表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
名田庄納田終編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/68

第48話:近くへと危機

◇永正十五年八月

◆松永家



───長雨


今年は、冷夏が続き、長雨も多かった。

何より、早いうちから野分(台風)がやってきて、その暴風で作物にも被害が出ていたのだ。

怪しい空気が次第に広まっていた。



「今年はダメだな……」



そうして嘆く声が、農夫からも聞こえてくるらしかった。

しかし、この名田庄の納田終や坂本の地では異なるが。



「今年は、不味いのではないか…?」


世間では、不作を恐れて皆が皆慌て始めている。

今から慌てたところで、食料が増えるわけでもないのだが、それでも買い集めようと必死な様子だった。



「しかし、主は分かっておったのか?これを。」


道三にも、未来を予知するように食料の増産や、稗を植えていたという対策を知られ、そのように問われた。

実際のところは、何となく知っていたに過ぎず、今年がそうだという確信もなかったのだが。



「いや、昨年は戦も多かったからな。不作となった時に、恐ろしいことになりかねんと思うただけだ。ここまでのことを予想できておったわけではないよ。」


「そうか……。聞いてみれば、普通だな。しかし、確かに戦も多かったの。それを思えば普通か。」


「あぁ。特別なことなど何もないぞ?」



本当に特別なことなど何もなかった。

しかし、道三や九郎などの身近な者はともかく。

領内の農夫や居つく商人達には、神仏の加護があるだの、土御門家の恩寵などという噂が立つこととなったが。



「領内の噂については、如何なさいます?このままでは、外からも、また人が集まってくるのではないかと思うのですが……」



以前のように、多くの人々が噂に合わせてやってくる可能性を俺は否定できない。

しかも、今回の出来事は全国規模らしい。

若狭商人や京商人の噂でも、そのように語られていた。



「………噂を止められると思うか?」


「………無理ではないかと。」



噂を流している者は、農夫や商人だ。

そこへと口止めをさせることは可能だ。


しかし、食料の豊作具合や稗を植えていたという事実は消せない。

しかも、あえて飢え死にの死者を出すようなことも不可能だ。


いくら止めたところで、この領地の情報が出回るのは時間の問題だった。



「どうにもならんか……」


「………武田も朝倉も内藤も、細川や下田、三好、そして一色。周辺全てが敵に回りかねません。」



またしても、危機だった。

しかも、危機を乗り越えようとした末に起こった危機だった。



「……分かっておったのだがな。」


「どう、なさいますか…?」



心配そうな目で俺を見つめる九郎や光念が、俺の指示を待っていた。



「戦が起こるとして、ここに来る兵の目的はなんだ?土地の支配か?食料の略奪か?それとも、飢えない為の手法か?何だと思う?」



九郎と光念に質問をぶつけてみる。


「それは、食料では?」「食料でしょうね。」



二人が二人ともそう答えた。


「だな。だが、ここにある食料は多くないぞ?それは理解しているだろう?」


「えぇ……。」「確かに。」



襲い来る可能性のある者達の数に相違して、ここにある食料の量は多いものではない。

精々が、領内の者を満足に食わせる程度でしかないのだ。


領外に売り渡せる分も、用意できると言えばそうだが、それでも五〇〇人分程度が限度であった。



「何処かの支配下に入れば、圧力はマシになるか?」


「武田には、往来の力はございません。一色も同様です。内藤は、若様が以前仰っていたように、三好家との関係が危うい。三好とは論外でありましょう?細川とは交渉の機会すらございません。」


どの勢力と手を組んでも、最悪の状況を避けることはできないようであった。



「……土御門卿に、京へ食料を持ち込んでもらう、というのはどうだ?」


俺の案は、ある分の食料を持ち込み、矛先をそらそうとする類のものであった。

多少なりとも恩を売り、当家から絞り出せる分はそれだけしかないのだ…とアピールするだけの苦肉の策だ。



「いえ、逆効果かと。襲撃者が増えるだけに御座いましょう」


光念の言う通り、自身で「ここには食料が沢山あるよ!」と宣伝して回るだけだ。

その程度の案では、解決策にもならなかった。



「ちっ…、だよな。じゃあ、どうすりゃいい…?」


「「………」」


三人ともが、最悪の未来を予想する手段を求めて黙考を続けた。



「教える……というのは?」



その時に出てきたのが、光念の一言だった。


「教える?どういうことです、光念。」


「………。」


俺も九郎も、その光念の一言には、疑念を持つ他なかった。

俺は九郎と共に、光念に説明するように求めた。



「え、とですね。勝龍寺でもそうでしたが、寺や神社には多くの知識がありますよね?」


「あぁ。それが寺社が崇められる理由の一つだろう。」



神への信仰だけが、寺社の役割ではないのだ。

この時代、世の知識人が集まる場所といえば、大名家や公家といった家ではなく、寺社という宗教施設だった。



「ですが、余程のことがない限り、寺社というのは襲撃をされません。勝龍寺は、されましたけど…。伏見も…。」


「例外があることぐらいは分かる。あの連中がおかしいだけだ。普通、寺社は襲われないものだ。」



神仏への畏れだけではない。

宗教施設を狙うということは、信仰の拠り所とする者からの指示を失うということ。信者達から、攻撃を受ける恐れもあるのだということだ。当然ながら、そのような選択をできる者は多くない。


