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ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
松永家拡大編

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第59話:大谷山の戦いが始まった

◇永正一六年一二月



「行くぞ。」


「おう」「えぇ」



俺達 松永軍は、進軍を始めた。

目標は、逸見家所領、"青城"だ。


未来の日本で言えば、『福井県大飯郡高浜町日置』の辺りにあった城である。

牧山の上に立つ城……ということになるだろうか。



だが、そこへ行くには大谷山にある城を越えていかなくてはならないし、青城そのものも今の我らには難攻不落に等しい。

こちらの戦力は、今でもまだ二〇〇ほどでしかないのだ。


もちろん、敵勢も幾分縮小してはいたが、それでも、三〇〇〜五〇〇はいるだろうと想定していた。


そんな我らは、じっくり着実に歩を進めていた。





拙速の侵攻など、我らには無為でしかない。

ゆっくり進み、敵を吊り出すのが狙いだった。





「兄貴。このままでいいんですかい?」


辰が、道三に話しかける。

この逸見家への侵攻軍には、辰のようなものを含む松永家の主力と、一色の名で集めた支配地の冷飯を食っていた次男三男坊達、そして、一色左京大夫義清が含まれていた。



「いいって何がだ。」


「トロトロと歩きすぎでしょう?これじゃ、敵さんに見つけてくれって言っているようなもんですぜ?」


「別に構わんだろ?」


「いやいや、このままじゃ…あれ?いいんですかい?」


「あぁ。前までとは違うんだ。俺達は既に二〇〇もいるんだぞ?以前の四倍だ。」


「いやいやいや、敵さんはそれ以上でやしょう?!三〇〇〜五〇〇だって、大将も言っていたじゃありやせんか!?」


「ははは、そうだな。」


「そうだな、って………」


「大体だ。早く進んで、それでどうする気だ?」


「どうするって、そりゃ、敵の拠点って奴を攻撃するんでやしょ?違うんですかい?」


「敵の拠点がどんなもんなんだ?って聞いてんだ。辰。」


「どんなもん…ってそりゃ、城でしょう?」


「あぁ、城だ。だが、俺達に城攻めなんてできると思うのか?」


「そ、そりゃできるんじゃ…」


「無理だな。」「な、なぜでやすか?!これまでだってやってきたでしょう?!」


「…………無理だよ、辰。」



「……理由を聞いてよろしいですかい?」


「あぁ。敵の大谷山城や青城ってのは、これまでの単なる屋敷とは違って、ちゃんと固められた戦用の拠点なんだ。当然、火矢に対する備えはあるし、籠城の備えだってしっかりできてる。そんな場所へ、ノコノコとこんな軽装で行ったって、一瞬で極楽へと旅立つだけさ。それに、俺達の武器が何かわかってるか?」



「武器ってのは、あの弓とかのことですかい?」


「それだけじゃねぇよ、辰。俺達は、あの息子の久秀に言われて、毎日毎日、走り込みってやつをやってるだろう?その強みを活かさねぇでどうすんだ。久秀曰く、戦ってのは"敵の弱みに付け込んで、こっちの強みをぶつけることで勝つ"んだそうだぜ?」


「敵の弱み…」


「そうだ。なら、俺たちの強みって奴は、弓とこの足なわけだろう?だったなら、野戦しかねぇだろ?」



道三の想定と考えは、久秀のもたらす未来の理論で固められていた。

戦術や戦略での熟成された期間が、逸見らとはまるで違うのだ。


兵数差はあれども、その強みと敵の弱みでの差は、俯瞰的な視点で見れる者にとっては明々白々だった。

しかし、現場にいる者にとっては、「本当にそんなことがありうるのか?」というほど、ありきたりで判りづらいものなのだ。



「庄五郎、何を話しているんだい?」


「これはこれは、義父上様。」


「おぉ、義息子よ!……これで良かったか?」


「くくくっ。流石、ノリがよいですな。」


「それも、久秀くんからの影響かい?のり…というものが、僕には未だよく分からんよ。」


「なぁに、そのうちに慣れますよ。私も義父として日々驚愕ですからな。」


「そういえば、僕も久秀くんの祖父になるのかな?余りこうした事例は多くないから、いまいちなんというのか分からないが。」


「それは仕方ありませんな。義息子ですから。」


「ふふふっ、そうか、義息子だから仕方ないのか。」


「そういえば、一色様はどうしてこのような場所に?後方にいらっしゃったのでは?」


「いや、今回の戦、僕などは足手纏いだろう?だから、多少なりとも兵らと交流を持とうと思ってね。簡単に切り捨てられると困るからさ。」


「そ、そのようなことは、ないと思いやすが……」


「くくくっ、辰、揶揄われておるのだ。この義父上は、単に暇だったからここに来たのだろうよ。大体、この方が足手纏いなどあるものかよ。下手な兵よりよく動ける方なのだぞ?」


