基本の単位は、すべて“点(pt)”や
「さて――国を名乗る以上、必要なんはただ旗や軍だけやない。
せやろ? 金や。通貨や。」
群衆が一斉にどよめく。
「……金?」「税か?」「やっぱりそう来たか!」とざわめく声。
クラリッサは大仰に扇子をひらりと広げ、挑発的に言い放った。
「このマージャン王国では――すべての通貨を“点”に統一する!
麻雀を国是とする以上、通貨もまた麻雀基準やなければアカン!」
一瞬ぽかんとした群衆。だが次の瞬間、笑い混じりの興奮が爆発した。
「点!?」「本当に点数で商売するのか!」「面白ぇ!」
旗の「白牌」が風に揺れるなか、クラリッサの声が広場を貫く。
「打てば栄え、和了れば潤う! この国の経済は、麻雀そのものと共に回るんや!」
――その瞬間、ただの奇抜な建国が、現実の“制度”として刻まれた。
クラリッサは、舞台袖から従者に合図を送った。
次の瞬間、兵士たちが紅布に包まれた長机を運び込み、その上に整然と並べられた新札を披露する。
観衆がざわめく。
クラリッサは扇子で布を払うと、堂々と宣言した。
「まず――基本の単位は、すべて“点(pt)”や!」
ざわつく群衆。「点て……あの点数のことか?」と声が飛ぶ。
クラリッサは得意げに指先で一枚の札を摘み上げた。
「これが一千点札。見てみぃ、リーチ棒そのままや! 勝負を挑む心意気を、通貨に刻んだんや!」
白く細長い札に「リーチ」の文字が赤々と踊る。観客席からは「おおっ!」と笑い混じりの感嘆。
続いて彼女は赤く染まった札を掲げる。
「こっちは五千点札。見てわかるやろ? 赤ドラ、赤五筒や! 引けば嬉しい、この国の景気をも加速させる幸運の札や!」
群衆が口々に「赤ドラ!」「欲しい!」と盛り上がる。子供が「お小遣いは赤ドラで!」と叫び、笑いが広がる。
最後にクラリッサが誇らしげに取り出したのは、豪奢な装飾が施された札。
「そしてこれが――一万点札。描かれとるんは“満貫”の和了形や!
努力と勝負の果てに得られる大きな果実を、国の象徴にしたんや!」
静寂。次の瞬間、爆発的な歓声が広場を揺らした。
「満貫だぁ!」「金より夢がある!」「こんな通貨、世界のどこにもねえ!」
旗の「白牌」が再び大きくはためき、クラリッサは胸を張って高らかに笑った。
「さあ、打って、稼いで、使うんや! この国の富も運命も――麻雀の卓のごとく巡り続けるんやからな!」建国から数日。クラリッサの打ち出した「点(pt)通貨」は、驚くべき速さで人々の暮らしに浸透していった。
両替所の光景
石造りの小屋に「点両替所」と染め抜かれた暖簾。
観光客の旅人が恐る恐る窓口に差し出したのは、金貨数枚。
店員は真顔で帳簿をめくりながら、抑揚のない声で告げる。
「お客様、リーチ棒はおいくらに両替なさいますか?」
旅人は思わず吹き出した。「リ、リーチ棒!? 通貨の単位が棒なのか!?」
しかし後ろに並ぶ地元民は平然と答える。
「ワシは二本。昨日のツモが良かったんでな」
「おいらは赤ドラ札にしてくれ」
観光客は口をあんぐり開けるしかなかった。
市場のやり取り
広場の市場もすっかり“麻雀経済”に染まっていた。
焼き鳥屋の威勢のいい掛け声が飛ぶ。
「焼き鳥一本、三百点ね!」
「安っ! こりゃオーラスで逆転やな!」
買い物客も冗談めかして「じゃあ三本でリーチかけるわ!」と返す。
隣の八百屋では「ナス二本で五百点、ドラ乗せで千点だよ!」と、もはや値札より点棒感覚が優先されていた。
麻雀用語が、自然と日常会話に溶け込んでいく。
通貨の裏事情
だが、この奇抜な通貨にも裏設定があった。
五千点札――俗に“赤ドラ札”。鮮烈な赤五筒の図柄は人々に人気だが、赤インクが異様に高価で、製造コストは一万点札に迫る。
財務官僚は頭を抱えるが、クラリッサは「ええやん、華があるし」と一笑に付した。
一方、一万点を超える特別紙幣――“役満札”は、国家の宝物として金庫に保管されている。
贋作を作ろうとする者も後を絶たないが、不思議なことに必ず最後には大負けし、麻雀の神に振り込むというジンクスがまことしやかに囁かれていた。
そして、誰もが気づき始めていた。
この国の経済は、ただの麻雀の真似事ではない。
勝敗と運命を“点”に変換し、日常そのものを卓上の縮図に変えようとしているのだと――。




