第35話【閑話休題①】 ミラルカ・カミラルテの初恋。
500年前。
私は、初恋と憎悪を同時に手に入れた。
「こちらが、今度新しく家庭教師として来てくださるヴァルディア・ネクロス先生だよ、ミラルカ」
そう言ってお父様から紹介されたその人は、私に向かって優しく微笑んでくれた。背の高い人。ううん、私が背が低いだけかもしれない。春の日の草原のような新緑の髪の毛のその人は、私に向かって、ゆっくりと歩いてきてくれた。
「はじめまして、ミラルカ」
ぽんと、私の頭に手を乗せられる。ネクロスは、ゆっくりと腰をかがめて、視線を私と同じくする。
「僕はネクロス。今日から君の家庭教師だ」
「…けっこん、してください」
思わず、ぽろっと言葉が漏れた。私はいきなり何を言っているのだろう。不意を突かれたネクロスはびっくりした顔で一瞬止まり、そしてすぐに、先ほど見せてくれた春の陽射しのような笑顔をまた浮かべてくれる。
「光栄です。ただ、お嬢様はまだ若すぎるから、お嬢様が立派な淑女になってからもまだ僕のことを想ってくれていたら、その時、結婚しましょうね」
「約束だよ!」
「ええ。もちろん」
ネクロスは笑い、私も笑い、そしてお父様とお母様は険しい顔をしていた。
カミラルテ家の血筋に下賤な身分のものを入れるわけがないだろう…なんてお父様は言っていたけど、それを聞いたネクロスは笑顔を浮かべたまま、「戯言、ですよ」なんてお父様にむかって言っていた。
(戯言)
(虚言)
(ううん、嘘)
さっきのネクロスの目を見たら、私にも分かる。
私はネクロスが好きで、ネクロスも私を好きになってくれた。
これは…運命の出会いなんだ。
私はもう一度笑ってネクロスに近づいて、そしてその頬に軽く口づけをしたのだった。
■■■■■
13歳から、15歳までの2年間。
それは私の人生の中で…思ったよりも長くなる人生の中で、一番輝いていた時代だった。
「ネクロス先生♪」
個人講義が終わった後、休憩をかねて、私とネクロスは屋敷の薔薇園に足を伸ばしていた。日差しが暑い。私は太陽が好きだった。太陽の光に照らされていると、心の奥が暖かくなるのを感じる。
(心が暖かいのは、ネクロスが傍にいてくれるからかな)
そう思い、13歳に初めて出会った時から2年間、ずっと変わらず大好きなネクロスに飛びつき、そしてまた頬にキスをする。
「いけません、お嬢様」
「なにがいけないの、ネクロス」
「お嬢様と僕とでは身分が…」
「聞こえなーい」
「お嬢様!」
「ちゃんと、名前で呼んで」
「…ミラルカ」
「はい」
これでもう、私はカミラルテ家のお嬢様じゃないよ。ただの、恋する、15歳の女の子、ミラルカだよ。
「ネクロス、私、15歳になったわ」
「そうですね。あれからもう2年が経ったんですね」
「初めて会った時の約束、覚えてる?」
「それは…」
(けっこん、してください)
(お嬢様が立派な淑女になってからもまだ僕のことを想ってくれていたら、その時、結婚しましょうね)
「忘れたことなんて、ありませんよ」
ネクロスはそう言い、私を抱きかかえてくれた。
そのままくるりと回る。まるで、舞踏会で踊る円舞曲のように。
あはは。
あははははは。
嬉しくて、楽しくて。
私とネクロスは手をつないだまま、薔薇園の中で2人だけの舞踏会を行った。
「痛っ」
ネクロスとつないでいない方の手の指が、薔薇に触れた。
赤い血が流れる。
「ミラルカ!」
「大丈夫。平気」
私は指先から零れ落ちる血を見る。血がとまり、そのまま私の血は重力に逆らって上に伸びていく。
「スキル《血の祝宴》」
12歳の時、スキル授与式にて私が授かったスキル。私は自らの血を自由自裁に操ることが出来る。大したことのないスキル。いわゆる、外れスキル。でもいいの。私はカミラルテ家をいつか継ぐのだから、スキルなんてあってもなくても変わらない。
