ローカルルール大戦争 〜食いカンの是非を卓上で決す〜 役満食いカン禁止派 vs アリ派
ここ最近、王都の雀士たちを最も熱く、そして無駄にヒートアップさせている論争があった。
――役満食いカンはアリかナシか。
「麻雀の品位が落ちる!」
「運ゲー化する!」
そう叫ぶのは、青い鉢巻きを締めた禁止派。真面目な顔をしているが、手元の牌はやたら守備的だ。
対するアリ派は、赤い鉢巻きを翻しながら、口角を吊り上げる。
「派手な方が観客ウケする!」
「ドラの山が俺を呼んでいる!」
後ろでは、カンを決めた瞬間の派手な絵札を高々と掲げ、まるで英雄の凱旋のようにアピールしている。
瓦版記者たちはこの争いを面白おかしく記事にし、連日一面を飾る。
見出しはこうだ――
王都中央広場――朝から人で埋め尽くされていた。
片側には青い鉢巻きを締めた禁止派。背筋を正し、まるで武士のような厳しい表情。
もう片側には赤い鉢巻きのアリ派。腕を組み、勝ち誇った笑みを浮かべている。
両派の間には中立の司会雀士が立ち、必死に場を収めようとする。
「えー、それでは本日の議題――役満食いカンは、アリかナシか……」
しかし、開口一番から火花が散った。
「役満は神聖な儀式だ!」(禁止派)
「いや、もっと自由でいい!」(アリ派)
「お前らは麻雀を冒涜している!」
「お前らは麻雀を窮屈にしてる!」
口論は次第に熱を帯び、ついにアリ派リーダーが机を叩くような声で叫んだ。
「じゃあ――卓で決めようや!」
その瞬間、周囲がどよめく。観衆が手際よく簡易麻雀卓を運び込み、広場の中央が一瞬で闘技場へと変わった。
条件は東風戦、負けた派が相手のルールに従う。
禁止派リーダーは鉄壁の守備型。鳴きを極力避け、リーチで静かに圧をかける。
一方、アリ派リーダーは序盤からカン連発。ドラ表示牌が増えるたびに観衆が歓声を上げる。
「またカンや!」
「おー、ドラが光っとる!」
そして中盤――アリ派リーダーがニヤリと笑い、最後の牌をツモる。
「ロン――いや、ツモや!」
公開された手牌は、まさかの役満・食いカンツモ。広場中が爆発したような大歓声に包まれた。
勝敗は決した。
禁止派リーダーは項垂れ、震える声で言う。
「……今日から、食いカンは合法です」
記者たちは血相を変えて筆を走らせる。翌日の瓦版の見出しはこうだ――
それは王都麻雀界の片隅――裏通りの酒場から始まった。
「おい、1000点とか2000点とか、細けぇ計算めんどくせぇよな」
「そうそう、勝ったら全部もらおうぜ、全部!」
こうして誕生したのが、悪名高き**「総取り麻雀」**である。
ルールは単純。勝った者が、その局で相手全員の持ち点をすべて奪う。
負けた者は、例外なく破産――下手をすると、帰り道の電車賃(※馬車代)すら残らない。
その危険度は数字以上。ある夜、三連勝した男が一晩で三人の人生を変え、翌日には「三人潰しのジャック」と呼ばれるようになった。
しかし、危険な匂いこそ酒場の常連を惹きつける。牌が打たれる音も、勝者の笑い声も、全てが血の匂いを帯びていた。
遠くから視察していたクラリッサは、眉をひとつ上げて呟く。
「それもう麻雀じゃなくて戦争やん」
裏通りの奥、ネオン代わりの赤提灯がゆらめく賭場。
そこでは、今や一部で狂信的な人気を誇る賭け方――**「一撃必殺麻雀」**が行われていた。
牌を打つ音は軽快だが、その緊張感は剣戟に匹敵する。
勝者はただ勝ち点を得るのではない。負けた者の持ち点、着物、家財、時には愛用の馬車まで容赦なく総取りするのだ。
観客はその豪快さに息を呑み、勝負が決まるたびに拍手と歓声が爆発する。
――この夜も、派手な羽織を着た勝者が、負けた相手の帯をスッと引き抜いた。
「はい、いただき」
悔し涙の敗者を尻目に、勝者は得意げに戦利品を抱えて去っていく。
そんな場面に出くわしたクラリッサは、ため息混じりに紅茶を一口。
「……いやもう、それ麻雀ちゃうくて略奪やん」




