麻雀王国建国
広場は、すでに人で溢れかえっていた。
昨日の竜族との麻雀勝負の噂は、村中どころか近隣からやって来た旅人や商人までを巻き込み、見物人でぎゅうぎゅう詰めだ。
広場の中央には、荷馬車をそのまま改造しただけの簡素な壇上が設けられている。
木の板はまだ釘が甘く、誰かが足を踏み鳴らせばギシリと心許ない音を立てる。
「おい、何が始まるんだ?」
「嬢様がまた何か仕出かすって話だぞ」
「まさか竜族の次は、人間相手に戦争でも……?」
観衆のあちこちから、不安と期待が入り交じったざわめきが広がっていく。
誰もが胸の奥でわかっていた――今日はただ事ではない、と。
どうでしょう?このあと「クラリッサ登場」で一気に静寂→注目へ移行できますね。
やがて、壇上にひとりの少女が現れた。
陽光を反射してきらめく鮮やかなドレス姿――その存在感だけで、ざわついていた広場が徐々に静まっていく。
少女の名はクラリッサ。昨日、竜族ヴァルガンを麻雀で打ち破り、領地を手にした“悪魔令嬢”である。
クラリッサは両手を大きく広げ、人々を見渡した。
ただそれだけの仕草なのに、観衆の視線は自然と彼女に吸い寄せられ、口々のざわめきすら止んでいく。
勝利者としての余裕と、自分こそが中心だという自負――その気配が視線一つで群衆を制したのだ。
壇上の背後には二人の従者が控えていた。
執事ジェロードは、渋面を崩さぬまま「……また何を言い出すやら」と心の中で嘆息する。
一方、少女ミーナは小声で「わぁ……王様みたいですぅ!」と目を輝かせ、ドレス姿のクラリッサを見上げて跳ねるように興奮していた。
その瞬間、広場は息を呑むような沈黙に包まれた。
――そして、クラリッサの口がゆっくりと開かれる。
クラリッサは壇上の中央に立ち、胸を張る。
その声音は、領地の広場を隅々まで響き渡るほど澄み切っていた。
「――本日より、この地は“マージャン王国”となる!」
高らかな宣言が、空気を震わせる。
次の瞬間――広場全体が水を打ったように静まり返った。
さっきまでのざわめきは跡形もなく消え、無数の視線が壇上の少女に釘付けになる。
「……え?」
「お、王国……?」
「麻雀で……国?」
「嬢様、冗談だろ……?」
観衆の口から漏れる言葉は、困惑と戸惑いばかり。
その場にいる誰もが“聞き間違い”であってほしいと一瞬思ったが――壇上のクラリッサは微笑を浮かべ、真剣そのものの眼差しで人々を見渡していた。
冗談ではない。本気だ。
そのことを悟った群衆は、言葉を失ったまま硬直するしかなかった。一拍の静寂――そして次の瞬間。
広場全体が、まるで大爆発のようにざわめきに包まれた。
「こ、国だって!?」
「俺ら……王国の国民ってことか!?」
子どもたちは無邪気に跳ね回り、手を取り合って喜びを爆発させる。
男たちは拳を突き上げ、興奮気味に叫んだ。
「竜族を打ち破った嬢様や! ほんまに国くらい作れるわ!」
「そうだ! あの嬢様なら何でもできる!」
年寄りたちはただ目を丸くし、信じられぬものを見るように首を振る。
「……まさか、領地が……ほんに国になるとはのう……」
群衆の熱気は次第に渦を巻き、広場を覆い尽くしていく。
その熱気の中心に立つクラリッサは、まるでそれを当然の光景と受け止めるかのように、ゆったりと笑みを浮かべていた。
絶望に沈んでいたはずの村に――確かに“新しい始まり”の息吹が芽生えていた。観衆の熱狂が渦巻く中、背後に控えていたジェロードは、こめかみに手を当てて小さく息を吐いた。
「……建国宣言とは、またずいぶん気楽なお考えで」
誰にも聞こえぬほどの低い呟き。だが、その声音には確かな呆れと諦観がにじんでいた。
一方、隣に立つミーナは真逆の反応を見せる。
両手をぱんっと叩き、目を輝かせながら声を上げた。
「お嬢様、ついに女王様です! すごいです、かっこいいです!」
その無邪気な歓喜が、広場の熱狂と奇妙に混ざり合って響く。
そして当のクラリッサは――観衆の視線と熱気を一身に受けながら、満足げに口元をつり上げた。
それは、まるで自らの手で“運命の盤面”をひっくり返してみせた悪魔令嬢の笑み。広場の熱狂から数日後。
麻雀大会の準備で村全体がざわつき、屋台や即席の雀卓が並ぶ「祭り前夜」状態。
そんな中、夜の賭場で奇妙な噂が囁かれ始める。
噂の発端
旅の商人や渡り雀士たちが口々に語る。
「異国から“最強の雀士”が来るらしいぞ」
「麻雀で国を作ったって噂を聞きつけて挑戦しに来たんだと」
「人間離れした打ち筋を持つらしい」
村人たちの間に期待と不安が広がる。
「嬢様に勝てるやつなんていねぇ!」
「でも竜族に勝った嬢様が負けるはずが……?」
ジェロードの警告
領主館の執務室。
瓦版に「最強雀士来訪」の記事が大きく載り、ジェロードが険しい顔で報告。
「お嬢様。この人物……侮れません。
もし敗れれば、せっかく得た威信も揺らぎます」
クラリッサの反応
窓辺でワイングラスを弄びながら、不敵に笑うクラリッサ。
「ふん……おもろいやん。麻雀で国を賭けたんや、次も同じや」
「世界中の雀士を相手にして――この“マージャン王国”の強さ、見せつけたる」
その瞳は狩人のように輝き、次の舞台を見据えていた。




