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第26話 対抗戦③

 勝利に沸き立つ私たち1年生チーム。

 リーダーであるレオンの周りには、彼のファンである女の子たちがあつまり、口々にレオンのことを褒めたたえているのが聞こえてくる。


「あの隕石魔法すごかったです…っ」

「ありえませんよ…あまりにも規格外すぎます…っ」

「レオンさん、すごすぎ…信じられない…っ」


 その中心で、所在なさげに「また、俺なにかやっちゃったのかな…」とでも言いたそうに頭をぽりぽりかいているレオンが、純朴でちょっと愛らしい。

 私の大事な、幼馴染だ。


 私は学生服の埃を払いながら、手に相手側の旗をもってチームの元へと帰還した。

 私が勝負を決めたはずなのに、みんなの注目はレオンに集まっている。まぁ、レオンは派手だったし、私は目立たなかったからね、と思うし、とくに不満があるわけもなかった。


 それに、なんといっても。


「リゼル、お疲れ様!」


 まっさきに私に抱き着いて迎えてくれるレナがいるのだから。

 100万の賛辞よりも、レナ1人の言葉の方が、私にとって何倍も何十倍も何百倍も、嬉しい最高のご褒美なのだった。


「怪我、無くてよかった…」

「うん、怪我は、してないよ」


 本当は30回以上死んでいるんだけど…死んで、《不死》で復活しているだけなんだけど…


(でも、そのことを伝えたら、レナが心配しちゃうもんね)


 だから、言わない。

 だから、別のことを言う。


「私、頑張ったよ。だからレナに褒めてもらいたいな」

「うん、たくさん褒めてあげる。リゼル、すごいよ。かっこよかったよ。もう、大好き!」


 わぁ…えへへ。

 なんか、溶ける。レナの言葉で、溶けてしまう。私、ちゃんと自分の形を整えていられてるかな。スライムみたいになって足元に零れていない?

