第28話:集まってみた
◇勝龍寺跡地
勝龍寺跡地には、多数の者達が集まっていた。
既に、大内や細川管領の陣所には、寺の再建名目で届出をしている。
届出とは言っても、この時代だと、書類を書いて出すようなそんな役所仕事的なものではないが。
既に、葬儀を終え、座棺の埋葬に入っている。
流石にこれだけの集団で警戒していれば、西岡の国人らも襲撃してくることはないようだ。
今の所は、買い集めてきた資材を使い、周囲に簡易の宿泊設備と砦となる障害を作ることに腐心している。
少なくとも、一両日で全てを行える訳ではないからだ。
西岡の国人らが襲撃者である可能性が高いとはいえ、そのようなことを大っぴらにできるはずもない。
今回行った葬儀も、向日神社を迎え入れてまで行いはしたが、あくまで牽制である。
「これ以上やれば、向日神社も敵に回すぞ?」というアピールなのだ。
あちらも、複数の寺社を全て敵に回して、西岡の地から寺社を無くそうとするまではいっていない様子だ。
だからこそ、こちらも安心して居れる訳だが、正規のルートで入り込もうとしてくる連中には、同じく正規の対応をしなければならないというのが難点だ。
「ですから、叔父上。我らは、勝龍寺の再建に手を貸さねばならんのです。そもそも、今は亡き芳栄和尚との間に結ばれた契約で、勝龍寺の僧達がこちらに文官として手を貸してくれておったのですよ?それを勝龍寺が焼けたからと言って、全てを足蹴にして蹴散らすと?そうなれば、松永家の評判はどうなります?!信義なき者など、他の西岡国人らからも、あっという間に切られますぞ!それでよろしいというのか!叔父上は!切りたいというのであらば、叔父上ひとりが離れれば宜かろう!!陣代如きが、松永家を潰そうとするでないわ!!!」
こういうふうに陣代の叔父が俺に会いにきたなると、俺自身、会わざるを得ないのだ。
そして、今回俺は、勝龍寺の僧侶らと向日神社の神主である六人部様らの後ろ盾の下、元服することとなった。
烏帽子親も六人部の方から出ている……のだが、俺は名前も知らない。
今後も、会うことはないかもな。
神主殿の父親にあたる方らしい。
恐らくは、六人部の先代当主殿だ。
「ふぅ……」
元服を終え、烏帽子親となってくれた六人部の先代当主殿に感謝を述べた後、ぼく…じゃなかった俺は、叔父上を勝龍寺に呼び出し、陣代の地位を返還するように伝えたのだ。
そうすると返ってきたのが、元服し、大人になった俺に対して、屋敷に帰るようにという命令と勝龍寺とは手を切れという指示をしてきた、というわけだ。
勘違いも甚だしい。
こちらは既に元服しているというのに、そのことさえ理解していないのだ。
未だ子供のように思っているのだろう。阿呆の極みである。
今の松永家には、俺の配下以外だとこのような連中しかいないのだから泣けてくる……。
史実の松永久秀が、三好の配下となり苦労した事が伺えるというものだ。
その苦労には、涙しか出ない。
「………はぁ…。」
「主人さま、本当にお疲れ様です。」
「九郎か……。しかし、あのような者が、本当に俺と同じ血縁にあるとはな……。嘆かわしくなるわ。本当に、血というのは優秀さを保証するものではないな。あそこまで愚劣な者ばかりなのだから泣けてくる……。未だに俺のことを普通の子供として扱おうとするとは、いったいこれまで何を見ていたのか……。」
これまでの付き合いだけでも、十分に理解できるはずだし、そもそもそれ以前からも勝龍寺の者から話くらいは幾度となく聞いていたはず。にも関わらず、俺をただの子供として扱おうとするのだから、呆れ返るより他にできないよ、全く。
「しかし、これで松永の他の者らとは決別することになるます。よろしいのですね?」
九郎が、最後の決意を問うてくる。
「問題ないよ。あとは、母上と弟だが……。来るかな?どう思う?」
母上と弟には、既にこの京を去る旨は伝えてある。
彼らなら裏切らないと考えたからだ。
いや、裏切れない、かな?