「そうなんですかい?」


「あぁ。少なくとも刀術では、俺より上だな。久秀などとは比較にもならん」


「いやいや、そりゃ大将とは比較にならんでしょうよ。彼の方はまだ一二ですぜ?その歳で、兄貴より刀が上手けりゃ、もうモノノケでしょうに。……いや、知恵の方は、既にその域ですけどね?」



「あっはははは、君のような者から見ても、あの子はそう映るのか!いやはや、我らが主人さまは、本当に凄い方のようだな!」


「え、えぇぇぇぇっ!ちょ、ちょっと、一色様のような方が、大将を主人呼ばわりは不味いんじゃないですか?!」


「なぜだい?僕は、本心から言っているよ。ここの庄五郎くんに拾われた身だしね。それに、あの爺の頸木から、僕を解き放ってくれたのが、庄五郎と彼だ。山中で彷徨っていた時に、僕は肩書きなんてものが如何に役に立たないかを思い知ったんだ。それと比べれば屁でもないさ。」


「その割に、あの老人はそれを理解できなかったようですがね。」


「仕方ないさ。馬鹿は死んでも治らないんだってことを、あの件で僕が学べただけでも十分だと思うね。」



「………兄貴、一色様。お願いですから、あっしの近くでんな話すんのはやめてくだせぇ!これも、普通の兵士が知ってちゃいかんやつでやしょう!?」


「いやいや、大丈夫だよ(きっと)。分かってる者は分かっている話題だからさ。」


「……本当でやすかい?」


「くくくくくっ…。そ、そうだぞ?辰。お前が心配することではない。それに、お前だって十分な高官であろうが。この部隊では、俺に次ぐ立場なのだぞ?」



………会話は続く。

逸見の襲撃を、斥候が察知するまでの間、彼らの談笑は長く続くこととなった。





「来やしたぜ、兄貴!」



───逸見の軍勢、およそ五〇〇名



これだけの軍勢が、大谷付近にまで迫ってきていた。

こちら側も、その報に合わせて陣地を構築していく。



二つの勢力の衝突は、今にも始まろうとしていた。





「支度を急げ!もう、すぐそこまで逸見が来ておるのだぞ!」


「弓隊!お主らが要ぞ!準備を怠るな!」


「給糧部隊!戦の最中も戦中も、食料が重要となる。キッチリ、美味い飯を用意してくれ。」


「工兵隊!早々に仕上げよ!時がないぞ?浅くて構わん!塹壕掘りを早く終わらせよ!」




道三や義清、辰などが部隊の者に指示を出してゆく。

ゆっくりと進めたとはいえ、元々が工兵訓練を幾度となく行わせていた者らだ。


陣地構築は、お手のものだった。


そんな時間が、着実にすぎてゆき、ついには、逸見軍の姿が視界に入るまでに近づいてきた。



「来たぞ。」



その報と共に、工兵や弓兵らも配置につき、本格的な戦準備が終わることとなる。

足が引っ掛かる程度の塹壕(凹)や、木柵を用意し敵を迎え撃ったのだ。




ドドドッドドドッ…

馬の蹄の音が、戦場に鳴り響いた。

敵の馬上兵は数名だが、それでも多少の威圧感を伴っている。


そして、戦場に展開した兵の総数は、およそ五〇〇。


しかし───



「ん?あの旗はなんだ?」


「花菱や籬架菊ではございませんな?」


敵勢には、籬架菊・花菱の他に、二引両紋や源氏車紋が描かれた旗が翻っていた。



「主人、あれは怨敵の延永の家紋にございますぞ!?」


一色家の古強者が、その敵勢の家紋を確認する。

そこには、延永の家紋である源次車と二引両紋が翻っていたのだ。


つまり、逸見は自領の防衛に延永を引き出し、こちらを追い払おうとしていたのである。



「つまり、延永と逸見の総勢がこれか……?」


「え?あ、そうですな。そうなるかと思われます。」


「先の戦では、八〇〇〇はおったというのに……」


「えぇ、もはや延永にも逸見にも、往来の力はない様子ですな!左京大夫様、好機ですぞ!」



