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ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
松永家拡大編

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第58話:京での戦が次のフェーズへと進んだ

◇永正一六年一二月


着実に、当家の領地は整備されていく。

ややこしいことこの上ないが、今の俺達の家は、三家によって分かれている。



・武家の一色家

・公家の土御門家

・国人で主格であり主核の松永家だ。


松永と一色家はともかく、公家の土御門有春は、俺達と姻戚関係にあるだけだが。

それでも、朝廷との交渉役を持てるというだけで大きく違う。



ただ問題は、京での戦だった。



三好家と細川澄元との戦は、小さな武力衝突はあっても大きな動きはない。

今もなお、冷戦に等しいやり取りが裏で続いている状況だ。



三好之長と細川澄元は、お互いの方針が合わずに戦となっているが、長く付き合いがあったためにお互いのことをよく知っている。そのせいか、どちらも相手の妥協や降伏を引き出そうと必死だ。


しかし、そんな裏でのやり取りも、澄元が六角家を引き入れたことで大きく変わり始めた。

………かに思われた。


澄元側の戦力としては、丹波内藤氏と六角家、若狭武田家に朝倉家からも消極的な救援がある。

そんな大大名連合だった。

当然、まとまるはずもない。


しかも、現将軍の足利義維から六角家は毛嫌いされているのだから、なおのことこの陣営にはまとまりがなかった。


その為、戦力は優っているのに、全くといって良いほど動かない、今のような状況が出来上がったのだ。



「六角が侵攻しさえすれば、こちらの勝利は確定するんだ!なぜ、侵攻しない!?」



澄元は、毎夜の如くこのことを周囲に愚痴り始める。

六角家が侵攻しない理由は、本当のところそう大きなモノじゃない。


単に、見返りの不足だ。



現在の将軍家に出せる物が何もないからこそ、味方とはなっていても出陣にまでは至らないのだ。

幕府の役職という褒美そのものは提示している。

しかし、それだとて、内藤が同陣営の第一位となることは変わりない。


つまり、六角家は二番手以降だ。


しかも、三好が拠点にしている今の京南部には、金になりそうなものが何一つない。

それもこれも、三好之長のせいである。


これでは、六角家にとって何らメリットがないのだ。



三好家の城建設こそ止められているが、それ以外の状況は何一つ変わらないまま、京での日々はすぎていった。



「四国の連中を入れるぞ!」



永正十六年八月

ついに、三好之長は堪忍袋の尾が切れ、自領の兵を京へともっと入れることを決意する。

これが、三好が本気になり、六角家が本気を出さざるを得なくなった、本格的な戦の始まりである。






────────────────────────────


◇永正一六年一一月

◆名田庄坂本松永邸



「ついに動いたか……!」


各地の収穫が終わりを見せた頃。

三好家の兵が、四国から摂津などの近畿圏へと降り出してくることとなる。




三好兵の上陸の噂が飛び込んできてから数日後。

六角家と内藤家の動員の噂も飛び込んできた。



後世において"永正の乱"と呼ばれることになる、細川澄元と三好之長の大戦が開幕した。



「道三!左京大夫!聞いたか!?」


俺は、この報が飛び込んできた瞬間、邸宅を飛び出して二人のところへと向かった。



「もちろんだ。どうする?」


道三も義清も、同じく報告を聞いたようで、こちらを伺いながら三人で今後について相談を始めた。



「やはり、この戦に巻き込まれたくはない…。」


「そうも言っておれんだろう。巻き込まれたくはないとは言っても、巻き込んでくるぞ?彼方は。」


「その通りですね。どうせなら、こちらから言い出した方が、向こうの心象も良くなるでしょう。最初のうちに活躍し、あとはお任せする、という方が良いのではないかと。」



俺は、本心からこの戦に巻き込まれたくはない。

四国の大大名三好之長と、丹波の内藤国貞・南近江の六角定頼の対決である。


どう考えても大戦。

被害は甚大なものとなるだろう。



「いや、初戦で活躍してしまえば、最後の最後まで使い潰されるのが落ちだ。絶対にゴメンだぞ?」


「なぜ…あぁ。そうだな…。」


「君も納得するのか?庄五郎。初戦だけ戦い、後の戦は傍観する方が無難だと思うが…?」



義清からすれば、俺達二人の反応は予想外だったのだろう。

だが、これには事情があるのだ。



「左京大夫。こやつめの作った兵器類が問題なのだ。強力すぎて、ウチにも寄越せ、と言ってきかねん。いや、間違いなく言ってこような。戦が長引き、苦戦すればするほど、我らの兵器の有用性が見えてしまう。そうなれば、家として残れるかどうかも分からん。」


