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ボマー松永久秀の投資戦略  作者: 斎藤 恋
京:西岡編

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第20話:若狭武田の元信様と会った

◇永正13年9月


資金は着実に貯まってきている。

伏見経由で行わせている領地購入交渉も、順調だそうだ。

伏見稲荷大社の名は、若狭でも好評らしい。


若狭武田の現当主もそうだが、何より、音海地方の気比神社分社の反応がいいらしい。

伏見が、僕を遠ざけたいと、一役買っているのだそうだ。

「そこまで嫌われているか……」とも思ってしまうが、当然でもある。

あちらの神社内にまで赴いて、何人もの神人を殺害して回ったのだから。


むしろ、今のように僕を殺さずに放置している方があり得ない対応だ。

まぁ……、僕を国人領主家の当主でなく、一個人にしてしまう方が恐ろしい、と感じているのかもしれないが。



「何はともあれ、若狭土地確保は順調のようだな。宗立からも"10月には交渉がまとまるだろう"と手紙が来ているよ。」


「それは宜しかったですね。我が家にとって朗報です。」



九郎とともに、白湯を飲みながら話を進める。

最近では、執務室でこうやって、九郎と共に白湯を飲みつつ話し合うのが定番となっている。



「では、次は如何なさいますか?工事要員として雇い入れた者にも、色々と技能習得の為になにやら行わせていると聞きますが、流石に限界ではありませんでしょうか?」


僕は今、手の空いている者達に、文字を教え、数字を教え、技能そのものを教えるなど、配下に様々な教育を施していた。


「まぁ、まだまだお教えられることはあるけどね。九郎の言う通り、何も仕事させないままこうして無為に過ごさせていると言うのは問題だろうね。だが、一応、水田の方の作業も手伝わせているし、無駄ではないよ?」



モデル水田の方は、ボチボチと作業を進めさせている。

音海に移住する以上、将来的には放棄する可能性が高いような気もしているが、それでも、ここで培った技能は無駄にならないだろうと確信もしているのだ。



「言葉の上ではその通りですが……」


「帳簿の上では単なる無駄、かい?」


実際、何貫文モノ費用を、何十人もの労働者に支払っているだけで、この者達は何も成果を上げていないのだ。

それは九郎の言う通りでもあった。


「今はいいよ。それに、武田との交渉が片付けば、一気に忙しくなるんだ。今は休息の時だと弁えて貰えばいい。」


「高浜……でしたかな?」


「多分ね。こればかりは分からないよ。一応、音海のような辺境がいいとは伝えたんだけどね。交渉役は宗立だ。それに、羽倉が干渉してくる恐れだってある。それを考えると、なんとも言えないね。」



他者に交渉を一任すると言うのは、結果を予想できないと言うことでもある。

勝龍寺の宗立は、こちらの意図を汲んで動いてくれるだろうが、若狭武田家への伝手として頼み込んだ羽倉家が、どのような思惑で絡んでくるか分からないのだ。



交渉の結果は、未だこちらに伝わらぬままであった。




────────────────────────────



◇若狭武田家



「して?京に名高き稲荷大社の者が、ワシのような者に会いに来たのだ?」



若狭の大名、武田元信と伏見稲荷大社代表、羽倉延任が会談を始めていた。


「いえいえ、ご謙遜を。京の市井の者でさえ、若さの大名である武田様とお会いしたいと願うもの。私のような信仰に身を捧げる者であれば、なおのこと、雅を忘れぬ武田様のことに会いたいと願うものでありますよ。」



「ふん。京の者は口がうまいの。しかし、管領のこともあろうに、本当に良くもまあ容易く会いにくるものよ。恐ろしくはないのか?お主らは、ワシのように武を持たぬであろう?」



