第19話:閃きがあった
◇永正13年8月
八月の中頃、ついに竹酢液が使用できるようになった。
竹炭を焼く際にできるこの液体が、どれだけの資金を稼ぎ出すのか、今から楽しみである。
だが、何はともあれ、まだ商品として使う予定はない。
なぜなら、今僕は、伏見稲荷大社の伝手を使い、若狭武田家との交渉を行っているからだ。勝龍寺の名義で。
「ですが、主人さま。本当に大丈夫なんでしょうか?勝龍寺の名前で大名と取引をするなんて……」
九郎は、僕の直属として全ての事情を把握しているからこそ、この交渉に対し、ビクビクと怯えている。
しかし、宗立などは、それこそ勝龍寺の僧侶達全員を殺害するとかでもない限り、大抵のことはやってくれそうなほど、僕に傾倒している。
今の時代、娯楽も情報量も少なく、こういった他者へと傾倒する者が多かった。
宗立も例に漏れず、僕から与えられた知識を珠玉のものだと崇め、ある意味において腐り切った寺より、孤児達を救う僕の方が仏の教えに近いのだろうと、自身の中で判断しているようだった。
実際、芳栄和尚などは、僕に対して好々爺を気取ってはいても、十分以上に守銭奴の破戒僧だ。
収奪してきた物資は、全て寺のモノとしている点だけは、認めるべきだろうが、その手法は強欲ジジイそのものだ。
己で教えてきた弟子達にまで、ケチくさい強欲ジジイだと見られているのだから、世話はない。
自分の懐に入れていないというだけで、寺経由で集められた資金を利用しているのだから、それはもう破戒僧だと言って差し支えないだろう。
「問題ないよ。勝龍寺の執事補佐、宗立ができると言ったんだ。それはもう、問題なくできるんだよ。」
僕は、今回の計画を閃いた時、真っ先に近くで働いてくれていた宗立を引き抜いた。
彼がいるのといないのとでは、今回の計画の成功率が段違いだからだ。
取引内容は、松永家から出す30貫文で、新たに若狭武田家から"音海の土地"を購入するというのが目的である。
「しかし、なぜ若狭なのです。しかも、聞く所によると、相当に辺鄙な所だと聞きます。そのような場所を購入したとて、松永家の発展に役立つとはとても思えませんが……。」
音海地方は、若狭にある辺境の地だ。
この時代、言ってはなんだが、本当に田舎というより秘境の地と言った方がいいような場所である。
地方と銘打ってはいるが、その実、漁村が一つあるだけの山と海以外、本当に何もない場所なのである。
「発展か……。確かに発展は重要だな。だがな?今の僕達は、発展よりも隠密の方が重要だ。その為には、勝龍寺を隠れ蓑に、地方へと潜む方が利口…。僕はそう結論づけた。」
実際、これ以上は目をつけられる。
いや、すでに目をつけられていると思っていいかもしれない。
結果的に、寺社の強欲に紛れさせて、自分達の収益を誤魔化すことになっているが、本当ならもっと早くに懐へと手を入れられただろう。
「隠密。しかし、隠れてどうします?金銭は必要でしょう?」
隠れ潜むことは、京という収益源を捨てることと同義。九郎はそう言っているのだろう。
「そこは、伏見との関わりでなんとかしたいと思っている。」
「……危険すぎませんか?」
収入源が、勝龍寺と伏見稲荷大社、そして自分達での活動という3ルートから、伏見稲荷大社一本になるのだ。
九郎は、そのリスクを懸念しているようだった。
「……危険。まぁ、危険だな。伏見に裏切られれば、こちらも危うい。だからそこは、小浜の街や商人と交流をもつか、あるいは新たに商人を育てるかで、その危険性を下げたいと考えている。一時は危うくなるかもしれんが、長期的にはなんとかできるだろう。」
「主人さまが、考えてらっしゃるなら、私は別に構いません。余計なことを言ってしまい、すみませんでした。」
「いや、構わない。むしろ気付いたことがあればドンドン言ってくれ。僕では気付かなかったことも指摘してくれているから、九郎の進言にはかなり助けられているんだ。」
「主人さま……」
九郎は感動してくれているようだが、僕的には本気で助かっているのだ。
自分自身、やうことが多すぎて一つのことにのめり込めないし、どうしたって注意不足な箇所が多く出てきている。
それを補佐してくれているだけで、相当に助かっているのだ。
「で、お前にも話していなかったことがある。少し相談したい…。」
本当に信用がおける人材になった九郎に、僕は僕自身の真実を告げた。
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「では、主人さまは、転生者とやらで、前世の記憶がある……と?前世というのがよく分かりませんが…。」
