第60話:松永家の内政活動をまとめてみた
◇永正一六年一二月
報告を聞く限り、逸見との戦も勝利したらしい。
一色義清を主将とする俺達の軍が、逸見・延永の軍を撃破。
そのまま追撃し、延永親子の首を取り、一色九郎さえも討ち取ったという。
こちらの被害は十名以下だというのだから、完全勝利と言って過言ではだろう。
しかも、負傷者のみで死者はいないらしい。
当家の軍はそのまま侵攻し、逸見領を押さえ、丹後で一色義清の実質的な守護就任にまで漕ぎ着ける予定だそうだ。
延永親子が死んでいるから、宮津などもこちらの領地にできるだろうと報告が来ていた。
これはこれで、喜ばしい内容だ。
そろそろ、京が荒れていることで商品の売り先がなくなっていて、俺達の現金収入は赤字なのだ。
移転前まではできていた損益計算書や貸借対照表は、今やなんの役にも立っていない。
曖昧で、内容の書けない収支ばかりだ。
「だが、いいかげんまとめなきゃならんか…」
俺はそう呟くと、作ったばかりの紙に、現在の収入について書き出していった。
とはいえ、現金化できたものだけだ。
竹酢液や竹炭などは、ほとんど現金化できちゃいない。
それ以外にも、漢方などの薬類も、だ。
一応、伏見稲荷大社の伝手を使い、販路の構築には努めているが、それでも、稲荷大社がまた焼かれたってことが大きい。
新しく作った『座』も、この地に集まった面々での運用になるから、それぞれの収益は大したもんじゃないのだ。
元々は、伏見稲荷大社と俺達松永家で折半しようとしていたのだが、羽倉延任と話し合う中で、今の稲荷の勢力だと『座』そのものを維持できない可能性に行き着いたのだ。
だからこそ、各寺社の影響力全てを利用する為に、俺は名田庄坂本の地に、とりあえずの寺や神社を作ってやった。
こんな狭い土地には、大したものはできやしないが。
それでも、とりあえずの拠点にはなるだろうと、建ててやった。
「あ、そうだったな。収入について書き出さないと……」
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◇松永家資産
・年貢米:5,400石
・現金収入:550貫文
◆領地内訳
◻︎名田庄(納田終・坂本:他の名田庄地域は半臣従のまま、税収なし)
⚪︎2,550貫文
・年貢米:2,200石:微増に留まる
・現金収入:350貫文:竹酢液その他
◻︎高浜町沿岸部(薗部・子生・塩土・事代・宮崎)
⚪︎2,150貫文
・年貢米:2,000石
・現金収入:150貫文
◻︎佐分利郷(石山)
⚪︎1,250貫文
・年貢米:1,200石
・現金収入:50貫文
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「ざっとこんなもんか……」
予想も含まれているが、大体こんなものだろう。
正直、まだ収穫された作物の集計などは、正確には行われていない。
だからこそ、こんな概略でしか表記できないのだ。
年貢の比率は、四公六民。
だから、毎年のように周辺から人が入ってくる。
その分の支出も多く、どうしても全体を把握できないのだ。
というか、全体を把握するだけの人員がいない!!
