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ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
名田庄納田終編

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第38話:京からの避難者が来た

◇永正十四年七月(西暦1,517年)


大内帰陣の報告が届いてから、二月の時間が流れた。

あの時から、俺の活動量は増えに増えている。

今では、既に移転当初の倍だ。

過酷なブラック労働の波が、ここにも迫っていたのだ。


しかし、その実態を把握できているのは俺自身のみ。

他の者は、全てで払っているので、俺の就業実態を俺しか知らないからだ。



「しかし……、若い身体とはいえ、無茶はできんよなぁ…。夜中の仕事も、これ以上は障る…。あー、死ぬ前に見たニュースだと、睡眠時間が短いと早死にするってのがあったか…?だが、それどころじゃねーし…。はぁ…。」



積み重なった仕事が、俺の安息を許さない。

養蜂業の始まりに、蕎麦の栽培、小麦の調達に、水路の整備と家の建築………。


それら以外にも、竹炭の工房を建て直したり、竹酢液をちゃんと取れるようにしたり、竹酢液のタール分離が行えるような小屋を建設したり、漆器を作ってみたり、陶器や磁器に手を出してみたり………。


やり始めていることが膨大にあるのだ。

既に、俺ひとりでやれる仕事量を、完全にオーバーしている!!


どう考えても一人じゃ無理難題の不可能事なのだ!

だが、こっちでは、文官もマトモにおらず……というより、寺の再建の方に僧侶たちは行っているし、そもそも、松永家の拠点さえないから、仕事の分担そのものができてない……。


悲しいが、まだまだしばらくの間は、俺一人でここを支えなきゃならないのだ。


「ぐす……泣いても仕方ない…仕方ないんだけど……。早く家が欲しい。ちゃんとした家が…。人手が欲しい。書き物計算色々やってくれる人材が……。仕事減らしたい…。自分で増やしといてなんなんだけどさぁ……。」



文字を書ける人間、そのものが貴重な時代だ。

読み書き計算ができて、こっちの意図を読んで動いてくれる人間など、今の時代には皆無である。

いや、俺が教育を施した九郎なら、できなくもないが、今は別の仕事中である。


つまり、ここの仕事は何人人が増えようとも、俺が支える他ない…。

人人手は、ここだけではなく、あらゆる場所で足りていないのだから。





「若様!」



得竹が、俺の執務室(仮)に飛び込んできた。



「どうしたっ!」


何かあったのだと思い、俺は即座に反応する。



「京から避難してきた者が参りました!」



────────────────────────────



◇京の闘争



「避難……?」


大内義興の撤退と将軍足利義稙の動座によって、細川高国の足元は大きく崩れた。

丹波守護代 内藤の離反、薬師寺の細川澄元への寝返りと三好による誅殺。

その他にも、多くの裏切りと苦難が、高国の身には訪れた。


全ては彼自身の決断によって起こったことだとはいえ、キッカケとなった薬師寺にさえあっさり裏切られてるのを見ると、彼の元々の性格が、いいものでなかったことがよくわかる。


澄元と三好之長の一団は、摂津や堺など、京の西を制圧。

高国の勢力圏は、たった数ヶ月で京を残すのみとなってしまった……らしい。


ここまでの話は、京から来た者に聞いた話だ



細川澄元や三好之長による、本格的な細川高国討伐が始まったことにより、京の街は下京・上京問わず、戦火に晒された。

無論、公卿らや帝などのいる御所等は無事であるが、下位の公家達(地下官人)にとってはなんの配慮もない。

三好や高国の私兵による無体によって、逃走を余儀なくされたようだった。


京からの逃亡者は、公家である壬生一族や清原の中でも非主流派の者、そして、商人や職人、孤児や浮浪者達など様々な立場の者がこの地へとやってきていた。特に商人や孤児・浮浪者達は、俺のこれまでの活動によって培われた噂や繋がりによって、この地へとやって来た者達だったのだ。



「……多いな?何人ほどいるのだ?」


俺は、この場を見張っていた青木に尋ねる。

青木は、元々松永長利の郎党であったが、借金苦にあった所を俺が肩代わりし、拾った者だった。

京脱出の際にも、西岡の将来を察し、俺達と共に逃げて来ていたのだ。



「さぁて…。大凡おおよそ、二〇〇と数十、といった処でありましょうか?何分、数が多すぎますし、公家の方もおられますからな……。」


「公家、か…。土御門様にお任せするか。役立ってもらわねばな。」



公家に関しては、その全てを土御門家に一任し、他の面子は、コチラで見ることに専念させてもらうことに決めた。

何せ、これから一気に人が増えるのだ。

家の建設だけでなく、食料の増産さえもしていかねばならない。


来年の飢饉を前に、これだけの数を養うことは困難だが、乗り越えねばならない試練でもあった。



「また、家と食料の増産を考えねばならんのか……」


受け入れるだけ受け入れ、放逐しないという俺の信条は、この時代の者から見れば御仏の如くであったが、その分負担も大きかった。だが、ウチの郎党は、そのほとんどが孤児や浮浪者達だ。

分かった上で、皆が皆、苦笑いしつつも協力してくれたことだけは感謝している。

それはそれとして、「また、若様の道楽が始まったぜ!ハハハハ」などと、笑われるのは釈然としないが。



あと、元々は主人さまだったり、主人であったはずなのに、若様呼びになっているのはデフォルトなのか?