元信の言葉は、羽倉の、稲荷大社の真意を探っていた。



「それですよ。」


「それ、とはなんだ?」



羽倉は、そのまま話を進めていく。


「管領のことです。あの方々が、随分と無茶をなさっておりまして当社とうやしろでも、手をこまねいている次第なのです。」


「ほぉ?初耳だな。伏見ほどの大神宮が、管領を恐れるのか。」


「えぇえぇ、恐れますとも。……かつての様に、またしても本宮を焼かれるなぞ、あってはならぬことゆえ…。」



応仁の乱の頃、伏見稲荷大社は本殿を焼かれ、その復興の為、全国へと所属神人を勧進へと赴かせたのだ。

その過程で、東羽倉家の延任の父も名上げることになったのだが、それ以上に、大社を焼かれる恐れのあることには、極めて慎重になっていたのだ。



「だとすれば、なおのことよ。こんな所にまで来て、管領めに目をつけられていてはいかんだろうに。」


「いえいえ、その様なことはありませぬよ。そもそも、今となっては大内様にも恩を売れておりますし、多少のことでは、問題となりません。」



羽倉は、自身ありげにそう言い切った。

ここに入り込むのも、この地へと来るのにさえも気を使い、隠れ潜んでくることくらいは造作もないのだ。

それができる程度には、伏見の勧進の力は大きかった。



「そうなのか…。で、なら今日はなんのようだ?」


純粋な疑問でもって、元信は尋ねる。



「は、それがですな…。今回、願いを申すのは私ではなく、こちらの勝龍寺の者なのです。」


羽倉がそう言うと、勝龍寺から来た僧 宗立は、元信の前に座り挨拶した。


「主が勝龍寺の者だと?勝龍寺といえば……」


「京は西岡、京の西の入り口にある真言宗の寺にございます。この度はこうしてお会い頂き誠にありがたく存じまする。」


「良い。して、勝龍寺の者とやらが、なんの願いがあると?」



実際、元信にとっては疑問でしかなかった。

勝龍寺の名は、うっすらだが聞いたことがある。

しかし、その寺の者が、自分のところに来るなどと言うことは、予想もしていなかったのだ。

それも、伏見の伝手まで借りて。



「はっ。この度は、武田様のご領地に勝龍寺の寺を一つ建てたく思い、ここに参らせていただきました。どうか、この願いを叶えてはいただけませぬでしょうか?」



出資の願いか……元信は、瞬時にそう思った。

だから、「そんな金などない」そう言って、すぐさま断ろうとしたのだが……


「叶えるわけには───」「ここに30貫文ございます。必要ならば、今少し増やすことも可能にて。」



30貫文など、今の元信にとっては端金でしかない。

しかし、勝龍寺の様な京の寺社が、京の者から見れば落ちぶれたとも見える自分の所に、わざわざ来るという理由が気になったのだ。



「何故、そうまでして、当家から土地を買おうとするのだ?」


元信は疑問だった。

こ奴らが、何か自分にとって不利益なことを考えているのではないのかと。



「は…、実は……」



勝龍寺の者が話をするところによると、どうやらこの寺の者らは、京の街で稼ぎすぎたらしい。

そのせいで、管領の奴にアガリを持って行かれてしまい、資金の逃避先を探しているのだそうだ。


今のワシなら、金に困っておらず、管領ほど欲深くもない。

最悪、金以外の対価でも購入できるのではないかと思い、ここまで来たのだそうだ。



しかし、金以外の対価か……気になるな。

京の古刹が出すという、対価は、文物に興味が深いワシにとって、深い興味が湧いたのだ。



「金以外か…。どんなものがある。その対価によっては、タダでも良いぞ?私の選んだ土地でもよければ、だがな?」


「え?は、しかし……よろしいのですか?」



勝龍寺の者は、困惑しているようだ。

無理もない。だが、ワシの想いは本物だ。

実際に、ワシの心に響くものであるならば、タダどころか、こちらから対価を支払ってやっても良いくらいだ。


「あぁ、構わんよ?どんなものがあるのかね?出してみたまえよ。」


ワシがそう言い、勝龍寺の宗立とやらを促してゆく。

すると、後ろから勝龍寺の者が持ち込んだ荷が運び込まれてきた。

どうやら、この箱の中にあるものがそうらしい。



開けさせてみると、いくつかの書物?の様なものと、紙束…の様なもの、それに木の板や石の入った容器など、様々なものが入っていた。



「これは……どんなものなのだ。説明してくれぬか?」



そうして、宗立殿を促す。


宗立殿は、ゆっくり、そして丁寧にそれぞれの品について説明をしてくれた。


・将棋の如く、知恵を競い合う"白黒碁"

・それを解いてゆくだけで、僧としての心得が学べるという"交経格子"

・算術の妙というものを教えてくれる"数独"

・それ一束で、様々な遊戯が楽しめるという"紙絵札"


今の京では、これらの様なものが大流行りで、そのどれもこれもが、ここにいる勝龍寺の者が発祥だというのだ。

しかも、白黒碁や紙絵札については、まだ、勝龍寺内で留まっている品で、管領がいる限り、京に流すのは難しいと悩んでいるモノであったという。


実際、これを流してしまえば、確実に皆がのめり込み、その利を目掛けてあの管領めが食らいついてくるのは明白であろう。

その判断は、正しい。

しかし、これがそのまま埋もれるのも惜しいと考え、宗立殿はワシに提供してくれたのだそうだ。

なんという御仁かっ!ワシにそのような大役を授けてくれるとは……!


京の地で、高国の阿呆……ではなかった、管領によって危険な目に遭わされておるのが哀れでならぬ。

「是非にも協力させてくれ!」と、ワシは頼み込み、結局、タダで土地を呉れてやることとなった。



「そうじゃの……どこがいいかの…?」


ワシは悩んだ。

これほどの対価に、そこいらの辺境を渡したのでは自分の名が廃る。

しかし、大名としては収益の上がらぬ土地を分け与え、自身の名を高めると共に、自身の負担を減らしたいとも考えていた。



「そうじゃ!良きところがある。主らも気にいるはずじゃ!」



ワシはそう言って、宗立殿にその地を提案した。


その土地の名前は………




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◆松永家資産(多聞丸の財布)

◇9月時点の資産

・現金87.39貫文(−357.61貫文)→→→100.15貫文(帳簿上:−344.85貫文)


◇収入(8月分)

・切り蕎麦:31貫文

・灰持酒:6.5貫文

・火入り炭酒:40.1貫文

・竹炭:0.28貫文

・薬(三種類、2,000袋、稲荷側と折半):5貫文


◇支出(8月分)

・食費:22.5貫文

・給与:17.8貫文

・勝龍寺への献金:29.82貫文(8月分)

・借金合計(利息込):445貫文(伏見稲荷大社への寄進:250貫文(借金))


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