三人打ち vs 四人打ち論争
地方の田舎町――。
そこでは、三人打ち麻雀が完全に定着していた。
理由は単純、打てる人間がそもそも少ないからだ。
さらに驚くべきは、彼らが使っている専用牌セット。
索子が、まるっと存在しない。
代わりに牌の山は萬子と筒子と字牌だけ。
「いやいや、これでも充分やろ?」と笑う田舎雀士たちに、
王都から視察に来た雀士は顔を引きつらせた。
「……え、索子ないって、運勢的に呪われたりしません?」
「は?そんなもん知らん!」
王都民にとっては、まるで竜のいないドラゴン退治のようなもの。
だが地方では、これこそが“正統”だと信じられていた。
そんな様子を眺めたクラリッサは、肩をすくめて一言。
「まあ……田舎は田舎で自由やん?」
王都・中央広場。
赤い鉢巻きを巻いた三人打ち派と、青い鉢巻きの四人打ち派が、互いに睨み合っていた。
三人打ち派:「スピード感が命や!あんたらの四人打ちは、配牌で日が暮れる!」
四人打ち派:「はぁ?三人打ちは役が軽すぎる!それに……索子なしって何やねん!」
言い争いはすぐに「じゃあ卓で決めようや!」の一言で決着モードに突入。
その場で麻雀卓が運び込まれ、即席の観客席ができあがる。
――試合開始。
三人打ち派は、索子の存在など忘れたかのような怒涛の速攻。
一巡目からリーチ、二巡目にはあっさりツモ。
四人打ち派は思わず「はやっ!?」と声を漏らす。
観客:「おおーっ!」「テンポ良すぎ!」
中には腕を組んで見ていた王都民が、「……これ、ちょっと面白いかも」と呟く者も。
最終的には三人打ち派が圧勝。
そして翌週――。
王都の一部雀荘に、**「索子なし三人打ち卓」**が設置されたという瓦版記事が出回る。
クラリッサ:「……逆輸入て。王都、ほんま流行に弱いな」
子供向け麻雀 にゃーじゃん
クラリッサのサロン。
昼下がり、帳簿整理を終えたミーナは、窓辺で湯気の立つカップを両手で抱えながら、ふと首を傾げた。
「麻雀って、どうしても大人向けってイメージやけど……」
机の端に置かれた牌を、指先でコロコロ転がす。
「もっと、可愛くしたら……子供でもできるんちゃう?」
その瞬間、彼女の脳内に電光石火のアイデアが走る。
――牌の絵柄を、全部猫にしたらええやん!
ミーナは小さく拳を握ると、次の瞬間には工房へ駆け出していた。
サロンの片隅から聞こえるのは、木槌の音と「にゃー!」という奇妙な試作ボイスの練習。
こうして後に王都を席巻する子供向け麻雀――**「にゃーじゃん」**の第一歩が刻まれた。
ミーナの手元には、真新しい牌の山。
表面には数字や漢字の代わりに、丸っこい子猫や、尻尾を立てた黒猫、ころがる毛玉のイラストが描かれている。
触ればほんのり木の香りがし、見た目はまるでおもちゃ箱から飛び出したよう。
「ポンとかチーとか、子供には味気ないやん?」
ミーナは胸を張って宣言する。
「鳴いたら全部『にゃー!』に統一! これで可愛さ倍増や!」
さらに彼女は奥の棚から、ふわふわの猫耳カチューシャを取り出す。
「リーチのときはこれ装備な!」
机の上にバサッと置かれた瞬間、クラリッサが眉をひそめた。
「……あんた、それ麻雀やなくて茶番になってへん?」
「ええやん、盛り上がれば勝ちや!」
こうして――「にゃーじゃん」初の公式ルールが完成した。
試し打ちの場では、大の大人たちが真剣な顔で「にゃー!」と鳴きながら、猫耳を装着していたという。
最初は、ただの暇つぶしだった。
ミーナが作った猫柄の牌を抱えて、近所の子供たちがサロンの裏庭で「にゃー!」と鳴きながら遊ぶ――その平和でゆるい光景に、大人たちは微笑ましく目を細めていた。
だが数日後、事態は変わる。
王都の市場を歩けば、露店の兄ちゃんが「にゃー!」、パン屋の娘が「にゃー!」。
路地裏の賭場からも、酔っ払いの中年が猫耳をつけて「にゃー!」と叫ぶ声が響いてくる。
瓦版の一面には、でかでかとこう書かれていた。
《新感覚麻雀“にゃーじゃん”が貴族をも席巻!》
記事には、猫耳カチューシャを装着した老侯爵の笑顔と、「リーチでにゃーする喜びを知った」とのコメントまで掲載されていた。
クラリッサはその記事を眺め、紅茶を啜りながらぽつり。
「……王都、もう終わってへん?」
その日、王都の貴族会議はいつになく緊張感に包まれていた。
税制改革、国境防衛――重々しい議題が並び、議場の空気は張り詰めている。
老侯爵バルドゥインは、書類をめくりながら重々しく発言を始めた。
「我が領地の……」
そこで、ふと顔を上げた彼の目がキラリと光る。
何かを思い出したように、右手を卓上に置き――
「にゃー!」
議場は凍りついた。
「……今、なんと?」と隣席の公爵。
「い、いや、その……」バルドゥインは汗を拭きながら必死に弁解する。
「違うのだ、これはリーチの……いや、違う、ええと……」
しかし遅かった。
議場の片隅で、若い男爵が小さく「ロン」と呟き、隣の伯爵は堪えきれず吹き出す。
重苦しい会議室に、場違いな笑いがじわじわと広がっていった。
――こうして、この事件は瓦版で**《貴族会議“にゃー”誤発事件》**として大々的に報じられ、にゃーじゃんブームはますます勢いを増していくのだった。