…………悲しいことに、正しい情報が必要だと分かってはいても、そんなに簡単に人材は用意できないのだ。
文字の読み書きだけならできる奴も増えたんだが、正直、今重要なのは何よりも地域の安定や防衛の方だ。
こっちの実情把握も重要な仕事ではあるが、優先度の問題。
「しかし……。550貫文?こんなにあったか?それと、5,400石ねぇ…。ほとんどが、他所から来た連中や軍の奴らの腹ん中だよなぁ……」
俺は、軽くまとめた収入面から、支出を思い頭を悩ませた。
支出額が膨大すぎる。
軍事費だけじゃ言い訳できないほど、支出面での負荷が大きいのだ。
寺社に対して、寺や社を建ててやったこともそうだが、先ほども言ったように周辺からやってくる流民たちへの支援も中々に大きな出費なのだ。
「来期には、もっと増やさにゃならんな……。くっそ…。京が今も生きていれば、こんなことにはなっちゃいないのにな…。」
京が戦で荒れていることで、京への販路が絶たれている。
その影響は、格段に大きかった。
推測でしかないが、京が今も安定していたのなら、現金収入はこの十倍にはなっていただろう。
まぁ、京が焼けていなければ、あの寺社の連中が追い詰められることもなく、俺の支援なんぞ必要とはしなかったんだろうけど。
伏見稲荷大社に東寺、離宮八幡宮に石清水八幡宮、それに勝龍寺。
勝龍寺は、既に俺の懐にまで取り込んじまったが、他の寺社は、精々が利用し合うだけの関係、同盟者に近い存在でしかなかった。いつでも裏切れるという意味じゃ、お互いの間に信用なんてなかっただろう。
この連中の為に建てた寺社も、寺社代表の任命権だけは、俺の手元に握らせてもらっている。
仮の代表じゃなく、その寺社の全体を左右できる本物の代表の指名権を、だ。
もちろん、それでこいつらの寺社全てを左右できるわけじゃない。
だが、この領内のこいつらの活動は、僅かなりともコントロールできるはず……はずだ。
ちょっと考えてて自信無くなってきたが。
そんな連中が、今、自分たちの為に、そして俺たちの為に、各地での諸国勧進へと旅立っているのだ。
あぁ、もちろん勧進そのものが、俺達の利益になるわけじゃないぞ?
諸国勧進で、俺達の商品を売って回ることが、その対価になっているのだ。
しかも、これは貸付。
あとで、徴収するはずのものだ。
「あいつら、本当に返してくれりゃいいんだがな…。」
正直、返してくれるなんてカケラも思ってない。あの手の連中は本気で図々しいのだ。
今はまだ、三好にやられた事実があるからこそ殊勝にしているが、それが薄れてきた頃には、また同じように調子に乗るだろう。
ま、とはいえ、あの連中の勧進だけでも収益が出るように仕込みはしてるんだがな。
あれらの商品には、全て松永屋の屋号が刻んであるし、土御門家特製の紋も用意してもらったのだ。
宣伝としてだけでも、既に利益が出ている。それを考えれば、返されなくてもいいかなぁ?という思いがあるというのも事実だったりする。
そして、今の我が領地で開発されているモノの一覧がこれだ。
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◆開発品一覧
◻︎農具
・空気抜き付き田下駄()
・炭化処理済み風呂鍬
・唐箕
・千歯扱き
・雑草抜き機(手動。歩きながら利用)
・田植え機(手動。歩きながら利用)
・スコップ擬き(木製か竹製で、先端にのみ金属を使ったもの)
◻︎食品
・切り蕎麦
・乾燥切り蕎麦
・うどん(切麦ではない)
・乾燥うどん
・火入り炭酒
・椎茸栽培(未だ少量)
・蜂蜜
・ローヤルゼリー
・海藻類(今後に期待)
・魚介類(の加工品。今後に期待)
・醤油(溜まりから年単位で生産)
・複数種の味噌
・味醂
・麺つゆ(今後に期待)
・寒天
・乾燥豆腐
・水飴
・卵(鶏)
・鶏肉(鶏)
食品類は、外部への販売はほぼしていない。
ただ、領内を訪れた者には提供しているので、多少の評判になっているとも聞く。
◻︎工業品類
・陶磁器(今後に期待。ボーンチャイナの試作品が完成)
・寄木細工(今後に期待)
・新造船
・新造網(摩擦工学について取り入れている段階)
・羽毛布団(鶏の量産中)
・蕎麦殻枕