「あぁ……あぁっ!者共!敵は、総戦力で攻めかかって来たようだ!ここを破れば、もはや敵はおらん!皆奮闘せよ!ここが正念場!ここを抜ければ、後は楽になるぞ!!」



「「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぅ!!!!」」」」」




長い長い訓練の辛さを知る我が方の軍は、ここを抜けられれば楽になるという言葉の意味を、体感で理解していた。

久秀の行動によって、様々な娯楽が民間にも出始めていた。

余暇の恩恵と余暇の消費の仕方、それらを知る軍兵が、そう簡単に逃げ出すこともなければ、命を投げ出すことさえあり得なかった。


松永の兵は、近代の兵士のように、規律と忠誠心を久秀らに抱いていたのだ。




………「ゎぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


敵陣から、着実に兵が進み始める。

こちらの陣容を見て、それでも攻めてくるのだろうか?


既に、敵への備えは終わっているというのに。



だが、槍を持ち、そのまま突っ込んでくる敵を見て、「理解できていないんだな。」と、そう思わされた。

理解できていたのなら、単なる蜂矢陣でこちらの防衛線を破ろうなどしないだろうしな。


こちらは、鶴翼陣系の簡易拠点内で待ち受けている。目の前にある柵類も、後ろから簡単に動かせる程度の置物だ。

俺達は、敵勢の中央部を狙い、弩兵の集中運用で片付けるつもりだ。

既に、狙いを付けて待ち構えた弩兵が、迫り来る先頭の敵槍部隊を狙っている。


その間、敵の和弓から降り注ぐ矢が落ちてくるが、誰もそれに対して反応しなかった。

単なる曲射の矢など、今の我らには脅威でもなんでもなかったからだ。


竹製の傘が、味方陣のあちこちで矢を防いでいた。……もちろん、抜けて来る矢もあったんだが。



竹製の車に載せて運ばれてきた、その竹製の盾や陣地構築用の各種竹細工は、瞬く間に簡易砦を作り上げることに貢献した。

竹製の車というのは、竹で車輪を作り、その上部に箱を乗せただけのものだ。

余りにも重いものは載せられないが、同じ竹製の道具くらいなら、十分に載せて運ぶことができた。


というよりは、それらを運ぶために作られたものだ。

竹製の簡易砦キットだな。



そうして、矢を防いでいる間、こちらもこちらで敵に狙いを定めて射ち込み続けている。

こちらの矢は、弓の中でも強弓レベルの弩だ。


鋳鉄と青銅を用いて作り出したバネとギア類が、高い弩の性能を引き出している。

持ち運びの困難な"重量級弩"も用意され、敵を待ち構えていた。



それぞれの有効射程は八〇mと一五〇m。

問題は、連射性能の低さだが、今回は敵数も多くないので二度の斉射のみでいいだろう。



「重弩組、狙え!!」



一〇丁の重弩部隊が、敵首領格に狙いを定める。


有効射程は、一五〇m。

つまり、和弓の有効射程外から狙えるということだ。



「馬上の奴を狙え……そう、そうだ。射てっ!」



ギィィンッ!という金属のぶつかり合うような音が周囲に響く。

こちらの部隊は、そんな音にも慣れっこだ。


しかし、そんな音と共に、馬上にいた敵将は次々に倒れてゆく。


既に蜂矢陣は、壊滅状態だ。

しかし、武将を何人か殺った程度で、蜂矢陣形が止まるわけじゃない。

惰性に任せて、敵の歩兵たちは進んでくる。



そこへ、こちらの弩兵部隊が矢を射かけた。




二度の斉射。

そして、弩を置いての全兵の突撃だ。






戦は、こちらの完全勝利で終結した。

一色九郎と延永春信・延永宗清の遺体と共に…………

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ご読了ありがとうございます♪

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