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転生悪役令嬢、麻雀で異世界を制す!  作者: 南蛇井


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砂漠の巨漢編 異国の雀士 ― 砂漠の民・ジャハール

砂漠の彼方、灼熱の陽光を浴びながら進む一団があった。

砂塵を巻き上げる駱駝の列。その先頭に座す巨躯の男こそ――砂漠の部族を束ねる戦士、ジャハールである。


彼は真昼の太陽のごとき鋭い眼光を放ち、手に一枚の瓦版を握りしめていた。

そこに踊る見出しは――


『悪魔令嬢、竜族を破り領地奪取! “麻雀王国”建国か!?』


「……ほう。強者がいる、と聞けば黙ってはおれぬ」

低く響く声は、砂漠の風をも震わせる。


部族の戦士たちがざわめいた。

「ジャハール様、まさか……」

「はい。麻雀とやらで国を作る女……その者を討つ!」


ジャハールは白い歯を見せて豪快に笑い、瓦版を砂に突き刺す。

「砂漠の民は誇りを賭けて戦う! 強き者が現れたなら、我が拳……いや、この牌で叩き潰すまで!」


烈風が吹き抜ける。

その声は、遠く“麻雀王国”の都まで響き渡るかのようだった。村の大広間――。

昨日までは祝宴のざわめきで満ちていた空間が、今日は別の熱気に包まれていた。


ギィイイ……と扉が開き、砂塵を纏った巨躯が悠然と歩み入る。

漆黒の髪を後ろで結い、褐色の肌は砂漠の太陽に鍛えられた鋼鉄のごとし。

その目に宿る闘志だけで、場の空気が張り詰める。


「――我が名はジャハール!」

大広間に轟く声は雷鳴そのもの。

「砂漠の覇者にして、部族最強の雀士! 悪魔令嬢クラリッサ、貴様を倒し、この“麻雀王国”を我らのものとする!」


観客たちはどよめいた。

「な、なんだあの巨漢は!?」

「見ただけで心が折れそうだ……!」

「腕の太さ、丸太やんけ……!」


だが当のクラリッサは、いつも通りの余裕の笑みを浮かべていた。

顎に手をやり、悪戯っぽく口角を吊り上げる。


「国盗りに来るんはええけどな……」

彼女はすっと立ち上がり、ジャハールの視線を真正面から受け止める。

「――麻雀で、ウチに勝てる思とるんか?」


ピシリ、と大広間を走る緊張。

砂漠の覇者と悪魔令嬢――

“国”を賭けた新たな勝負の幕が、今切って落とされた。卓が整えられ、いよいよ牌が配られる。

ジャハールの大きな手が牌山を崩すたびに、ゴトリと響く音が異様に重い。


開始早々――彼は鳴いた。

ポン! チー! カン!

場のあちこちで木霊する宣言に、観客がどよめく。


「は、早ぇ……!」

「まだ一巡目だぞ!?」

「鳴きすぎやろ……!」


クラリッサも思わず片眉を上げた。

「ふむ、せっかちさんやな……」


だが、すぐにその意味を理解する。

ジャハールは無理矢理にでもテンパイを目指すのだ。

その姿は、砂嵐に突っ込んで道を切り開く砂漠の戦士そのもの。


そして――。


「来いッ!」

ジャハールの声とともに、彼は山から力強く牌を引き抜いた。

次の瞬間、彼の口がにやりと裂ける。


「――ツモォ!」


卓上に叩きつけられたのは、白・發・中。

三枚並んだ瞬間、場に衝撃が走る。


「大三元……!?」

「序盤で役満だとッ!?」

観客総立ち。息を呑み、誰もが信じられないと目を疑う。


ジャハールは腕を組み、誇らしげに言い放った。

「砂漠では迷うより進む! それが生き残る道よ!」


その豪運と豪快さに、広間の空気は完全に彼のものとなった。

だがクラリッサだけは、口元に余裕の笑みを残している。


「……ほぉ。派手に暴れるやっちゃな」

卓の空気がじわじわと熱を帯びていく。

序盤で役満を炸裂させたジャハールは、その勢いを衰えさせることなく、荒々しく牌を切り続けていた。


「ポン! チー! ……フン、ツモだ!」

彼の打牌はあまりにも無秩序。理屈も定石も存在しない。


クラリッサは冷静に牌を見つめ、必死に読みを巡らせる。

(次は……いや、ちゃうな。せやったら……あかん、また外れや)


予測はことごとく裏切られた。

ジャハールはまるで風そのもの――砂嵐のように、進む道を誰にも読ませない。


「……お嬢様」

後方で見守るジェロードが、低くつぶやいた。

「これは、もはや“運”そのもの。理屈では太刀打ちできません」


隣でミーナが、今にも泣き出しそうに両手を握りしめる。

「お嬢様が負けちゃう……! 麻雀王国が……!」


観客たちもどよめきながらクラリッサを見つめる。

一時の勝者が今、巨漢の異国雀士に押され続けている――その光景は誰の目にも明らかだった。


クラリッサは額にかかる髪を指で払いつつ、苦笑する。

「……運任せの暴れ馬、っちゅうわけか。おもろいやん……」


彼女の目に宿る光は、まだ消えてはいない。

砂漠の覇者ジャハールの豪運に、悪魔令嬢はどう挑むのか――。

砂嵐のような豪運に押され続けるクラリッサ――しかし、その瞳がふと鋭く細められる。


(なるほどな……ジャハール、あんたは強運や。せやけど……砂嵐は方向も定まらん。ただ吹き荒れるだけや)


