最終局(オーラス)そして決着
広間に再び緊迫した空気が張り詰めていた。
オーラス――最終局。点差はわずか数千点。
「リーチッ!」
ヴァルガンが竜の咆哮のような声で宣言し、巨大な牌を叩きつける。床が揺れ、観客の村人たちが思わず後ずさった。
「ぐ、嬢ちゃん……竜族のリーチやぞ……!」
領主は額に汗を浮かべ、拳を握りしめる。
だが、クラリッサは一切動じなかった。
人差し指で牌を軽く弾き、冷静に捨て牌を置いていく。
「……ふん、押すばっかりが麻雀ちゃうねん。大事なんは、生き残ることや」
彼女の視線は冷たく研ぎ澄まされ、ヴァルガンの手を見抜いているかのようだった。
危険牌はスッと避け、無理せず受け、しかしテンパイ形だけは崩さない。
――そして数巡後。
クラリッサが最後の牌をつまみ上げる。
その瞬間、口元にわずかな笑みが浮かぶ。
「……ツモ。満貫」
静かな声が、広間全体に響いた。
次の瞬間――人間卓と竜族卓、二つの卓で同時に牌が音を立てて倒れる。
小さな牌と、巨岩のような牌が重なり合う音が、不思議な余韻を残した。
「……決着、やな」
クラリッサの宣言と同時に、観客の村人たちは大歓声を上げる。
「勝ったあああっ!」「嬢ちゃんが竜を倒したぞ!」
ヴァルガンは唸り声を上げ、巨大な拳を震わせながらも歯噛みするしかなかった。
「クッ……小娘……!」
領主は涙をぼろぼろ流し、床にひれ伏して震える。
「し、信じられん……領地が……救われた……!」
勝負はついに決した――クラリッサの勝利で。
広間は熱気に包まれていた。
村人たちの歓声が嵐のように吹き荒れ、石壁に反響して天井を震わせる。
「勝ったぞおおおお!」「嬢ちゃんが竜を倒したんだ!」
男も女も子供も、涙を浮かべて抱き合い、まるで祭りのような騒ぎとなった。
巨大な麻雀卓の向こう側、ヴァルガンはしばらく動かなかった。
鱗に覆われた巨体が沈黙し、牙を食いしばる音が聞こえる――と思った次の瞬間、
「……ガハハハハハッ!」
広間を揺るがすほどの豪快な笑い声が響いた。
「面白ぇ! 実に面白ぇ、小娘! 領地は約束通りくれてやる!」
巨腕を振り上げ、悔しさと爽快さを混ぜたような笑顔を浮かべるヴァルガン。その潔さに、村人たちからもどよめきが上がった。
クラリッサは牌を片づけながら、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ふん。これでウチも、立派な領主の一員やな」
肩をすくめて軽口を叩く姿に、周囲が「おお……!」と再びざわめく。
ジェロードは腕を組み、深いため息をついた。
「……また余計なものを背負い込みましたね。お嬢様」
冷めた視線でありながらも、その声の奥にはほんの少し安堵が混じっていた。
ミーナは両手を高く掲げ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。
「領地ゲットです! わーい! これで私たちのお城ですよー!」
クラリッサがニヤリと笑い、ヴァルガンの悔しげな笑みと村人たちの歓喜が入り混じる――。
こうして、荒れ果てた辺境の地に新たな物語が幕を開けた。
広間に、勝敗を決する静寂が落ちた。
次の瞬間――ヴァルガンが腹の底から響くような笑い声を轟かせる。
「ガッハッハッハ! 面白ぇ! まさか人間の嬢ちゃんにやられるとはな!」
彼は勢いよく立ち上がり、分厚い鱗に覆われた腕を広げる。その仕草ひとつで観客の村人たちはビクリと身をすくめたが、牙をむき出しにした笑みは怒りではなく、潔い敗北の証だった。
「約束だ。領地はお前のもんだ!」
ドン、と彼が机に置いたのは、契約書。
巨大な爪先で乱暴にペンをつかむと、荒々しい筆跡で自らの名を刻みつける。
そして最後に――竜族の契約の証。
爪を軽く立てて自らの指先を裂き、赤黒い血を紙面へ押し当てる。
ジュッ、と微かに煙が立ち上る。
竜の血が走る文字を赤々と染め上げ、契約は不可逆のものとなった。
「……これで文句はねえだろう、人間ども!」
ヴァルガンの宣言に、広間の空気が一気にざわめきへと変わっていった。




