第03話:執事って凄い地位だった
宣賢様との話がつき、光念が僕の側付きとなってから一年が過ぎた。
正直、この一年のことは何もなかったので然程語るこっちゃない。
あったことといえば、宣賢様からは合計で二貫が支払われたことと、僧侶や公卿達に顔つなぎをさせてくれたことくらいだな。
あ、あとは九郎と桜っていう孤児を引き込んだよ。
十歳くらいの浮浪児。
僕に関しては、これくらいだねー。
正直、面白みも何もない一年でしたわ。
公卿達との話?すげーつまらんぞ。
ただの自慢話を延々と聞かされ続けてるだけだからな。
松永家の嫡男だとは思われてるけど、それ以上じゃないしね。
だけど、ちょっとでもこの顔繋ぎが将来の役に立てばいいなーとか思いながらやったことは確かだよ。
まぁどうせ、数年もすれば顔も忘れられるだろうけど。
けど、一度でも顔合わせしたっていう事実が必要なんよね。
それがあるだけで、将来への布石になるわけ。
こんなつまらん…いや、くだらんことでもね。
九郎や桜との出会いの方がまだマシだったよ。
これも、適当な浮浪児の兄妹に握り飯をくれてやっただけなんだけどさ。
どっちも顔が整ってるから、隠さないとまずいんだけどね。
今は汚れてるから誰も手を出さないけど、整えたらかなりまずいことになりそう。
だからこそ、体を鍛えさせてるんだけどね。一緒に。
もう松永家を継ぐつもりもないけど、松永弾正久秀の名はもらっておこうと思ってる。
だって、やっぱり格好いいしね!
【戦国の梟雄 松永久秀】
これに勝る名は、斎藤道三しかないっしょ!
ギャル語になる程度には好きだしねー。
それに、あの父親は適当に始末するつもりだから、それを考えると乗っ取るっていうのもありか?
んー、悩むな。
こればかりは、今のままじゃどうしようもないよね。
あと、あの適当ばっかり言ってるだろう従者の方も片付けるか、そろそろ。
あの腐れ元従者の野郎、宣賢様にもご高説を垂れやがったんだよね。
宣賢様からリークされてバレたんだけどさ。
日頃から一緒にいる宣賢様に、松永家での話なんかしてもすぐバレるに決まってんだろうに何言ってんだあいつ。
馬鹿すぎる。
まぁ、僕が一緒にいることさえ知らなかったんだろうけど。
しかし、どうやら父上…、いや僕の製造元は、弟の方を当主にすると決めたらしい。
適当なところで始末されるだろうね。
だから、乗っ取るor逃げ出すの選択肢で悩んでるんだけど。
でも、当主始末したからって次の当主にいきなりなれるか?
無理だよなぁ…。
絶対に叔父とかが口出ししてくるだろうし、他の連中も、幼少の僕より大人の叔父達を選ぶだろうね…。
せめて、繋ぎが取れればいいんだけど、どうするかなー…。
そんな感じで悩み続けていたのが、宣賢様にクロスワードを売り込んでからの僕の一年だ。
ちなみに、松永家からの干渉はまだない。
でも、僕以外のこと、特にクロスワードの部分では大きな進展があった。
宣賢様に話を通してからのことを語ろう。
宣賢様は、僕の作ったクロスワードを読み解き、これは娯楽としても教育としても使えると確信したようだった。
僕が製作を頼んだこともあって、自分でいくつか作ったらしく、僕に監修を頼んできたんだよね。
そこから一〇〇くらい、小さいものから大きいものまでいくつも作り出してさ……
監修だけで良かったはずなのに、大変だったよ……。
まぁ、それはともかく。
これを宣賢様が上層部に持っていったんだけど、大いにウケたんだよね。
でも、問題だったことが一つ。
宣賢様、僕が作ったってことを隠してくれるって言ったんだけど、一部の執事っていう役職の僧侶さんには漏らしたってこと。
なんでも、「自分より上の役職の者が知っておいた方が、将来のためになる」ということだそう。
どういうこっちゃ?と思ってたんだけど、確かに役立ちそう。
勝龍寺の出納管理をやっているのが、この方なんだよね。
名前を、"芳栄様"
でも、この人めっっっっちゃ、厳しい人なんだよね……。
お金の管理がキッチリしてるていう点では、何よりも信用が置けるから、表裏一体なんだけどさ。