母上は、林家の出だが、俺の後ろ盾なしに家に帰れるかというと、怪しいものだ。
実家との関係はあまり良いものではなかったようだし。
弟については、わからない。
だが、そもそもがまだ5つほどの歳だ。
自分だけでは判断一つできないだろう。
「全ては、御方様のおこころひとつでありましょう。流石に予想までは……。」
「だよな……。」
九郎も、母上とは関係が薄く、判断材料が少ないのだろう。
母上には、桜を付けてあるから、連絡するには困らないはずだが、これまでが忙しすぎ、九郎も桜が苦労せずに生きているというだけで満足だったようだ。
外から見守る程度はしていたらしいが、話そのものはあまりしていないらしい。
「桜はどうなんだ?来るんだろ?」
「……さぁ、どうなるのでしょうか。」
「おいおい、兄として話もしてないのか?」
「しましたよ!ですが…、桜の奴、兄上に言われるまでもない!放っておいて!って激昂しまして…。言われるまでもっていうのが、どういうことなのかさえ、教えてはもらえませんでした……。」
「言われるまでもない」か…。
なんとでも言えてしまう言葉だ。
桜自身がどう判断するかは、桜次第ということになる。
「はぁ……。不確定要素が多過ぎるなぁ…。なんて計画だ。俺の思慮の浅さが嫌になる。もっと俺の頭が良ければ、すごい計画なりがくめたんだろうか…」
「主人さまは、十分以上に賢い賢者でしょう。これ以上となれば、神仏の領域。宗立さまの仰られていた虚空なんとか菩薩さまにでも頼まねばならぬでしょうね。」
九郎は、慰めなのだろうが、そう言って俺を励ましてくれた。
九郎自身、桜が付いてきてくれなかったことで落ち込んでいるようだ。
「まぁ、こんなことを悩んでいても仕方ない。あとは、彼らの判断と行動次第だ。俺たちにできることはない…。それより、"石"の配備はできているのか?流石に、細やかな場所がどうなっているのかまでは、俺にも把握できんぞ?」
最後は桜や母上達が、自分で判断するしかないのだ。
一緒に来なかったとなれば、それを元に判断するしかない。
「……ですね…。主人さまの用意された"63個の石"については、各所に配置させております。今も孤児達が働いてくれているはずです。」
「そうか…。あとは、彼らが人攫いに捕まらぬように願うのみだな。」
「はい…。しかし、いずれにも武器は持たせてありますし、その使い方も教え込んでおります。街の道についてもこれまでの間に叩き込んでおりますし、逃げる程度はできるでしょう。いざとなれば、"石"を持ち帰るようにも伝えておりますから。」
「こんな任務より、アイツらの命の方が大事だ。正直、いざとなれば投げつけてやれば良いしな。それに捨てたなら捨てたでもいい。そのことで怒ってやるなよ?」
「ふふふ、分かっております。本当に、主人さまはお優しいですな。」
九郎は、俺を揶揄うようにそう言った。
「やめろ、揶揄うな。俺は別に、優しくなどない。死なれては、これまでの投資が無駄になるから、そう言っているだけだ。他意などない!」
実際に、優しさの発露ではなく、本当に他意などなかったのだが、九郎にはそうは映らなかったようだ。
「はいはい、分かっておりますよ。」
「ったく…、分かればいいんだ。」
明らかに分かっていない様子だったが、これ以上は言っても無駄だろうと止めた。
しばらくして、周囲を警戒していた者らが騒めき出す。
「若様!」
「何があった?!」
警備の者が、こちらへと報告に来る。
「はっ!それが、若様の母君らが、こちらへと入りたいと言い、外の者と揉めておる様子にございます。」
「母上が?本人なのだな?確認ができたのなら、すぐ入れろ!……いや待て、九郎!確認に行ってくれぬか?」
九郎ならば、母上本人とも面識があり、母上のそばにいる者とも親しい。
確認ならすぐに出来るだろうと考えたのだ。
「はっ!直ちに!」
九郎とともに、報告に来た警備兵が、足早に母上の元へと向かっていった。
さらに時が経ち……
母上が、側仕えの桜と共に、ぼ……俺の前に現れた。
40人程の団体で……
「は、母上。その者らは、一体……?」
母上の連れてきた者は、男子4名の女子32名(桜含む)だそうだ。
俺は、あまりの数に慄きつつ、その者らがどんな立場の者なのかを問うていた。
「あまり、怯えるものではありませんよ多聞丸。……いえ、元服したのでしたね。今の名はなんと?」
「松永久秀、仮名は彦六でお願いいたします。母上。」
「そう、彦六。なら、この子達は貴方に預けます。私の身柄も。貴方が全て使いなさい。」
母上に名乗りをあげるが、その返答は母上を含めた全員を受け入れろとのことだった。
自分の手駒として使え、と。
「母上…?え、と、そもそもこの者らはどのような者なのです?多少なりとも情報が欲しい。まずは、お教えください。」
「あぁ、そうね。でも、難しいことはないわ。単に、昔から私が拾い上げて守ってきた子達よ。字も書けるし、書も読める。男の子の方は、武芸もできたはず。元々は林家の被官だったし。」
「林の……?」
母上は、自分の実家である林家から引き抜いてきた人材を使っているらしい。
いや、正確には拾ってきたとのことだから、無碍に扱われていたか、取り潰しに合いそうだった者だとかその辺だろう。
「……分かりました。なら、俺の下で働いてもらう。お主らも了承せよ。」
「「「「はっ」」」」
お互いの陣の者らが、返事を返し、場が収まった。
新たに手駒が増えた。
あとは…………
「仕込みがどうなるか、だな……」
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◇人物紹介
・多聞丸改め、"松永久秀":仮名 彦六
六人部の先代当主を烏帽子親として、元服した主人公。
仮名は、彦六。本来なら親しい間同士で使われる名前だが、分かりづらいので母と子の会話でのみ使用。
主人公は、元服を機に、一人称を僕から俺へと改めている。
強く見せなければならないと、小細工を積み重ねようと必死。
今は何より、強そうな当主こそが望まれていると考えている。
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