本当に余程の場合のみなのである。普通は。



「油の座や、紙の座もあるでしょう?そういった場所も寺社ですよね?」


「そうですね…。」


「だったなら、土御門様や勝龍寺の名を借りて、"座"を作ってしまえばよろしいのではないかと思ったのです。」


光念の提案は、俺達にとって予想だにしないものであった。

そもそも、俺たちが問題としているのは、食料がたくさんあるという事実についてだ。

そこに、何故、座を作るという考えが出てくるのか理解が及ばなかったんだ。



そもそも、何の『座』を作るんだ……?



「待て……待て待て待て。『座』?『座』を作る?俺達が話題にしていたのは、食料が、この地にはあり過ぎるということだぞ?どこに座の介入する余地があるのだ。」


「そうですよ、光念。"座"といえば、何らかの商品を対象に作るものでしょう?食料が多くあるから、座を作ろうなんて……訳がわかりませんよ!」



光念も、その返答は予想していたようだ。

だからこそ、微笑みを浮かべつつ、俺達への説明を続けてくれた。



「えぇ。その通りです。食料がここに多くあることが問題。それは間違い無いでしょう。しかし、どうやって、その食料を多く作れたのかを考えてみてください。」


「どうやって、って…。ただ、俺は指示を出して……」



「そうかっ!若様の指示で作った農具などを対象にするのですねっ!!」


九郎は、目を見開き、身を乗り出しつつ叫び出した。

どうやら、こいつには理解できたらしい。



「待て待て。農具を対象にしてどうする?そんなものに金を支払わせるなど、不可能だぞ?」


この室町の時代に、アイディア料を支払うことや著作権も著作料なども存在しない。

無限に模倣されるだけである。



「違いますよ。そもそも、今のままの湿田で、アレらの道具を活用する価値があるのでしょうか?」


「いや、無いな。雑草抜き機や田植え機も作らせたが、乾田と正条植えがなければ役にはたたん。田下駄や風呂鍬くらいは、使いようがあるがな。」



風呂鍬や田下駄は、湿田でも利用価値があるが、そのほかの道具には価値がないとさえいえた。

乾田と正条植え、暗渠の設置に水路整備。


そのどれかひとつが欠けただけでも、それらの道具は効力を失うのだ。



「つまり……」


「それらをまとめた知識。それそのものに金を支払わせるのです。たも…じゃなかった。久秀様。」



技術情報そのものに、金を支払わせる。

まさに、"現代"の知的財産権そのものの考えだった。



「待て、支払わせるといっても、どうする?対価には何を要求するのだ?」


「……そうですね。詳しくは、もっと作り込む必要があるかと思いますが…。やはり、毎年の収穫の内、何割かを頂ければいいかと。十年ほどで区切るなら、相手も受け入れるのではと思うのです。」



「(おいおい…。特許制度を作っちまおうってことか?光念…、もっと色々なことをさせてみるべきかもしれんな。)」


光念の考えた案は、特許制度そのものだった。

知識情報に対して金を支払わせ、その対価を毎年請求する。

システムそのものが先進的に過ぎていた。


「……だが、どうやって支払いを強制するんだ?そんなもの、簡単に破棄できるだろ。向こうに支払う意思がなければ、直ぐにでも破棄してくるぞ?」


「そこなんですよね……。稲荷の力があれば、それも可能だったと思うのですが…。」



案そのものは悪くなかったが、対価を強制する為の強制力がなかった。

しかも、周辺国への襲撃の対処法として、それが意味を為すのかも分からない。


「それに、周辺国への対処そのものはどうする?そのままでは、単なる知識の漏洩にしかならんぞ?」


「えぇ、その通りです。しかし、他の領地にも知識を渡すといえば、多少、矛先は反らせると思うのです。それに、ここの知識が本物だとなれば、他国も容易には襲ってこれません。知識こそが守りにはなりませんか?」



光念の言うことは、一面では正しかった。

しかし、その言葉も、力の前には無力に等しい。

もっと強引に事を進めるのが、今の時代の常識だった。



「まず、間違いなく誘拐されるだけに終わるな。もっと、表立った立場でもなければ……。」



松永の家だけでは、事態は解決できない。

この日の話し合いは、そのことをさらに強く印象付けられた会議となった。



「弱いことは罪……か…。」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ご読了ありがとうございます♪

⭐︎の評価を頂けると喜びの余り、執筆速度が加速します

(*,,˃ ᵕ ˂ )✰*


"Fantia"でも【斎藤家協同組合 (斎藤 恋)】という名で活動しております。たくさんの小説が組合にはございます!読書好きの方は、是非どうぞ!無料で読める作品もいっぱいですꉂ(˃▿˂๑)

"URL"はXにて。


先行公開も行っておりますので、また来ていただけると嬉しいです!


詳細は"X"にて"@SaitoRen999"で検索ください。面白かったら、X経由でも応援いただけると幸いです。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