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第24話 対抗戦①

 私たちが王立魔法学園に入学して、半年が過ぎた。

 季節も夏を過ぎて秋にさしかかり、いまだ残暑が続いているものの、朝夕の時間は時折肌寒さを感じることも増えてきた。


 私とレナとヨシノが学園の食堂でお昼ご飯を楽しんでいる時、目の前を人だかりの集団が歩いていった。

 見て見ると、レオンを中心にして、その周りを女子生徒たちが囲んで話しかけているのが分かる。


「…相変わらず、レオン殿はモテモテでござるな」

「まぁ、あのチート能力にあの容姿、モテない理由がないもんね」


 食パンをスープに浸し、ゆるゆるにしてから口にしていた私は、少し困ったような顔をしながら歩いている幼馴染をじっと見つめてみる。

 視線が合い、手をふって来るレオン。


(…いらんことしないでよ)


 とりまきの女子生徒たちが、まるで親の仇でも見るかのような視線で私を睨みつけてくる。私がレオンに手を出すはずもないのに、いらない心配をしないで欲しいものだ。


「あんな劣等生なんてほっときましょう、レオン君」

「そうよそうよ」

「あっちで美味しいもの食べましょう、レオン君!」


 そんなふうにわいのわいの言いながら離れていった集団を見て、私ははぁ、と大きなため息をひとつついた。


「リゼル、気にしないでいいからね。リゼルがかっこいいってこと、私たちはちゃんと知ってるからね」


 そう言いながら、傍らにいたレナが綺麗な刺繍の施されたハンカチを手に取って、私の口元を拭いてくれる。

 手の動きが優しくて、私は少しドキドキしながら、「レナ、ありがとう。いつも可愛いね…天使みたい」と本音で褒めると、レナは沸騰したヤカンのように耳まで顔を真っ赤にしながら、「リゼル、ずるい」と恥ずかしそうに言う。

 その姿が、また可愛くて抱きしめたくなる。


「…相変わらず、お二人は仲がいいでござるな」


 手にしていた湯のみでお茶を飲んでいたヨシノが感想を述べてくる。


「レナが一番大事だからね」


 私はそう言って、レナの肩をそっと引き寄せる。レナは何の抵抗もせず、ふわっとした金髪を昼の陽光に煌めかせながら私に身を預けてきて、


「…うん」


 とだけつぶやいた。

 すごく嬉しそうで、私も嬉しくなる。


「それで、リゼル殿」

「なに?」

「ミラルカ殿との夜の特訓は、どのような感じでござるか?」


 この半年間、毎晩特訓しているのでござろう?

 興味津々に聞いてくるヨシノに対して、私はげっそりとした顔を浮かべた。


「ヨシノのいた国では、いわゆる地獄っていう表現ってあった?」

「そうでござるな…死んだら鬼の世界に落ちて、窯で煮られたり切り刻まれたりするという話があるでござるよ」

「…私、それを毎晩666回は受けてる気分だわ…」


 あの吸血鬼、私が死なないと思って無茶してくる。《不死》は死なないのではなく、死んでもすぐに復活するだけなのに…


(復活するたびに体力が全快するというのは、非常に効率がいいな。よし、次の特訓に入るから、とりあえず死ね)


 昨夜も、そう言いながら軽く私の頭を吹き飛ばしてきた。私たち、半年前に本当にあの吸血鬼に勝ったのだろうか…だんだんと信じられなくなってくる。


「リゼル、無理しないでね」

「…できるだけ、善処するよ」


 心配そうに私を見つめてくるレナの潤んだ瞳を見つめながら、私はそっと視線を逸らした。レナには私とミラルカとの特訓を見せていない。見せたら、絶対に反対してくるか、卒倒するだろう。

 女子寮では、せっかく私、レナ、ヨシノの3人部屋なのに、私は毎夜、夜通しミラルカとの特訓に駆り出されているので、レナの寝顔をみることが出来ていないのが残念でならない。


(一回くらい、レナの隣で寝たいな…)


 そう思いながら、毎夜毎夜、吸血鬼に殺されながら特訓する毎日。

 私のいない間にレナとヨシノがいい仲になってしまったら、私は嫉妬の炎に焼かれて死んでしまうかもしれない…まぁ、《不死》なんだけど。


 そんなわけで、レナと一緒の時間を過ごすことのできるこの貴重なお昼時間の間、私は心行くまでレナ成分を吸収していたのだった。


「それにしても…」


 ヨシノはずずっと湯呑の中に残っていたお茶を全部飲み干すと、ことり、と湯呑をテーブルの上に置いた。

 そして真面目な顔で、いう。


「拙者たち、本当に半年で、学園長を殺せるのでありましょうか」

「それは…やってみないと分からないね」


 レナの暖かさと柔らかさを存分に満喫しながら、私は半年前のことを思い出していた。




■■■■■



(みんなの実力がある程度ついてきたと、私が確信を持てたなら)

(王立魔法学園、学園長、オズ・ハイドライドを、殺しましょう)


 あの夜、ミラルカは笑ってそう言った。

 学園長を殺す!?