「寺で言っていたことを覚えておらんか?輪廻転生。"人は死んだら、また新たな生を歩む"というやつだ。」
「さて?」と九郎は、寺の教えの方は真面目に受けていなかったせいか、イマイチ理解が浅かった。
「それよりも、だ。転生の際に僕の身に宿った能力の方が問題なんだ。さっきも言ったが、僕には爆弾というものを作る能力があって、それの使い勝手を良くするには、誰か人を殺める必要がある。業が深すぎる能力だが、それでも、生きていく為にはやらねばならん。既に、あの父親も伏見の神人らも殺害している。僕は地獄に落ちるだろうが、それでもやらねばならないんだよ。」
と、簡単にだが、九郎に爆破スキルについて説明した。
「主人さま。私はあなたの父親がどんな方だったのか知りません。伏見の神人がどんな者だったのかもです。ですが、あなたの事は長い付き合いですし存じています。そのあなたが必要だと思い行った事なんでしょう?それを咎めるつもりはありませんよ。私は。地獄に落ちる?この現世以上の地獄がどこにあるのです?この現世で仏の教え通りに生きなければ地獄行きだというのなら、そんな世界を作った仏や神を殺してしまえば良いだけのことでしょう?」
九郎は、僕の泣き言のような説明に対し、誠実に、そして真面目に答えてくれた。
地獄に行くのなら、共に行きましょう、と。
「く、九郎……」
僕は、感動して涙が出そうだったのだが、九郎にとっては当たり前のことを当たり前に語っただけの様子だ。
そんなことよりも、と言いた気に、次の話へと進んでいく。
「主人さま。先ほど、人を殺めることで、使い勝手が良くなると申しておりましたね?それは如何なる事なのです?」
「あ、あぁ。このスキル…能力で作り出した爆弾で誰かを殺めると、階位ってのが上がるんだ。そうすると、爆弾を爆破させる時の距離が伸びたりするんだよ。毎回同じように距離が伸びるのかは分からないし、殺害人数ってのが階位ごとに違うみたいで、はっきりした事は言えないんだが……」
爆弾生成スキルは、使い勝手が悪いスキルだ。
そもそも、一回目の爆破を乗り越えることが困難で、普通の障害物のない平地で使えば、自分諸共吹き飛ぶしかない。
二回目以降も同じである。
爆破威力が、現代の手榴弾並みであり、10m20m程度だと、壊れて飛んでくる破片の一つ一つだけで、幼児の身体は死に至るのだ。考えて使わなければ、どうしようもないスキルである。
「ふむ……。主人さまとしては、適当な浮浪者達を殺害するということは、ダメなのですよね?」
九郎が、現代人(戦国時代人)らしい意見を出してくる。
「い、いや、流石にそれは避けたい。誰彼構わず殺していたら、僕はもう悪霊か妖怪じゃないか!羽倉には既にそのような扱いを受けているが、現実にそんなことになるのは、ちょっとな……。」
流石に、浮浪者で人体実験とか、流民を斬りまくって悪徳領主に……みたいな、青髭展開は嫌だ。
そんなことは望んでないのだ。
「であれば、簡単でしょう。盗賊の類を殺害いたしましょう。それと、伏見に頼んで、"薬の実験台用"にという名目で、罪人を集めてもらうということもできますでしょう。」
九郎に相談すると、あっという間にいくつもの案が出てきた。
確かに、領主としては犯罪者を殺害するくらいは許容できるし、薬の実験台という名目なら不自然なく集められる。
誰にも不審に思われない、最適解だと言えた。
「それはいいな!なら、早速始めよう!……あ、だが、伏見に罪人を頼むのは止めだ。余り、ここで薬を作っていると周囲に知られたくない。羽倉も黙っているだろうしな。わざわざ、犯罪者を集めていると見られれば、余計な注目を集めかねん。」
こうして、僕の盗賊狩りの日々が始まった。
現代(戦国時代)の京には、云百人の盗賊がいる。
地方からも集まって来ていて、犯罪者の坩堝となっているのが、今の京なのだ。
「盗賊狩りじゃあぁぁい!」
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◆松永家資産(多聞丸の財布)
◇8月時点の資産
・現金71.33貫文(−373.67貫文)→→→87.39貫文(−357.61貫文)
◇収入(7月分)
・切り蕎麦:30.1貫文
・灰持酒:6.9貫文
・火入り炭酒:42.2貫文
・竹炭:0.28貫文
・薬(三種類、2,000袋、稲荷側と折半):5貫文
◇支出(7月分)
・食費:22.3貫文
・給与:17.8貫文
・勝龍寺への献金:28.32貫文(7月分)
・借金合計:445貫文・(伏見稲荷大社への寄進:250貫文(借金))
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