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第25話 対抗戦②

 対抗戦の朝。

 秋の太陽は淡いオレンジ色に光っており、私たちを照らしていた。


 舞台は学園から少し離れた森で行われる。広大な森には鬱蒼と蔦がはびこっており、時折、鴉たちの鳴き声が響き渡ってくる。


「じゃぁ、もう一度、ルールを確認するぞ」


 レオンがそう言い、私たちは耳を傾ける。


「各学年から選ばれた10人が、その学年の代表となるチームになる。1回戦は、俺たち1年と2年の対抗戦と、3年と4年の対抗戦が同時に別の場所で行われる。それで勝ったチームが決勝に進出。それに勝ったチームが優勝となり、学園長とのエキビションマッチが組まれる。ここまでは大丈夫か?」


 私たちはこくんと頷く。

 1年生のチーム10人の中に私は選ばれていた。実力で大いに劣る私が選ばれたことに不平不満をもらす生徒たちもいたけど、そこはリーダーであるレオンの一言で黙らせたのだった。


「対抗戦のルールは簡単で、10人のチームVS10人のチームによる総力戦だ。各自、胸にちゃんと薔薇をつけているか?」

「もちろん」


 私たちは、胸につけた赤色の薔薇をレオンにみせつけた。王立魔法学園の制服は黒を基調としていて、そこに各学年ごとのラインが引かれている。

 1年生は赤いラインなので、薔薇もそれに合わせた赤色に。

 私たちが1回戦で戦う2年生のラインは青色なので、おそらく胸には青い薔薇がつけられていることだろう。


「この薔薇がとれたら、その人物は敗退ということになる。薔薇は魔法で管理されているから、一度外れた薔薇をつけても意味がないし、また発信機にもなっているので、観客達には俺たちがどこにいるのかが分かるようになっている」


 だから、間違って落としたりするなよ?とレオンが忠告する。

 私の隣で、レナとヨシノがこくんと頷く。

 この2人が選抜メンバーに選ばれたのは、当然実力があったからで、その点は私とは違っていた。


「勝利条件は2つ」


 レオンは指を2つ立てた。私たちの視線が集中する。


「まずは、チーム全員が全滅した場合。これは分かりやすいな」


 胸の薔薇をさわる。この薔薇が全員落とされたとしたら、敗北するということだ。


「そしてもう1つは、拠点を落とされた場合」


 そう言って、レオンは一本の旗を取り出した。

 あまり大きいものではない。私の腕一本くらいの長さで、私たちの胸の薔薇と同じく、真っ赤な旗だった。


「この旗が拠点になる。つまり、この旗を取られても負け、ということだ」


 つまり、勝利するためには、相手を全滅させるか、または旗を奪い取る必要がある。


「ルールはこれだけ。あとは何もない。攻撃魔法に制限もないし、もしも対抗戦中に死者が出たとしても、問題にされることはない…実際、過去に行われた対抗戦の最中、死者は何度も出ているらしい」


 唾を呑み込む音が聞こえる。

 王立魔法学園は、蟲毒の学園。お互いがお互いを食らいつくし、最後に残る強者を決める学園でもあるのだ。

 私たち1年生は、60人。ここまで欠員が1人も出ていないのは、学園始まって以来の事らしい。

 全員仲良く手をとって卒業、というわけにはいかないだろうけど、それでも一人でも多くちゃんと卒業していきたいとは思う。


「1回戦は、一度だけ使える奇策をとる」


 レオンは、ゆっくりと重厚な声でそう言うと、私を見つめてくる。その蒼い瞳の中には、私に対する確かな信頼が込められているのが分かった。


「鍵になるのはリゼル、お前だ。頼んだぞ」

「まかせて」


 私はそう答えた。

 私の言葉の中に、虚勢もブラフも何もない。ただ、この半年の間に極悪非道な吸血鬼から叩き込まれた特訓の結果だけが、しっかりと込められていた。




■■■■■



「それでは、王立魔法学園対抗戦、一回戦を始める。各自、死ぬのはかまわないが、私たちを楽しませることだけは忘れないように」


 学園長の有難いアナウンスと共に、対抗戦は始まった。


「…学園長、楽しんでいるわね」

「まぁ、いつものことでござるな」


 私のつぶやきに、ヨシノが応える。ヨシノは少し緊張しているのがみえた。常に真面目なヨシノは、どんな時にでも全力で挑んでいるからだろう。


「それにしても、ミラルカちゃんもメンバーに選ばれればよかったのにね」

「…師匠は」


 そんなくだらないことに参加できるか、と言って、メンバーを辞退していた。私の師匠であるミラルカ・カミラルテの実力は頭一つどころか二つも三つも飛びぬけているので、彼女が参加すれば対抗戦も楽に勝てることだろう。