 びっくりして私、レナ、ヨシノ、レオンの4人の視線がミラルカに集中し、その視線を受けて、あぁ、あなた達、知らなかったのね、と吸血鬼はつぶやいた。


「王立魔法学園は、4年通えば自動的に卒業できる、っていう学園じゃないのよ」


 それどころか、途中で学園をやめていくものも多い…学園どころか、人生そのものをやめる者も多いけどね。

 その原因の一端でもある吸血鬼は、嬉しそうに笑っていた。


「あの学園は巨大な選抜試験みたいなものね。常に振り落とし、選別され、真の意味で国の役に立つ魔導士を育成している」


 そして、その卒業試験が、


「学園長、オズ・ハイドライドを殺すこと」


 殺す、といっても、本人を直接殺すわけではないけどね、と、ミラルカは言葉を続けていく。


「学園長の傍に、いつもメイドがいるでしょう?今の子は…たしか、ホワイトって名前だったかな。あの子はホムンクルス。人造人間。オズはね、人造人間を作り出すのが得意なのよ」


 そう、つまり。


「学園長が、オズが、自分の力を模した人造人間をつくり、それを殺すことが出来て、初めて学園を卒業することが出来るの」


 だから、卒業できない年もある。むしろ、その方が多いかもしれない。


「オズ本人とは違うとはいえ、オズの力をほぼほぼコピーしている人造人間だからね。そう簡単には殺すことなんてできないわ…でも、だからこそ、それを実現できたものは、それ相応の実力があると認められる」


 ミラルカは、笑う。

 それは妖艶な笑みで…心底、楽しそうな笑みでもあった。


「要は、実力さえしめせば、学園は卒業できる、ってことよ…別に4年間通う必要なんてない、1年生の間でも、半年しか学園に在籍していなかったとしても、オズを殺せる力があると認められれば、飛び級で卒業できる」


 そうすれば、王立魔法学園卒業生という肩書を持って、この国を自由に旅することが出来るわ。あなたたちが想っている以上に、王立魔法学園卒業生という資格は強いものよ。それこそ、普通の冒険者なら入れない禁忌の場所ですら、通行許可がおりるくらい。


「私が協力するのだから、半年で十分よ」


 半年で、学園を卒業しなさい。

 そして…旅に出ましょう。


 リゼルを《不死》から解き放つ旅に。




■■■■■



 

「…いよいよ、半年もたち、拙者たちも…かなり強くなったでござるから」


 風が吹く。

 この食堂は吹き抜けで、周囲のざわめきもよく聞こえてくる。

 私たちの言葉は…聞かれているだろうか。

 誰かに、届いているだろうか。


「うん、対抗戦、の時期だね」

「…大丈夫、かな」


 私とレナも、少し緊張しながら答える。


 王立魔法学園、対抗戦。

 新入生が入学して半年たった時に行われる行事。


 下級生と上級生の間で行われる対抗戦で、基本的には下級生は上級生に勝てない。その実力差を自覚させ、学園内での秩序を守る行事でもある。


 そして勝った方のチームが、さらに学園長のホムンクルスと戦うエキビションマッチが行われ、いくら下級生に勝てた上級生でも、やはり敵わない相手は存在するのだと骨の髄から知らしめられる、ある意味学園の為の出来レース。


「そこで、拙者たちは上級生を破って優勝…」

「続くエキビションマッチで、学園長のホムンクルスにも勝って…」


 4年かかる道を、半年で駆け抜ける。



「早く卒業できれば、拙者の望み…妹をすくう為の道しるべも早く見つかるというものでござる」


 そのために、拙者もがんばるでござるよ。

 力を込めて意気込みを言うヨシノを見て、私も負けじと、意気込みを語る。


「そうだね…私も、絶対に卒業したい…」

「リゼル殿も、早く《不死》から逃れたいでござるからな」

「それもあるけど、それ以上に…」


 私は、本音を漏らす。


「ミラルカとの、地獄の特訓から逃げ出したい…」


 いや、本当に。

 あれ、死ぬより辛いから。

 いっそ殺してほしい…でも《不死》だから死ねないけど。


「あの性格最悪極悪非道の性悪吸血鬼から逃れられるなら、私、なんだってするから!」

「ほう」


 背後から声。

 聞きなれた声。

 背筋がすぅっと寒くなる。


「面白い話をしているじゃないか、リゼル」

「…今、昼間だよ、ミラルカ」

「珍しく早起きをしてな…早起きは三文の徳、とはよく言ったものだ」


 私の後ろに、にっこりと笑っている吸血鬼が立っていた。

 深紅のロングヘアに、紅玉色の瞳。一応、この王立魔法学園の生徒、として特別入学したはずなのに、私たちと同じような学生服は着ていない。自分の好きな黒いゴシックドレスを着たまま、自由気ままに学園生活を楽しんでいるようだ。


「マスター、すみません。このゴミ…リゼルをお借りしてもよろしいでしょうか」

「なんで今、ゴミと言い間違えたの?」

「かまわないでござるよ」

「ヨシノ、私たち、親友だよね?」

「一緒に卒業するために、頑張るでござるよ、リゼル殿」

「リゼル、私も特訓についていってもいい?」

「レナには見られたくないの…」

「ほら、早くついてこいゴミ」

「ミラルカ、今、わざとゴミって言ったよね?」

「特訓の時は師匠と呼べといっただろう、ゴミリゼル」

「…はい、性悪師匠」


 こうして。

 私は、私たちは。


 対抗戦への準備を着々と進めていったのだった。


 それが、自らの運命を変えることになるとも知らずに。




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