決着
「はーはっは、はぁ」
笑い声がため息へと変わる。
羅師は身体中を襲う痛みに耐えながら、倒れた大男の元へ歩く。
大剣を持てるほどの力はもう残されておらず、手に握られているのは普段使用している拳銃のみ。
構えるわけでもなく、腕を力無く垂らし途中で倒れそうになりながらも首から上が無くなった男の元に辿り着く。
男が動く気配はないが、胸に空いた穴、吹き飛ばされた肩、そして頭がなくなった首の傷口の肉体はまだ蠢いていた。
首に至っては新しく頭を形成しようとしているのか、目の錯覚を疑うほど徐々にであるが肉が迫り上がっている。
「ははっ、マジかよ」
羅師は最早呆れた様子で笑う。
「先生!」
後ろの林から樺の大きな声が聞こえる。
振り返ると大型の狙撃銃を引き摺りながらこちらに駆け寄ってきていた。
「おー、樺!ナイス狙撃だったぞー」
頭を撫でようと腕を上げるがそこまで上がらないことに気がつき、拳で樺の胸あたりを軽く叩く。
嬉しそうな顔で樺は言う。
「ありがとうございます。でもほとんど先生のおかげですけどね。作戦段階から私、ほとんど動いてませんから」
樺は男の方を見る。
蠢く肉体を見たのだろう。
気味の悪そうな表情を浮かべる。
「コレ生きてるんですか?」
「なんとね」
「どうするんです?この後業者の人呼ぶんですよね?」
「ま、一応対策はしてきてはある」
羅師は服の内ポケットから一本のナイフを取り出す。
鞘を外すとナイフの刃の部分に何かが塗られている。
「何ですか、それ」
「腐食性の毒物。傷口に塗るとそこから腐ってく」
「危な過ぎませんか?」
羅師はナイフを男に刺す。
刺した場所が変色する。
「やっぱりか」
「やっぱりとは?」
「この毒ってどんどん広がってくんだよ。でも広がってない。変色はしてるから毒自体は効いてるっぽい」
「つまり?」
「傷の再生は止められる」
そう言うと羅師は男の傷口に次々と刺していく。
「コレでおけ。樺ー、業者の人に連絡入れといて」
「わかりました。…この人?どうなるんですか」
「一応収容場所は決まってるんだと。組織の研究チームが面倒見るって連絡入ってた。どうするかは知らないけどね」
羅師がそう言うと樺は哀れみを込めた目で倒れた大男を見ていた。
「そうですか、何と言うか…」
「可哀想、とは思わない方がいい」
羅師がその先の言葉を遮るように言う。
「俺らだって人殺しなんだ。そんな奴らに哀れだと思われる事がどれだけの侮辱か、考えればわかるだろ」
「すいませんでした。それじゃあ連絡してきますね」
樺は庭から出て行った。
羅師の体が思い出したかのように痛み出す。
足に力は入らず、腕を持ち上げることもできない。
全身の出血はまだ止まっておらず放って置けば死ぬだろう。
「忘れてたな、まぁいいかな」
大男の横で尻餅をつく。
「ハァーー」
馬鹿みたいに大きなため息をつき、携帯を取り出す。
携帯の外装や画面は割れていたが壊れているわけでは無さそうだ。
羅師はおそらく連絡が終わったであろう樺に電話を掛ける。
「ごめん、車の中に医療品あるから取ってきて」
それだけ言って返事も聞かず切る。
「あーー」
仰向けに倒れ、両手を伸ばす。
「くっそ疲れたな。お前のせいだぜ、バケツ野郎」
返事はない。
「まぁ、ただ。いや、何でもねぇや」
そう言うと羅師は目を閉じる。
しばらくして慌てたような足音が近づいて来た。
「死んでませんよね!?先生!」
樺が医療品の入った箱を持って走って来たようだ。
「残念ながら生きてますよっと」
上半身のみを起き上がらせ医療品を受け取る。
「私も手伝います。取り敢えず背中やるんで、服、脱いでください」
樺は羅師の後ろに回る。
「いやー申し訳ないね」
羅師は上裸になり、腕の傷は自身で治療し始めた。
「そういや、どのぐらい待ってたんだ俺ら、1、2時間ぐらい?」
羅師の問いかけに樺は呆れた様子で返す。
「2日です、本当時間感覚しっかりしてもらっていいですか?それに私は食料ありましたけど、先生何も食べてないし飲んでないでしょう」
樺の言葉に羅師は勢いよく振り向く。
「えまじ?2日経ってたん!?あー言われてみれば喉カラカラだしめっちゃ腹減ってる気がする…」
「ちゃんとして下さい、何でそんな状態でこの男に勝てたんですか」
「勝ったからよし。取り敢えず飯食い行こうぜ!大仕事が終わったんだ。何食いたい?」
「まず私たちの格好見てもらってもいいですか?」
改めて見ると、羅師は全身ぼろぼろで血だらけ。
樺は怪我こそないものの2日間林にいたせいか、汗臭いし土まみれであった。
「一旦帰りましょう。業者さん呼ぶついでに運転してくれる方も呼んでおいたので」
「ナイス樺ちゃん。やっぱり仕事できる子が居ると楽でいいや。それで?何食べる?」
樺は包帯を巻き切ると羅師の体を叩き言う。
「今回はお寿司で」




