9話 外遊?いいえ視察です ①
各国から選抜された代表者達が魔王アルガナスに敗北したとの報告は瞬く間に全世界に発信された。
まず起こったのは食料品や武器の買い占めである。
人々は自衛のために武器や防具を買い漁るようになり、鉄や銅などの需要が跳ね上がった。
相場は日を増す毎に高騰し続け、剣ひとつ買うために一軒家が建つほどの金額が求められた。
とある国ではあらゆる金属の回収を行い、鋤や銅像さらには鉄鍋や釜までも市民から奪っていった。
その後、同時多発的に生まれた避難民の大移動が始まった。
人々は魔界からより離れた地域、より安全で強固な都市へと移動を開始したのだ。
全世界で何万もの人間が移動を始め、それによる食糧不足と人口爆発が各所で起きた。
根も葉もない噂が幾つも流れ、避難民の集団は次の集団を取り込みながら安全を求め移動し続ける。
だがどの国も許容量を遥かに超えた群衆に門を閉ざした。無理やり乗り越えようとする者達とそれを突き落とす門番との争いが昼夜を問わずして繰り広げられることになる。
そんな世界的大恐慌の中、煽りを受けた者達の一つに冒険者が挙げられる。
人々が疎開するにつれ減少する依頼数。
先行きの不安から、人々の財布の紐は締まり避難中の護衛などの依頼は全く上がってこなかった。
高名な冒険者は貴族や王族に召し抱えられたが、大多数を占める一般冒険者達がそのお眼鏡に叶うことはなかった。
薬草採取や素材調達も認可を受けた業者から請け負っていたのだが、需要の急激な上昇のため規制が入り、依頼そのものが無くなった。
年々減少傾向にあった魔物の出現報告もこの数ヶ月で完全に無くなり、魔物の討伐依頼も掲示板から消えることになる。
情勢悪化で生まれた野盗の討伐や治安維持の依頼が来ることはあったが、依頼を受けることができるのはたった数人。
こうして冒険者のほとんどが装備品を売り払い引退することとなる。
それはこの都市、ハーフバーグも同じことだった。
ハーフバーグは、豊富な水量を誇る三つの運河と小さな島が点在する地形から水上交易で発展した港湾都市である。
人口は十万を優に越え、世界有数の交易港で知られており、どの国にも属さない無主地としても有名だ。
そのため入国審査や面倒な手続きは必要無く、旅人や商人、観光客のみならず、例え脛に傷持つ者だろうがこの都市は受け入れていた。
人だけではなくエルフやドワーフといった多種族が入り乱れるは、様々な外国文化を取り込んだ街並みが名所の一つとなっている。
街路には出店が所狭しと並び、名産物や美術品、武器や防具、珍しい魔法書が世界中から運ばれていた。
だが、今では喧騒さは無くなり廃墟のような寂しさを漂わせている。
出店が無くなり、やけに広く感じる街路に乾風が舞った。
あれだけ煩わしいと思った水夫の笑い声や二倍の値を喜んで買う観光客の間抜け面も、もう見ることは無いだろう。
靴音だけが虚しく響く。
「やってらんねぇ…」
男はそう愚痴を零しながら目的の場所へ向かう。
ハーフバーグ五区に店を構える元冒険者のオーナーが営む『三本槍』という名の酒場である。
年季の入ったスイングドアは不快な音を立てて、来客を知らせる。
スキンヘッドに顎髭を生やした威圧的な顔の店主は、頬に皺を寄せながら男の来訪を喜んだ。
「ようキース!久しぶりだな。中々来ないから死んだかと思ったぜ」
「俺が死ぬわけねぇだろ」
キースは不敵な笑みを浮かべ、真っ直ぐにカウンターへ向かう。
腰に提げた長剣をベルトから外し、カウンターへと立てかけると「いつもの」と言いながら空席ばかりの椅子へ腰を下ろした。
『三本槍』は冒険者のみならず住民達に愛された酒場だ。
適当な対応の店主に安酒、安飯。気兼ねなく過ごせる居心地の良さが売りの大衆酒場だ。
この都市で唯一、ツケで飲み食いできる酒場であり、収入が安定しない新人冒険者達は皆世話になっている。
そのため金が入れば、この店で使うのがの冒険者の習わしであった。
キースにとっても新人の頃から現在に至るまで、世話になってきた大切な場所だ。
