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第23話 ガールズトーク②+男1人

「…お前、女が、好きなのか?」


 真面目な顔をして、とんでもないことを私の幼馴染は言ってきた。

 ここは王立魔法学園の学生寮。私たちがいるのはその女子寮であり、3人部屋の中に5人集まり、しかもそのうち一人は男。何とも言えない独特な雰囲気の中、私はドギマギしながら口を開く。


「レオン、いったい何を…」

「俺は真面目に聞いているんだが」


 戸惑う私に対し、質問してきたレオンはいたって本気だった。


「これから先の俺たちの関係に、非常に深くかかわってくる問題だからな」

「だから、何を…」

「俺は、お前が好きだ」


 突然の告白。

 思わず、レオンを二度見する。

 レオンの表情は真剣で、そこにからかいや冗談の色は見えない。

 レナは口に手を当てて目をまんまるにしながら、私とレオンの両方を見比べている。ヨシノは「拙者、そういう色恋沙汰の話には興味ないでござる」とでも言いたそうな顔をしているものの、耳が真っ赤になっていて実は興味しんしんなのが丸わかりだった。

 ちなみにミラルカだけは、本当に心の底から興味無さそうであり、自分の爪の手入れをしながら聞き流していた。


「い、いつから…」

「昔から、ずっと」


 そう言いながら、じっと私の目を見つめてくる。

 レオンの蒼い瞳の中に、私の姿が映っているのがみえる。私を、レオンはどんなふうに見ているのかな、とふと思った。


「あの、その、えーっと」


 なんて答えればいいのだろう。ずっと幼馴染で、ずっと一緒にいたレオンなのに、今はまるで知らない別の人みたいに思える。

 いろいろ脳細胞を働かせた後、私の脳みそが絞り出してきた答えは、


「あ、ありがとう」


 そんなありきたりな答えだった。


 くい、っと、私の隣に座っていたレナが、私の袖を引っ張ったのが分かった。ちらりと見て見ると、今まで見たことがないような表情をしている。笑っているような、焦っているような、変な顔。

 可愛いな、と思い、そして同時に、レナから漂ってくるお風呂上がりの髪の毛のようなふわりとした匂いに、心がすっと満たされていくのを感じた。


「…まぁ、いいや」


 なんとなく、分かったから。

 レオンは少し寂しそうな表情を浮かべた後、ぱんっと、自らの頬を叩いた。

 私はびっくりしてレオンを見つめる。レオンはしばらくうつむいていたけど、すぐに顔をあげて、いつもの凛々しい表情へと戻った。


「俺の気持ちに応えてくれとは言わない。だけど、俺の気持ちだけは知っておいてくれ。俺はお前が好きだし、お前のためなら何だってできるし」


 お前のためなら、死ねる。


 そう言ったあと、風が悪そうに頭をぽりぽりとかくと、


「…《不死》のお前に向かって、お前の為なら死ねるって、なんか失礼だったな。ごめん」

「いや、謝らないで」


 どこまでも真面目な幼馴染に対して、私は手をふりながらこたえる。そう言いながら、ふと、考える。


(私が…女の人を…好き?)


 考えながら、昔のことを思い出す。

 昔、と言っても、私、リゼルとしての幼少期からの思い出ではない。それよりもっと前…お母さんのお腹の中にいたころよりも、ずっとずっと前。


 65536回した転生の人生について、だった。


(正直、効率のいい人生と言う名のゲームクリア、としか考えていなかったし)

(それに…チート能力使っていたから、男も女も集まってきていたし)

(ハーレム、だったな)


 すごいすごいと褒めたたえられ、すぐに惚れられて相手もとっかえひっかえ自由で、世界は私を中心に回っていた。


(それが今は)


 私はわき役で、《不死》ではあるけど、魔力も力も何もない。

 チート能力を失った私は、丸裸の自分自身というものを否応なく晒し続けることになっている。


(だから)


 手が、握られている。暖かい手。柔らかい手。

 見る。

 レナが、じっと私を見つめてきてくれている。吸い込まれそうな、その若草色の瞳。私のことを、チート能力ではなく、リゼル、という私自身を見てくれている女の子。


(あ、そうか)


 なんか、分かってしまった。

 私は、別に女の子が好き、っていうわけじゃないんだ。

 私が好きなのは、レナなんだ。


(好きになった子が、たまたま女の子だっただけなんだ)


 私は指を絡めながら、レナを感じていた。私は、レナが好き。友達としてではなく、恋人になりたい、って思う方の、好き。

 レナが私のことをどう思ってくれているのかは分からないけど、でも、私はレナのことを想って、頑張っていこう。


(好きな人がいるって、こんなにまっすぐになれるんだ)


 そう思い、レオンを見る。


(チート能力もってて、かっこよくて、性格もいいし、めちゃくちゃ女の子にモテまくっているのに、どうしてよりによって、私なんか好きになったのかな…)