でも、この人が俺のことを知ってくれたおかげで、できることも増えた。
半年くらい前の冬には、心太を借り受けて、寒天を作ったんだよね。
これも、まぁまぁウケたんで、芳栄様には更に贔屓にされてるんだ。
これ以外にも、他に数独や百ます計算だったり、色々ストックはあるから、「寺の繁栄は約束されたようなものだな。」とまで言われたよね。
とはいえ、資本のない状態でできることなんて、このくらいなんだよなぁ……。
未だに、俺が当主から外される可能性が、重くのしかかっているわけで。
こればかりは、芳栄様でも難しいらしい。
当主が生きている限り、そこに介入するというのは困難だそうだ。
(…………生きている限りは、ね)
正直なところ、俺の言葉を尊重しない連中の上になんて立てやしない。
それが親族であったとしても同じだ。
こんな時代だ。
親族の方が、信用できないまである。
芳栄様の方が、俺の頭脳ともたらす利益で繋がっている分、信用しやすいんだよな。
当然、それを上回る不利益があれば、裏切られる可能性もあるんだけどさ。
そういうわけで、俺の立場はこの一年危ういままである。
今の所、殺されそうな様子はないけど、そのまま寺に放り込まれそうな雰囲気はバンバンしてるんだよなぁ…。
芳栄様や、宣賢様も、それを狙っている部分はありそうだし…、誰一人信用できない状況だよね、この件に関しては。
「さ、て。本当にどうしようかなぁ……。」
このまま、勝龍寺の坊主として、世の中を変革していく。
無理矢理にでも、松永家の当主となって天下統一。
商人にでも鞍替えして、織田家や徳川相手に商売していく。
「どれも微妙だな……。坊主になると、合議制だよなぁ…」
合議制では、僕の意見が反映されにくい。
それを考えると、手間暇かかるばかりでやりにくいんだよな。
商人にしたって同じだ。
結局取引先に左右されるし、土地の人間を使う名目が作りにくい。
利益で結びつく輩としか繋がれない、というのも欠点だろう。
「かといって、今のまま、松永家の当主になったところでな……」
今の松永家は、完全に反多聞丸と言ったところらしい。
宣賢様が、松永家の者と話す機会があったそうだが、僕の悪評が広まっているそうだ。
やってもいないことばかりが語られたそれが。
「……………あのク◯野郎、とっとと始末しておくべきだったか…。」
俺の側仕えだった無能が、俺の悪評を広めたんだそうだ。
宣賢様が、俺の優秀さをアピールしてくれたそうなんだが、欠片も受け入れられなかったそうだ。
俺のことを庇っているふうに見られているようだ。
最終的には、武家のことに絡むなとまで、遠回しに言われたらしい。
ク◯みたいな家である。
この時点で救いようがない。
弟たちだけでもこちらに引き込みたかったのだが、この調子では、アイツらも何か吹き込まれているかもしれない。
「まぁ、ガキの心くらいなんとでもなるか。大人に言われたからって、思い通りになるやつは少ないしな。」
子供っていうのは、大人の言うことに意味もなく反抗するものだ。
親元離れて育てられるここなら、俺のテリトリーだし、取り込むことは容易い。
あの屑も、適当なタイミングで始末してやる。
ここは、戦国時代なんだ。
人ひとり殺れないで、何が戦国武士だ。
「そういえば、もう一人、殺らなきゃいけない奴もいたな。」
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・主人公:多聞丸
将来の松永弾正久秀
現在の年齢は、一年過ぎたので七歳。
・宣賢様
勝龍寺の中堅僧侶
主人公のような稚児に対する教育を受け持つ。
年齢は30そこそこ。
・芳栄様
勝龍寺の執事(寺の役職)。
出納管理(寺の財布役)。
年齢は大体40〜50。
・光念
小僧(僧侶になるために入った子供)。
現在は、多聞丸に付く。
年齢は十歳。
・九郎
孤児、男、桜の兄。
年齢九歳。
・桜
孤児、女、九郎の妹。
年齢五歳。
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