この他にも色々とあるし、生産は始まっているがまだまだ数が少ない。
販売についても、全くと言っていいほど目処が立っていない。
◻︎美容品
・椿の髪油
・米ぬかの艶出し油
・肌洗いの米ぬか粉
・竹炭の顔練り泥
・葛の葉汗疹避け粉
・ホタテ貝殻の胡粉白粉
・紅花と葛の桃色頬紅
・紅花の最高級口紅
・竹炭の眉墨餅
・松煙の漆黒目元墨
・薄荷の蒸留精油(香油・少量で強い香り)
・柚子皮圧搾油(香油・髪油)
・檜端材の香油
・楮の油取り紙
・真竹の細歯髪櫛
・乾燥薄荷の匂い袋
販売方式は、富山の薬売り方式。
美容に煩い地方の国人や地侍、豪農などを対象に販売している。
ただ、こっちは先ほどの収入にはまだ載せてない。計算できてないし…。
大体、"六〇貫文"ほどの月間収入がある。
ただ、ここ一年でやっと軌道に乗ってきた。
◻︎薬品
・精製竹酢液(水虫薬・皮膚病の殺菌に利用)
・木タール軟膏
・整腸剤(竹炭の微粉末)
・黄連解毒丸(オウレンを粉末化し蜂蜜で練ったモノ・解毒、消炎、下痢止め効果)
・当帰芍薬散(トウキ、芍薬などが原料・貧血、婦人病、冷え症、肌質改善に効果)
・独活寄生丸(ウドの根が原料・関節痛、神経痛に効果・寒冷地での防寒、鎮痛にも効く)
・葛根湯(葛根に生姜、麻黄を配合した風邪薬)
・五苓散(猪苓やタクシャを配合し水毒を解消する利尿薬)
・十薬茶(ドクダミ茶・利尿、便秘、蓄膿の改善効果)
・センブリ胃腸薬(胃弱、食欲不振、消化不良に劇的な効果)
・ヨモギ止血薬(ヨモギの葉を乾燥すり潰し粉末化したもの)
・ゲンノショウコの乾燥茎葉(下痢止め)
・車前草(オオバコの葉や種を乾燥させたもの・咳止め、去痰薬)
……………等、全四〇種類。
量産の準備も整い始めている。
こちらは、伏見稲荷大社側に完全委任。
まぁ、そのうち収入分も返してくれるだろう。
今は、あちらに金銭がないので、貸付状態だ。
ただ、羽倉によれば、月間で"一〇〇貫文"と少しくらいは収益が出ているらしい。
こちらも、ここ一年でのものだ。
それ以前にも生産は行っていたが、量産体制や販売に関しての信用などが全く整っていなかった。
稲荷などの協力を経て、やっとこさここまで来た感じである。
◻︎兵器類
・弩(量産型クロスボウ)
・重弩(拠点防衛型クロスボウ)
・簡易砦キット(竹製の屋根と柵)
・銃擬き(火薬・金属類が少ない為)
・火薬(少量の生産)
・十文字槍
・刺股
・革靴のスパイク
・鹿革鎧
・手甲(暗器込みの物と二種類)
・足甲
兵器類に関しては、この程度だ。
正直、これ以外にもあるといえばあるんだが、まだ運用が覚束ないものばかりだ。
埋め火や火炎瓶、手榴弾のようなものも考えているんだが、量産性と生産性にも問題がある。
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「いや、そもそもの威力や性能面が問題……だよなぁ…。」
密閉度が低すぎて、兵器として利用するにはその威力も出なければ、保存性にも問題があるのだ。
かつ、生産面での問題も、だ。
問題が多過ぎてどうにもならん。
これだけの開発品があるわけだが、本当の本当に、京が戦で荒れているのが痛い。
六角家が動いているから、うまくいけば半年以内に戦も終わるだろう。
そして、内藤や六角なら、京を荒らすこともないだろうしな。
こっちに都合のいいタイミングで、京を安定さえてもらいたいものだ。
逸見や延永との戦は、予想以上にうまく進んだのだ。
そのお陰か、京での戦が早々に終わっても問題がなくなりつつある。
特に、一色九郎をやれたのが大きいだろう。
これがなければ、丹後の支配について、管領からの口出しがあったかもしれないからな。
京での戦況も、多少は聞こえてくるが、全くもってまとまりに欠ける……。
専門の情報組織を作らなきゃならんよなぁ…。 しかし、その為には費用と人材と教育時間が……とほほ、まだまだ俺の苦労は終わりを見せないらしい。
今日も今日とて、俺は仕事に励む他ないようだった。
少しでも、優雅なスローライフを楽しむために……。
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