 申し訳ない、という気持ちが湧いてくる。

 もったいないな、とも思う。これは別に優越感とかから来る気持ちではなく、純粋に、レオンのことは大事な幼馴染だと思っているからだった。



 この日、レオンは恋に破れ、私は恋を自覚した。




■■■■■



「もういいかい?」


 両手両足の爪の手入れを終えたミラルカが、退屈そうにそう尋ねてきた。

 私もレオンもレナもヨシノも、みんな何とも言えない気まずいような心そわそわというか、そんな変な雰囲気だったので、この遠慮もなにもないミラルカの言葉は逆に私たちを救ってくれたのかもしれない。


「ああ、もういい」


 レオンが、静かに、しかしはっきりと答える。

 この言葉の中に込められた本当の想いはレオン自身にしか分からないことだろうし、それについて問い詰める資格は、少なくとも私には無かった。


「…まぁ、色恋沙汰で空中分解するパーティなんてのは、この500年の間で何度も何度も、それこそ飽きるくらい見てきたからね…」


 ミラルカはそう言いながら、髪をかき上げた。

 深紅のロングヘアが、流れるように滑り落ちていく。


「ある程度、着地点が見えたなら、それはそれでいいんじゃないかい?」


 そう言うと、ミラルカは私をじっと見つめてくる。まるで、全て分かっているからね、とでも言いたそうな、挑発的な瞳だった。

 ぎゅっと、隣にいるレナが私の指を包み込んでくるのが分かった。

 まるで、渡さないんだから、とでも言ってくれているみたいだった。可愛い。


「…別に《聖女》の大切な人をとろうとなんて思ってやいないから、安心してちょうだいな」


 私はもう、《不死》にはこりごりなんだからね、とつぶやくと、ミラルカはふいに部屋の端っこのほうでぴんと正座をしているヨシノに向かって語り掛けた。


「あ、マスター、もしもマスターが望むなら、私は大丈夫ですからね」

「だ、大丈夫とは何がでござるか?」

「全部、あげる、ってことですわよ」


 おほほほほ、と、からかうように笑う吸血鬼。耳まで真っ赤にしながら、からかわないで欲しいでござるというヨシノ。

 そんな私たちのやりとりを、優しくみつめてくれているレオン。


「じゃぁ、改めて、これからの方針を整理しようか」


 方針、というか、目的だけど。

 そういって、ミラルカは私に話題をふった。


「リゼル、あんたの望みはなんだい?」

「私は、《不死》を捨てたい」


 そして、みんなと一緒に、この生を生きる。

 それだけが望みで、そのためなら、なんだってする。


「俺は…リゼルの願いをかなえてやりたい」

「私は…リゼルの隣にいるよ」


 続けてこたえるレオンとレナ。

 この2人の後に、少し申し訳なさそうに、ヨシノが続ける。


「拙者は…申し訳ない、リゼル殿の想いは分かるのでござるが、それでも最優先にしたいのは、妹のことでござる」

「素直なマスター。そこが素敵ですわ」


 そういって、よしよしとヨシノの頭を撫でるミラルカ。やめるでござる、拙者は武士でござる、と抵抗するヨシノ。


「…では、まずは基礎をしっかり身に着けるのが、通り道のようで、近道ですわね」


 ヨシノの頭を撫でながら、ミラルカは私たちに向かっていった。


「あなた達は、確かに優れた才能がある。あ、リゼルは別よ。あなたには才能ないから」


 …いちいち言わなくても自分が一番分かっているよ、もう。


「けど、それでも、まだまだあなた達には圧倒的に足りないものがある。それが基礎であり、経験」


 そう言いながら、ミラルカはまた私を見つめてくる。どうせまた、あなただけはそれ以前の問題なんだけどね、と嫌味のひとことでも加えてくるんだろうな。


「…経験だけは、化け物がいるみたいだけどね」


 ぽつりと、そう呟く。つぶやいた後、「でも基礎はミジンコ以下だけど」としっかり付け加えてきた。むかつく。


「この王立魔法学園は、基礎を身に着けるには最高の環境よ」


 裏で繋がっていた私は、よく知っているからね。

 この吸血鬼は、もはや暗躍と癒着を隠す気もないようだった。


「ここで牙を研ぎ、刃を磨きなさい。経験と成長、それがあなた達の課題よ」


 ミラルカはぎゅっとヨシノを抱きしめる。

 マスターがこれ以上強くなられたら、私、どうなってしまうのかしらん、と軽口を叩いている。


「同時に、リゼルには私が個別で夜に特訓してあげる。昼間は学園で勉強、夜は吸血鬼自らの特訓」

「…あのー、私の睡眠時間は」

「別にあなたは《不死》だからいいでしょう」


 むしろ寝るくらいなら死になさい。

 ひどいことを言う。

 この鬼、悪魔、吸血鬼。


「それで、みんなの実力がある程度ついてきたと、私が確信を持てたなら」


 ミラルカは、笑った。

 笑って、笑って、その後。


「王立魔法学園、学園長、オズ・ハイドライドを、殺しましょう」


 と、私たちに告げたのだった。

 

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