再戦
羅師は男に突き刺さった剣を抜き、大きく後ろへと飛ぶ。
両者の間に3歩分の距離が開く。
「久しぶりだな、袋の男」
胸に穴が空いた大男は多少のふらつきながら羅師の方へ振り向く。
「リベンジに来たぜ、バケツ男」
片手で持ち上げた大剣の切先を大男へ向ける。
大男の目線はバケツによって妨げられているため見えはしないが、自身に傷をつけた大剣を凝視している様に思える。
「我に奇襲とはいえ傷をつける武器があるとはな」
その言葉に羅師は大剣を片手で器用に回しながら答える。
「一から用意してもらったんだよ、おかげで致命傷が与えられて万々歳だ」
大男は心底おかしいといった具合に頭のバケツを押さえながら豪快に笑い声を上げる。
「あ?」
「致命傷か、そうだな普通ならそうだろう。だがな、残念ながら我は普通では無いのだよ。見たらわかると思うがね」
見せつける様に胸を押さえていた手を退けた。
傷口からは向こう側の壁が見える。
だが、傷口をよく見ると傷の両端から肉片の様なものが傷を塞ごうと蠢いていた。
「なら塞がれる前に、殺すまでよ」
羅師が大剣を下段に構える。
「いつぞやの二の舞になるだけよ」
大男は構えたわけでは無いが、纏う気配を大きく変える。
数秒の静寂。
それを破る様に動き出したのは羅師であった。
自身の体重より数倍重い大剣を構えているとは思わせない、ナイフを持っている時と遜色のない動き。
たった一歩で距離を詰める。
息を吐くと同時に全身の筋肉と体の動きを全て利用し大男の胴体に大剣をぶつける。
ナイフで切り付けた時と同様な金属同士がぶつかる音と、振動する刃の影響であろう金属を削る様な音が響く。
刃は胴体届くことなく、大男の右腕に阻まれていた。
剣を弾く様に様に右腕が払われる。
剣は弾かれたが羅師の両足はまだ地面についている。
羅師はむしろ懐に潜り込む様に前へ走る。
最初の奇襲の様に剣先を胸へ向け突進しながら突きを放つ。
大男はこれを左の掌で受ける。
羅師は雄叫びを上げながら力を込め続ける。
大男は右手で大剣を掴みそのまま羅師ごと壁に向かって投げつける。
だが壁に届くことはなく床に投げ出される。
大剣を床し突き刺し勢いを殺す。
羅師は動きを止めることなく大剣を軸に起き上がる。
同時に大男の拳が床を抉り取る。
爆音と煙が舞い散る。
煙を振り払う様に腕が薙ぎ払われる。
視界を取り戻した大男が見た景色は、大剣を構える羅師ではなかった。
大剣から手を離した羅師の手には一丁の拳銃が握られていた。
大男は何故大剣から手を離したのかと言う困惑と、過去の経験からこの武器は致命傷には至らないと安堵していた。
羅師が引き金を引く。
閃光がリビング全体を一瞬照らす。
銃声、と言うよりは爆発音が響く。
「いってぇ」
羅師が言う。
銃を構えていた右手は指がおかしな方向に曲がり肌は焼けこげていた。
構えていた銃はもはや原型をとどめておらずただの金属片になっている。
「貴様、なんだそれは」
信じられないと言う様に大男は問う。
「ははっ、良い見た目になったなぁお前」
大男は左肩の一部が抉られた様に無くなっていた。
「言ってわかるのか知らねぇけど。こいつはな、本来そこの大剣ぐらいデカい銃で打つ様な対物狙撃用の弾丸を拳銃で打てる様にしようって言うやつなんだよ。代わりに打ったら右手がお釈迦になるけどな」
動かなくなった右手を大男に見せつける様に仰ぐ。
「その右手で我が殺せると?」
大男が左肩を労るように押さえながら羅師に言う。
「お前こそ片腕で俺が殺せるか?」
大男は吐き捨てるように笑う。
「ハッ!やってみるか?」
大男が動く。
その動きに合わせるように羅師は左手一本で大剣を持ち、鞭のように体をしならせ飛んでくる拳に剣をぶつける。
しばし拮抗。
だが腕一本では大男の攻撃をいなし切ることはできず、大きく吹き飛ばされる。
防弾でもないガラスが羅師と大剣を合わせた重量に耐え切れるはずもなく、羅師の体は庭に投げ出される。
「キッツイね」
「そうだろうよ」
後を追うように割れた窓を潜って大男が庭に現れる。
「少しは手加減してくれても良いんだぜ」
羅師が大剣を杖代わりに起き上がる。
体にはガラスが至る所に突き刺さり、右手は使い物にならない。
だがまだ目の輝きが諦めていない。
その様子を見た大男は感心した様子で言う。
「何故そこまでする必要がある。苦しまず抵抗せず我に殺されろ」
「断る」
羅師が即座に力強く返す。
「何故」と大男が返す。
「お前を殺す」
立ち上がり左手で大剣を持ち、切先を大男へ向ける。
「俺が殺す」
もう動かないはずの右手で大剣を支えるように地面と平行に構える。
「俺を殺す、お前を殺す」
その眼光と構えに大男は満足げに笑い言う。
「良いだろう!最後まで!存分に!我と殺し合おうではないか!」
その言葉に答えるように羅師は体を低く落とす。
瞬間。
大男の視界で何かが光る。
羅師よりも遥か後ろ。
林の方からの発光。
それが何か大男が認知するより前に、バケツごと頭が吹き飛んだ。
「嘘に決まってんだろバーカ!」
心底馬鹿にしたような羅師の笑い声が庭に響き渡った。




