「竜魔王からの挑戦状」 王国の安定とクラリッサの余裕
王都の中央広場。
あれほど混乱を招いた役満免税制度も、今や日常の一部と化していた。
農民も商人も、官吏も子供も――誰もが当たり前のように牌を握り、笑い、泣き、勝敗に一喜一憂している。
通貨は「点(pt)」に統一され、市場では「焼き鳥三百点!」「赤ドラ札でお釣りなし!」と声が飛び交う。
もはや人々の呼吸そのものが麻雀と同調していた。
その光景を、王城の高きバルコニーから見下ろすひとりの少女――建国の旗手にして“雀帝”と呼ばれる女、クラリッサである。
「……ふふん」
扇子で口元を隠しながら、彼女は満足げに微笑んだ。
群衆のざわめきは、耳に心地よい牌の音にも似ている。
風にたなびく白牌の旗が、あたかもこの熱狂を祝福するかのように翻った。
クラリッサ(心中):
「ふふん、ウチの国策は完璧や。これからは世界もウチに注目するで」
その瞳には、不遜ともいえる自信と、次なる「勝負」への渇望が宿っていた。
夕暮れの王城。
白牌の旗が赤く染まるその時、慌ただしい足音が謁見の間へと駆け込んだ。
「お嬢様、大変です!」
鋼の甲冑を鳴らし、額に汗を滲ませながら飛び込んできたのは軍師ジェロードだった。
いつも冷静沈着な彼の顔が、今は切迫した緊張に覆われている。
クラリッサは玉座に肘をつき、涼しげな笑みのまま視線だけを向けた。
「……何や、ジェロード。そんな慌てて。ウチの国民がまた卓囲んで役所をサボっとるんか?」
ジェロードは深く首を振り、声を低く響かせる。
「いえ……今回は次元が違います。竜魔王――あの災厄の存在が、挑戦状を携えて姿を現しました!」
「竜魔王……!?」
隣に控えていたミーナが小さく悲鳴をあげる。
その顔は蒼白に染まり、細い肩が震えた。
「ま、まさか……国を滅ぼすために戦争を仕掛けてくるのですか……!?」
謁見の間に緊張が走り、兵士たちがざわめく。
だがクラリッサだけは変わらず、頬を指でなぞりながら小悪魔のように笑みを浮かべた。ジェロードの差し出したのは、分厚い黒曜石の石板だった。
その表面には深々と爪痕が刻まれ、まるで大地そのものが裂けたかのような荒々しさを帯びている。
「竜魔王からの……挑戦状です」
兵士たちがごくりと唾を飲み込む中、クラリッサは石板を受け取り、目を走らせた。
そこには、古代の刻印のように浮かび上がる文言――
「次なる覇者を決するは武力にあらず。
卓上にて、真の王を定めん。」
一瞬の沈黙。
だが次の瞬間には城下が大きく揺れるほどのざわめきが国中を覆った。
「竜魔王すら……卓を囲むのか!?」
「いや、聞いたぞ。あいつら、牌を爪で掴むらしい……!」
「ドラ扱いどころか、あんなのチョンボやろ!」
噂は瞬く間に広がり、畑にいた農民も、卓に張り付いていた学生も、誰もがその話題で持ちきりとなった。
人々の間に生まれたのは恐怖と興奮が入り混じる、得体の知れぬ熱狂だった。
クラリッサは石板をぱしんと片手で打ち鳴らし、唇を歪める。
「……ほぉん。ええ度胸やん、竜魔王。卓上の王決定戦、受けて立ったるわ」王座の肘掛けに身を預けながら、クラリッサは報告を聞き終えるや否や、くいっと口角を持ち上げた。
その笑みは、群衆を煽り建国を宣言したあの日と同じ、悪魔的な輝きを放つ。
「ふふん……待っとったで。次の“客”は竜魔王やなんて、話が盛り上がるやん」
場を覆っていた緊張は、彼女の声によって一瞬にして色を変えた。
ミーナもジェロードも顔を見合わせるが、クラリッサだけは余裕の笑みを崩さない。
そして、扇子をぱしんと打ち鳴らし、半眼でツッコミを放つ。
「けどなぁ……あいつら、絶対“ドラ”扱いしてくるやん。反則くさいで」
広間に微妙な間が生まれる。
ジェロードは額を押さえ、ミーナは思わず「そこですか!?」と声を裏返した。
だがクラリッサにとって、これは恐怖ではなく最高の舞台装置。
竜魔王ですら卓に引きずり込むこの国の狂気を、彼女自身が最も楽しんでいた。広場では、挑戦状の噂がまたたく間に広がり、民衆の興奮は頂点へと達していた。
「竜魔王が!」「麻雀で国を賭けるんだと!?」「もはや戦争やない、祭りや!」
子供から老人まで、皆が顔を紅潮させ、熱気に包まれる。
その熱狂を背に、クラリッサは堂々と玉座の前に立ち、腕を広げて高らかに宣言する。
「よっしゃ! ウチらの“卓”は国を越えて、世界にまで広がったんや。
次は――竜魔王と打ったる!!」
言葉が落ちた瞬間、群衆は割れるような歓声を上げた。
太鼓が鳴り響き、旗が揺れ、王国全体がひとつの“祭り”に変わっていく。
そして画面は暗転し、燃えるような文字が浮かび上がる。
――次章「世界大会、ラスボスは竜魔王」へ続く。