この地方は私の家のもの。
このお城はいつか私のものになる、私だけの白亜の城。
(…私は自分の血は自由に操れるのに)
カミラルテ家の子、という血統からは逃れられないのかな。
そう思い、ネクロスを見る。
私の家庭教師で、身分は低いけど、博識で素敵で、そして私の初恋の人。
「…来年、16歳になれば…」
私、結婚できる年になるよ。
私、他の家になんて嫁いでいきたくない。
私、あなたと、ネクロスと、結婚したい。
「ネクロス」
そう言って、私は指を向ける。その指から流れていた血が宙に浮かび、そこで丸いリングになる。
「受け取って、欲しい」
私の血で作った指輪。私だけの、私の心。
ネクロスは一瞬黙った後、いつも通りの…ううん、いつも以上の優しい表情を浮かべて、指を差し出してくれた。
ネクロスの指にはまる、私の指輪。私の血。私の心。
「ミラルカ…僕は、君を、愛している」
「私だって、ずっとずっと、ずっと昔からだよっ」
私はネクロスに飛びつき、今度は頬じゃなく、唇にキスをする。
ネクロスは抵抗することなく、私を受け入れてくれた。
太陽が明るい。眩しくて、キラキラしている。
「あーーーー、お姉さま、いけないんだーー!」
声がした。
可愛い声。5歳年下の、私の妹、フランチェスカの声。
「いいでしょ、フラン。私、婚約したのよ」
ネクロスの唇から唇を離して、私はネクロスに抱き着いたまま、振り返って妹を見つめた。ぷりぷり怒っている顔が可愛い。大好きなお姉ちゃんをとられると思ったのかな…間違いじゃないけどね。
「いいなー」
「いいでしょ♪」
私は笑う。
フランチェスカも笑う。
それを見て、ネクロスも笑ってくれる。
ああ、幸せだ。
私はとっても…幸せ。
こんな時間が…こんな幸せな時間が…止まればいいのに。
この日、この時、私はそう思ったのだった。
■■■■■
夜。
深夜。
月明りだけが、私の部屋を照らしていた。
窓から差し込む乳白色の光をみながら、私は、ふと目が覚めた。
目をこする。頭を揺らす。
何か、音がする気がする。
「…フラン、フラン」
ふかふかのベッドで一緒に寝ている妹をゆする。まだ10歳のフランチェスカは、ふにゃ…と言いながら目を覚ました。
「どうしたの、お姉さま。おしっこいきたいの?」
「そんなの1人でいけるわよ」
嘘だけど。
でも、今フランを起こしたのは、別の理由からだった。
「何か音、聞こえない?」
「んー…」
…ぽたり。ぽたり。
どこかで、雫のしたたるような音が聞こえてくる気がする。
私はフランの手をとり、ベッドから降りた。私とフランが寝ているベッドはとても大きくて、とても豪奢なもので。このベッド一つで領民の一年間の生活費を賄える、とお父様が笑っていたのを思い出す。
「探検、しようか」
「たんけん!」
私の言葉に、フランは目を輝かせる。子供ってこういうの好きよねー、と、まだ子供に片足を突っ込んだままの私はふっと笑った。
部屋の扉をあけて、外に出る。
廊下は静かで、物音はしない。
私とフランは月明りをたよりに、ゆっくりと歩き始めた。
「たのしいね」
フランが言う。私も少し、ワクワクしていた。
夜のお城の探検。姉妹2人の冒険。
手を握ったまま、ここは秘境だぞー、なんて言いながら歩いていく。
ぽたり。
また、音がした気がした。
今度は近い。
「フラン、お宝はすぐそこにあるみたいよ」
「りゃくだつだー」
私とフランの2人だけの冒険隊は、その物音がしてきた部屋、お父様とお母様の部屋の前にいくと、ぎぃ、と大きな扉を開けた。
血。
血。
一面の、血。
「あれ、ミラルカじゃないか」
大好きな人の声がした。
どうしてここから?
どうしてこんな匂いと一緒に?
