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ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
名田庄納田終編

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第45話:納田終の資源を探してみた

◇名田庄


俺達が現状支配地としているのは、名田庄全土…。

だがこれは、あくまでも干渉可能な範囲という意味でのそれだ。

実効支配地としては、名田庄の納田終の地から、名田庄坂本の辺りまでである。


特に、坂本の地は、逸見らからの干渉を受けやすく、ここに防衛拠点を築いているのが今の状況だ。


名田庄坂本の地は、この辺りの"衢地"だったのである。

衢地というのは、あらゆる方面へと向かえる土地という意味合いの、孫子の兵法にもある区分だ。


孫子的には、規模が小さすぎて正しいとは言えないのかもしれないが。

国人単位で言えば、確実に衢地だろう。


実際、ここからは、京方面にも行けるし、小浜にも行ける。

丹後方面なら、高浜や田辺、宮津だろう。

ここからなら、一色領内へも武田領内にも行けて、京と繋がって大きく稼げる!はずだった。



京が荒れ、小浜や高浜もお互いに警戒しあっている今の状況下では、相当に困難だ。

訪れる商人の数が極端に減っているのだ。



「あやつら、いつまで戦を続けるつもりなのだ……。」



三好は、京の南部を荒らし続け、伏見稲荷大社もその被害にあったという報が入ってきていた。こちらに連絡がなかったのは、その影響なのそうだ。

小浜経由で、稲荷の御師達から最近になって入ってきた情報だ。



「今のままでは、当家は干上がりますな。丹波との交易も始められるとはいえ、どこまで収益が上がるかどうか…。」



俺達は、土御門家や壬生・清原の家の者らを通じて、下田氏や内藤氏へのアプローチを行なっていた。交易許可さえ出れば、直ぐにでも商人らを派遣する予定である。


単なる商売であるならば、普通に商人を送っても良かったのだが、略奪の危険性を減らすのと、俺たちが内藤側の派閥に入ることをアピールする為には、こういった小細工も必要不可欠だったのだ。



「ですが、時間がかかるものですな……。」


「まだ、使者が旅立ってから十日と経っておらん。これが普通だ。」



これまでの我々は、別勢力との交渉といえば、当主の俺自らが、直接乗り込むものばかりった。だから、九郎も感覚が麻痺しているのだろう。


ここから数日程度で着く距離であるし、早馬で行かせるわけにも行かない。

十日程度の日数は、本当に普通の時間だった。



「ですが、結局なにを売り込むのです?竹炭を売り込んだところで、あちらに一蹴されるだけのように思いますが。」



「他にも色々あるぞ?前にも売った切り蕎麦もそうであるし、酒だとて今では大量に作っておる。それ以外にも、新たに作った農具もあるし、薬の類も伏見の許可付きで売れるだろう。」



その他、娯楽道具や大量に作り始めている作物の類も、商品として有望であった。

楮の栽培も昨年から行なっているし、将来的には、紙の量産も可能になるだろう。



鉱山が所有できれば、もっと色々なことが可能になのだが。こればかりは何度言っても仕方ない。



今のように、野生化した楮から紙を作る方式では、これからの紙需要に応えられないのだ。

竹炭などに使っている"真竹"も、栽培を始めている。


畑の拡張工事も、冬場には停滞しているがこれまでの間に、相当な広さを拡張できているから、これまでの倍は、人を養えるだろう。あくまで納田終に限るのだが。



「そういえば、三重や挙野、小倉の辺りは、今どうなっておるのだ?こちらには報告が来ておらんが。」


名田庄という地は、存外に広い。

上と下に分かれ、下の辺りには、名田庄小倉・名田庄挙野・名田庄三重という地が存在したのだ。その辺りは、小浜から徒歩で数刻ほどの距離とあって、粟屋や武田からの干渉も強かった。


今は、我らの支配地であるとはいえ、いつ粟屋らに奪い返されるか分からない状況でもあったのだ。



「下の方ですか……。さて、こちらにも届いておりませんな。あの辺りは、庄五郎殿の奇策で手に入れた土地でありましょう?いつ謀反を起こされてもおかしくありませんぞ。戦力が整うまでは、あまり強く干渉しない方がよろしいのではありませんか?」


「それはそうだが…。現状を知らぬまま、というわけにもいかんだろ?」


「それはそうでしょうが……。今は、放置すべきでしょう。それに、こちら側の開発を続けていれば、あちらから配下に入れさせてくれ、と言ってくると思いますよ?」



名田庄の上手側のこちらでは、土御門家の影響が大きく、その名での開発が大きく進んでいた。昨年までなら、八反ほどしかできなかった水田の改良も、今年にはもっと進められるだろう。


畑の開墾は、七月に蕎麦を植えた後も続けており、冬に入る前には三町ほどの広さにまで広がっている。今は、半町ほどの畑でのみ小麦を育てているが、春になれば、余裕のある土地ではまた新たに何か育てるだろう。



