第40話:松浪庄五郎に提案したみた
◇永正十四年十一月
納田終の土地は、本当に着実に発展を続けている。
松波庄五郎の採用は、際どい手ではあったが、今の所は正解の一手だったと思っている。
この地に集まっていた荒くれ連中が、庄五郎を中心にまとまりを見せているからだ。
これまでは、青木や得竹ら数人が、これらの荒くれ連中を暴力でまとめ上げようとしていたのだが、どうしたって人手不足だったのだ。この二人が専任でできていない以上、腕の立つ連中もまとまりを見せず、コチラに反発したり、盗みや暴力、様々な犯罪行為に手を染めていた。
それを治めるだけの力と余裕も、これまでの俺たちにはなかったのだ。
完全に舐められていたともいうだろう。
それが、庄五郎が指揮を取る様になってからは、完全にまとまりを見せている。
それだけでも、一気にこの納田終の地の治安が高まり、発展のペースも格段に向上したのだ。
それだけでも十分すぎるのに、この集団を庄五郎は自警団としてまとめ上げ、松永家の兵卒として育成までしてくれた。
………ただ、その連中の忠誠心は庄五郎に対してしか、存在しない。
当然だが、俺の兵士という割には、庄五郎を介してしか、俺の指示に従わない輩なのだ。
俺がまだ、10歳でしかないことにも原因はあるが、こればかりはどうしようもない。
爆弾スキルで殺してしまうわけにもいかないのだ。
「若様……。あの庄五郎という男。余りに危険すぎませぬか?」
「私もそう思いますぞ。あの荒くれ連中をまとめ上げた、その手腕は認めましょう。しかし、このままでは松永家が乗っ取られかねませぬぞ?」
「御二方の仰る通りでさぁ。元馬借の奴らも、あの庄五郎っていう御方には従ってんですぜ?このままじゃ、まずい事になりかねやせん。早いうちに手を打つべきでさ。」
九郎・青木・田蔵という三人が三人ともに、俺に対して警告をしに来た様であった。
松波庄五郎が、この数ヶ月で腕の立つ連中数十名をまとめ上げ、自警団として、あるいは松永家の正式な兵士として名乗らせ、納田終の各地で名を広めているのだ。
その影響は各所に出始めていて、新しくこの地にやってきた者の中には、松波庄五郎こそが、この地の支配者なのだろうと思っている者さえ出始めているらしかった。
「構わん。やらせておけばいい。」
だが、斎藤道三という毒を飲むことを決めた時点で、その程度は予想通りだった。
そして、如何に道三が…、いや、松波庄五郎がその名を広めた所で、食い物も金の出所も技術も、何もかもを握っているのは俺なのだ。
やりたいだけやらせておけばいい。
俺はそう思っていた。
「しかし……」
「若様。何かお考えがあるのですか?」
青木が、さらに言い募ろうとしたその時、九郎が俺には何か思案があるんじゃないか?と聞いてきた。
実際、あるにはあった。
庄五郎がいくら名を広めようとも、俺を切ることはできない。
俺を切れば、この地の技術をいくら乗っ取ろうとしても、これまでのことをなぞることしかできないのだ。
今以上に発展させるには、俺という最大のパーツを欠くことはできない。
「アイツが阿呆でもない限り、俺を切ることはない。まず、これは大前提だ。アイツは二十四で、俺は九。そもそもが、俺に対抗できるようなものじゃない。それに、アイツの力は、今の俺達に必須だ。違うか?アイツの鍛えたアイツの兵が、俺達の守りには欠かせない。だから、対策とか手を打つとか言った所で、アイツを切ることなんてできないんだよ。」
「ですがっ!」
青木は、俺のその言葉に声を荒げる。
青木の形相は、普段と違い険しい。
いつもの穏やかな様子が嘘のようだ。
「分かっている。アイツがウチから略奪するだけが狙いなら、確かに危険だろうよ。それは分かってる。理解している。だが、アイツの願いは恐らくだが違うぞ?」
俺の言葉に、皆が沈黙した。
確かに、アイツの狙いが略奪なら、とっくの昔にやっていてもおかしくはないし、既に終わっているだろう。
もっと深い狙いがあることは確かだった。それがなんなのかは、分からないが。
「たぶん、アイツは武士になりたいんじゃないかな?」
武士になって、自分の力を世間にぶつけたい。
もっと広い世界で、自分の可能性を試したい。
どうせそんな所だろう。
と、俺は皆に伝えた。
あの手の男のやりたいことや夢なんて、大抵はそんなもんだ。
そんなことくらいなら、前世にも数え切れないくらいいたもんだ。
今の時代じゃ、人間の数そのものが少ないし、そこまでの余裕がないからこそ目立たないが、そういう考えの人間ってのは多いのだ。若ければ若いほど、そうやって自分の力を試したがる。
正直、ありふれた個性である。
「……若様のそのお考えが合っていれば……ですよね?」
「あぁ、そうだな。違っていれば分からんし、乗っ取られるかもしれんな。」
俺の言葉だけでは、納得できない様子だった。
「ふ……。なら、話してみよう。それでいいだろう?お前らは隠れて見ていろ。」
────────────────────────────
◇新築:松永家邸宅
その日、やっと新設された、松永家の邸宅の一室に、松波庄五郎と松永久秀が二人だけで向かい合っていた。
「しばらくぶりだな。調子はどうだ?」
俺は、上司としてこの庄五郎という男に話しかけてみた。
以前は、あちらを持ち上げて話し掛けたが、今回は上司としてなので上からの話し方だ。
そのことを、この男が察せられるのかどうかも、俺の評価対象だった。
