第30話:大内は翻弄された
◇永正13年12月22日
西岡の国人衆を殺って回った後、最後の仕上げに大内家を爆破してからことを終える。
だが、そのタイミングが重要だ。
早過ぎれば、大内が変な形で動き出す恐れがある。
大内義興は優秀だ。
俺の思惑程度あっさり読み切って、何かしら仕掛けてくる可能性さえあるのだ。
だからこそ、タイミングを外すわけにはいかなかった。
「全員、立て!逃げるぞ!」
俺は、この祟り騒ぎを利用して、この西岡の地から、名田庄納田終の地へと転居する。
あちら側には既に人をやっている。
工事専任の者らが、急ぎで全員分の家を建て始めてくれている頃合いだろう。
「………」
全員が、無言のまま覚悟を決めてくれている。
結局、ウチの奉公人から逃げ出した者は出なかった。
今の時代、ここよりも優遇してくれる場所などないから、正解ではあると思う。
理由は分からないが。
「若様は、どうなさいますか?」
この男は、母に連れてこられた元林家の被官だ。
名を、得竹雲水。
幼少の頃、父親が林家の親族に不興を買い殺害され、その際、雲水も売られそうになっていた所を、久秀の母親静音によって救われたという過去を持つ。
俺のことを若様などと呼んで慕ってくれているが、コイツが主人として認めているのは、俺ではなく母上だ。
「殺ることがある。九郎!来い、行くぞ。」
「はっ」
俺は、集めた72頭の馬に荷を乗せさせて、一行を先に進ませる。
行き先は、宗立が分かっているのでお任せだ。
集まった194名の行軍が始まるのだ。
「止まるなよ!行け!」
女子供含む面々が、数日間歩き続けることになるのだ。
慣れていない者にとっては、かなり厳しい旅路になる。
余裕を持って、馬の数だけは揃えてある。
だからこそ、単なる難民集団よりは遥かに早いペースで移動はできるだろう。
「守りの戦力が足りんがな……」
俺は、そう呟きつつ、大内屋敷の方へと向かう。
その頃の大内家は、当主の指示で、昨日から警戒が続いていた。
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◇大内家 陣所
「しかし兄貴、本当に祟りなんでしょうか?」
一人の大内の警備兵が、隊長格の者にぼやき出す。
昨日から続く警戒警備に、疲れが出始めているのだ。
音だけは、昨日の日中にも大きく響いていたものの、こちらにはまるで影響がなく、「西岡だけに留まるのでは?」などという楽観論さえ出始めていたのだ。
西岡では、この世の終わりの如く民が騒ぎ出し、「近づく者を捕らえよ」という命のお陰で、幾人もの逮捕者が出ることになってたが。
「御屋形様が仰るには、魔や神によるものではないとのことらしいがな。誰ぞ、人がやっているのだろうと。」
「いやぁ、流石にそれはありませんて。御屋形様に逆らう訳じゃありやせんけど、聞いた話じゃ国人どもの屋敷が吹き飛んだって話じゃねーですか。そんなこと、人にできるとは、とてもじゃないが思えませんぜ?」
この兵士の言には一理あると、この組の長もそう思った。
だが、それでも御屋形様の判断は、いつも正しい。
今回もそうなのだろうと、この男は部下の話を聞きながら考えていた。
「もしかすると、俺達を宥める為かもしれんな。人の仕業って言っておけば、多少は安心できるだろ?」
だからこそ、この者はそのように部下に返した。
この者らにとって、屋敷が吹き飛ぶような事象は、どう考えても魔の者か神などの超常の存在による行いだったからだ。
「ははは、そりゃそうですね。大体、本当に人にんなことができるなら、とっとと阿呆どもを蹴散らしてほしいもんですよ。」
「おいおい、そりゃ言い過ぎだろ?管領様だって、そこまで悪い方じゃねぇ…はずだ。」
部下の阿呆どもという言葉に、あっさり管領様が…と言ってしまっているこの男の反応の方が言い過ぎである。
しかし、当時の大内兵にとっては、それが当たり前の評価であった。
管領、細川高国は身内贔屓が酷く、正当な評価を下せないことで有名で、佞臣の諫言を間に受けて臣下を処罰するなどを平気で行っていた。
そのため、翻意を持つ者も少なくなく、大内義興が居なければ、とっくに高国の政権は崩壊していただろう。
事実、義興が本国へと撤退した後、二年ほどで政権は崩壊している。