「ネクロス…」
月明りの中でもはっきりと分かる、赤。
血だまりの中で、ネクロスは私を見て、にこりと笑った。
「反対、されたんだ」
歩く音。足音の中に、粘り気がある。血と靴が混じりあい、ねちゃっとした音を立てている。
「君との結婚…身分違いだって。身分をわきまえろって」
ねちゃり…ねちゃ。
大好きな人の足音が、不気味に響き渡る。
「おかしいよね。ただ、今の人生で身分が違っただけなのに。どうせ生まれ変わって別の人生を過ごすんだから、身分なんて何の意味もないのにね」
月明りが。
乳白色の光が。
お父様と、お母様の寝室を、照らし出した。
「だから…」
臓物が。胃が、腸が、血が、骨が。
お父様と、お母様だったものが。
部屋中に散乱し、散らばってまき散らされていた。
「一足先に、次の人生に行ってもらったんだよ」
ネクロスが笑っている。
いつもと同じ、優しい笑顔。でも、今は、血に染まったその笑顔が、怖ろしいと思えた。
「でも、君とは…」
ネクロスが近づく。血の匂いと一緒に近づいてくる。怖い。怖いけど、でも足がすくんで動けない。
「次の人生を送りたくない…僕は、君と、ずっと一緒にいたいんだ」
年をとりたくないんだ。
そう言うと、ネクロスは私を抱きしめてきた。
血の匂いが鼻腔を刺激する。お父様と、お母様の身体の中を流れていた血の匂い。くさい。くさい。くさくてたまらない。
「…教主様は、《不死》を求めている」
《不死》こそが、鍵だと。この世界の鍵だと教えてくれている。
「僕はずっと、鍵を探していた…こんなくだらない人生に、意味をもたらせてくれる鍵を…教祖様に…教団に…」
永劫輪廻教団に。
「未来をもたらせてくれる、鍵を」
ネクロスに抱きしめられる。ネクロスは、私と、妹のフランチェスカを同時に抱きしめていた。血が、血が混ざる。お父様とお母様の血が、私とネクロスとフランにまとわりつく。
私は、自分の血しか操れない。
私はなすすべもなく、血で化粧されながらネクロスに抱きしめられていた。
「僕のスキルはね…一生に一回しか、使えないんだ」
《分かち合う不老不死》
「この力があるから…教主様は、僕を選んでくれた…僕を教団の幹部に引き上げてくれた…」
月明りの中で、ネクロスがぼやぁっと光っていた。私をフランを抱きしめる力が強くなる。力が…血が流れ込んでくる気がする。
「《不死》が見つからないなら…《不死》を作ればいい…」
光が、強く。
「でも、僕は…《不死》はいらない…君だけがいれば…いい…」
熱い…熱い。私の中で、何かが変えられていくのが分かった。
何が変わったのかは分からないけど、何かが永遠に変えられたのが分かった。お腹の奥が痛い…お腹の下のあたりが痛い…
「あっ、あっ、あっ、あっ」
びくんびくんと、フランが痙攣していた。目がありえないほど見開かれ、口を開け、中空を見つめる。
「…僕たち2人分の《不死》を彼女に…押し付けて…彼女の《不老》は…僕たち2人に…」
流れていく。力が、何かの根源が、私たち3人の中で分かち合い、選ばれ、配分されていく。
「触媒は…君のお父さんとお母さんの血…そして僕と君との、永遠の、愛だ」
血が舞い、渦巻き、妹は揺れ、私は変わり、ネクロスも変わり。
そして。
「何事ですか!!!」
城の衛兵が異常を悟って飛び込んできた。
完全武装の衛兵数人が、血まみれになって私とフランを抱きしめているネクロスを見る。部屋中にまき散らされたお父様とお母様の肉塊を見る。
「曲者っ!」
「もう終わったよ」
衛兵から突き出された槍を交わすと、ネクロスは部屋の片隅へと飛んだ。
私とぐったりしているフランは、かけつけてきた衛兵に保護される。その間にも、たくさんの衛兵の足音がこちらに向かってきているのが聞こえてきた。
「ミラルカ」
ネクロスが…私が好きだった人が…私を…永遠に変えてしまった人が、私の名前を呼んだ。
「またいつか、迎えにきます」
窓が、割れた。
風が部屋に降りそそいでくる。
月明りがふさがれていた。
窓の外に、巨大な「なにか」がいるのが見えた。
「教祖さまっ」
そう言うと、ネクロスは躊躇なく、窓から飛び出した。
その巨大な「なにか」はネクロスを背に乗せると、羽ばたき、風圧で部屋の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜた後、飛び去って行った。
薄れゆく意識の中で、私は見た。
「…竜」