「でも、それじゃ意味がない」


 私は、師匠に頼るのではなく、師匠に認められたい。


「あの人、性悪で極悪で性格最悪の尊大傲岸不遜吸血鬼だけど…」


 嘘だけは、つかないからね。


「あの人に認められたら、気持ちいいだろうな」


 そう言って笑う私の顔を見て、レナはすごく嬉しそうに、「うん、そうだね。きっと分かってくれるよ、リゼルのすっごくかっこいいところ!」と言ってくれた。その紅潮した顔が可愛くて、思わず触れそうになってしまった、その時。


「いくぞ」


 レオンが、呪文の詠唱を始めた。

 無詠唱で呪文を発動させることが出来るレオンが呪文を唱えるということは、それはすなわち、盛大な威力の込められた必殺の魔法を発動させるということでもある。


 大地が揺れ、空気がレオンに集中していく気がする。

 レオンの胸につけている赤い薔薇が、小刻みに揺れているのが分かる。


「…遥かなる悠久の時の果てにいる神々に命じる…その覇権を、力を、威厳を、今ここに顕現させよ…」


 閉じられていたレオンの目が開かれる。青いその瞳が、魔力を帯びて淡く輝いいている。


「隕石招来」


 詠唱の終わりと共に、遥か天空から轟音と共に飛来してくる数十の火の玉が見えた。

 大気圏のはるか先、広大な宇宙から落ちてくる隕石はすさまじく、鼓膜が破ける音と共に森を焼き払い、火柱が竜巻のように舞い上がった。


『これは…これは、とんでもない魔法だーー!1年生代表、レオンハルト・ドラグーン、こいつはあまりにも規格外!とんでもない男だーーー!』


 アナウンスが流れる。

 火と光と爆炎に包まれたレオンが空に浮いており、そこに人々の注目が自然と集まる。レオンはまさに主人公であり、その圧倒的な才能と才覚の前にありとあらゆる人々が意識をむけざるを得ない。


 それは、敵も味方も同じであり。

 意識が全て、レオンに集まった結果。


 盲点が生まれる。





 血が。

 視界が。

 私の網膜を真っ赤にする。


 走る。

 走る。

 全力を超えて走る。


 心臓が破裂しそうになる。

 弱い貧弱な私の身体でも、そのすべてを一瞬で燃やし尽くせば、一瞬だけ、どんな天才をも超えることが出来る。


(お前は、《不死》の使い方を知らない)


 師匠は言った。

 偉大なる吸血鬼、ミラルカ・カミラルテは、私に向かっていった。


(お前に、《不死》の本当の使い方を教えてやる)


 血管が切れる。意識が飛ぶ。

 全力を超えた全力の疾走は、私の身体の細胞を破壊していく。


(いいかリゼル。お前の《不死》はな、死なないことがすごいんじゃない)


 あの時の師匠の横顔。

 悪い顔。

 吸血鬼の顔。

 悪魔のように邪悪で、天使のように魅力的な顔。


(死ねば、元に戻る、それが一番の利点なのさ)


 私の胸にナイフを突き刺し、ほとばしる血に真っ赤にそまりながら、笑っていた師匠の顔。


(だから、お前に教える一番大事なことは…)


 死。

 死。

 死。


(簡単な自殺のやり方、さ)


 全力を超えて脳細胞も破壊されそうになり前も見なくなりブラックアウトして心臓から流れる血液が指先まで届きそして血を吐いてもう限界を超えて動けなくなり疾走が止まりそうになりスピードがおちてはいそれまでにな…


「自殺」


 私は私の生み出せる本当に小さな弱い魔法を自らの体内で小さく爆発させる。

 小さな爆発でも、私を殺すには十分なものだった。


《不死》


「ああああぁあっぁぁああぁあぁっぁああああああああああああああああ!!」


 悪魔。

 悪魔の教え。

 自らの限界を超えて力を出し、そして自殺して《不死》を発動させてまた限界を超え、全てを使いつくしてまた自殺を繰り返す。


 私は凡人で。

 私は体力ナメクジで。

 私の魔力はせいぜい私を殺すことくらいにしか使えないけど。


 それで、私は。


 天才を超えた。




 赤。

 血の赤。

 赤の先。


 青。

 青が見えた。


 旗。

 はためく、旗。


 誰も私を見ていない。

 みんなが見ているのはレオン。

 輝く太陽。

 人々を照らす希望の光。


 私は吸血鬼の弟子。

 私はリゼル・アークライト。


 最弱で最低で弱くて小さくて。

 そして。



 誰も見ていない静寂の中、私の手の中に、青い旗が握られていた。




『え…あ…なに、いつの間に…』


 アナウンスが、響く。

 困惑して、何が起こったのかも分からず、そして。


 悠々と私が敵陣の旗を手にして、それを降っているのを見て。


『これは…これは何ということでしょう…1年生チーム、私たちがレオンハルト・ドラグーンの奇跡を目の当たりにしている間に…いつの間にか、2年の旗を奪い去ってしまいました!!!』


 私たちの勝利を告げた。






 私は、リゼル・アークライト。


 最弱で最低で弱くて小さくて。

 そして。


 今、静かに、最強に、なった。

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