第26話:運搬計画を考えてみた
◇永正13年12月
僕らは、勝龍寺の焼け跡から戻ってすぐ、首脳部と言えるメンバー全員を集めて、今後について協議した。
何より、見つけた財産の運搬について。
「で、結局何があったのです?いきなり全員を集めるなど……」
僧のひとりである厳念が、焼け跡となった勝龍寺から戻ってすぐに集められたことへ、苦言を呈してきた。
だが、こればかりは需要事項だ。
「実は、芳栄和尚の隠しておった財貨が、未だ勝龍寺内にあったのだ。」
僕の一言は、厳念を黙らせるには十分なものだったようだ。
だが、その財貨の量は、そう簡単に運び出せるようなも量ではない。
「財貨、ですか。芳栄和尚がとなりますと、相当な量なのでしょうな……」
「そればかりは分からん。上から見ただけで、後はすぐさま戻したゆえな。」
共に確認した豪盛も、その発見に同意した。
はっきり言って、芳栄和尚の残した勝龍寺の財貨となれば、下手すると1,000貫文を超えている可能性さえあったのだ。
こればかりは、容易く広められる内容ではない。
「もはや、捨ててしまえば如何です?賊らも、中に入り込んだ我らを見張っておったのではありませぬか?」
厳念からすれば、芳栄和尚に対しての想いもなければ、その彼が残した不浄の財貨など、手に取ろうとさえ思わなかった。
厳念は、金銭に関しては潔癖な所があり、芳栄和尚のやりようにいつも不満に感じていたのだ。
「そういうわけにもいかぬ。財貨云々以前に、推察できる額が額だ。それらが、そこいらの賊や高国の手に渡ってみろ?どういうことになると思うておる。それに、他の寺社にも示しがつかぬ。ただでさえ、あの芳栄和尚の行いによって下がった評判をさらに下げることにも繋がりかねん。我らの今後にも響くのだ。」
宗立の言は、この場に集まった僧たちにも響く。
全くもってその通りであり、これが狙って行ったことであるなら段取りのつけようもあったのだが、今回ばかりはそうではない。
西岡の国人衆が、どこまで絡んでいるのかさえ分かってはいないのだ。
中小路だけは黒に近い灰色であるが、他の西岡国人が白だとは限らないのである。
「そうじゃな……」
この場に集まった若手僧侶らにとっては、人生はこれからなのだ。
まだ20代やそれ以前の者だっている。
芳栄和尚の行いのせいで、自身の未来を閉ざすようなことだけはしたくなかった。
「だから、秘密裏に運び出す方法を考えねばならんのだ。西岡の者に見つからぬようにな。」
だが、一番の問題は、見つからないようにということだった。
そもそも、警護があったのに襲撃されたというのが問題なのだ。
だからこそ、どこまで敵の手が広いのかが分からない。
勝龍寺の僧侶だけで行けば、それだけで襲われる危険性もあった。
「待て。本当に見つからぬ必要があるのか?見つかっても良いのではなかろうか?」
だから、厳念のこの発言には、皆が皆驚きを隠せなかった。
「馬鹿な!今の状況を分かっていっておるのか、厳念!」
「もちろんだ。だが、見つからぬように、など、得てして不可能だ。ならば、見つかった上で、問題なきように動けば良いのだ。」
どうやら、厳念には考えがあるらしい。
自暴自棄の方策でもない様子だった。
「………自棄ではないのだな?」
「当たり前だ。大体、己の自棄の為にお主らの命まで張れるかよ。」
厳念は、カッコよくそう言い放った。
だが、この男、天性の苦労性であるのと同時に、天性の博徒である。
僧侶のくせに、賭け事の好きなその性格から、イマイチその辺り信用されていなかった。
「…………お主が言うのでなければ、もっと信用がおけるのだがな…。」
だから宗立も、厳念の言葉には顔を顰める他なかったのだ。
それでも、最後には頷いたのであるが。
「で、その方法とはなんだ。言ってみろ。」
宗立は、これ以上この男に主導権を握らせると、何を言い出すか分からないとみて、そのまま話を促してゆく。
本来なら、多聞丸のすべきことであるが、仲間内であるし今回は仕方ないだろう。
「簡単よ。我らは勝龍寺の生き残りだ。だからこそ、亡くなった者を弔う義務がある。大々的に勝龍寺で葬儀を行い、それに紛れて、財貨を輸送するのよ。」
厳念の提案した方法は、確かに有効に思えた。
ただ、その実現性を除けば、であるが。
「戯け。そのようなこと、できるものかよ。西岡衆の誰が味方なのかも分からんのだぞ?そもそも、我らが運び出す財貨を見て、掌を返すような輩も出るかもしれん。いや、間違いなく出る。そんな状況下で、葬儀も輸送もできるものかよ。無理だ無理。」