それが、みたこともないような、伝説の本だけでしかしらないような、一匹の巨大な竜だったことを。
■■■■■
私とフランチェスカが何を変えられたのかは、すぐには分からなかった。
ネクロスによって何かを永遠に変えられたはずなのに、変化がすぐには現れなかったのだ。
ただ、城は変化した。
私たちを取り巻く環境は変化をした。
領主であった父と母を同時に失った領地は大混乱を起こし、権力闘争がおこり、荒廃していった。
その中で、私とフランとの関係も変わっていった。
最初、分からなかった私とフランの変化は、年月がたつごとにはっきりと目に見えて分かっていった。
私は、年を取らなくなった。
私は、15歳のままだった。
《分かち合う不老不死》
あの時、ネクロスはそう言った。その言葉の意味が、ようやく理解できた。
(私は…もう16歳になることはないんだ)
私は永遠の少女で、少女のままに変えられてしまったのだ。
「お姉さま、私にまかせて」
妹は、頑張った。
ネクロスによって《不死》を与えられたフランは、死ぬことが無くなり、どんな戦場であっても傷を負わず…負ってもすぐに回復し、毒も効かず…効いてもすぐに回復し、荒廃した領土を徐々に復興させていった。
5年…10年…
時を経るごとに、フランは成長し、人々はフランに跪いて、従っていった。
フランは美しく成長し、私も本来ならこのように美しくなれたのかな、と寂しくなった。私はずっと、15歳のままだったから。
20年…30年…
フランは冴えわたり、領土を広げ、王国内に確固たる地位を築いていった。
40年…50年…
壮年期を超え、老境に差し掛かっても、フランはまったく衰えを見せなかった。あいにく子供には恵まれなかったものの、フランはその冴えわたる知識とかつて持っていた美貌により、立派に領地を統治していた。
60年…70年…
フランは衰えた。
80年…90年…
人々のフランに対する感情は、畏れから恐れへと変わっていった。
100年…120年…
フランは、死ねなかった。
再び、領地は荒廃していった。
140年…200年…
老人を超えたフランはぐずぐぐになり、皮膚もただれ、肉も削げ落ち、まるで腐った死体のようになりながら、それでも生きていた。
私は15歳のままだった。
300年…
領地に一人の幼女が尋ねてきた。
その才気に満ち溢れた幼女は、名をオズ・ハイドライドと言った。
私と同じく《不老》をもつ彼女は、私にとってたった一人の友人となった。
オズは私を見て「同類だ」といい、フランを見て「哀れだ」といった。
400年…
オズは王都に王立魔法学園を設立し、大陸中に優秀な魔法使いを派遣していった。私はオズに協力し、いつか妹を殺してくれる存在が現れることを希望し、そして絶望していった。
そして、500年。
ようやく、やっと、ついに。
フランは…《不死》の運命から解放された。
同時に私も…解放された。
■■■■■
500年後。
永劫輪廻教団幹部ネクロスによる、王立魔法学園襲撃。
■■■■■
「500年!会いたかったよ!」
黒いゴシックドレスが風に飛ばされ、ところどころ破れている。
その深紅の髪は血のように翻り、まっすぐ、目の前の男を見つめていた。
「…ミラルカ、か」
「ネクロス、久しぶりだね」
「君をここまで招待した覚えはないのだが」
「奇遇だね。私も招待された覚えはないよ」
もしもここが屋内なら、屋敷なら、吸血鬼は呼ばれた家にしか入れない。
「外で良かったよ」
こんにちは、ネクロス。
さようなら、ネクロス。
そういうとミラルカの白皙の指の先から伸びる長い爪が、目の前の男のフードを切り裂いた。
春の日の草原のような新緑の髪の毛がフードから零れ、その中から死んだ魚のように淀んだ瞳がみえる。
「相変わらず…いい男だね」
「そういう君も、500年前と変わらず、美しい」
男の手が、変化した。
黒く、長く、まるで槍のように。
その槍はミラルカを貫き、通した背中から赤い鮮血が飛び散り…そして血が蝙蝠に変わり、ミラルカは笑って空を舞う。
「吸血鬼を殺すには、木の杭じゃないといけないって、お母さんから教えてもらわなかったのかい?」
「母の思い出など…もう無いよ」
あるのは、君と過ごした、あの美しい日々だけさ。
そう言って笑うネクロス。
怒りと憤怒と煽情に顔を真っ赤にするミラルカ。
「どの口が!どの口が!どの口が!」
「ひどいな、恋人に向かって」
「恋人なら、私を裏切らない!」
両親を騙さない。
妹を騙さない。
私を…《不老》になんてしない!
