マージャン王国建国宣言
舞台:領地中央の広場。
ふだんは市場が立つ場所だが、今日は特設の高座と演壇が組まれ、紅白の幕や提灯風の装飾で祭礼のような雰囲気。
村人だけでなく、商人、旅の吟遊詩人、他領からの役人まで集まり、人口の数倍の熱気。
村人たち:「嬢様が何を始めるんだ?」「新しい税か? それとも祭りか?」
旅人たち:「“悪魔令嬢”と呼ばれる人間を一目見よう」「国を作るって噂もあるらしいぞ」
従者・兵士:緊張気味に周囲を警戒。だがどこか誇らしげ。
子供たち:風にはためく大きな白牌の旗を指差して「でっかいサイコロみたい!」と笑う。
太鼓が打ち鳴らされ、クラリッサ登場の予告。
群衆が静まり返る中、クラリッサがゆっくりと高座に上がる。
背後には巨大化した「白」牌を模した国旗。
村人:「……なんだあれ」「ちょっと間抜けだが、忘れられんデザインだ」
旅人:「一目で“麻雀の国”とわかる……象徴には悪くないな」
群衆を見下ろし、堂々と口角を上げるクラリッサ。
彼女の目に映るのは熱狂ではなく、まだ半信半疑の民衆の顔。
心の中で「ええやん……ここから全部、ウチが飲み込んだる」と呟き、悪魔的な笑みを深める。
広場は、まるで別世界に生まれ変わっていた。
ふだんは市場が立ち、野菜や布、羊の鳴き声が飛び交うありふれた場所。だが今日は違う。
中央には木製の高座と演壇が組まれ、紅白の幕が風にひらめき、頭上には異国の提灯を真似た飾りが吊られている。さながら大祭の舞台――否、それ以上の熱気を放つ空間だ。
人々は押し寄せた。村人はもちろん、遠くから噂を聞きつけた商人、歌を求める吟遊詩人、そして他領の役人まで。
その数は領地の人口を優に上回り、広場は身動きの取れぬほどぎっしりと埋め尽くされている。
「……こりゃすげえな。」「一体何が始まるんだ?」
ざわめきが波となり、やがて熱狂となって空へ昇っていく。
この場に立つ者は皆、ひとつの予感を抱いていた。
――今日は、ただの催しではない。歴史が動く瞬間になるのだ、と。
高座に立ったクラリッサは、ゆっくりと視線を巡らせた。
眼下に広がるのは、ぎっしり詰めかけた群衆。
だが――そこに宿るのは熱狂ではなく、まだ掴みきれぬ戸惑いの色。
「嬢様は何を言うんだ……?」
「本当に国を作るつもりなのか……?」
小声で囁き合う村人たちの目には、期待と不安がないまぜになって揺れていた。
旅人たちは腕を組み、面白半分の視線を投げる。
「見せてもらおうじゃないか、“悪魔令嬢”とやらの器を」
そのすべてを、クラリッサは飲み込むように睥睨した。
――熱狂や歓声など、まだいらん。
――不安も疑念も、全部まとめてこの手でひっくり返す。
心の奥でそう呟くと、クラリッサの口元はさらに歪み、悪魔的な笑みが深まった。
まるで「この瞬間から、すべてはウチの舞台や」と告げるかのように。
太鼓の連打がぴたりと止む。
ざわめきも笑いも、すべてが凍りついたように静まり返る。
高座の上、視線を一身に浴びながら、クラリッサはゆっくりと一歩を踏み出した。
赤いドレスの裾が翻り、陽光に照らされて輝く。
一拍――息を呑むような間を置いて、彼女は口角を釣り上げる。
悪魔的な笑みが広場全体を支配した。
「……聞け」
その声は、さきほどまでの喧騒が嘘のように朗々と響き渡り、広場を埋め尽くす群衆の胸を直撃した。
人々は息を詰め、ただ次の言葉を待つ。クラリッサは胸を張り、声を高らかに放った。
「聞け! 本日より――この地は**“マージャン王国”**とする!」
その一言が雷鳴のように広場を貫く。
一瞬、群衆は呆気に取られたように沈黙した。
やがて誰かがぽつりと呟く。
「……マージャン?」
「王国?」
困惑とざわめきが広がる。顔を見合わせる者、眉をひそめる者、そして半信半疑で笑い出す者まで。
だが、その混乱は長く続かなかった。
「嬢様が……本当に国を作るってことか!?」
「悪魔令嬢が建国宣言だと!」
熱が走り、波のように広場を包んでいく。
さっきまで「間抜けだ」と笑っていた旗も、今や王国の象徴として誇らしく見える。
群衆のざわめきは、やがて熱狂に変わっていった。
群衆の熱が最高潮に達する前に、クラリッサはさらに一歩踏み込み、声を張り上げた。
「我が国の国是は――ただ一つ!」
高座の上で、腕を大きく広げ、悪魔的な笑みを浮かべる。
「打てば打つほど国は栄える!
麻雀こそ我らの力、卓こそが戦場、そして――和了こそが栄光や!」
その言葉が、広場全体を稲妻のように駆け抜けた。
一瞬の沈黙の後、爆発するような大歓声が巻き起こる。
「おおおおおッ!」
「麻雀が……国の力だと!?」
「なんてアホらしい、でも熱い……!」
村人たちは拳を振り上げ、旅人は口笛を鳴らし、子供たちは旗を指差してはしゃぐ。
従者や兵士でさえ、誇らしげに胸を張っていた。
――こうして「麻雀」を根幹に据えた奇妙な王国が、ここに誕生した。クラリッサの声が広場の石畳に反響し、風にはためく巨大な白牌の旗が鳴った。
一瞬、群衆は息を呑み――
次の瞬間、爆発のような歓声が湧き上がる。
「おおおおおッ!!!」
村人たちは両手を天に突き上げ、涙ぐむ者までいた。
「嬢様が国を……! ワシらが国民や!」
「農民が国民になる日が来るなんて!」
子供たちははしゃぎながら飛び跳ねる。
「国だ! 新しい国ができたんだ!」
「旗、でっかいサイコロみたいでかっこいい!」
旅人は呆れたように肩をすくめる。
「馬鹿げている……だが、妙に心を揺さぶられる!」
「これが“悪魔令嬢”のカリスマか……」
そして、最前列に並んでいた隣領の役人たちは顔を見合わせ、声を潜める。
「……これは笑い話では済まぬかもしれぬ」
「下手をすれば、本当に一国が誕生するぞ……」
熱狂と困惑と畏怖――その全てを飲み込み、広場はひとつのうねりとなって渦巻いていた。
歓声が最高潮に達したその瞬間、突如として強い風が吹き抜けた。
背後の巨大な「白」牌の国旗が、大空に応えるようにはためく。
布がばさりと翻るたび、白の一文字が陽光を反射し、広場の群衆すべての瞳に焼きつく。
「まるで……旗そのものが国の誕生を祝っておるようだ!」と誰かが叫び、さらに熱気は膨れ上がった。
高座に立つクラリッサは、群衆の渦の真ん中で微笑む。
その表情は悪魔的に、だがどこか慈愛すら漂わせ――
(……これでええ。この熱気、この混沌、この期待。ぜんぶウチのもんや)
頬をかすめた風が髪を揺らし、彼女の笑みをさらに妖しく引き立てていた。
広場にまだ歓声の余韻が渦巻く中、クラリッサは再び演壇に立ち、片手を高々と掲げた。
その悪魔的な笑みは、先ほどの建国宣言をさらに上塗りするように鮮烈だ。