初依頼の達成記念に出してくれた焦げた肉団子の味は今でも覚えている。
「酒飲めねぇクセに来んじゃねぇよ」
「俺が来ねぇとこの店潰れんだろ」
キースはそう言って目の前に出された酒を呷る。
度数の高い酒が胃袋を焼くのを感じながら、喉を駆け上がってきた熱を吐息と共に吐き出した。
「あー、あー。その酒は味わいながら飲むもんだぜ。もったいねぇ」
確かに店主の言う通り、キースは酒の味がわからないどころか下戸であった。
一杯飲むだけで視界が歪み、足元がおぼつかなくなる。
「うるせぇ…冒険者は飲んでなんぼなんだよ」
冒険者の中で語られる逸話の一つに『酒に弱い冒険者は早死にする』というものがある。
冒険者にとって酒の付き合いは何よりも重要だ。
指南書があるわけがなく、誰もが手探り状態で始めなければならない。
同じ冒険者でも先輩後輩という和やかな関係は無く、ただ仕事を奪い合う同業者として見ている。
無論、そうは思わない者もいるのだが比較的少数だ。
そんな冒険者が口を滑らすのは大抵、酒の席だ。
酒場で得られる情報やここから生まれる人脈は、そのまま力に変わる。
まだ見たことがない魔物の生態。
非常時に食える虫や植物。
どんな本や学者の知識も現役の体験談に勝るものは無い。
キース自身も、たまたま親しくなった冒険者の一人が何気なく零した情報に命を救われたことがある。
本来の意味は『酒に弱い者は毒が回りやすく死にやすい』という迷信から生まれた言葉なのだが、間違った解釈のほうが受け入れられている。
「おやじぃ…もう一杯ぃ…」
「味もわからねぇ舌で高い酒飲んでどーすんのかね」
「……いいからつげよ」
「はいはい、A級冒険者様には逆らいませんよ」
店主はそう言って、これみよがしに両手をひらつかせた。降参を示すような仕草だが、小馬鹿にされているのはわかる。
「何がA級だよクソくらえだ!」
キースは飲み干したグラスを叩きつけるように置いた。
冒険者には階級がある。
最低ランクCから始まりB級、A級へと続き、最高ランクSまでの階級がある。
B級からA級に上がることが出来るのは五十人に一人。そして最高ランクのS級に上がるのは万人に一人の割合だ。
その冒険者の中でもキースは五人パーティ『牙狼』のリーダーだった。
S級昇格を期待されていたパーティであり昇級試験も目前に控えていたはずだったのだが────昇格試験は魔王と代表者の決闘騒ぎで流れてしまい、結論から言えばパーティは解散した。
パーティメンバーのうち二人は、『終わりが来るその日まで一緒にいたい』といって駆け落ちした。
もう一人は両親が移住するため同行することになり、そして最後の一人は装備一式売り払い姿を消した。
こうしてA級冒険者パーティ『牙狼』はたった一人で活動する羽目になった。
こうした解散騒ぎは世界各地で起きており珍しいことではなく、ハーフバーグでもかなりの数の冒険者が引退していった。
歪む視界に抗うように頭を抱えれば、後ろへと撫で付けていた髪が散らばった。邪魔にならないよう横は刈り上げていたのだが、いつの間にか伸びていたようだ。
右も左もわからない新人だったころ、店主から髪の手入れについて口酸っぱく言われた。
長い髪は視界を遮り、戦闘や逃走の邪魔になるからだ。どれだけ固く纏めようとも殺し合いの最中に散らばってしまう。
髪を切るだけで生存率が上がる。そう考えれば費用対効果は抜群に良い。それも自分でやればタダなのだから。
そのためA級以上の冒険者は一様に同じ髪型に落ち着くらしい。 金を惜しんだ素人の散髪技術なんて皆同じようなものだ。
髪が長い冒険者は余程の実力者か、素人に二分化されるらしい。
だからいつの日か腰まで伸びたクソ長い髪を店主に見せつけてやろうと、そう思っていた。
だが今はどうだ。
手入れを怠った髭にただイタズラに伸びた髪。軽鎧は光沢を失い、背中に回した皮製のナイフホルダーは黒く汚れていた。
キースはキリキリと痛む胃を押さえる。
依頼終わりに仲間達とここに来るのが何よりの楽しみだった。