「僕のおかげで…君は500年たっても…老いずに、昔と変わらず」
美しいままじゃないか。
永劫の輪廻の中で。
君だけが。
輪廻の輪から外れることができたんだよ?
「戯言を…」
「真実だよ」
真実は、残酷で。
目をそむけたくなるけど、逃れることは出来ない。
「お前は…どうして…どうして…どうして…」
私は、ネクロスに向かって、思いのたけを伝える。
私がどれだけ憎んでいるか。
私がどれだけ憎悪しているか。
私がどれだけ後悔と恥辱にまみれた日々を送っていたのか。
その全てを含んだ言葉が…
「どうして…私を迎えに…来てくれなかったんだ」
そんな、情けない言葉だった。
(けっこん、してください)
(お嬢様が立派な淑女になってからもまだ僕のことを想ってくれていたら、その時、結婚しましょうね)
私は永遠の15歳で。
立派な淑女になることは、ついに出来なかった。
「ミラルカ、君は今でも、僕のことを想っているのかい?」
「想っては、いるさ」
もうそれが、憎しみなのか愛なのか分からなくなっただけだよ。
私の血が噴き出す。
私は、私の血だけは自由に操ることが出来る。
私の血は槍となり、ネクロスに向かい、そして隙をついてネクロスにしがみついた。
(次の人生を送りたくない…僕は、君と、ずっと一緒にいたいんだ)
勝手なことを!勝手なことを!勝手なことを!
(こんな時間が…こんな幸せな時間が…止まればいいのに)
私は馬鹿で、私は駄目な女で、私は淑女にはなり切れない女で。
噛みつく。
ネクロスの首筋に、牙を突き立てた。
噛みつかれる。
ネクロスの牙が、私の首筋に突き立てられた。
私の《不老》とネクロスの《不老》が共鳴していく。
私の想いと、ネクロスの想いが重なり合っていく。
もう愛なのか憎しみなのか虚無なのか嬉しさなのか悲しみなのか、何も分からない。ただ、目の前の男が、私にとって切り離せない何かなのだと分かった。
16歳になれなかった、500年生きた私は、初恋の人と結婚することは最後まで出来なかったけれども。
凍る。
凍っていく。
時間が、凍っていく。
どこからか、円舞曲の音が聞こえてきた気がした。
あの日、あの時。
薔薇園で2人で踊った、円舞曲の曲。
(やっと)
凍れる音楽。
私とネクロスの時は止まり、そして同時に。
私の思考も…永遠に、止まった。
■■■■■
「どうした?リゼル?」
大きな荷物を背負ったレオンが、私に問いかけてきた。
24歳のレオンは私よりも全然身体が大きい。私が持とうとしていた荷物も全部、背負ってくれている。
「卒業旅行に出かける前に、もう一度師匠に挨拶しておこうかな、と思って」
私はそう言い、レナの手をとる。
大事な人。
今の人生で…私がはじめて…恋をした女の子。
私の、初恋の人。
レオンはやれやれといった風に首を振ると、「下で待っているからな」と言ってくれた。
私とレナは手をつないだまま、森にある塔へと向かう。
そこには、永遠に時の止まった私の師匠、ミラルカ・カミラルテが、その宿敵である永劫輪廻教団幹部のネクロスと一緒に、時が止まったままたたずんでいる。
永遠に。
これから先も、ずっと、永遠に。
何も語ることなく。