高国の最期は、身内による暗殺であったことが、その評価の低さを物語っているだろう。
───余談。
「兄貴、言っちゃってるじゃないですか。。俺っちは、管領様だなんて一言も言ってやせんぜ?」
「あ…しまった。」
はははははと笑いながら、小さな声で話し合う二人だったが、聞いている者がいない訳ではない。
「そういう話は、もっと人の少ない場所でやれ!」として、後々、二人は叱りつけられることとなる。
「……しっかし兄貴、暇ですねぇ…」
「暇だな。本当に、ここにも来るんだろうか?」
「さぁ?」と言いつつ、後々のことを知らない二人は、警備を続けている。
緊急で行われている警備である為に、うまくシフトが組まれていないのだ。
つまり、警備内容としては杜撰極まりない形である。
警備の合間に買い物に行き飯を食う者や、小用で抜け出す者などが後をたたなかった。
しかしそれでも、数の多さが現場を補っていたといえる。
だが、それは、久秀にとっては恰好の餌でしかなかった。
「兄貴……そろそろ、小用に行ってきやす。」
「そうか。なら、俺も行くかな?」
などと、話ながら門の方へと歩いていく二人だったが、突然、ドゴォォォォォン!!!という音が鳴り響き、彼らは目の前の門が吹き飛ぶ様を目撃することとなった。
「「……は?」」
二人に怪我はなかったが、門前にいた同僚四名が……いや、四名の同僚だった者が、足元から吹き飛ばされる様相を目撃した彼らは、目の前で起きたことが理解できなかった。
突然の大きな音に、耳や脳が麻痺させられていたともいうが、そのようなことを彼らは理解していない。
彼らに分かったことは、これが人智によるモノではないだろうという想いと、「天罰か祟りが、この地にも降り注ぎ始めたのだ」という彼らにとっての真実のみだった。
「……き、………にき、……………兄貴!!」
「お、おあう、おう、な、なんだ?」
爆破の大音で、耳が麻痺させられていた彼らは、しばらくしてから運良く聴覚を取り戻し、現状を語り合う。
「こ、これって、本当に人の技なんですか?あり得ねぇ…人にこんなこと出来っこないでしょう……。」
「あ、あぁ…。無理だ。祟り…なのか?」
「わ、分かりやせん……」
この時代に、爆弾や爆破という概念はない。
火薬や"てつはう"などといった物は、元寇の頃に使われた記録がある為、多少の知識を持つ者くらいはいるかもしれないが、一般兵にそのようなことが知られているはずもない。
彼らにとって、爆弾による爆発は、全てが"魔"か"祟り"、神罰によるものでしかなかった。
爆発によって、呆けている彼らを他所に、直撃を受けず、遠方で音を聞いただけの者らは、すぐにでも動き出した。
大内家の御屋形様へと報告に走る者、京から逃げ出すことを考える者、仲間と寄り添い合い守りを固めようとする者など、様々な動きを始めたのだ。
「ちっ!最初から仕掛けられていたのか…!……しかし、起こったのはいずれも外側……。やはり、人の手によるものだな。」
大内義興の予想は、正鵠を得ていた。
しかし、彼がその答え合わせをする機会は、永遠に来ない。
久秀は、既に京から逃げ出そうと、動き始めていたのだから………
「不審なモノが転がっておらんか、門前や壁の周辺を探せ!石ころ一つであれ、邸宅の周囲に寄せるな!いいな?!やれ!」
「ははっ!」
そうして、大内家の長い長い永正13年は始まった。
師走の言葉の意味を、彼は生涯で一番よく味わったのである。
「くそっ!してやられるとは……!!」
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◇人物紹介
・大内義興
大内家の名を全国区にした大大名。
亡命してきた前将軍足利義尹と連携し、京へと進出。
足利義澄を追い出し、1,508年から1,518年までの間、京にて政務を執り行っている。
大友と連携し、北九州の覇権を得るなど、謀略にも長けた優秀な人物。
支那との勘合貿易で、細川家と争っていたことでも、名が知られている。
・得竹雲水
元林家の被官。年齢:27歳。
林家の末の娘であった静音によって救われた過去を持つ。
静音の息子である久秀のことを"若様"と呼び、静音の次に敬愛している。
なお、妻と娘2人がいる模様。
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