酒が飲めないことをからかってきたアイツも。
お気に入りの席に先客が居ただけで憤慨する馬鹿も。
酔って悪絡みするあの女も。
誰よりも身体が大きい癖に小心者なオッサンも。
皆、いなくなってしまった。
嫌がらせとばかりに横並びに占領していたカウンター席は、もう二度と埋まることは無い。
グラスの中の氷がやけに大きな音を立てて崩れた。
「それもこれもあのクソ魔王のせいだ」
「よくもまぁ見たこともねぇ奴を憎めるな」
「あぁ?…見たことなくてもわからぁ。きっと…とんでもねぇクソ野郎だ」
魔王さえいなければ、今頃昇進試験を合格し夢だったS級冒険者として名を馳せていた。
解散騒ぎや移民問題で世界中が混乱することもなかっただろう。
「あ、あと代表者もだ。アイツらが負けたのが悪い」
グラスを店主へと差し出せば、違うボトルから透明な液体が注がれる。
次に注がれた液体は、不思議と全く味のしない酒だった。
少し冷えた頭で酒場を見渡せば、丸太を切っただけの安い作りの椅子に一組の男女が座っていた。
テーブルには具が少ないサンドイッチが並べられている。
「なぁ…。そろそろちゃんと仕事をしたらどうだ」
手製の紙タバコに火をつけながら店主は言った。
中指と薬指の間で拠れた紙タバコから煙をくゆらせている。
店名の由来になった右手は鉤爪のように歪曲しており、親指と人差し指が無い。
傷は男の勲だと本人は言うが、魔物に食いちぎられた傷は見ていて痛々しい。
店主の言う仕事がなんなのか、キースはよく理解していた。
一般の依頼数が著しく減少している現在、冒険者達の主な食い扶持はを治める財閥長からの治安維持の依頼だ。
元々、財閥長が組織した警備隊が治安維持を担っているのだが、昨今の冒険者ギルドの状況を鑑みての依頼なのだろう。
この依頼が無ければ、この都市の冒険者の離職率は他のギルドと同様に高かったはずだ。
冒険者ギルドは財閥長から受けた依頼を持ち回りで斡旋している。平等に日銭を得られるようにはなっているのだが、その分一人当たりの報酬は雀の涙ほどだ。
「………仕事なんてねぇよ」
冒険者としての最上位を目前としていた男が、どの面下げて日雇い労働に勤しめというのか。
「若いやつに譲るのは結構だが、そのツラは見てられねぇよ」
幸いまだ貯蓄はある。
預金的にも情勢的にも豪遊はできないが、細々と安酒を食らうぐらいの余裕はもっている。
「なぁ……オヤジは逃げねぇのか?」
キースは話題を変えようと口を開いた。
住人の大半は近隣諸国へ逃げている。
警備隊や冒険者が守るよりも遥かに防備が備わっているからだ。
残っているのは動けない高齢者と、他に行く宛ての無い者。そして覚悟を決めた者達だけだ。
根無し草である冒険者のキースが残っているのは、もはやただの意地だ。
ハーフバーグが一番に狙われるという出処不明の噂が立ったあの日から、死に場所は決めている。
「逃げる必要なんてねぇよ。死ぬ時はここって決めてんだ」
店主はそう言ってカウンターを指で叩く。元冒険者だけあって肝は座っている。
「………魔王が来たら俺が倒してやるから安心しろよ」
「ハハッ!そりゃあいい。期待しねぇで待ってるよ」
残っていた酒を飲み干し、キースは立ち上がった。
すれ違いざまに客を見れば、小汚い外套を頭まで被っている。
働き口を探しに来た夫婦だろうか。いや祖父と孫と言った方が近い気がする。
一回り大きな外套から伸びる手は、枯れ木のような皺が入っており年齢を重ねたものであるのがわかる。
もう一つの外套は────女だ。手を伸ばし、祖父の汚れた口元を拭っている。
なんにせよタイミングが悪い。
働き口なんてどこにもない。
かといって彼らを助ける余裕なんて今のキースにもこの都市にも無い。
できることと言ったら早めに別の国に行くことを勧めることぐらいだが、その必要も無いだろう。
現状を見れば誰だってそう思うはず。せめて彼らの未来に幸あれ、とキースはよろめく足取りのまま十字を切った。
「………何故ここまで嫌われているのだ?」