 このどさくさにまぎれてレナをぎゅっと抱きしめてもいいんじゃないかな、レナの匂いを嗅いでもいいんじゃないかな。


 そんなことを思いつつ、欲望を現実に変えようと手をレナの肩に触れてしまおうとした時、


「あちら側でも、勝負は決まりそうでござるな」


 学園長が空中に用意していた巨大なスクリーンに投影されている、3回生と4回生の対抗戦の様子を見ながら、ヨシノがぽつりとつぶやいた。


 胸に黄色い薔薇をつけている3回生と、漆黒の薔薇をつけている4回生。

 この対抗戦は各クラスで選ばれた10人隊10人での戦いになるのだけど、10人全員で戦っている3回生に対して、4回生の先輩はたったの4人しかいなかった。


「あれが…王立魔法学園の誇る王下四天王、でござるか」


 4人しかいない、のではなく、4人で十分なのだった。

 王下四天王。


【星葬】のセレフィナ・アステリオン

【不死王】グラウス・ネクロディア

【時魔】クロノア・エーテルクロック


 そして…四天王リーダー


【天剣】のアストレア・ヴァルキュリア


 この4人だけで、まさに3回生の精鋭10人を、蹂躙していたのだった。




■■■■■




「さっき、1年生の坊主が隕石魔法を使っていたらしいぜ、セレフィナ」

「そうなの?グラウス?」

「実況がそう言っていたから、間違いないな」

「じゃぁ、私がその記憶、塗り替えてあげようかしら」


 超広域魔法使いであるセレフィナは不敵に笑うと、手にしていた日緋色の杖を高く掲げた。

 空間がねじ曲がり、空が割れる。

 星が現れ、流星群が舞い落ちてきた。


「宇宙魔法、スターダスト・レヴォリューション!」


 七色の流星がまるで星の雨のように降りそそいでいく。


「きゃははははは!踊れ踊れ、私の魔法で踊るがいいわ!」

「あまり調子に乗るなよ、セレフィナ」

「なによ、クロノア?」

「油断は大敵、という事さ」


 その言葉と同時に、巨大な火の玉がセレフィナめがけて飛んできた。

 黄色いラインの入った学生服を着ている3回生の生徒が、不敵に笑っている。セレフィナの流星を裂けた生徒が、その間隙をぬって攻撃してきたのだった。


「小癪な」

「だから言っただろう、調子に乗るな、と」


 一際大きな体躯を誇るクロノアはそう言うと、両手をかざす。

 とたんに、今にも直撃しそうだった火の玉の動きが遅くなる。


「時間操作…時間加速…時間原則…」


 クロノアは詠唱と唱える。

 火の玉の周囲の時間の流れが変わり、セレフィナとクロノアは悠々とそれをかわすことが出来た。


「ひとつ貸しだぞ、セレフィナ」

「すぐに返済してあげるわよ!」


 中空で会話を交わしている2人。


「相変わらず、夫婦漫才がひどいな」

「「そんなことないっ」」


 やれやれと肩をすくめるグラウスに対し、声を揃えて反論するセレフィナとクロノア。息がぴったりな2人は、やはり夫婦にしか見えなかった。


「油断大敵見敵必殺、美しく清らかに、王立魔法学園の最上級生としての実力差を後輩たちにしらしめてあげようぜ」


 そう言うと、グラウスは両手を高くかかげた。


「甦れ…死せるものどもよ!」


 グラウスの言葉と共に、森の奥から奇怪な物音が聞こえてきた。


 ケタケタケタケタ…


 それは、骸骨が不気味に笑う声。

 ゆうに100身体を超えるスケルトンたちが地面から蘇り、恐れおののく3回生の敵陣へと死者の行進を始めていく。


「…相変わらずエグいわね、グラウス」

「効率的、といってもらいたいものだな」


 不死王グラウスはそう言うと、かけていた眼鏡をくいっと動かす。彼の操るスケルトンたちはやられてもやられても、すぐに砕けた骨をつなぎわせて敵陣へと向かっていく。


「死者を有効利用してあげているだけさ」


 幾人もの3回生の胸につけていた黄色い薔薇が舞っていく。

