ギャンブラー ヴァルガン
広間の空気が、一瞬で張り詰めた。
重々しい「ドン、ドン」という足音が石畳を揺らすたびに、古びた領主館の壁がわずかに震える。
バンッ!
両開きの扉が勢いよく押し開かれた。
そこに現れたのは、黒曜石のような鱗を纏う巨体――竜族の商人兼ギャンブラー、ヴァルガン。
彼の肩幅は人間の倍、装飾品がじゃらつき、動くたびに金銀の音を撒き散らす。
その笑みには牙が覗き、まるで勝負の前から相手を食い尽くす捕食者のような威圧感が漂っていた。
「……来おったか」
領主は蒼白になりながら椅子から立ち上がる。
広間にいる全員が息を呑む中、ヴァルガンの低い声が響いた。
「借金の取り立てに来たぜ、人間ども――」
その姿は、まさしく「動く財宝」だった。
背丈は人間の倍近く、天井に届かんばかりの巨体。分厚い黒鱗に覆われた両腕には、これでもかと金銀の腕輪がはめられており、歩くだけでジャラジャラと金属音を鳴らす。
胸元にはルビーや翡翠、宝石をそのまま埋め込んだような装飾が輝き、薄暗い広間に虹色の光を反射させる。
「グハハ……」と笑うたび、覗く牙がギラリと光を弾き、その瞬間、場の空気が凍りつく。
領主もミーナも息を呑み、ジェロードは無言のまま剣の柄に手を添えた。
ただ一人、クラリッサだけが薄い笑みを浮かべ、じっと竜族を見返していた。
ヴァルガンは分厚い唇を吊り上げ、牙を覗かせながらニヤリと笑った。
「ほぉ……? 人間の嬢ちゃんが――領地を賭けるとぉ?」
その低く響く声は、まるで大地を震わせる咆哮のよう。言葉の端々に含まれる威圧が、広間の空気をさらに重く沈ませた。
領主は椅子を蹴るように立ち上がり、思わず後ずさる。
「ヴ、ヴァルガン殿……! な、なぜここに……!」
ヴァルガンの黄金の瞳がギラリと光り、まるで獲物を値踏みするかのようにクラリッサを見据える。
ヴァルガンが荷物をドンと床に置く。中から出てきたのは、人間の頭ほどもある特大麻雀牌。
使用人らしき従者がゴトゴトと運び入れる様子に、館の床がきしむ。
ヴァルガンは背中の荷を大きく振り下ろし、広間の床にドンと叩きつけた。
重々しい音が響き、埃が舞い上がる。
「……ッ!?」
領主もミーナも目を丸くする。袋の口が開かれると、中から現れたのは――人間の頭ほどもある特大の麻雀牌。
光沢のある石材で造られ、刻まれた符号は赤く輝いている。
「ひ、ひとつの牌が……私の胴体ほども……!」
ミーナが震える声で呟く。
従者と思しき竜族たちが、ゴトゴトと巨大な牌を運び入れるたびに、古びた館の床が悲鳴を上げた。
ヴァルガンは牙を見せ、胸を張って高らかに告げる。
「俺の国では――竜族麻雀こそが決闘の証! 逃げるなよ、人間!」
黄金の瞳がギラリと輝き、広間の空気は一瞬で張り詰めた。クラリッサは一歩前に出て、竜族の牙むき出しの笑みに真正面から応じた。
口元に挑発的な弧を描き、瞳には自信の光を宿す。
「……ふん。こっちも全力で行くわ。竜族相手でも、麻雀は麻雀や」
その一言に、広間の空気がわずかにざわめく。
ヴァルガンの牙がギラリと光り、領主は「ひ、ひいぃ……!」と椅子ごと後ずさった。
後ろではジェロードが、深々とした溜息を吐きながら額に手をやる。
「……お嬢様、本当に悪魔の化身ですね」
だがミーナだけは両手を胸の前で組み、瞳を輝かせて跳ねるように叫んだ。
「すごい! クラリッサ様、竜さんと打てるんですか!? 本物の竜族麻雀ですよ!」
クラリッサはちらりと彼女に視線を送り、肩をすくめて笑った。
「当たり前や。遊びでも戦いでも、麻雀の卓に座る時は全力――それがウチの流儀やからな」




