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ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
松永家拡大編

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第51話:侵攻を始めた

◇永正十五年十一月下旬

◆石山城


この時期、日本全国で食料が不足していた。

俺たちの所領は、それでも食料があるほうだったが、既に京から多くの者が押しかけ、その余裕もなくなりつつある。

もう、この時代に転生してそれなりになるが、既に食料なんて楽しむもんじゃなくなってる。


食えればいいんだ。



食えないことの方がほとんどの時代なのに、美食なんて望むべくもない。

そして、そんな余裕もない。



………無念の思いだが、そんなことより、道三の引き連れた軍勢 八〇名は、石山城へと向かっていた。

名田庄坂本から北へと登り、そのまま武田家の重臣 武藤氏の居城 石山城へ入って行った。



「止まれ!汝等は何者か?!何故この地を通らんとする!」



武藤氏の手勢が、石山に入るギリギリの場所で、こちらを呼び止めてきた。

飢えてはいても、敵を簡単に中に入らせるようなことはしないらしい。



「我らは丹後守護 一色義清様の軍である!武藤と言ったな?武田家重臣の武藤殿であるか?!」


「その通りだ!しかし、一色だと?それでは敵ではないか?!また、この地を攻めに来たか!」


どうにも、西の一色九郎と勘違いされているらしい。

一色様も、逸見らの仲間だと思われるのは、流石に癪に触るようだった。



「何を申すか!物知らずめ!我らは、正当なる丹後守護、一色義清である!若狭武田殿には、この度の戦で多大なる支援を頂いておるのだ!そもそも、我らは今、丹後守護を僭称する一色九郎と、それを操る延永を討伐しに参った軍だぞ?!何故、我らを足止めするか!!主らこそ、武田家を離反し、逸見らに降ったのか!この裏切り者が!!!」



明らかに、こちらを侮蔑した物言いで進めてきた武藤の被官を、こちらは不義の寝返り者として非難してやった。

ここまで言えば、武藤の大将が出てくるだろう。


しばらくして、武藤の大将らしき人物が現れた。

まぁ、現れたとは言っても、矢も届かない遠方に、だが。



「一色家の主人がここに来たと聞いたが、誠か!」



その男が、こちらへと話を聞きに来た様子だった。


「誠だ!ここにおるぞ!」


義清殿は、一人前に出て、自身の存在を知らしめる様子だった。


「義清様、お待ちを。罠かもしれませぬ。」



道三は、それを、罠の可能性もあるのだから、と言って引き留めた。



「主らは、武田元信様に忠義を誓う者か!一色の誠なる主人に、敵対の意思を持つか?!」



道三の言葉は、あちらに何かしら響くものがあるようだ。

それがなんなのか分からないが、向こうの衆は、ざわざわと落ち着きがない様子に見えた。



「何を慌てておる?……もしや、誠に敵対する気か…?」


「待て、誰か出てくるぞ?」



ざっざっざっ、と冷たくなった地面を踏み締め、こちらへと向かぬ者がひとり出てきた。



「止まれ!何者か?」


それが誰かは分からないが、少なくとも敵対意思はない様子だ。気は抜けないが。



「武藤。武藤時由。」


佐分利殿とも称された、佐分利郷17ヶ村の主人が一人、訪れたのだった。



「武藤の当主が?自ら来たのか?」


「あぁ。」


「流石に不用心がすぎるぞ?こちらが敵対するつもりであったのなら、どうするつもりだ。」



佐分利の主人は、どうにも軽率な者だったようだ。

警戒もへったくれもない。


本当なら、こちらから一色義清としての花押を押した書面を渡し、武藤の重臣なりに確認してもらおうとする予定だったのだが……。流石に予想外だ。まぁ、ここにいるのは本物だから、どうとでもなることだが。




「おぉ、まさしく一色家の主人よ。で、今回はどうなされた?それも、こんな時期に。」



武藤は、ここまで来て何を警戒しているのか、一人で来つつもこちらを問い糺し始めた。



「……こんな時期?では、お主らもしや聞いておらんのか?」


「な、何をでありましょう?」



義清に代わって、道三が、まるで信じられないといった面持ちで話し始める。



「武田家の主人と共に、ワシらは逸見を討伐せんと軍を率いてきたのだぞ?武藤も、それに参陣するよう指図が下っておるのではないのか?ワシらはそのつもりで参ったのだが……」



まるで、既に戦の準備は済んでいるものだと思っていた、などと言い出しそうなほど、本当に予想外だという雰囲気を醸し出しながら話を続ける。周囲の者も、そうだったのか?などと、道三の言葉を信じ始めているほどであった。事情を知っているはずであるのに……。