宗立は、賭け事好きな厳念のことがあまり好きではないらしく、いつも以上に拒絶感が強い。
そうして厳念の発案が、波に消えようとしていたその時。
九郎が、横から発言する。
「少しお待ちください。その案、捨てるには早いでしょう。」
九郎の言葉に、全員の視線が集まった。
「何?捨てるに早いとは如何なことか?」
「我らだけでは、その葬儀を行うことが困難。それだけのこと。西岡の脅威を訴え、向日神社や伏見稲荷大社に協力を求められては如何でしょうか?」
その案は、一人でダメなら二人以上でやればいいでしょ?という、単純に守り手の数を増やす行為だった。
だが、方法として悪くはない。
向日神社の戦力も、伏見稲荷大社の戦力も、西岡衆のそれに比すと塵も同じだと言うことを考えなければ、だが。
「だが、戦力としては、ないも同じだ。そもそも、向日神社の守り手は、当社と同じく西岡の衆ではないか。結局、西岡の衆を呼ぶのであれば同じことだぞ?」
直接呼ぶか、間接的に呼ぶかしか違いがない。
宗立はそう言った。
「いいえ、違いますよ。向日神社という仲介役が挟まることで、現金で片をつけられる可能性が出てくるのです。幾許かの費用を渡すことは諦めねばならぬでしょう。しかし、全てを明け渡す必要はなくなります。」
「つまり、西岡衆と和睦すると?銭でもってか?」
「馬鹿な……」
それは、勝龍寺の敗北宣言であった。
西岡衆の横暴を認め、銭の力で解決しようという案だったのである。
「ですが、それ以外にございますか?今の我らは極々少数。それに、戦して勝ったとして、何が得られると言うのですか?………何も、何も得られません。我らはこれを機に、この地を離れ、宗立殿が用意していた、納田終の地へと越して行きましょう。本来なら、もっと先のことにする予定でしたが、致し方ありません。」
本当なら、来年の中頃までは先延ばしする予定だったのだ。
それが、半年以上の前倒しである。
「準備だと?このことを読んでいたと!」
何人かの僧が、この事態を招いたのはお前らではないのか?!と憤りの声をあげ始めた。
「違う。そもそも、今回のことが何故起きたと思うておる?それはの、芳栄和尚のやりすぎによるものぞ。お主らも知っておろうが、あの方のやりようを。」
豪盛は、この移住話を聞いていなかったにも関わらず、そう話し始めた。
彼は、一切の情報もないままに、この移住話の裏側を察していたのだ。
「そ、それは……」「その……」
憤りの声をあげた者も、芳栄和尚のやりすぎ、と言われてしまうと反論もできなかった。
そもそも数年前から、和尚は金銭への執着度合いが増し、金を稼ぐことが人生とばかりに、勝龍寺の名で無法を繰り返していたのだ。
30名ほどしか居らぬはずの勝龍寺から、12名もの若手僧が来ることになったのも、その雇用費を松永家の収支から出すように契約されていたためだ。
彼らは、松永家の本来の収入である税収から給与を割り当てられているために、多聞丸の資本には載せられていない。
だが、確かに、松永家の資産から、彼らの給与は支払われていたことに違いはないのだ。
「予想できていた、といえばその通りとしか言えぬ。だが、それをなんとかしようとしていたということも、理解してくれると嬉しい。」
最後は、宗立の言葉で締められ、憤った者らも納得してくれたようであった。
「では、向日神社へと使者を。今回、僕ではダメだ。僕は形の上では部外者となる。だから、豪盛。君が交渉してまとめてきてくれ。」
「畏まりました。」
勝龍寺からの運搬劇。
その第一歩が始まった。
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◇人物紹介
・厳念
賭け事好きな苦労人。
それでいて、不浄な金が嫌いなのだという変人。
彼の嫌うのは、道理に合わない財貨である。
賭け事が好きではあるが、大負けしたことがなく、引き時を知っている男。
ただ、どんなものでも賭ける様から、周囲の信用は高くない。
しかし、いざという時には頼れる男だとして、身内からは重宝されている。
他人のことを漏らさないので、様々な相談事を持ち込む者も多い。
数字に煩い所もあったりする。
一言では語れない人間であることは間違いない。
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