第09話:モデル水田を作ろうとした
◇永正13年1月(西暦1,516年)
モデル水田作りに取り組み始めた。
この場合のモデルっていうのは、モデルルームとかそっち系のモデルだな。
言わなくても分かる?…そうか。
そんな感じで始まった、モデル水田作りだったが、場所は向日神社の東側、両細川の乱で荒れ果てて耕されなくなった荒地、休耕田だ。
もう草がぼうぼうで、マトモに水も来てやしない。
水路そのものが塞がっている場所さえあるような、ひどい有様である。
まずは、水田の場所……の前に、草刈りからだな。
いや、すまん。
それ以前の問題だったわ。
「九郎。あと、与四郎。お前らでまた人手集めだ。今度は40人。」
僕は、勝龍寺時代から仕えてくれてる九郎と、当主になってから、当主邸で働いている与四郎に、人手を集めるように命じた。
代価は、僕が各勢力から集めてきた"食料"と僅かばかりの"銭"である。
「「はっ!」」
「……で、今度はどのような者達を集めてくればよろしいでしょうか?」
九郎と与四郎は、以前、僕が教えた通りに、返事だけはしっかりしてくれている。
返事させないと、聞いてるかどうか分からんしね。
未来なら、こういうことも非難されるんだろうけど、今の時代じゃ、ルールを守らせる所から始めないとならんのである。
意味があるとかないとかの前に、"規則を守るっていう考え方を植え付ける"ことが必要なんだよね………。
「集めてきて欲しいのは、元農家が筆頭。でも、そんなに多くなくてもいい。一番欲しい人材は、孤児達。あと、幼少の子らの面倒を見る人手として、面倒見の良さそうな女性も欲しいかな。こっちでは、食料や家を渡すくらいしかできないからね……。」
孤児達、つまり、子供らを中心に集めてもらう。
子供の方が、既存の考えに頭が染まっていないから使いやすいのだ。
一応、元農家も必要だから呼ぶつもりだが、こちらの指示通りにやらないようなら、即解雇するつもりである。
元より、今の時代にはないような、新しい農法でやっていくつもりなのに、旧来の方法でやられるのは、不都合なのだ。
「了解いたしました!では、行ってまいります。」
ビシッと敬礼する九郎らに、こちらも敬礼を返して人集めへと向かわせた。
他にも人はいるが、ある程度腕っぷしの与四郎を付けて、向かわせている。
九郎を行かせたのは、あいつが僕の思惑を少しではあるが理解し始めているからだ。
与四郎や他の者では、僕の考え方がまだまだ理解できてなくて、思う通りに行動してくれないのだ。
なにせ、当主になってからまだ半年程度だしね。
仕方ない。
そうこうするうちに、次の作業も進めていく。
「余六。ここの土地に長屋を建てたりするから、大工を呼んできて?左近。君は木工職人のところに行って、水車作りの指示を。孝介。お前は、明日鍛冶師に、ウチまで来るように伝えてくれるか?専業で雇い入れたいから、うちで働いてくれそうなやつを探してくれ。無理そうなら、うちの孤児達を弟子にとってくれそうな鍛冶師を探して。」
次々と指示を出し、僕は、丸投げできる作業を全て丸投げしていく。
今の僕の周囲には、常に30人近い人員がいるのだ。
しかし、その大半は、まだ10歳程度。
身体が出来上がっていない者も多い。
さっきから指示を出していった者は、ほとんどが、元々当主邸で働いていた奉公人である。
僕が当主になって以降、ちゃんと仕事量に応じて給金をこまめに出しているので、彼らからの信用度が爆上がりしているのだ。
命を賭けてくれるほどではないが、仕事ぶりを認め、金払いのいい僕に忠誠を誓ってくれている。
前世いう所の優良社員くらいには、忠誠心を持ってくれているんじゃないだろうか?
