異世界麻雀ブーム爆発!
あの夜から、ほんの数か月。
クラリッサのサロンで火がついた賭け麻雀は、もはや単なる流行ではなく――王都そのものを飲み込む大波となっていた。
昼下がりの市場では、魚を並べる老婆が配牌のごとく野菜を並べ、
夕暮れの酒場では、酔った労働者たちが点棒代わりに銅貨を積み上げては「ロン!」と叫ぶ。
上流貴族も下町の子どもも、老人も兵士も、誰もが牌の音を日常の一部として受け入れていた。
路地を歩けば、必ずどこかから**パチ…パチ…**と牌を積む音。
馬車の御者でさえ客待ちの間に膝の上で簡易麻雀を打ち、
物売りの声と同じくらい自然に「ポン!」や「チー!」が飛び交う。
王都は今、かつてないほど麻雀色に染まっていた。
そして――その熱狂は、次なる“カオス”の予兆でもあった。
クラリッサが馬車の窓から外を眺めると――そこはもう、**“麻雀商店街”**と化していた。
通りの両側には、金色や緋色の派手な看板が乱立。
「麻雀道場」「雀士養成所」「役満塾」「ポンとチーの館」……怪しさ全開の店名が風にはためく垂れ幕に踊っている。
店先には、役満をあがった瞬間を誇張しすぎた似顔絵看板が置かれ、
笑顔なのか変顔なのか判別不能な顔で**「ツモォ!」**と叫ぶ絵が通行人を迎える。
新聞屋の少年が配る瓦版の見出しには、
《今週の役満王!》《初心者歓迎!オール鳴きOK!》《あなたの待ちはバレている》など、もはや時事ニュースを押しのけて麻雀記事が一面を飾っていた。
市場の喧騒の中に混ざって響くのは、商売の呼び込みと――**カラン、パチン、ポン!**という牌と声の連打。
王都は、完全に“麻雀都市”へと変貌していた。
クラリッサが優雅にティーカップを置いた瞬間、執事ジェロードが一枚の報告書を手に進み出た。
「お嬢様、最近――**“妙な麻雀”**が流行っております」
「妙な?」
片眉を上げるクラリッサ。ジェロードは軽く咳払いをし、真面目な声で続けた。
「ルールが各地で勝手に改造されておりまして……“チー禁止流”や“ツモったら全員にジュースを奢る流”、果ては“泣いたら役満”など、混沌を極めております」
クラリッサはしばし沈黙し、やがて唇の端を吊り上げた。
「……おもろいやん」
紅茶の香りがまだ漂う応接間を後にし、彼女は視察のため外套を羽織る。
その足取りは軽く――まるで新しい獲物を見つけた狩人のように。
王都の石畳を歩きながら、クラリッサは最初の「異世界式」雀荘へ足を踏み入れた。
――配牌、15枚。
「……あら、2枚多いわね?」と小声で呟くも、周囲は誰一人として気に留めず。しかも捨て牌はなぜか裏返して置かれている。場全体が**「何を捨てたかは心で読む」**という無茶な空気だ。
二軒目は小麦とバターの香りが漂う「ベーカリーマージャン」。
点棒の代わりにフランスパンやクロワッサンを卓上に積み、勝者はその場で焼きたてを抱えて帰る。店主の言葉によれば「パンの方が血生臭くない」とのこと。
三軒目は場の空気がさらに異様だ。
ロンを宣言した瞬間、全員が立ち上がり、ステップを踏みながら舞う――「舞踏ロン」。負けた者は、笑顔でその舞に強制参加させられる。羞恥心は点棒より重いらしい。
そして四軒目。
役の名前が完全にファンタジーだった。
「竜王の怒り」「天界の一閃」「愛しき者への捧げ牌」……中でも「竜王の怒り」は字一色+ドラ9という、ほぼ神話級の条件。
クラリッサは一通り見て回った後、わずかに頬を引きつらせつつも笑みを浮かべた。
「……王都の麻雀、完全にカオスやな」