彼女の唇がゆっくりと釣り上がる。

「砂漠で道を外せば命取りや。せやけど――ウチは道を作る側や」


次の瞬間から、クラリッサの打ち筋が変わった。

派手さはなく、ただ淡々と小さな和を積み重ねる。安手でも確実にツモり、点差をじわじわと詰めていく。


「チマチマ稼いでどうする!」

ジャハールは吠えるが、その豪快さが裏目に出始めていた。大きな手を狙うあまり、彼の河は隙だらけ。


「……っ、なぜだ! また安手か!」

観客が驚きとともに叫ぶ。

「嬢様、地味だけど……削ってるぞ!」

「少しずつ点数が……!」


そして――最終局。

ジャハールの目は再び役満の光に燃えていた。大振り、狙うは一撃必殺。


「これで決めるッ!」


彼が勢いよく牌を叩きつけた瞬間。


「ロンや」

クラリッサの声は、静かで、それでいて雷鳴のように響いた。


卓上に並べられる美しい和了形。

それは、ジャハールの無謀な大役狙いを読み切り、見事に仕留めた一撃だった。


「ぐ……ぬぬ……!」

ジャハールの巨体がぐらりと揺れる。


クラリッサは涼しげに扇を広げ、勝者の余裕で笑った。

「ウチは砂漠を彷徨うんやなく……道を拓いて、勝ち筋を作るんや。覚えとき」


観客の大歓声が爆発する。

砂漠の覇者すらも屈服させた悪魔令嬢の勝利――マージャン王国の名は、ますます大きく広がろうとしていた。

卓上に吹き荒れる、砂嵐のような豪運。

ジャハールはその波に乗り、派手な役を次々と叩き込んでくる。


だが――クラリッサはその風の向こうに、確かな“ほころび”を見た。


「……ふん。運は確かに強い。せやけどな、あんた……細かい流れは見とらん」


唇をつり上げ、悪魔的に笑う。


「砂漠で道を外せば命取りや。せやけど……ウチは道を作る側や」


そこからクラリッサの打牌が変わった。

高得点を狙わず、リーチすらほとんどかけない。だが安手を着実にアガり続ける。


一局、一局。

点数はじわじわと削られ、ジャハールの派手な稼ぎは次第に飲み込まれていった。


「くっ……なぜだ! 小さなアガリばかりで……!」

「点差が縮まってる!?」観客の驚きの声が飛ぶ。


そして――最終局。

ジャハールは吠えた。

「ここで終わりだ! 俺は大三元を決めるッ!」


豪快に抱え込んだ手牌、その一点突破。

だが、それこそが罠だった。


「ロンや」


静かな、しかし確信に満ちたクラリッサの声。

卓上に示されたのは、彼女が張り巡らせた鋭い罠。


「ウチは嵐に流されん。流れを操って、道を拓くんや」


打ち込んだ瞬間、巨漢ジャハールの顔が凍りつく。

観客は一斉に総立ち、拍手と歓声が大広間を揺らした。


悪魔令嬢、見事な逆転勝利――!「――リーチ。一発、タンヤオ、ドラ!」


クラリッサの指先が、牌を弾くように卓上へ叩きつける。

次の瞬間、場に静寂が走った。


「跳満や!」


その宣告と同時に、点棒が一気に動き――逆転。

勝敗は明白だった。


「なっ……」

ジャハールの巨体が、ぐらりと揺れる。

観客は息を呑み、視線が一点に集まる。


数秒の沈黙。


――そして。


「ハーッハッハッハッハ!」

ジャハールは天井を仰ぎ、豪快に笑った。

その響きは敗北の悔しさではなく、清々しい喝采。


「見事! 見事だ、クラリッサ!」

ドンと胸を叩き、堂々と宣言する。

「砂漠の覇者ジャハール、この敗北を潔く認める! 砂漠の誇りにかけて……我が部族はお前に従おう!」


「おおおおおおおっ!!」

大広間に拍手と歓声が爆発した。


「嬢様がまた勝った!」

「これで砂漠の民まで味方に!?」


興奮の渦に包まれる中、クラリッサはゆっくりと立ち上がり、勝者の微笑みを浮かべる。


「ふふん……せやろ?」


その笑みは――新たな国の地平を切り開く、悪魔令嬢の笑みだった。

翌日。

村に運び込まれた最新の瓦版が、人々の間で回し読みされていた。


大見出しには――


『悪魔令嬢、砂漠の巨漢雀士を屈服! 国際麻雀同盟、誕生の予兆か!?』


という刺激的な文言。


「お、お嬢様がまた載ってるぞ!」

「砂漠の部族まで仲間になったんだってよ!」

「こりゃあ、ほんとに国がデカくなるかもしれねぇな……!」


ざわつく群衆の声を背に、クラリッサは悠然と瓦版を片手に微笑んでいた。


隣で腕を組むジェロードが、低く呟く。

「……嬢様。各地の強者が、この噂を嗅ぎつけ集まるでしょう。

 麻雀で国を奪い合う――“麻雀戦国”の時代が、訪れますぞ」


その言葉に、クラリッサの口元がつり上がる。

まるで新たな混沌を歓迎するかのように。


「……ええやん」

紅の瞳が、獲物を見据える狩人のように輝く。

「もっとおもろなってきたわ!」


大広間の外では、再び国旗代わりの「白牌の旗」が風にたなびいていた。

悪魔令嬢の建国譚――その波紋は、いよいよ世界を呑み込み始めていた。


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