「な……」



義清は、この言葉に絶句していた。

「そこまでの兵器なのか…?」と。


だが、弓にギアを組み込んだ弩やコンパウンドボウというのは、十二分に効果を発揮するのだ。

単なる和弓とは、威力がまるで違う。……和弓の飛距離は大きいが。



「使い所の問題だよ。弩というのは、和弓より威力がある。だが、その分 飛距離がイマイチだ。まぁ、それも歯車を入れ込むことで改良しているがね。」


「………それは、よくないな。いや、良いといえばいいんだが。」


「そうだ。如何に兵器の性能が良くとも、万の敵を倒せるわけじゃない。」



道三の意見は真理だった。

新規の有用な兵器が数十丁あったところで、戦況は変えられない。

しかも、その性能のせいで家が潰れるなら、本末転倒だ。




「なら、どうする?」


「新兵器を使わないか、参戦しないか、だな。」


「だが、相手は畿内の一大勢力だぞ?僕らのような木端が、対抗できるとでも!?」



義清の言には、俺も道三も少しムッとしたが、その言葉は真実を表していた。



「無理……というより、やる意味がないな。」


「……反抗したところで、こちらの評判が落ちるだけで何の利点もない。精々が戦力を温存できるというくらいか。」


「だが、参戦してしまえば、我らが下男扱いされるぞ?全員が、だ。単に都合のいい職人集団としてしか、見てもらえなくなる!」



三人は、苦渋の表情を作り、先について悩み始めた。

京での戦に参戦するかしないかでは、『参戦する』という選択肢以外、三人の頭脳を持ってしても出てこないのだ。


だが、参戦してしまえば、戦後にはもう、松永家も一色家も残らず、単に都合のいい傭兵か商人としていられれば最良と言う最悪の結果を招く。最悪では、全員が下男……奴隷扱いだ。

傀儡よりタチが悪い。



「「「……………」」」



この状況の詰み具合に三人は悩んでいたが、俺はふと、閃きを覚えた。



「…………なぁ、どうせ戦で使い潰されるくらいなら、拡大方向に使わないか?」


「それは、内藤を攻めるということか?」


「いや、逸見を、だ。そして、左京大夫(一色義清)の一色領を回復する。」



その提案に、二人は疑念しか持てない様子だ。


「……何の意味がある?」


「そうだ。丹後方面に大きくなったところで、無意味だぞ?」



道三と義清の二人は、三好と管領の戦しか見えていないらしい。

だが、現管領の敵は、何も三好だけではない。



「高国の残党も、管領の敵だろう?」


俺のこの言葉で、二人は俺の狙いが読めた様子だった。

『今は別の管領の敵と戦っているから、三好との戦には参戦できない』

そう伝えてしまえば、彼方としても強くは反論できないのだ。



しかも、敵対者は一色九郎と延永氏。


一色家の簒奪者だ。

これを認めることは、澄元の政権にも大きな禍根を残してしまう。

挙句、単なる家同士の戦と異なり、将軍家の権威を使っても仲裁一つできないのだ。



仮に仲裁がなされたとしても、間違いなくこちらの陣営に不満の残る結果しか示せないことを考えれば、それを強要された際に反抗する理由付けにもなる。


───何せ、こちらは正統な一色を取り戻そうとしているだけなのだから。



「くくくっ、その案は良いな。考えれば考えるほど上手くいきそうだわ」


「あぁ。管領殿は、僕らの意見を無視できない。しかも、僕らの戦に仲裁など示してくるならば、僕らが敵対するためのいい根拠になる。その時は、大っぴらに喧伝すれば、……ふふふっ、本当に面白くなりそうだな。」


「ただ、問題はいくつもあるぞ?そもそも、逸見と一色の軍勢に、我らが勝てるのかどうか?ということ。それに、内藤や六角、管領殿には、相当に嫌われることになるだろうということだ。役に立たん味方ほど、腹の立つものはないからな。」



一番の問題は、三好と六角・内藤連合が勝てるのかどうか?ということだった。

内藤・六角があっさり勝っても、三好が勝ったとしても、我らには不都合なのだ。



特に、あっさり勝たれてしまっては、次の標的が、"俺達"ということにもなりかねない。

そんなことにだけは、なってほしくなかった。



「まぁ、大丈夫であろう。」


「だな。三好も強大。それに、六角家も当主があれではな…。」



六角家の当主定頼は、当主であった兄が亡くなり、隠居していた父もそれに釣られるようにして亡くなったという状況だった。

当時の者からは、評価が高くなかったのだ。


しかし、それでも、六角家の戦力は強大だ。

俺達も、六角と内藤の連合軍が負けるとまでは思っていなかった。


しかし、京を焼け野原にした三好の強大さも理解している、というだけだったのだ。



そして、俺の方はというと、

「(三好之長についてはほとんど何も知らんが、それでも三好長慶の曽祖父だろ?長慶のチートっぷりを考えれば、善戦くらいするだろ)」

という、之長個人に対する情報が甘すぎて、今後を想定しきれていなかった。


ただでさえ、歴史が大きく変わっている状況で、このことはかなり致命的だった。

もしか、この之長と戦をすることがあれば、俺達は膨大な被害を受ける羽目になったかもしれない。



そう考えると、結果として、参戦しないことはいい方向へと俺達を招いたと言えるかもしれない。


だが、それもこれも、全てが終わってから分かったことである。






「丹後を攻める!」


「「おう!」」



正統な一色家当主の地位を取り戻そうと、丹後での戦を始めようとする俺達には、そんなことは何一つ分かっていなかったのだ。


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