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転生悪役令嬢、麻雀で異世界を制す!  作者: 南蛇井


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市民たちも熱狂中

王都の熱狂は、もはや貴族だけのものではなかった。

噂を聞きつけた商人や職人、さらには平民たちまでが、クラリッサの賭け麻雀サロンへと足を運ぶ。

そして――負けた。負けた。負けた。

「……次こそは……!」

そうつぶやきながら、彼らは家財や家具を抱えて質屋へ向かう。

カラン……カラン……

麻雀卓の牌の音ではなく、質屋のドアベルの乾いた音が今日も鳴る。

だが質屋の奥から聞こえてくるのは、なぜか――

パチ……パチ……

(※店主も麻雀中)

「へい、換金はそっち置いといて……チー!」

破産者たちの恨み節が、今日も王都の路地裏に消えていく。

一方で、勝ち続ける者も現れた。

彼らは運と腕と、ほんの少しの悪運に見放された他人の財布を味方につけ――短期間で財を築き上げる。

ある男は、つい数週間前まで焼き鳥屋台を押していた。

だが今は、石造り三階建ての豪邸を構え、門前にはやたら金ピカな看板が掲げられている。

「元屋台オーナー邸」――市民の皮肉と羨望を込めた呼び名だ。

馬車通りでは、高級馬車を乗り回す平民が増え、車輪の飾りにまで宝石をはめ込む始末。

だが急な金持ち化は、往々にして金銭感覚を狂わせる。

「オレ、絶対儲かると思うんだ!」と開いた怪しい水晶占いカフェは、三日で潰れた。

――麻雀成金の栄光は、たいてい短い。

金貨、宝石、貴金属――。

それらは今や、王都の空気よりも軽やかに飛び交っていた。

今日、質屋で換金された宝石が、翌日には麻雀卓の上で賭けられ、

勝者の手に渡ったかと思えば、三日後には豪商の倉庫に眠り、

さらに四日目には職人が加工し、五日目にはまた質屋のショーケースに並ぶ。

一週間で一周――そんな狂った経済循環が当たり前になっていた。

「経済は…まあ…活性化している。しているはずだ」

商業ギルド長は帳簿をめくりながら自分に言い聞かせる。

しかし、日々の数字の変動はまるで麻雀の点棒のように落ち着きがなく、

最後には深いため息をついた。

「何かが…いや、確実に狂っとる」

王都・裏路地の片隅。

古びた屋台の暖簾には、手書きでこう書かれていた。

『今日のおすすめは "勝者限定価格"!』

暖簾の奥から顔を出した店主が、にやりと笑う。

「昨日の東風戦で勝った奴だけ、焼き鳥一本タダや。負けた奴? 倍払いや」

勝者は胸を張って注文し、敗者は肩を落としながら財布を探る。

そのコントラストが妙に景気づいていた。

一方、別の路地裏。

煤けた倉庫の中で、数人の男女が机を囲んで肩を落としている。

机の上には『次こそ勝つ会』と書かれた札。

「……次は絶対、倍満直撃や」

「うん、次は…次こそ…」

だが、毎回同じ誓いを立てては、翌日も全員そろって負けるのが恒例行事になっていた。

彼らの中で勝利は、もはや都市伝説だった。

王都の麻雀ブームは完全に日常の一部となり、サロンには毎夜のように上流貴族から町人、果ては異国商人まで集うようになっていた。

そんな折、耳に飛び込んできたのは一つの噂。

「遠い砂漠の国から、麻雀で千の財を築き上げた最強の雀士がやってくる」

噂は瞬く間に王都全域に広まり、クラリッサのサロンもざわつき始める。

夜、サロンの控え室にて。

ジェロードが真剣な表情で報告書を差し出す。

ジェロード:「お嬢様、この人物は侮れません。記録によれば、一晩で城一つを賭け取ったこともあるとか」

クラリッサ:「へえ……」

クラリッサは紅茶を口に運び、カップの縁越しに薄く笑う。



ロンの扉が重々しく開くと、そこに立っていたのは――まるで異世界の絵巻から抜け出したような男だった。

金糸で織られた豪奢なターバンが頭上で輝き、胸元から裾にかけて散りばめられた宝石が、シャンデリアの光を反射してまばゆい光彩を放つ。

背後には、黒装束の部下が無言で数名、整然と控えている。

観客席から思わず漏れるざわめき。

「でっか…!」

「あれ、歩く宝石箱じゃない?」

クラリッサは紅茶を置き、ちらりとその姿を一瞥した。

入場しただけで空気が変わる――場の温度が数度下がったような、妙な圧。

やがて卓上の牌が並べられ、席に着いた瞬間、誰もが息を呑む。

まだ一局も始まっていないのに、指先から放たれる覇気が、場の緊張を極限まで高めていた。

クラリッサは、入場のざわめきが一段落するのを待ってから、ゆっくりと紅茶のカップを指先で回し――口角を上げた。

「面白いやん……!」

椅子の背もたれに優雅に身を預け、まるで退屈しのぎの余興でも始まるかのような、余裕たっぷりの笑み。

だが、その瞳の奥で瞬いた光は、決して無邪気なものではなかった。

――まるで、血の匂いを嗅ぎつけた狩人が、次の獲物を定めた瞬間のように。

異国の雀士とクラリッサ、その視線が静かにぶつかる。

牌の音が鳴る前から、対局はすでに始まっていた。


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