 この時点で勝敗の行方はすでについていた。


 しかし。


「では、俺が決めるとするか」


 できるだけ、優雅に、かっこよく、な。


 そう言うと、四天王のリーダーである天剣のアストレアは、その深紅の髪を翻すと、肩に背負っていた巨大な剣をひょいと掲げる。


「…頼りにしているわよ、リーダー」

「まぁ、アストレアなら問題なかろう」

「俺の可愛いスケルトンちゃんをあんまり壊さないで欲しいな」


 アストレアは剣を一振りする。

 彼は、魔法を使わない。使う必要もない。

 ただ、彼のスキル《魔力断絶》により、ありとあらゆる魔法を無効化し…純粋に剣の技のみで、目の前の敵を蹂躙していくのだった。


「絶技…エターナル・ウインドエクスプローション!」


 アストレアの一振りにより空気中の水分が全て氷結し、残っていた3回生全員が一瞬で戦闘不能に陥る。


 そしてそのまま、アストレアは悠々と歩き、敵陣に掲げられていた旗を手に取ったのだった。


「…もう、あいつ一人で十分なんじゃないか」


 四天王たちはそう言って笑う。

 あまりにも圧倒的。


 学園長を殺しうる存在…ほとんど稀なその存在が、この学年には4人も揃っていた。

 王下四天王。

 この4人の在籍する4回生は、長い王立魔法学園の歴史の中でも、奇跡の世代、と呼ばれている。


『これは…これは、圧倒的、一方的な結果となりました!4回生チーム、わずか4人だけで、3回生を全滅させ、さらに旗まで奪い取るというワンサイドゲームで決着です!!』


 アナウンサーの絶叫が響き、こうして、決勝は「ルーキー1年生vs学園最強王下四天王」となったのであった。




■■■■■




「…それで、作戦はあるの、レオン?」


 決勝前のブリーディング。

 レオンを中心として、私たち代表10人は作戦会議を行っていた。


「1回戦のような奇策は使えない。もうリゼルの存在もバレてしまっているし、警戒されているだろう」

「という事は、やはり正攻法でいくしかない、ってことね」


 正直…正面からまっすぐ戦ったとして、王下四天王に勝てるとは思えないけどね。心の中ではそう思っているけど、口には出さない。

 そんなことをいえば士気に影響するし、それになにより


「もともと、俺たちにとって、優勝は通過点にしかすぎない。ここで小細工を有したところで、その先に待ち構えている学園長とのエキビションマッチに勝てるとも思えないからな」


 レオンが、そう決意して、しっかりと私たちを導いてくれているからだ。


「王下四天王を、正面から破る。それで初めて、俺たちが成長したといえるだろう」

「その通りでござる」


 レオンと同じか、それ以上に真っすぐな心意気をもっているヨシノが、まっさきに同調する。


「拙者たちの修行の成果を、みせつけてあげようではござらぬか」


 脳筋なようにみえて、それだけではない。しっかりと自分に自信を持っている人間の揺るぎない覚悟が、その言葉の節々から感じ取ることが出来た。


「拙者、侍として、天剣のアストレア殿に勝ちたいでござる」

「…できるか?」

「やるでござるよ」


 笑うヨシノ。その笑顔を見ていると、なぜかこちらもほっとしてしまう。


「では、アストレアはヨシノに任せる。それで、レナ」

「はい、レオン君」

「レナには…不死王グラウスの召喚する、スケルトン軍団を対処してほしい」

「…やってみる」


 ごくりと、唾を呑み込むレナ。緊張しているのが分かる。1体や2体のスケルトンなら、《聖女》であるレナにとっては相手にもならないだろう。けど、今回は数百体ものスケルトンが相手だ。緊張するのが無理、という話かもしれない。


「レナ」


 そう言って、そっと、レナの手を握る。いつもレナは私の手を握って、私を安心させてくれる。たまには恩返しをしてあげたい…というのは建前で、ただ単に、私がレナに触りたいだけかもしれないけど。


