世界大会、ラスボスは竜魔王
王都の外れ、大地を削り出して築かれた巨大円形闘技場――。
その中央で、クラリッサはゆるりと扇子を打ち鳴らし、朗々と声を張り上げた。
「これより――第一回大陸麻雀選手権を開幕する!」
その宣言と同時に、会場を取り囲む魔導陣が輝き、天空に巨大な光の幕が展開される。
牌の一つひとつが投影され、観客どころか、大陸の隅々まで中継が届く仕掛けだ。
観客席はただの石造りではない。魔導浮遊石に支えられ、いくつもの階層が宙に浮遊していた。
数十万の群衆が、王国の誇る魔法技術によって空に座し、興奮の声を轟かせている。
「すげぇ……! 卓が宙に浮いとる!」
「これがマージャン王国の力か!」
その光景は、ただの競技大会を超えていた。
大陸史上初めて、麻雀という遊戯が「戦い」として、そして「国威」として、
世界中の目にさらされるのだ。
クラリッサは満足げに微笑み、胸を張る。
――この瞬間、麻雀王国は「遊戯の聖地」から「世界の舞台」へと変わった。王座に立つクラリッサの声が、魔導拡声器を通じて大陸全土へ響き渡った。
「聞けや、世界の雀士ども!」
扇子を高く掲げ、金の髪を翻す。
「麻雀こそ我が国の国是! 卓こそ戦場! 和了こそ栄光や!
その理念を、この場で世界に知らしめたる!」
群衆が轟然と沸き、空中に浮かぶ観客席までも揺れる。
クラリッサはにやりと笑い、続けざまに告げた。
「優勝者には二つの栄誉を与える!
一つ、世界覇者の称号!
そしてもう一つ――好きな国を一つ、もらえる権利や!」
観客のざわめきは爆発に変わる。
「く、国を一つ!?」「そんな報酬聞いたことねぇ!」
「やるしかねぇ……! 命を賭けても和了る!」
各国から集った代表たちも、一様に目をぎらつかせた。
エルフの賢者は冷笑を浮かべ、獣人の闘士は牙を剥き、ドワーフの鉱王は杯を叩き割る。
――もはやこれは遊戯ではない。
一国を賭けた、未曾有の大陸決戦であった。
クラリッサの瞳は、すでに竜魔王の卓を見据えていた。
コロシアムの大扉が開かれ、巨大な魔導アナウンスが轟いた。
「――これより、第一回大陸麻雀選手権の選手入場を開始する!」
まず現れたのは、各国を代表する人間の雀士たち。王国のチャンピオン、帝国の軍師、砂漠都市の賭博師。皆、歴戦のオーラを纏って卓へと歩む。
続いて登場したのは――森の民、エルフの賢者。
「……麻雀とは、牌の流れを読む学問。ふむ、学者としても挑む価値がある」
杖をつき、冷ややかな瞳で会場を一望する。
ドワーフの鍛冶師たちは、分厚い手で牌を掴み上げ、豪快に笑う。
「ハッハ! 牌も鉄も叩き上げりゃ光るもんだ!」
獣人の戦士は牙を剥き、爪を牌に当てカチリと鳴らす。
「戦場が剣から卓に変わっただけだ。我らの血は必ず燃え上がる!」
さらに――会場がざわめいた。
海底から上がったマーメイドの歌姫が、濡れた髪を揺らしながら優雅に座る。
「波の流れも、牌の流れも同じこと。私に逆らうことはできませんわ」
そして、空が暗く覆われた。
――竜族。
漆黒の翼を持つ巨影が降り立ち、その爪が牌卓に触れただけで石が軋む。
「フン……下等種族ども。己が国を賭けるに足る遊戯か、試してやろう」
観客席から悲鳴と歓声が入り混じり、魔法のスクリーンが震えるほどの熱狂に包まれる。
クラリッサはバルコニーで満足げに笑んだ。
「……ええやん。人も亜人も竜も、みーんな同じ卓に着くんや。これこそウチの国是の証明や」
開会式 ― 麻雀の祭典
王都郊外の巨大コロシアム。
空を覆う魔導光がぱっと弾け、**「第一回大陸麻雀選手権」**の幕が切って落とされた。
「選手、入場ォォ――ッ!!」
アナウンスと同時に、魔法楽団が奏でる入場曲が鳴り響く。
――カラン、カラン、チリリーン!
