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ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
松永家拡大編

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第54話:武田家から使者が来た

◇永正一五年十二月上旬

◆薗部


俺達は、道三らが制圧した後の薗部へと入り、そこで幾日かの間、薗部と子生、それぞれの郷の編入作業に取り組んでいた。

石山と違い、ここでは食料がどうとかの小手先は通用しない。

そもそも、海辺のこの地では、食料の自給量そのものが違うのだ。


もちろん、この地でも飢饉は起きているのだが、穀物が少ないといった程度にしか、変化が起きていない。

最悪、魚を獲りに行けばなんとかなると考えている者も多かった。


ただ、その魚の採取量の少なさが、飢饉を招いているといった側面もあったのだが。




「こりゃ、厄介だな……」


「船は、専門外だからな…」



道三と俺は、二人して浜辺で唸っていた。

俺としても、海にくれば、食料の調達くらいは何とかなる、といった程度にしか考えていなかったのだ。


もちろん、案そのものはいくつもあった。

こんな時代だし、底引網漁などもされていなかったこと蔵は知っていたからだ。



しかしそもそも、その底引き網漁にしたって、"網の質が悪いから"できなかったなんて、誰が思いつくのだろうか……!

いや、考えてみれば当たり前の話で、その程度のことは考えつくべきだったのだろうが、それでも、このクソみたいな事実に俺達は二人して打ちのめされていたのだ。



「……本当に、網の方はなんともならんのか?ほれ、以前、柿渋を使い色々とやっておっただろう?あれはここでもできんのか?他にも、竹酢液を使うとか…」


「庄五郎。無理だ。竹酢液なんか使った日には、縄をダメにするだけだし、そもそも、柿渋なんぞ既に使われとる。……あとは……、何があるか…」


柿渋も、縄の編み方なども既に、この地の家伝と呼ぶべきやり方のものがある。

長い間、ずっと伝わってきた手法だし、それだけの間に改良だってされている。


ぽっと出の方法が通用するわけもなかった。




「……そうか。しかし、このままでは詰みかねんぞ?それと、食料にばかりこだわってもおられん。宮崎や和田の連中も、こちらに気付いて手出ししてくる恐れもある。」


隣接地域からの襲撃。

食糧不足の昨今では、そんなことさえも十二分に考えら得れた。



「だが、そうは言ってもな…」



相応の時間悩んだが、その間に幾つか閃いた方法はあった。

けれど、その方法のどれもが、いきなり押しかけてやらせるような方法でなく、もっと時間をかけてやらせる手法だったのだ。


そのために俺達は、結局、これまで廃棄されていた海産物の再利用法だけを教え、魚醤と骨粉などの利用についてだけ、この辺りの者には伝えることにした。


これだけでは、本当に僅かな延命でしかないが、その間に何か閃きがあれば…と思わずにはいられなかった。




そうして、翌日。


「とりあえず、食料に関しては任せる。俺は、和田と宮崎の牽制に行ってくるよ。」



道三は、これらの両隣接地域内で暴れ始め、宮崎と和田は、各所が火の海となって荒らされることとなる。

精鋭の松永兵だからこそ、この両地域の兵らに捕まらずに走り続けられるのだ。

これまでの訓練が、この襲撃に大きく貢献を果たすこととなっていた。



「これで時間は稼げるか……。あとは、食料だな…。」




────────────────────────────


◇永正一五年一二月

◆薗部新設拠点



薗部の地には、この冬、新たに城…ほどではないが、簡易の拠点が新設されていた。

砕導山の城は、順次解体され、この拠点に使われていく予定だ。


今はまだ冬だから、拠点作りも本当に簡易なものでしかないが、そのうち、本格的なものができることだろう。



問題はあったが。




「何?武田家が?」



その日、東の若狭武田家、武田元信からの使者が、この薗部の地に訪れた。

俺達の活動を見咎めに来たのだろうか…?




