どないすんねん! ラスボス補正やん
審判が右手を掲げ、厳粛に声を響かせた。
「――配牌!」
魔法陣が輝き、牌が各卓に舞い降りる。観客席に張りつめた空気が走ったその刹那。
竜魔王リンドブルムは鋭い竜爪で配られた手牌を掴み――一瞥。
直後、喉奥から迸ったのは雷鳴そのもの。
会場の天蓋を震わせる轟音が炸裂する。
「――天和ッ!!!」
閃光が卓を駆け抜け、巨大な魔導スクリーンに「役満」の二文字が映し出された瞬間、観客席は爆発した。
「で、出たァァァァ!」
「チートやろ!! 初手役満とか聞いたことねえ!」
「竜魔王、ルール理解してんのか!?」
混乱と興奮が渦巻く中、竜王の黄金の瞳はただ冷然と輝いていた。
巨大コロシアムが揺れた。
まるで地震のような轟音は、歓声と悲鳴の混ざり合いだった。
観客は一斉に立ち上がり、手を振り上げ、口々に叫ぶ。
「で、出たぁぁぁぁぁ!!!」
「嘘やろ!? 初手役満とかチートやんけ!!」
魔導スクリーンには「天和」の文字が煌々と輝き、空中にまで牌姿が投影される。
それを見た別の観客が頭を抱えて絶叫した。
「いやいや、どないすんねん! ラスボス補正やん!」
「麻雀ってこういうゲームやったっけ!?」
悲鳴にも似た歓声が渦巻き、熱狂はもはや恐怖すら孕んでいた。
卓上の竜魔王は、そんな反応を楽しむかのように、黄金の瞳を細めて嗤う。轟音と悲鳴に包まれる会場のただ中、
ただひとり静かに、クラリッサは扇子を打ち鳴らした。
パチン――と乾いた音が響いた瞬間、熱狂の渦に妙な間が生まれる。
黄金の瞳で卓を睨む竜魔王に向かって、クラリッサは口角を吊り上げ、余裕の笑みを浮かべた。
「やっぱり言うた通りやんけ……ホンマに開幕天和狙ってきよったわ」
その声音は驚愕ではなく、むしろ愉快そうな冷笑。
観客のざわめきが再び爆発する。
観客A:「冷静すぎるやろ!? 相手竜やぞ!」
観客B:「この人、マジで楽しんでる……!」
まるで地鳴りのような観衆の反応を背に、クラリッサは扇子をひらりと舞わせた。
その姿は――竜魔王を前にしてもなお、王国の女帝であり続ける者の風格に満ちていた。竜魔王の開幕役満に観客が狂乱する中、
クラリッサだけが涼しい顔で扇子を打ち鳴らしていた。
その隣で、忠臣ジェロードは額に手を当て、深いため息を吐く。
「お嬢様、落ち着きを……」
彼の声は、竜の咆哮すら意に介さぬ静かな響き。
だが、その眉間には明らかな苦悩の皺が刻まれていた。
「まだ始まったばかりですぞ。開幕の一撃で勝負が決まるわけではない」
まるで騒乱の嵐を前にした一本の矢のように、
ジェロードの言葉は冷静で揺るぎない。
観客の一部が「確かに……」「そういやまだ東一局だ」と我に返し、
会場の熱狂はわずかに落ち着きを取り戻した。
クラリッサはそんなジェロードを横目に見て、
扇子の影からニヤリと笑みを漏らした。東二局。
竜魔王リンドブルムの長い爪が牌を掴み取った瞬間、
――雷鳴。
天空に閃光が走り、卓上に落とされた牌はまたしてもドラだった。
観客A:「またドラァ!?」
観客B:「おいおいおい……竜補正ってレベルじゃねぇぞ!」
続く一巡、彼がツモ山に爪をかけるたびに、
まるで運命そのものが従っているかのように必ず有効牌が舞い降りる。
手牌はみるみるうちに整い、
積み上がる牌の音が観客の心臓を叩く太鼓のように響いた。
「我が手に集うは、万象の理――」
リンドブルムの声が重く低く響き、
まるで竜の咆哮が天を揺らしているかのように観客席を震わせる。
周囲の雀士たちはその威圧に耐え切れず、
顔を青ざめさせながら、次々と降りていく。
「あんな化け物に振り込んだら命がない……!」
卓上は、竜魔王とただ一人――クラリッサだけの空間と化していった。東二局、竜魔王リンドブルムの背後に、目に見えぬ竜威が立ち昇る。
ただ座って牌をつかむだけで、空気が重く、呼吸すら苦しくなる。
周囲の雀士は、その威圧感に耐えられず――
「ひっ……!」
「ムリだ、手が震えて牌が……!」