彼らの中には、妻や旦那のいない者も多い。
だから、家族ができるようになれば、またその時に、忠誠の形も変わるかもしれないとは思ってる。
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そうして、二週間ほどが経った。
雇い入れた孤児や浮浪者達は、熱心に働いてくれている。
今の所は、食料しか渡していない。
稗や粟、それに近くで採れた山菜や動物の肉だ。
仏教の下、肉食がいけないことだとはされているが、正味、僕には関係ない。
そもそも、勝龍寺の僧侶達も、浮浪者に肉を食わせたところで、何も言ってはこないのだ。
彼らの収入には関わらないし、そもそも僧侶達は、この時代のエリート中のエリート。
飯も満足に用意できない孤児や浮浪者達には、まるで興味がないのである。
そもそも、天竺の僧侶どころか、ブッタでさえ、肉は食ってるだろう。というのが、本場の僧侶の意見なのだ。
日本のように、「全国民に肉を食ってはいけません」などと、強要している方がおかしいのである。
まぁ、実の所を言えば、食ってはいけない肉は実用にも使われるような四つ足だけで、その他は食べていいというちゃんとした括りがあるのだが。
それはともかく。
僕は、集めた浮浪者や孤児達に、しっかりと多めの飯を食わせ、労働時間も10時間までに制限した。
この時代で言うと、"五刻労働"である。
毎朝、決まった時間に起こし、ラジオ体操……もとい、運動をさせ、その日の仕事について説明する。
こうしたルーティーンを行わせていた。
ちなみに初回は、僕が率先して行っている。
良くも悪くも、こうしたことに本当に反対するのは、現場の人間だったりするのだ。
そんなこんなも乗り越え、僕らは、水田の配置を決め、それぞれの水田を四角く形作っていった。
合わせて、水路の設営も行っていく。"暗渠"も、だ。
「正条植えで、田んぼの収穫率アップ?」阿呆言え。そんなことは不可能である。
正条植えの効果というのは、"条間を機械で効率よく除草できる"ことにこそある。
分かるか?除草と機械化が必須なのだ。
除草機がないと、正条植えにはほとんど効果がないと言ってもいい。
「感覚を開けて栄養を……」と、言ってくる輩には、こう言ってやろう。
そもそも、この時代の田んぼは、「未来のような"乾田"ではなく、"湿田"である。」と。
乾田と湿田の違いは、簡単だ。
水を抜くための機構が"ある"か"ない"か。これだけである。
未来の日本でよく見る、田んぼに水がない状態があるよな?あれが、乾田だ。
湿田というのは、常時、"水が入ったままの湿地帯"のことを指していると言っていい。
だから、今やっている水田の土地改良というのは、まさしく、土壌から根こそぎ掘り返して、水を抜くことから始まっているのだ。
未来日本のように、工事用工具もない中から始まったそれらの土地改良は、なかなか遅々として進まない日々が続くことになる。
もちろん、こちらとしては織り込み済みで、全くと言っていいほど気にしてはいないのだが。
それでも、松永家からの見張りのつく中、工事が行われていることもあって、労働にあたっている者達の精神面の負担は小さいものではなかった。
工事用工具に関して言えば、一月ほどで木造に少量の鉄を付加させたものが届くことになる。
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◇新たに連れて来られた人員
・子供達(孤児)33名(男12名・女20名)
・元農家4名
・育児用女性4名
◇維持費用(一ヶ月)
・主食+副食=5.1貫文
・子供と女性用の長屋+元農家用の長屋=25貫文
◇工事用道具一覧
・先端鉄製の木製シャベル
・木製の一輪車(工事用の猫車)
・運搬用補助具(畚・天秤棒)
・整地・測量道具(タコ・水盛り等)
・消耗・修理用パーツ(鉄先端・車軸等)
※これらに予期せぬ補充用の費用を追加される。
・工事用道具費用:18.25貫文
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◇松永家(多聞丸)資産
・100.2貫文→→→51.85貫文
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