第32話:移転しました
◇永正13年12月(西暦1,516年)
勝龍寺が焼けた後、京脱出の数日ほど前から簡易の天幕を多数作らせようとしていたのだが………。
着いた当初は、20の天幕、その枠しかなかった。
流石に、数日では場所決めも家の建設そのものも全く進まなかったのだろう。
結局、仲間達、259名と新たに加わった25名の284名で、建設を始めることとなった。
孤児達が多いメンバーだが、それでも仮の家作りは順調に進んで行った。
モデルとなったのは、単純なこの時代の天幕ではなく、モンゴルのゲルだ。
田蔵らに行った教育が、この使いやすい拠点作りに生かされたのだろう。
1日がかりではあったが、俺達は拠点を作り上げ、そのまま納田終での初日を終えることとなった。
やることは満載だが、今日は本当に疲れた……
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数日後、俺は松永久秀として、勝龍寺の影の代表となった。
表向きは、勝龍寺の執事の一人である。
今後の表向きの勝龍寺代表は、宗立となるのだ。
そうして、名目上の代表を決めた後、早速行ったのが、粟屋家と若狭武田家への謝罪と挨拶だ。
今回は、色々な事態が重なり、いきなりに大勢で押しかけてしまうことになった。
だからこそ、一度、勝龍寺の代表格が話に行く必要があったのだ。
若狭武田家の方は、50貫文の迷惑費とこちらで持っていた娯楽品であっさり済んだ。
だが、問題は粟屋氏……だったのだが、こちらもあっさり方がついてしまった……。
初年度は50貫文だと言っていた献金額を、初年度から250貫文支払うと言って、そのまま支払ってきたからだ。
いきなりに納田終の地に入り込むこととなったが、あちらは既に、まともに管理さえしていないらしく、ホクホク顔で受けとり終わった。
俺の顔見せも行ってはきたが、この顔見せが役に立つことがあるんだろうか?ないような気がする……。
「宗立。本当に武田の元信殿は英明な君主なのか?イマイチ、そのようには感じなかったんだが……。」
「それは……。若様が高望みし過ぎているのではないかと…。そこらの君主より遥かに優秀な人物ですよ、彼は。」
そんな宗立の言葉だったが、俺には信じられなかった。
土産がわりに持ってきた新作の交経格子や数独、新たに作らせていたオセロ版など、そういったものにばかり興味を示し、京の最新情報などには、何一つ興味を持たなかったからだ。
既に知っているから、俺たちから聞く必要がないのかな?とも思ったが、どうやら、眼線や反応から考えるに違うらしい。
そもそも、京での出来事を把握しているかどうかさえ、分からぬままだ。
「時間の無駄だったな」
「そうなのですか?武田家の当主殿は、優秀だと評判でありましたが……」
帰宅後、九郎と話し、二つの会談での様子を話していた。
「全くだ。正直、あれでは武田家も長くなかろう。どこに才能があるのかも分からなかったよ。粟屋についても同じだ。欲の皮は相当に突っ張っているようだが、中身が伴ってない。その内、うちの懐にも手を出してくるぞ?間違いなくな。」
「そうすると、こちらも戦力を持たねばなりませぬが……。」
戦力化には、何よりも人の数が必要だ。
武器や防具だけでは、勝てる戦も勝てない。
「あぁ。京だけでなく、小浜からも引き抜いて来るべきだな…。だが、表立っては無理だ。バレれば即やられてしまうぞ?」
「それはそうでしょうとも。……ですが、この納田終の地には山がありますからな。」
納田終を勝龍寺の名目で買い取ったのは、この為だといってもいい。
納田終は、京に近い割には、辺境と言っていい様相を見せた土地だ。
山からの収入も多いのだろうが、それはつまり山そのものに隠れ潜みやすいという特徴があるとも言える。
「うむ。山の奥地を開拓し、そこに秘密の里を作る。そうすれば、当家の力になろうよ。」
「ですが、その為には………」
「あぁ、食料だな。」
食料の増産こそが、最初に求められる内容だった。
この時代、人を養うのに必要なのは、一番に食料だ。
銭、金ではないんだよ。
「残りの銭は、如何程だ?」
「840貫文程ですな…。」
芳栄和尚の隠し資産は、1,400貫文ほどあったというのに、もうこれだけである。
引越し費用というのが、如何に金が掛かるのかが理解できるよな……。
急な引越しというのは、事前に計画を組んでいた場合と異なり、相手先への配慮さえいるのだ。
それを考えると、仕方ない部分もある……と思いたい。
「もう、それだけか……」
「主人さま。こんなにもあるのです。ここからですぞ?」
九郎の言う通り、こんなにもある、とは思いたい。
しかし、1,400貫文が、一月も経たない内に半分近い額がなくなっているんだぞ?!