「な、なんと!それは誠か!?」


「おいおい…では、戦の支度もできてはおらんのか?……ならば、ワシらは無駄骨ではないか…。」



本当に、武藤のせいで不利益を被ったぞ?とでも、暗に伝えるかの如く、道三の話は続いていく。

大規模な戦が起ころうとしているというのに、自分らのせいで戦場に赴けないなど、武士の恥以外何者でもない。


この上なく、武藤の当主に焦りをもたらす言葉だった。



「す、すぐにでも支度を……!」


「といっても、幾日かかるのだ。ワシらは、お主などの為に何日も待ってはおれんのだ!こちらも、昨年の戦後から、ずっと不安定だった名田庄を超えてここまで参ったのだ。我らにとっては、この機会が最後かもしれぬのだ!主らの怠慢に構ってなどおれぬわ!」



道三の憤りは、真に迫っていた。

だからこそ、周囲もその怒りに当てられるかのように、味方は怒りを増し、武藤の衆は恥をかくかも知れぬと、己らの立場を恐れた。このままでは、自らの怠慢によって、武田家の敵に回るということになりかねなかったからだ。


敵に回るとしても、己の意志でそれを成したかった。

自らの怠慢から反逆するなど、武士の風上にも置けぬ恥であったからだ。



「ぬ……。それは、そうだろうが…。待ってくれ。ならば、兵糧だけでも出そう。それと、兵のいくらかも連れて行ってくれ。それに今日はもう遅い。せめて、泊まっていってくれぬか…?」



武藤は、こちらの威勢に対して下手にで始めた。

元々同格であった逸見に降るようなことは認め難かったし、そもそも、武田に敵対するつもりもなく、敵対したとしてもやっていける状況になかった。


独立も考えはしたが、周辺の環境がそれを許さなかったのだ。



「………確かにな。庄五郎。我らも疲労が溜まっておる。今日だけは、ここに逗留せぬか?」


義清が、最適な間で、助け舟を出した。

しかし、義清自身も、己らを切り捨てた武田家に対しては、暗い思いを抱いている。


この逗留が、お互いの心と体を休められるとは思えなかった。




────────────────────────────



◆石山の街:夜


石山にあった武藤の邸宅で、一色とその一行は、武藤氏らによって歓迎されていた。

少しでも、好印象を抱いてもらおうと、武藤時由も必死だったのだろう。



しかし──────

──────その思いは、瞬く間に破られることになるのだが。




「いやぁ、しかし、その数で逸見の元へ向かうとは!流石は丹後主人でありますな!勇敢にして無双の軍!武士としてかくありたいものですわ!」



「ははは…武藤殿も、相当に大変であったのではありませぬか?一色の軍勢はこの辺りにまで迫っておったでしょう?それらを退け、今ここにあること。それこそが、まさしく武藤殿の力量を示しておりましょう!ほんに、軍に加わってもらえぬのが心苦しいものです。」



多少の嫌味を込めて、調子に乗りつつある武藤へと釘を刺す。

夕刻になり、宴が始まったが、武藤は本当にこちらを暗殺するつもりなどはなかった。

しかし、そう疑われても仕方のない状況。


武藤らは必死に、一色の主人をもてなしていた。




「しかし……」「…うっ!」ガチャン!!


武藤が話を続けようとしたその時、こちらの者が一人、毒でも煽ったかのように呻き声をあげて倒れ込む。



「何事じゃ!……お、お主、大丈夫か!……もしや、武藤!!貴様、我らに毒を持ったか!」


「は?…ま、待て!そのようなはずはない!何かの間違い…」「問答無用!!」ザシュッ!



何やら言い訳のようなものを言い募ろうとした武藤時由を、道三はあっさり討ち取り、そのまま指揮を取り始める。


「皆の者!武藤がやりおった!武田様への謀反ぞ!武藤の者らを討ち取れ!」




武藤の兵は、逸見との戦へと赴くべく、一部は軍の支度をしていた。

そして、残る者は、義清ら、こちらの軍を応対することになっていたのだ。


それが、瞬く間に我が家の兵らによって討ち取られてゆく。

集められていた兵も、集まったのはよくとも、武具までつけているわけでもない。


翻ってこちらは、刀を持ち全くといって良いほど、気を緩めぬまま来ていたのだ。

最初の覚悟の段階から、武藤の兵とは違っていた。




そうして、夜が明ける頃には武藤の兵は離散し、上級武士は全て討ち取られ、足軽などの召集兵は各村へと帰っていった。

完全に、松永家がここを支配したのだ。



「では、一色様。この地を頼みまするぞ?久秀。ひとまず、我らは砕導山へ向かう。薗部の辺りも必要なのだろう?」


「分かりました。あとは、こちらの久秀様と図りましょう。」


「父上、我らもこの地が落ち着き次第向かいましょう。ご武運を。」




三者が三者とも、互いの役割を理解し、行動する。

義清と道三、そして久秀による本格的な軍事行動が始まったのである。


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