「……何だと?武田家が、我らがこの地を所有することを認める、と?」


「あぁ。そのようだ。代わりに、武田家に従え、とまぁそういうことだな。実利はある。」



武田家からの使者は、「この地の領有を認める代わりに、武田家に従い兵と金を出せ」とそういうことのようだ。



「そんなもの、断るべきだろう。」



道三の意見は、「武田家に従ったところで益はなく、第三勢力のままであった方が良い」というものだった。



「まぁ、確かにね?武田家に従ってしまえば、制約も多くなる。今の武田家は、実質的な朝倉の属国だ。そのさらに下につくというのは、納得もしかねるよね。」


「けれど」と一色義清は言う。


「武田家に従わないとなると、誰の名前でこの地を支配するんだ?っていうことになる。僕の"一色"の名前かい?松永の名前かい?それとも、別の第三者かい?」


「む……。土御門のつもりだったのだが…。」



俺の意見としては、土御門家の名で支配し、それを朝廷によって保護してもらうことで、武家からの影響力を排除しようと目論んでいた。


「ダメだね。土御門の名は、確かに広く知られている。しかし、その影響力は、名前が知られているほどには強くないよ。守りにはならないね。」


「だが、一色がこの地を支配すると言ってもどうする?武田がそれを認めるか?朝倉の干渉を受けかねんと思うのだが?」



武田家の要請に従って、朝倉家がこちらに進出してくることを、俺は恐れていた。

朝倉宗滴の力は、今の俺たちにとっては強大すぎる。対抗のしようがなかったのだ。



「朝倉、ね。出てこないと思うけど。」



義清としては、朝倉が武田の養成で出てくるようなことは、ほぼないだろうとのことだった。

武田の要請に従った所で、京との境であるこの地域が荒れてしまえば、朝倉の不利益になりかねないからだ。


もちろん、こちらの支配地域について、向こうがちゃんとした知識を持っているということが前提だが。



「……そうなのか?なら、問題あるまい。そのまま追い返してしまえば良い。」


「………………なぁ、今ふと思ったのだが、なぜ武田家は、こんなにも早く使者を出してきたのだ?」



我らがこの地に進出してから、未だ半月ほどだ。

いくら何でも早すぎるように感じた。



「……まさかっ!」


「どうした?」



義清は、何かに気付いたように唐突に立ち上がった。

真剣な表情で、武田の使者がいるだろう方向を睨みつけ、しばらくするとゆっくりと座り直した。




「何に気付いた?」


「…………武田の使者じゃない。」


「何?」



俺と道三は顔を見合わせ、どういうことなのかと義清に問うた。


「恐らくは、武田家の使者でなく、朝倉の人間だと思う。こちらの様子を伺いに来たのだろう。」


「「は?」」



そこまでするか?!という思いが、俺と道三の胸中によぎった。


しかし、そのメリットは大きい。

それに、これらの地域に人を派遣しているというのは、確かにあり得ることではあった。

朝倉家にとっては、武田の伸長も、一色の伸長も、京の勢力それぞれの伸長も望んではいないのだ。



武田家の西に大きな勢力ができるということは、朝倉にとっても大きな方針転換が要求されるだろう重要情報であったのだ。



「だが、まだ我らは弱小に過ぎんぞ?」


「いや、支配地域を考えてみろ。名田庄の辺りには、鯖街道がある。アレのことを考えるなら、朝倉の懸念も分かるのだ。」



鯖街道の支配は、この辺りの勢力にとっての重大事項だった。

これまで、俺たちが無視されていたのは、周辺の各国が別の大戦を控えてるというだけの理由からだ。

それがなければ、あっという間に制圧され、俺達は勢力のせの字もなかっただろう。



「となると……」


「ただ断るというのは、無しだ。手土産が必要になろうな。」


「朝倉とは、友好的にせねばならぬわけか…。」


「あぁ。あそことは敵対できんよ。小浜との関わりを、捨てることにもなってしまうからな。」



小浜や宮津、それらの地域と京とを結ぶ鯖街道。


そこを支配する俺達にとって、武田や朝倉との単純な敵対行動というのは、容認できないことだった。

最初に、武田の要請など蹴ってしまえ、と道三は言ったが、蹴ったとしても小浜との流通には問題が出ないだろうという考えからの意見だったのだ。


それだけ、今の武田家の影響力は落ちているのだ。

津料をせしめるだけの大名もどきなど、商人達は砂をかけて追い払おうとするだろうから。




「では、敵対せず、交易の意思を見せておくべきではないか?それと、一色殿。貴方に交渉を行ってもらうとしよう。」


俺は、今回の交渉の主体を、一色義清に一任することに決めた。



「いいのかい?」


「構わない。我らは既に一蓮托生。そなたが何かしようとも、我らにも不利益あることではない。と、そう信じたいと思う。」


「俺も同じだ。義清殿。いや、義父上とでも、お呼びしようか?ふははは」



深芳野を妻とする予定の道三が、二つしか歳の変わらぬ義清をそう茶化す。

俺の年齢が、そろそろ一二。道三が二六。義清が、二八となる。


義清と俺の年齢差が、一六歳だ。

しかし、ここに集った三人の間には、しっかりとした友人関係が出来上がっていた。

まるで十年来の友人かのように、お互いがお互いに振る舞っているのだ。



いずれ、時が経てばこの関係も薄れるかもしれない。

だが、俺はそうならないようにシステムを組もうと、今は考えている。


それぞれが、役割や得意分野などで補合えるような組織構造を……………





「……ありがとう。では、朝倉相手は任せてくれたまえ!私がしっかりとまとめ上げてみるからな!」


「任せた。」「おう、頼む。」



今、三人の間には、穏やかな時間だけが流れていた。


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