そんなに安心できるか!
正直、いつかなくならないだろうか?とヒヤヒヤものなのだから。
「いや、安心などできん…。そもそも、新たに雇い入れた者らへの給金も、出さねばならんだろ?勝龍寺の僧侶への給金や食料も、だ。そこの辺りを洗い出さなければ、こっちとしても安心してなどいられんよ。」
俺の心境は、相当な焦りを持っていた。
勝龍寺を完全に手に入れ、借金も完済。
若狭での地盤さえ金で買い取って、心機一転、新たに始めた生活である。
だが、その内情はまだまだ安定しておらず、各自への給金や支給品などへの対策さえ済んでいないのが現状だった。
「とりあえず、九郎。俺とお前で給金の配分の検討だ。僧侶らへの給金をいくらにするかと、新たに雇い入れた者らへの給金なども、だ。支給品その他は、文官連中を入れてもいいだろうが、この給金そのものは、俺達だけで検討するしかない………」
「我らのみで…、でありますか……。確かに、他の者には、任せられぬことではありますが……。」
言葉で言うのは簡単でも、簡単には済まない仕事である。
そもそも、この時代の僧侶への適切な月給額などというものは存在しない。
というか、月給で支払われることなどない。
第一、銭そのものの供給さえ、今後どうするのかの目処も立っていない。
京にいた頃とは異なり、これからは大内家という銭の供給源がなくなるか、もしくは減る可能性が高いのだ。
今回の騒動で、大内家と細川管領家に大きな被害はない。
精々、数名か数十名が亡くなった程度だろう。それも、
雑兵を中心に、である。
この程度の被害で、大内や細川が揺らぐことはない。
だが、評判には大きく傷がついた。
これを覆そうと、大内や細川は動かなければならないのだ。
そして、やるならば西か南。
今の管領に従わない勢力を狙うだろう。
北の若狭という可能性もあるが、これまで手を出していないことだし、三好や細川澄元の方を叩かなければ安心できないだろう。
尼子という脅威も迫っている中、大内に取れる策は案外少ないのだ。
俺という異物があろうとも、歴史は未だ大きく変化はしていない。
だが、確かに少しずつではあるが確かに変化し始めていた。
「九郎!それじゃだめだ!高過ぎる。そんなんじゃ数年で銭が尽きるぞ?!」
「しかし、主人!最低でもこれくらいは支払わねば、宗立殿らが逃げ出してしまいまするぞ?!あまり低くはできませぬ!」
「だがな、金が尽きてしまっては仕様がないだろう!」
その日の議論は終わらず、結局数日は籠りきりで資産と議論を続ける羽目になったことは余談である。
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◆松永家資産(多聞丸の財布)
◇12月の移転後時点の資産
・現金111.86貫文(−333.14貫文)→→→現金843.74貫文(借金完済)
※・12月1日時点:133.74貫文
◇収入(11月分)
・切り蕎麦:21.2貫文
・灰持酒:11.3貫文
・火入り炭酒:42.3貫文
・竹炭:0.28貫文
・薬(三種類、2,000袋、稲荷側と折半):5貫文
◆追加臨時収入(12月)
・勝龍寺の焼け跡から掘り出した資金:1,417貫文(芳栄和尚 秘密資金)
◇支出(11月分)
・食費:22.5貫文
・給与:17.7貫文
・勝龍寺への献金:32.09貫文(11月分)
◆追加臨時支出(12月)
・武田元信への迷惑料支払:50貫文
・粟屋氏への初年度支払:250貫文
・向日神社への返済費:225貫文(これにて完済)
・向日神社への協力要請費用:50貫文
・逃走の際の支度費用:132貫文
◆雇用費追加分
・僧侶12名:各0.3貫文:合計3.6貫文
・新規雇用武人4名(母陣営):各0.3貫文:合計1.2貫文
・新規雇用女性32名(母派閥):各0.25貫文:合計8貫文
・新規雇用者商人7名(末端):各0.25貫文:合計1.75貫文
・新規雇用者孤児18名(京脱出時):各0.2貫文:合計3.6貫文
◆新拠点における雇用費改定(翌年より実施。)
※実際には、競争促進の為に細かく査定と給与改定やボーナスなどの要素があり、個人間での給与が大きく違う。
その為に、雇用費が大きく見えているが、この場においては総額と平均額での記述のみである。
・孤児浮浪者の雇用費194名:各0.2貫文:合計38.8貫文
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