一人、また一人と完全に降りに回る。
観客席に映し出された魔導スクリーンの中で、リンドブルムの爪がツモ牌を掴むたびに雷鳴が鳴り響く。
そのたびに手牌は信じられない速度で完成形へと近づいていった。
解説席の牌仙ですら、長い白髭を震わせて呻く。
牌仙:「こ、これが……竜の血脈に宿る“運の暴力”か……。
もはや理屈では説明できぬ。引くべき牌を引くのではなく――引かれるべき牌が、奴の爪に吸い寄せられておる……!」
観客は戦慄し、誰もが悟った。
――この竜の前に凡百の雀士など無力。
しかし、ただ一人。
クラリッサだけが、扇子で口元を隠しながら笑っていた。東二局――。
竜魔王リンドブルムの背後から迸る圧力は、もはや竜巻のごとき威圧感。
爪がツモ牌を掴むたびに「ゴロゴロ……」と雷鳴が会場に木霊し、空気そのものが重くなる。
最初に折れたのはエルフ代表だった。
透き通るような銀髪を揺らしながら、しかし顔は蒼白。
エルフ代表:「……無理だ、降りる。精神がもたん……」
次に、筋骨隆々のドワーフ代表。
分厚い腕で卓を叩きつけんばかりの気迫を持っていたはずが、竜の眼光を受けた瞬間、肩を落とす。
ドワーフ代表:「だ、ダメだ……! 牌そのものが竜の気迫に呑まれちまう……!」
そして最後に、獣人代表の戦士が牙を食いしばりながら呻いた。
獣人代表:「……勝てる気がせん……ワシら凡夫じゃ、竜の運に踏み潰される……」
三人とも手を震わせ、実質的に守備に徹するしかなくなる。
卓上に広がるのは「竜魔王 vs クラリッサ」の構図。
観客席からはどよめきと共に、
「他家、全員ビビって降りたぁぁぁ!」
「もう竜と王女の一騎打ちやん!」
という声が上がる。
卓上に残る牌の火花――。
勝負を放棄した他家の沈黙が、かえって竜と王女の対峙を際立たせていた。
だが、その中でただ一人、クラリッサだけは笑顔。
牌を弄びながら、むしろ楽しげに竜魔王の攻めを受け止める。東三局――。
卓上を支配する竜の威圧。
他家は手牌を伏せ、視線すら合わせられぬまま降りていった。
誰もが息を詰め、竜魔王リンドブルムのツモる音に怯えたその瞬間――。
ただ一人、クラリッサだけが違っていた。
白磁のような指先で牌を弄び、扇子を口元に当てて微笑む。
その表情には恐怖も緊張もなく、むしろ心の底から愉しげな色が浮かんでいた。
クラリッサ:「おもろいやん……この“卓”、ようやく本気で遊べる相手が来たわ」
カシャン、と軽やかに捨て牌を放つ音。
まるで音色すら竜の雷鳴を笑い飛ばすかのように響いた。
リンドブルムは鋭い瞳を細め、興味深そうにクラリッサを見下ろす。
その爪に掴まれた牌がギリリと軋むたび、観客席はざわめきを増すが――
クラリッサは怯まず、にこりと微笑んで言葉を続ける。
クラリッサ:「竜の運やろ? ウチのイカサマスタイルが通用するか、試したろやないの」
雷鳴のような竜の気配と、舞うような王女の指捌き。
卓上は今まさに、「竜」と「人」とが対等に相対する舞台となった。
竜魔王リンドブルムが鋭い声で告げた。
「――リーチ!」
その瞬間。
ゴロゴロゴロッッッ!!
空が裂け、雷鳴が轟き、まるで大地すら震えるかのように巨大な稲光が会場に直撃した。
轟音と共に、魔導スクリーンが一瞬ブラックアウトし、観客席から悲鳴が上がる。
「きゃあああっ!」
「スクリーンが死んだ!? 配信止まったぞぉぉ!」
さらに、卓上に突き立てられたリーチ棒がビリビリと震え、次の瞬間――黒煙をあげて焦げ付いた。
ミーナは真っ青になり、声を裏返らせる。
「り、リーチ棒が……焦げましたぁぁぁっ!」
ジェロードは即座に立ち上がり、冷静を装いながら叫ぶ。
「火事です!! ……いえ、これは竜王の演出です!」
その妙に説得力のある言葉に、観客席は悲鳴と爆笑が入り混じる大混乱となった。
半分は恐怖で、もう半分は「ショーとしては最高だ」という熱狂。
まるで地獄とサーカスが同時に開幕したような会場の空気に、クラリッサは扇子を軽く打ち鳴らして――口元に笑みを浮かべた。