最近は、田蔵さえも"若様"呼びだし、九郎さえも時折、若様と呼びそうになる時があるのだ。

若様ってのは、本来の主人の子供とか次期後継者って意味合いだったはずで、最初から当主は俺のままなんだけどな……。



それはともかく、やって来た者達にはすぐさま仕事を割り振り、公家の方々は人を介して土御門家に案内させた。

本当に幸いと言っていいのだが、建材なら、俺の邸宅用や寺の建設用の物が余っているからな。

これでまた、寺と邸宅の建築が遅れてしまうが、それはもうコラテラルダメージだ。既に諦めている。



後日、勝龍寺の者の滞在を続けて下さったことについて、土御門の当主 有春殿に謝罪と感謝を述べに行ったのだが、「アレだけの者が急に来たのだ。コチラこそ、公家の者らの邸宅まで建てて貰い済まない。」などと、逆に謝罪をされることになった。


この時代の者に似合わず、本当に謙虚な方である。



家々の建築は、京からやって来ていた職人らの協力も得て行われ、新たに工房も建てられるだけの余力さえ得られた。

馬借らは、馬や資産も持って来ており、下田氏らの手に渡った物も多いが、壬生や清原の者の協力によって、大部分を持ってこれたらしい。


とは言っても、そのほとんどが銭や生活道具で、馬も、全て合わせても二〇頭ほどしかいないが。

公家の荷物や荷馬については含んでいないので、その程度の数でしかない。


だが、それでも馬借の協力が、これからは得られるようになるというのは有り難かった。



馬借というのは、運搬業務の専門家。

この納田終の地では、山麓からの資材運搬や山中にある工房への、または工房からの物資輸送に、相当数の人員が割かれていたのだ。それを大きく削減できるとなれば、本当に得難い人材である。


外部で商売をさせようにも、京は荒れている上に、若狭でも大きな戦が起きていたのだ。

先月の六月から、隣国 丹後からの侵攻があったのである。

一色氏の守護代、延永のぶなが 春信はるのぶによるこの侵略は、若狭武田の重臣であった逸見国清の寝返りを招き、若狭を混沌の状況下へと落としたのだ。



当然、納田終などという辺境に構っている暇も余裕もなく、粟屋や若狭武田は、その対処に専念せざるを得なくなっていた。

俺達は、これを機に行動しようとも考えていたが、逸見や一色・延永のぶながに与するつもりもなく、表向きにはなんの行動も起こさないままであった。


大きく動き過ぎれば、京の勢力からの警戒されかねない。

やれるとすれば、丹波勢との関係強化くらいしか、外交的にはできることはなかった。

内務的には、内政業での仕事が山のように湧いており、馬借という専任の人手は有難いことこの上なかったのだ。



「九郎!いるか!」



俺は、孤児達の管理を任せている九郎へと協力を仰ぎに来ていた。

彼には、孤児の教育や労働の指揮、孤児の子ども達の世話をしている女性陣の管理など、多くの関連業務を任せていた。



「はっ!……如何されました?」


「新規の流入者だ。京から避難して来たらしい。孤児達も大勢いる。面倒を見てやってくれないか?」



新規に流入した孤児の数は、七〇名を超える。

孤児だけで、だ。

俺達の噂を聞いていて、騒動に合わせてやって来たらしい。

数こそ多いが、俺達の情報を孤児のみの上で、直ぐに察知してやって来た者らだ。

その分だけ、評価をあげてもいいくらいだろう。



「新規…ですか。」


九郎の表情は、曇っていた。

それはそうだろう。

既に孤児の子どもの数だけで二〇〇近くいるのだから。

面倒をみる女性の数が十数人であることを考えると、彼の仕事量も地獄の様相であろう。


幸い、コチラに協力してくれる子もいるらしいので、助かってはいる様子だったが。



「済まぬが、どうしようもない。……もはや、俺達にできるのは、如何に使える人手を増やすのかだけだ。子供達が使えるようになれば、少しずつマシになる………筈だ。」



希望だけは高く持ちたい。

俺はそう思っていた。




「………無茶振りでしかありませんが。なんとかいたしましょう。それに、最近では少しずつマシになっていますから、きっと、大丈夫でしょう。」



九郎の言葉が、希望でしかないことは察せられたが、どうしようもないのだ。

それに直ぐには使えない人材であるが、将来的には使えるようになるだけマシである。

前世では、農家をする前に、多くの苦労をさせられたのだ。

教育時間を取れるだけ、恵まれているのだから。




多数の流れてきた人手は、この納田終の地に、多くの変化をもたらしていくことになった。

良き面でも悪き面でも、である。



公家や商人、馬借、孤児・浮浪者、そして専任の職人に荒くれ者。

大手ではなく下位の人材ではあるが、それでも、新たに来た大勢の労働者によって、この納田終の地には様々な産業が立ち上っていくこととなる。

栽培を始めたばかりの蕎麦や、養蜂業、石灰石の採掘や材木業に植林産業、薬草の育成や水田の改良、工具や農具の生産、その他多くの仕事が巻き起こっていくこととなる。




ただ、その分だけ上層部の負担も大きくなっていった。

管理しきれない部分は、次第に納田終の地に争いの風を運んでくるだろう。



その先が如何なるものなのか、今の俺達には未だ分からぬままであった………



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◇新たな住民

・馬借:約15人

・行商人など:約10人

・公家一行:壬生家や清原家の反主流派。奉公人など含め、数十名。

・孤児:約70名

・浮浪者:約100名

・荒くれ者・野武士・浪人:約20名

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