……それは鐘の音ではなく、ドラ牌を打ち鳴らす音をアレンジしたものだった。
「おおおおおお!」
数十万の観客が沸き立ち、旗や横断幕を振る。
最初に入場してきたのは、各国の代表雀士たち。
人間の王国騎士団長、帝国の軍師、遊牧民の放浪ギャンブラー。
堂々と胸を張り、まるでオリンピックの選手のように行進する。
続いて――エルフの賢者が長杖を掲げ、ドワーフの鍛冶師は金槌を振り上げる。
獣人の戦士たちは雄叫びをあげ、マーメイドの歌姫は潮風の幻影を背負って登場。
彼らの一歩ごとに、場内の魔導スクリーンにその姿が大写しになる。
そして最後。
空から舞い降りた巨大な影――竜族。
翼をたたみながらコロシアム中央に降り立つと、観客の悲鳴と喝采が混ざり合った。
「……おお、竜まで来おったか」
ざわめく群衆を鎮めるように、ゆっくりと姿を現したのは、一人の老人。
長い白髭に、背中には古びた麻雀卓の天板を背負っている。
その眼光は冴え冴えとして、年齢を超越した迫力を放つ。
「――おお、あれは!」
「伝説の雀士、《牌仙》だ!」
会場がどよめく。
牌仙は空中に浮かんだ魔道マイクを掴み、静かに語り出した。
「諸君、ようこそ。ここに集いしは、人の知恵、エルフの魔術、竜の力……すべてを卓に集約する祭典じゃ。
勝敗を分けるのは武力ではない。牌の流れ、そして己の胆力。
――ただ一人、真の雀士が“世界覇者”となるのじゃ」
老人の声に合わせ、魔導具が空に巨大な牌山を投影する。
「おおおお!」と観客の声が波のように渦巻いた。
クラリッサは王家バルコニーから手を振り、勝ち誇ったように笑う。
「ふふん……開幕や。ウチの国が世界を熱狂の卓に引きずり込む瞬間や」
――麻雀の祭典は、いま始まった。
圧倒的な入場
決勝戦の舞台――。
突如として空が黒雲に覆われ、雷鳴が轟き渡る。
稲光がコロシアムを白く染めた瞬間、巨大な影が雲間を裂いて降臨した。
「ぐおおおおおおおおん――!」
それは、竜魔王リンドブルム。
広げた翼は観客席の半分を覆い、吐息一つで空気が震える。
観客席は悲鳴とどよめきでごった返した。
魔導スクリーンが自動で竜の姿を映し出すと、その圧倒的な存在感に誰もが息を呑む。
観客A:「うわああ! 本当に竜が来たぞ!」
観客B:「麻雀どころか、国を滅ぼせるやつやん!」
観客C:「え、これ……牌とか掴めるのか……?」
だが誰もが悟っていた。
――これこそが、決勝戦のラスボス。
「卓を囲む竜魔王」という、前代未聞の光景が幕を開けたのだ。 宣言
雷鳴と共に降り立った竜魔王リンドブルム。
その黄金の瞳が観客を一瞥しただけで、数万の民衆が息を呑む。
竜の喉奥から低く唸るような声が響き、やがて重厚な言葉となって大地を揺らした。
「――我が生涯、天和に始まり、天和に終わる。
今日、この卓にて、それを証明してくれよう!」
言葉が放たれた瞬間、会場が爆発したようにざわめき立つ。
観客A:「て、天和だと……!? 初手ツモで役満確定!?」
観客B:「そんなんチートやろ! 人間が勝てるか!」
観客C:「いやでも……もし本当にやられたら、伝説すぎる……!」
ざわつく観客をよそに、リンドブルムはゆっくりと竜の形態を解き、人型へと変化していく。
だが爪だけは鋭く残り、卓に置かれた牌をカリ……と削った。
「……ふむ。掴みにくいが、これもまた修行のうちよ」
その姿は長身の美丈夫――しかし圧倒的な覇気を放つ“麻雀の化身”だった。審判の要請
轟く咆哮がまだ観客の耳に残る中、壇上の一角から審判団が前に進み出た。
先頭に立つのは、白髪を逆立てた伝説の雀士――牌仙。
だがその表情は困り果てたように苦渋に満ちていた。
牌仙:「えー……竜魔王殿」
リンドブルム:「……なんだ?」
牌仙は喉を鳴らし、観客席を一瞥してから、意を決して告げる。