「良いですなぁ。最近では、身体の調子もよく。随分と伸び伸びとやらせて頂いております。」
庄五郎の反応は、これまでと変わらずであった。
あくまでも下手に。こちらを立てつつ、内心では自分の方が上だとアピールするかの様だった。
そこが、他の者からすれば、癪に触るのだろう。
しかし、この男より下の立場の者からは、それが自信ありげに映るのか、随分と高い評価をされている様子でもあった。
俺からすれば、単純に「若いなぁ…」という印象しか持てないが。
「そうか。それは良かった。最近じゃ、お主に当家が乗っ取られるんじゃないか?などと懸念を持つ者も多いようだったからな。一応確認しておきたかったのだ。」
「ハハハ、乗っ取りですか?その様なこと」「するだろう?やれるならば。」
俺のその言葉に、庄五郎の表情が変わる。
「……その割には、不用心ですな?」
「ふんっ。できるものかよ。お主は考えすぎるほどに考える性質だ。そのお前が、確たる勝算もなく俺を殺すものか。そこまで阿呆だとは思うておらぬ。それにいざとなれば、お主と差し違える手段くらいは持っておるわ。舐めるでない。」
俺の言葉に、庄五郎の瞳が僅かに細められる。
「それはそれは……、是非ともその手段とやらをご教示願いたいものですな。」
「はっははは……!そんな勿体無いことができるかよ。ここでお主を殺ってしまえば、お主という駒を使えん様になるではないか。」
この瞬間において、俺は松浪庄五郎より上に立っていたといえよう。
勝龍寺や伏見での経験を経て、俺はかつてのギラつきや前世の経験を、これまで以上に引き出せる様になっていた。
この若い肉体に左右されていた頃とは、段違いの交渉力だったはずだ。
………まぁ、とは言っても、やっていたのは若い頃だけで、中年以降は農家や作家としての仕事ばかりだったのだが。
「………それで?私に何をお望みで?出ていけと仰るなら…」「それはない。」
俺はこの男を、最期の最後まで使い倒したい。
斎藤道三という最恐とも言える駒を、俺の望む限り使いたいのだ。
裏切りの可能性を容認してでも、だ。
「なら、何を…?」
本当に疑問で、俺が何を狙っているのかが察せられないのだろう。
裏切るかもしれない者を、懐に入れてまでどう使うのか、予想がつかないのだろう。
この男のような疑心の強い者には、理解できないと見える。
「松波庄五郎。」
「…………」
「お主、ウチの母御と契れ。」
「………………………は?」
「くっ」笑いが止まらない。
俺の提案は、この男にとっても予想だにしないもので合ったようだ。
「やっと表情を変えたか?一本取れたかな?」
「……一体、何が狙いなのだ?俺の様な者を、お主の母と婚姻させるだと?俺は、元は捨て子なのだぞ?それも、おまんという妻もある…。それを、なぜ………?」
庄五郎は、俺の提案に疑問が脳内を埋め尽くしている様子だった。
意味が分からなさすぎて、理解が及ばないのだろう。
ちなみに俺の母は、俺が渡している竹酢液やヘチマ水、栄養バランスを考えた献立など、様々な方策によって相当な美人に仕上がっている。この時代の者には三十二歳だとは思わせないだろう。
少なくとも、それより一〇は若く見えるはずである。
「お主が俺の母と婚姻を結べば、俺はお前の息子になる。なら、お主が何をしようとも全て松永家の為になる。お主を取り込もうとする俺の策よ。それに、お主がいかに俺を廃そうとした所で、俺の作り上げたこの国は盗れんよ。大体、俺の作ってきたものの価値を、お主も他の者らも知らなさすぎだ。それに、今はまだ人手と戦力が足りんからできないことが多いだけで、それらが埋まればもっとやれることは増えるのだ。それでもまだ、お主は俺のことを切れるとでも?無理だろ?世の中は、そこまで甘くないぞ?」
若者を諭すかの物言いに、何かしら思われる可能性もあったが、俺はそのままの言葉を通した。
庄五郎は、歴史上の偉人といえども、今はまだ単なる若僧に過ぎない。
二十四がこの時代では、一端の大人であろうとも、前世日本で老人世代まで生きた俺にとっては小童だ。
どうしたって、諭し方が老人目線での物言いになってしまう。
「………随分と自信があるのだな?」
「当たり前だ。俺が見た目通りの歳だとでも思っておったのか?」
ふんっ、と鼻で笑いながら、俺は部屋を出た。
ちなみに、母上には何も話を通さないままでの提案である。
いくら当主だとしても、責められる可能性があったのだ。
だからこそ、庄五郎が行く前に話をつけておく必要があった。
「気が重い……。道三相手より、余程かしんどいわ…。」
俺の苦労は、まだ終わりを見せないままだ。
一体、いつになったら楽になるんだろうか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ご読了ありがとうございます♪
⭐︎の評価を頂けると喜びの余り、執筆速度が加速します
(*,,˃ ᵕ ˂ )✰*
"Fantia"でも【斎藤家協同組合 (斎藤 恋)】という名で活動しております。たくさんの小説が組合にはございます!読書好きの方は、是非どうぞ!無料で読める作品もいっぱいですꉂ(˃▿˂๑)
"URL"はXにて。
先行公開も行っておりますので、また来ていただけると嬉しいです!
詳細は"X"にて"@SaitoRen999"で検索ください。面白かったら、X経由でも応援いただけると幸いです。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




