれを担うらしい。」


「待て待て、その寺社ってどこのことだ?この辺りの寺社なんて、有力なものでも二〇以上あるんだぞ?」


「まぁ、稲荷と東寺、あとは岩清水だそうだな。細かい部分は、各寺社に譲るらしいが、大半はその三つだそうだ。」


「は?公家と関わりの深い寺社もあるだろうに、なぜ……?」


「いやぁ、単純にそれらの寺社が、莫大な銭を出したんだと。だから、それを朝廷は追認したってことらしいな。」


「そうなのか……。だが、よく知ってるな?」


「まぁな。さっきそこの向日神社の神主が言ってんのを聞いた。」


「向日神社の…?あそこも関わってんのか?」


「いや、どうにも勝龍寺と一緒にこの辺りを治めるのが、向日神社らしいぞ?」


「何だと?!東寺とか稲荷に並んで、向日神社も加わるのか?!」


「らしいな。すげぇよなぁ…」


「……けどよ、勝龍寺っていや、あの守銭奴の…」


「あぁ、あのジジイなら、とっくに死んだらしぞ?ほれ、あの時の賊騒ぎで…」


「そうなのか…。しかし、じゃあこれまでどこにいたんだ?」


「どうにも地方へと逃げてたらしい。というより、逃げなきゃならなかったんだろうよ。ここいらの連中に狙われてたしなぁ。」


「確かに。しかし、中小路だっけか?やらかしたのは。実際にことに及ぶほどでもなかっただろう?あの爺さん、守銭奴としては有名だったが、無理矢理に取っていくとかはしたことないって聞いたが。」


「そりゃ、そういう噂を流さないことには、略奪したのを正当化できんだろう。馬鹿の考えだよ。無知な百姓以外は全員が分かってるからな。」


「ははは、そりゃそうか。だがそうすると、あのあとの神罰も勝龍寺の奴らは分かってたんだろうな。」


「ふんっ、むしろ、勝龍寺の奴らがやらかしたんだろうぜ。やられたのも、ここらの国人連中だけじゃねぇか。意趣返しだろ。」


「いや、大内や御所にも手を出したって聞いたが…?」


「御所というより、公方だろ。あの西に逃げていった阿呆公方だよ。」


「おいおい、聞かれるぞ?」


「今の公方様のことは言っちゃいねぇから大丈夫だろ!」


「それもそうか!はははは」


「………それに、三好の連中を咥え込んでるアイツらなんぞ、阿呆で構わねぇよ。」


「………だな。」


「けどよ、御料所になったら、何か変わんのか?ここも。」


「さぁなぁ?俺には分かんね。だが、出入りに銭が掛かるようにはなりそうだな。」


「はぁ…また、関税が高くなんのかね……。」


かなわねぇよな……」


「どうせなら、今よりは良くなるって祈っとこうぜ。それくらいしか、俺らにはできることなんてねぇだろ。」


「………そっちの方がマシか。」


「先になってみねぇと、将来のことなんざ分からねぇんだからな!」



十年後、

京の南部に設置されたその朝廷の蔵入地は、二万石近い食料と、様々な物産を生産していく朝廷の資金源となる。

出入りに関しては、この町人達の語る通りに関税が上げられたが、それでも京南部内での行き来においては関がなくなり、実質的な出費は大きく減ることとなった。



その為に、御料所の設置を喜ぶ商人は多く、稲荷や東寺、石清水などの寺社への入信する者が大きく増加した。

また、勝龍寺や向日神社も、これに比肩するほどに寺領を設置されたために、同じく入信者が増え、その入信者は、新たに作られた宗門人別表によって管理されることとなった。


この宗門人別表は、江戸時代に設置されたそれと同じく、この辺りの入信者を記録するものだ。

しかし、江戸時代のものとの違いは、宗旨替えが認められる点だ。


寺社の管理人に言って、宗旨替えの為の書面を貰うことで、他宗への改宗を行えるようになるわけだ。


ただ、その際にも、どこの宗教に属したいのかを管理者に伝える必要があった為、不正に書面を得ることは不可能だった。

そもそも、この宗門人別表制度に加入していない宗派への改宗は、認められていなかったことは大きな特徴だ。



これによって、当時の浄土真宗や日蓮宗のように、マトモに人と管理できていない宗派は排除されていくことになったのだ。

しかも、京南部の宗教勢力に所属すれば、他にはない商品や農法などを得られることができた、ということは大きい。


孤児達を引き取っていく場所も設けられ、教育施設も多くできたのだ。

孤児達は全てが、北の松永領へと送られ、教育施設の教育者にも松永領出身の者が占めていた。


ほとんど、松永家の飛び地であったのだが、松永家の受け取る収益は経費分のみ。


だからこそこの地の支配者達は、松永に感謝することこそあれ、このことに関してはとやかく言うこともなかった。

それだけ上がりが大きく潤っていたからと言うのもあるが、時を経るごとに松永家と関わりを持つ者や出身の者も増えていき、意見が松永よりになっていったことも多分にあるだろう。



のちに畿内が大きく荒れた際にも、京の御料所はその存在感を保ち続け、史実よりも遥かに朝廷の安寧を守り続ける結果となった。


これにより、松永家による京の裏からの支配が完了したのだ。

もちろん、様々な妨害や苦労はあったのだが。それは余談である。


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