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ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
京:西岡編

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第23話:粟屋氏と話をした

◆宗立side

名田庄納田終のたおい


粟屋氏の代官屋敷にまで辿り着いた私たちは、名を名乗り、挨拶を行うとそのまま屋敷内の一室へと通された。

どうやら、粟屋の当主がここに来ているのだという。

粟屋の本拠点は、本来、小浜や美浜町の辺りという若狭東側だ。


代官として、徳大寺から押領したこの領地は、粟屋氏の収入源の一つでしかない。

だが、その収入源が、今回、主人の武田氏によって売り払われたと聞き、わざわざ この地まで出向いて来たようであった。



そして、挨拶もそこそこに、粟屋右京亮元隆との"話し合い"が、始まった。


「勝龍寺とは、何処の寺であるのか?」


「は、京は西岡の古くからある寺にございます。西岡の地では、長くの間、共に繁栄を致してまいりました。」


「ほぉ?だとすれば、なぜこの地に?西岡の地でゆるりとしておれば良いと思うが。」



粟屋としては、治部少輔(武田元信)との約定があろうと、この地の領有を認めるつもりなどなかった。

だが、一方的に断ってしまっては、治部少輔元信との関係にヒビが入り、謀反の疑いを掛けられかねない。

そのようなことにはしたくなかったのだ。


だからこそ、わざわざ他人に任せず、自身で赴くことになったのだ。



「はい、その通りにございます。しかしながら、そうも言うてられぬことも有得ます。」


「なんだ?何があって、ここへ来たと?」


「管領様にございます。かの方は、寺社に対し、いささか以上にお厳しい。かの名高き大山崎でさえ、その圧力により苦しんでおりまする。ひいては、それより劣る我ら勝龍寺では、瞬く間に消し飛んでしまうのではと、恐れたためにございます。」



宗立は、細川高国と武田元信との関係性が悪いことは知っていた。

だからこそ、粟屋との会話でも、その前提で現管領を悪様に語っていた。


「ふむ。(つまり、己らの稼ぎをここへと逃がしたいというわけか……。それならば、対価次第で受け入れても良いかもしれんな)だが、ここは今となっては俺の領地。そう簡単に呉れてやるというわけにもいかぬ。俺にも面目というものがあるでの。」



粟屋元隆は、勝龍寺の願いが、自分らの収入を細川高国から隠すことだと瞬時に悟った。

以前にも、徳大寺や徳善寺からのアガリを奪った経験のある元隆としては、寺の収入というものが相当にいいものであることを知っていたのだ。

だからこそ、最初は多少の損を被っても、それが根刮ぎ奪えるならば悪くないのではないか?と考えたのだ。



「なるほど……。でしたなら、初年度の今年には、まず50貫文でいかがでしょう?これが、今年度、いえ翌年分となります。そして、さらに翌年、永正15年の1月には、150貫文。さらに翌年の16年には、200貫文というのは如何でしょう?それ以降は、毎年200貫文を継続してお支払いする、という形では?」



初年度と次年度は、どうしても収益が低くなってしまう。

だからこそ、そこでは大きく出費したくない。

勝龍寺側のそういった心理について、粟屋元隆はすぐ理解できた。

それに、自分としても、いきなり200払うと言われたところで、継続して支払えるのかどうかは気になっていた。


勝龍寺というのは、京の南西部にある寺社であるらしいし、西岡とやらとの繋がりが途絶えた場合に、収入が下がる可能性もあったからだ。



「(こ奴らがどこまで見ておるのか知らぬが、この条件なら、多少は譲っても良いかもしれんな……)そこまでも申されるとあらば、この右京亮としても、配慮せざるをえますまい。勝龍寺の建設を認めましょうぞ。ただし、土地に関してはある程度こちらで決めさせていただく。それと、山の産物には手を出さぬようしていただきたい。あれも、当家にとり、大事なものですからな。」


「む…。(宗立殿。それはいかん。山の権利についても幾許か認めてもらうようにしていただけるよう、交渉してくだされ。)」



側にいた田蔵が、宗立へ向けて、小さく助言する。

田蔵は、松永家の工夫こうふとして働く傍ら、松永家の事業についても少し知識を取り入れていたのだ。

だからこそのファインプレーであった。



「右京亮殿。そこは、多少曲げていただく訳にはいかぬだろうか?勝龍寺の生業の一つに、山での薬草作りなどもあるのだ。炭焼きなどもな。山を使うてはならぬとなれば、その辺りにも支障が出てしまう。」