「春から育てる作物は、何か案があるのですか?」


「あぁ、大豆と稗を想定している。周辺も戦で大荒れだ。今年は不作になるやもしれん…。」


「…そうですね。北の小浜も、南の京も。どちらもが荒れましたからな。人手も多く失われたことでしょう。」


戦による不作。まさしく人災であった。

問題は、そこに天災もが繋がった時、もっと大きな最悪にもなりうるということだった。



「せめて、戦が収まればいいのだがな……。」



────────────────────────────



◇永正十五年三月


今年も、田畑の改良や開墾が行われている。

ここでさらに加わったのは、名田庄坂本の地だ。

そこでも新たに田んぼの改良と畑の開墾を行わせてある。


ある程度の広さが開墾できたら、それぞれの時期毎に、稗や大豆、蕎麦に小麦といった作物を植え付けていく予定だ。


うろ覚えの知識ではあるが、この辺りの時期には飢饉が起きることが多かったはず。

どの辺りでの飢饉なのかは分からないが、稗さえ植えておけばなんとかなるだろうと考えていた。


「竹炭は細かく砕いて土に混ぜろ!そうすることで、例え冷夏であっても土が冷えぬからな!不作が減ると思え!」



俺は掛け声を出して指示をしていく。

こういった作業も、今はまだ俺の仕事だ。



「若様。それにしても、あの竹藪はあそこでよろしかったのですか?谷の入り口などに配するなど、邪魔だと思うのですが……?」



得竹が、真竹の栽培場所が、この地を行き来するには邪魔になるのではないか?と疑念をぶつけてきた。植えたばかりの頃には、特に問題と思わなかった真竹も、育つにつれて邪魔に思えてきた様子だった。




「絶対に、あそこでなければダメだ。いいか、絶対に刈らせるなよ?そんなことをすれば、お主も刈った者も処刑せねばならん。それほどまでに重要な役割があるのだ。他の者にも伝えよ。今年中にもそれが分かる。」


「は、はぁ……?」


得竹は、「理解できぬ」という風体でその場を後にした。



「あの阿呆。本当に刈らせたりせんだろうな?流石にまだ小さいからせぬとは思うが…。一応、監視させておくか。」



俺は、得竹の阿呆がやらかさぬように見張らせることに決めた。

あの男、能力はそこそこなのだが、自身の考えに固執するところがあった。


そこを、俺や他の者も懸念していたのだ。

母に傾倒する姿も、そうした評価を助長する原因だった。




「若様!」


「ん?おぉ!田蔵か。どうした?今は、工房の方の仕事ではないのか?」



田蔵は、今年に入ってからは、建築の方から離れ、元々やっていたという陶磁器の製作の方で仕事をするようになっていた。とはいえ、未だ始まったばかり。

窯すらできていない状況なのだが。



「いえ、窯用の粘土を探して、色々と回ってたんですがね?若様の意見も聞きてぇなぁと思いやして。」


そう言って、田蔵が見せてくれたのは、赤かったり白かったり、あるいは黒かったりする色々な土や、いくつかもの種類ある石ころであった。


「これらは…?」


「へぇ。この辺りで採れた土に石ころでやす。正直言って、これらをどう使おうか、色々と悩んでやして……。」


「…なるほどな。」



そうやって、田蔵が持ってきた土や石ころを見てみる。

そうすると、俺のような男でも知っている石や土の類が幾つか見受けられた。



例えば、石ころでいうと"チャート(角岩)"だ。火打石と言った方が馴染み深いだろう。

それと、黒い炭のような石であるマンガン鉱石。

他には長石や頁岩だと思われる石もあった。

土の方はというと、耐熱粘土のような白い土や陶石のようなものも見られたので、これらのものがあれば、窯も陶磁器の製作もできそうだ。幾つか、赤い土や黒い土の方はよく分からなかったが。



「こっちの白い土と、こっちの硬い石は使えるな。この硬い方の石は粉々に砕いてから、白いのに混ぜ合わせればいい。そうすれば、磁器にも使えるような窯が作れるだろうな。」


「へぇ…?なるほど。はは、やっぱ若に相談してよかったぜ!いっちょやってみらぁ!」



田蔵は、そう言うや否や、あっという間に走っていってしまった。


「え?それだけ?それだけで良いのか!おい!………行っちまったよ。あの角岩は、潰すのに難儀すると思うんだが…。」



火打石というのは、とつもない硬さを誇る。

正直、ただの軟鉄程度が相手だと勝ってしまう程度には硬いのだ。

それを潰すとなれば、本格的な道具を作らないと粉々にする作業だけで何ヶ月も何年も掛けることになるんだが……。



「…まぁ、また聞きにくるだろ。」




行ってしまったからには仕方ないとばかりに、俺は放置することに決めた。

それよりも……。



「しかし、マンガン鉱まであんのか…。」


マンガンといえば、思いつくのは"マンガン電池"だが……。


「くくっ…マンガン電池は、流石に、な……」



電池が作れるなら、もっと色々なことができるだろうが。

流石に無理がある。ボルタ電池くらいなら作れるが、それでも電力が小さ過ぎて何にも応用が効かんからな。


「精々が、見せもんだよなぁ…。」


高純度の銅線生成くらいができれば、多少事態も変わってくるだろうが。



「それまでは、電池も電気もお預けだな。」




俺は、その後も"マンガン鉱の利用法"について、考えを巡らせ続けた。

未来に伸びる道に、いくつも手を伸ばす為に………


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ご読了ありがとうございます♪

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