「リゼルは時魔クロノアと相対してもらいたい」

「あいよ」


 やっぱり、そうなるよね。

 時間と空間を操るなんて理外の魔法を使う相手には、同じく理外の存在である《不死》の私をぶつけるしかないよね。


「それで、レオンは?」

「俺は、星葬のセレフィナを何とかする」


 まるで俺に対抗するかのように、流星魔法使っていたしな。挑戦は受けるしかないだろう。


「俺たち4人がそれぞれ王下四天王をひきつけておくから、みんなはその隙をついて、相手の旗を奪い取りにいってくれるか?」


 レオンはそう言い、選抜隊メンバーの残り6人もこくりと頷いた。

 勝てるかどうかはやってみなければ分からない。

 でも、やってみないと、結果は出ない。


 私たちはそう決意し、レオンが伸ばした手に手を合わせ、心を一つにして、決勝へと臨む。


 殺戮の決勝、へと。




■■■■■



「ああああああああああああああ、痛い痛い痛い痛い痛い痛い、助けて助けて助けて助けて助けて!!!!!」


 決意して、心を一つにして、私たちが臨んだ決勝会場。

 その眼前に広がる光景は、夢にも思わない、悪夢のような光景だった。


「あああ、あっ、あっ、あっ、あっ、やめてやめてやめてやめてや…」


 グボ。


 ねじ切れる、嫌な音。

 首が、曲がる音。

 砕かれる音。


 私たちの眼前で、星葬のセレフィナが、巨大な蒼白い悪魔に、まるで雑巾をしぼられるかのようにねじりきられていた。


 目を見開き、二つになって地面に落ちる元、セレフィナだった肉塊。

 それを見て、時魔クロノアが、目に涙を浮かべながら、「よくも俺のセレフィナを…っ!!」と叫びながら悪魔に向かっていくのが見えた。


「時間操作…時間加速…時間原則…」


 クロノアが詠唱を唱えている瞬間。


 血が。

 肉が。


 元、セレフィナだったモノ、が。


 青白い悪魔に蹴り上げられ、肉の銃弾となってクロノアへと襲い掛かっていく。


 2人は首と首だけでキスをする形となり、肉と肉が混ざり合って、ぐしゃぐしゃになりながら後方へと、文字通り飛び散っていった。

 死が2人を分かつまで。

 夫婦漫才はもう聞こえない。


「なんだよなんだよなんだよなんだよ、俺のスケルトンちゃん…どうして俺をおそってくるんだよ…っ」


 先ほどの対抗戦で数百のスケルトンを操っていた不死王グラウスは、数千の骨の軍団に囲まれながら、変な笑いをあげていた。


「きけ!きけ!俺の言うことをきけ!この不死王グラウスの言葉にこたえろ!」


 スケルトンは答えない。

 ただ、ケタケタケタケタと骨を揺らしながら、グラウスを囲む輪がだんだんと狭まっていく。


「きけーーーー!」


 ぷちゅりと、グラウスは彼が愛するスケルトンの輪の中に消えていき、そして、その骨だけが血をまといながらばらばらに掲げられていた。



「お前は…お前らは…いったい…なんだんだ!!!」


 天剣のアストレアは、先ほど彼の盟友である王下四天王のうち2人、星葬のセレフィナと時魔クロノアを蹂躙した青白い悪魔にその渾身の剣技で切りかかっていた。


「秘奥義…アルティメット・バースト!」


 剣が炎をまとい、うねる奔流となって、悪魔の右腕を斬り飛ばす。

 中空を舞ったその巨大な腕が、轟音をあげて地面に落ちる。

 舞い散った土煙の中、全ての体力を使いったアストレアは、首をかかげた。


 目の前に、右腕を失った悪魔が立っている。

 まるで笑っているようにみえる。

 学園始まって以来の天才と言われた彼の全力で、やっと腕一本。だが、彼はまだ諦めない。天剣としての誇りが、王下四天王リーダーとしての誇りが、彼を動かし続けていた。


「こいよ…化け物っ」


 悪魔が笑う。

 その背後に、黒い靄がみえた。

 時空の割れる音。魔界への門。


 その靄の中から、青白い手が伸びてくる。


 一体…二体…三体…


 どんどん、悪魔が湧いてきていた。


「こ…い…よ…ばけも…」


 4体…5体…6体…


「こ…い…」


 7体…8体…9体…


「く」


 10体…11体…12体…


「く、く、来るなーーーーー!!!!!」


 背を向けるアストレア。

 その背中をまるでバターのように引き裂くと、悪魔たちはアストレアを囲んでいく。


「やめて…やめてください…おねがいします…」


 悪魔は何も語らない。

 青白い悪魔は、ただ、単に。


 物理的に。


 アストレアを分割していったのだった。




■■■■■



「…なに、あれ…」


 私たちが決勝で戦うはずだった王下四天王が蹂躙されていく様を見て、私は、私たちは、言葉を失っていた。


 目の前の出来事が現実のこととは思えない。

 夢。

 昼間に見る、白昼夢?


 手をぎゅっと握ってくるレナの暖かさが、これが嘘ではなく、現実のことだと私に伝えてくる。





ミツケタゾ!!!!



 ミツケタ!


ミツケタ!!!!!


 ミ   ツ     ケ      タ!!!!



 声が響いた。

 頭の中に、直接。


 私だけじゃない、この場にいた全員の頭の中に、「それ」は直接響いてきた。




『《不死》ヲ、ミツケタ、ゾ!!!!!』 







 私が、故郷を追放される原因となった、教団。

 この大陸に古より根付いている、教団。



 数千のスケルトンと、湧き出る青白い悪魔を使役する、教団。






 永劫輪廻教団




 私は見つかり、私の学園生活は、ここで、終わることになる。



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