牌仙:「その……竜の姿のままでは、卓に近づくことができませぬゆえ……。
つきましては、対局は人型にてお願い申し上げます」
一瞬、会場に静寂。
――そして次の瞬間、どっと爆笑と拍手が巻き起こる。
観客A:「そりゃそうや! 竜の手で牌は掴めんわ!」
観客B:「あいつ一息で牌山吹き飛ばすやろ!」
観客C:「公式ルールに“人型限定”って追記される日が来るとはな……!」
リンドブルムはふん、と鼻を鳴らし、翼を畳んで悠然と人の姿へと変化する。
ただし――鋭い竜爪だけはそのまま残り、カリッ、と卓の牌を掴んでは削る音が響いた。
観客席から再び笑い混じりのヤジが飛ぶ。
「爪でツモるの、絶対反則やろ!」
「削れたら積み直しやぞー!」
しかし、その爪が放つ殺気に誰も本気で抗議できなかった。人型への変身
竜魔王リンドブルムは鼻で笑い、己の全身を魔力で包み込む。
眩い光がコロシアムを満たし、観客たちは思わず目を覆った。
――光が収まった時、そこに立っていたのは、威容も恐怖も別種の衝撃に変わる存在だった。
黄金の瞳に蒼銀の髪。長身で均整の取れた肉体。
その顔立ちはまるで神々の彫像のように端正で、息を呑むほどの美貌を誇っていた。
観客席から、悲鳴にも似た歓声があがる。
観客A:「……イケメンすぎて許す!!」
観客B:「いやいやいや! 待て! 爪そのままやんけ!」
そう、完璧な青年の姿の中でただ一つ――両手だけは竜の爪を残したまま。
鋭利な鉤爪がギラリと光り、触れるたびに牌がカリッ……と削れる音を立てた。
観客C:「爪でツモるの、絶対反則やろ!」
観客D:「いや、でもあれでリーチ棒突き刺されたら泣くわ」
笑いと悲鳴が入り混じり、会場は一層の混乱と熱狂に包まれた。
リンドブルムは涼しい顔で爪を見下ろし、静かに告げる。
リンドブルム:「……安心せよ。我が爪は、牌を斬り裂くためではない。
ただ、“運命”を掴み取るためにある」
――その一言で、ざわめきは一転。観客たちは再び息を呑み、竜魔王のカリスマに圧倒されていった。試合開始を前に、リンドブルムは爪で一枚の牌をつまみ上げた。
――カランッ。
するりと牌が滑り、危うく卓から場外へと飛び出しかける。
観客席から一斉に爆笑と悲鳴が巻き起こる。
観客A:「落ちる落ちる! ドラが場外や!」
観客B:「めっちゃ強そうなのに、爪で不器用とか反則やん!」
クラリッサは扇子で口元を隠し、肩を震わせて笑いを堪える。
その隣で、ミーナが小声で呟いた。
ミーナ:「……あれ、意外と不器用では?」
ジェロードは真顔で腕を組み、冷静に分析する。
ジェロード:「いや……逆にあの爪、手牌を完全に覆い隠す効果がある。
他者に読まれぬ利点とすらなり得るかもしれん」
クラリッサ:「ポジティブ分析すなや! 単にドジなだけやろ!」
観客からは「どっちやねん!」と総ツッコミの嵐。
決勝の緊張感のはずが、会場は一気にお笑い舞台のような空気に包まれるのだった。決勝への期待感
爪で牌を滑らせたドジを経てもなお、竜魔王リンドブルムの存在感は絶大だった。
その黄金の瞳が会場を睥睨した瞬間、観客席から轟音のような歓声が巻き起こる。
「うおおおおっ! 竜と人間の麻雀決戦やぞ!」
「歴史が変わる! 伝説の一局が始まるんや!」
観客は立ち上がり、旗を振り、鳴り物を打ち鳴らし、熱狂は天を衝く。
魔導スクリーンの中継を見ている大陸中の人々すら、画面越しに興奮で叫び声を上げていた。
その喧噪の中、クラリッサは悠然と椅子に腰かけ、扇子で口元を隠す。
その瞳は爛々と輝き、挑戦者を見据えていた。
「ふふん……ラスボス感、満点やな」
彼女の呟きは、魔道具を通じて全国中継に乗ってしまい、観客席に爆笑が広がる。
「ラスボス言うな!」
「いやもう、そのまんまラスボスやろ!」
会場は笑いと興奮が入り混じり、いよいよ決勝戦開始の鐘が打ち鳴らされる――。