「…………ならば、今少しの支援はもらえぬものだろうか?」



粟屋元隆は、さらに欲深く突っ込んでくる。

元々、納田終の年間収益など、150貫文と少しだ。

好調な時には、200貫文を超えることもあるが、ほとんどの場合が150貫文ほどである。

それも、田畑の収入と山林の収入、双方を合わせての金額だ。


田畑のみで200貫文というのは、相当にぼっている計算になる。



「………初年度は50貫文。これは動かせぬ……。しかし、次年度以降の額は、200貫文と250貫文に上げよう。それで如何か。」



宗立は、苦しそうな表情を浮かばせながら、粟屋元隆へと言葉を絞り出した。

元隆の方は、ニヤニヤと笑いながらこちらの絞り出す言葉を待っている状況だ。



「いいでしょう。それでは、250貫文で成立ですな!いやぁ、勝龍寺の方々とはいい酒が飲めそうだ。今後とも、よろしく頼みまするぞ?」


粟屋は、調子よくそのように語って聞かせた。

だが、田蔵と宗立、その二人の表情は暗いままだ。

無理矢理笑顔を浮かべてはいるが、帰ってから、このことを説明しなければならないという事態に、心を軋ませていたのだ。



その後、多少の宴会の後に、粟屋元隆は居城へと帰っていった。

納田終の土地については、粟屋家の代官へと委ねられ、田蔵は、どこにどんな建物を建てていこうかと、知恵を巡らせることに集中することとなる。


宗立は、この日あったことを書状にまとめ、多聞丸へと行う、苦しい報告を書き上げていた。



「くそっ!粟屋……粟屋、元隆……!!!」


悔しさと怒りで、宗立の表情は濁っていた。

だが、一介の僧侶程度には、それくらいしかやれることはない。

宗立にできるのは、できる限りの情報を多聞丸へと送ること、それだけであったのだ。



────────────────────────────



◆田蔵side


土地の選定には、様々な要素がある。

田蔵は、いわゆる大工として、多聞丸からは雇われている。

しかし、田蔵は、彼自身が自覚する以上に優秀であった。


今回の旅で宗立と組まされた理由には、彼のその能力こそがあったのだ。

でもなければ、粟屋の当主との会談の場に、彼のような浮浪者上がりが立ち会うことなど、できようはずがなかった。

今回に限っては、そもそも、勝龍寺の思惑によって来ているわけではないし、宗立の付き添いや補佐として立会いが許されていたのだ。



そんな、田蔵の見たところ。

この土地は、最初に宗立より聞いていた話とは異なり、大徳寺の色など既にどこにもなかった。

残るのは、粟屋家の色と土御門家の色のみだ。


特に、土御門家は、本拠をこちらに構えているようで、いささか近寄りがたい雰囲気がある。

そんな中で出歩いていると、見咎められそうで多少恐ろしい。


だが、単純に土地としてみると、南川が中央を流れ、田畑の状態も悪くない。

山林も多く、自分たちにやれることは多そうだと思わせた。



それと、上荘下荘の話というのは、どうやら名田庄全体のことらしい。

納田終に限っては、完全に土御門様のご領地だ。と地元の住民は言っていた。

俺達は、そんなところに越してくるのか……。と、多少気後れしてしまう。



公卿などとは関わったこともなく、俺が想像するのは、馬に乗る武士ばかりだ。

公卿というのも、その手の偉そうな輩なのだろう。と、そう思っていた。



「お、寺がある。」



土地を見定めようとウロウロしていると、寺が見えてきた。

話を聞いてみると、曹洞宗の寺だそうだ。


正直、建てるならここがいいな。と思っていた土地だったので、一通り周囲を散策してみる。

たまに、百姓連中から見咎められるが、その度に、「ここを購入した勝龍寺の者だ。粟屋殿と話は済んでおる。報告しても良いが、しっかりと勝龍寺の者だと言っていたと伝えい。」と言って回っていた。



百姓からの報告で、稀に武士のような輩も来たが、事情は聞かされているらしく、軽く注意だけして去っていった。

どうやら、粟屋氏というのは、なかなかにできる武士らしい。

下にまで話をやる者というのは、それほどいないからな。


そのまま西へと歩いていくと、田畑が多くあるのが見えて来た。

どうやら、ここが農地らしい。


さらにその先に、農夫らが暮らす家々が見えてくる。



「……この辺りにするか。」



色々見定めながら歩き、最後に決めたのはその場所だった。

そこに、多聞丸様の居城を建てよう。


俺はそう決めたのだ。



誰に言われるまでもなく、俺自身の心に。

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