信仰試練としての大会
大聖堂の鐘楼が三度鳴った日、エルミナ神聖国の瓦版売りたちが一斉に街角へ飛び出した。
その手に握られているのは、今朝刷り上がったばかりの号外――表紙いっぱいに、聖水瓶を高々と掲げた中央司祭オルフェンの姿。
銀髪が陽光を受けて輝き、その背後のステンドグラスから差し込む光が、まるで彼を神の化身のように見せている。
見出しは金文字でこう刻まれていた。
「信仰と雀力――どちらも神に試される!」
「おお、ついにやるのか…!」
「精霊の加護を賭けた、聖なる勝負…!」
王都の広場でも、市場でも、人々は興奮気味に瓦版を読み上げる。
その日、教会が告げた新たな布告――それは、信者だけでなく麻雀好き全員を巻き込む“聖戦”の開幕宣言だった。告知の翌週、再び大聖堂の鐘が鳴り響いた。
広間に集まった信者たちの前で、オルフェンが厳かに口を開く。
「これより、“信仰試練麻雀大会”の規を告げる!」
彼の声は、高い天井に反響して一層荘厳に響く。
側近の神父が羊皮紙を広げ、一つずつ読み上げていく。
一、試合は東風戦一本勝負。
短期決戦ゆえ、勝敗は天命と雀力、双方に委ねられる。
二、参加資格は信者であること。
ただし、当日入信も許す。精霊は心を開く者を拒まぬ。
三、参加費は寄付金とする。
額は自由――されど、高き志と共に多くを捧げし者には、
精霊の加護がより強く降り注ぐという噂もある……。
四、優勝者には聖水を授ける。
魔を退け、災いを遠ざける力を秘めた、精霊の祝福を受けし水である。
読み上げが終わると、広間がざわめいた。
「一本勝負か…運が良ければ俺にも勝機が…!」
「寄付金、ちょっと多めに出したほうがええかな…」
「聖水…家宝にしよう…」
オルフェンは微笑を浮かべ、壇上から参列者を見渡す。
その瞳の奥に宿る光は――信仰心か、それとも勝負師の炎か。大会当日。
まだ朝もやの残る王都の空気を、鐘の音が突き抜けた。
「信仰試練麻雀大会、始まるぞー!」
市場の魚売りも、下町の靴職人も、皆、聖水と加護を夢見て大聖堂へと集まる。
初回だというのに、参加者はなんと数百人。
教会の広間だけでは収まりきらず、中庭にも臨時の麻雀卓がぎっしりと並べられた。
四方に聳える白壁とステンドグラスに囲まれ、
その中央で「ポン!」や「ロン!」の声が響く――いや、そのたびに司祭や神父が審判役として駆け寄り、
胸に手を当てて荘厳に祈祷を捧げるという、なんとも神聖(?)な光景が広がっていた。
「ロン! ――ああ、精霊よ、彼に加護を」
「ツモ! ――我、天よりの導きを得たり」
そんな祈りの合間に、屋台のパンの香りや、子供たちの笑い声が混じり合う。
こうして、大聖堂は信仰と麻雀の熱気で、まるで祭りのような一日を迎えていた。大会から一週間後――。
エルミナ神聖国の財務担当神父は、寄付金の山を前に思わず目を丸くした。
金貨、銀貨、宝飾品まで混ざったその山は、まるで宝物庫のようだ。
「……前代未聞です、オルフェン様。今月だけで去年の歳入を超えました」
「ふむ。精霊の加護は、信仰だけでなく財運ももたらすようだな」
オルフェンは満足げに微笑み、聖水の瓶を撫でる。
王都の瓦版は翌日、「精霊も驚く経済効果!」という大見出しを躍らせた。
記事には、宿屋の主人が「大会客で満室続きですわ!」と笑顔で語り、
酒場の女将は「“ロン”のたびに乾杯されて、ビールの樽が空っぽよ!」と嬉しい悲鳴をあげる様子まで載っている。
周辺の商人たちもこの新しい“信仰イベント”にすっかり味を占め、
次回大会を前に、早くも関連グッズ――四風牌ペンダントや精霊柄の牌セット――を売り出す準備を進めていた。
大聖堂の鐘が鳴るたび、そこにはもう“祈り”だけでなく“金貨の音”も重なって響いていた。大会が回を重ねるごとに、教会の“信仰試練”は単なる宗教行事の枠を超えていった。
オルフェンは祭壇裏の執務室で、側近神父たちと机を囲み、静かに帳簿をめくる。
そこには寄付金の詳細な集計、そして物販売上の内訳がずらりと並んでいた。
「四風牌ペンダント、先月比二倍の売上です」
「聖水は完売、次回大会までに倍の仕入れが必要かと」
「……新商品の“東南西北おみくじ”も評判です」
オルフェンは穏やかな笑みを崩さぬまま、指先で牌を弾いた。
「よろしい。信仰を深めれば、財布も自然と開く――精霊も商売の才を与えてくださったのだ」
表向きは“信仰の深化”と称しつつ、その実、信者獲得と寄付金、物販拡大の二本柱で進む教会の新戦略。
今や大聖堂は、神と商売の加護が同居する、前代未聞の“信仰ビジネス拠点”と化していた。