アルガナスは具の少ない卵サンドを頬張りながら問いかける。
不味くはないが、美味しくもない。控えめな具と萎びたレタスが歯にまとわりついた。
現在、アルガナスは魔法により人間の姿に変身している。身体を小さくする魔法の応用のようなものだが容姿を選べないのが難点だ。
効果は魔法使用者の年齢から変化する生物への年齢に相当する姿へ変容するもので、古代竜を人間年齢にすれば大体このぐらいという大雑把な仕方での変化しかできない。
つまり腰が曲がり、補助が無ければ歩くことすら危うい爺の誕生である。
普段よりも低い視界と左右に揺れる膝に体力を削られ、休息場所として逃げ込んだのが酒場だった。
アルエルは人間にしか見えない容姿のため、普段のまま過ごしている。
「そもそも魔王様は好かれるようなご性格では無いかと」
「うぐっ……。しかしな?会ったことも無い人間に嫌われる謂れは無いだろう?」
歯にべったりと貼り付いたレタスを取ろうと舌で突いているとアルエルの眉間に皺が寄った。
「昼間とはいえ…人がおらんでは無いか。これでは情報も期待できんな」
「飲みたいから来たのかと思っていました」
「違っ…わないけど違うわ!!……まず酒場での情報収集は旅の鉄板だ。そしてヒントを得て次の行動を決めるのが常識なのだ」
「冒険譚の読み過ぎですね」
ガイアスという情報源を得たアルガナスだったが、先の懇親会での余興により四天王二名が重軽傷、特別顧問が1ヶ月の入院となった。
そのため魔王独断で視察地を決め地図上で適当に選んだのがこの場所であった。
聞けばは許可さえとれば露店を開くことが出来るらしい。
他の国に比べると門戸は広く、人間だけではなくエルフやドワーフなどの種族も店を構えているらしい。
───────────であれば魔族でも店を持てるのでないだろうか。
そう思い、嬉々として飛んできたアルガナスを出迎えたのは悪い方向で想像とは真逆な景観だった。
港に停泊している船は動く気配すらなく、出店の無い路地。
窓には木の板を打ち付けた家と絶望した顔の住人。
悪人面の店主が営む寂れた酒場に昼間から飲んだくれる剣士ときたものだ。
世界有数の交易港と聞いていたが、これではただのゴーストタウンだ。
人間の気配はするものの、そのほとんどが家の中で息を殺している。
「お代わりいるかい?」
話し相手が去り、暇になったらしい店主が水差しを片手に話しかけてくる。
「いや結構」
正直に言ってしまえば、この酒場で出される水は不味い。
なんというか濁ったような味がするのだ。
開発された地域ほど水は濁り、不味くなるものだが、これはその典型的な水だ。
代わりに酒でも飲めれば良いのだがアリエルの監視が厳しく、そんな機会は貰えないだろう。
「店主よ、この辺りで人が一番集まるのはどこだ?」
「そりゃあ色々あるが────」
店主の視線が上下する。そして髪の無い頭を搔くと掛ける言葉を選ぶように困った表情を見せた。
「今は働き口なんてねぇぞ」
店主が言わんとすることはアルガナスには伝わらなかった。答えになっていない返しに、ただきょとんと店主を見つめ返す。
「ん?もしや観光かい?」
店主は勘違いしたまま、更に言葉を返す。
「観光ではない。視察だ」
「視察!?ハハッ!そりゃ良いねぇ。こんなご時世だ気持ちだけは大きくないとな」
まるでボケた老人を見るような顔つきで言ったかと思えば「嬢ちゃんも大変だな」とアルエルに同情の眼差しを向けている。
アルエルは「いつものことです」と返しているが、それはどういう意味なのか。
「この街で人間が最も多い場所を聞いておる。それとここで一番の権力者もだ」
「ハハハッ!わーかった、わかった。ちょっと待ってな」
店主は水差しを机に置くと、カウンターの奥へ消えていった。
「なんだアイツは馬鹿にしよって」
「この見た目では仕方ないかと」
アルガナスは鬱憤を晴らすように最後のサンドイッチを口へと放り込んだ。
「お二人さん、持ってきたぞ」
店主は黄ばみと虫食いだらけの地図と埃をかぶったパンフレットを広げた。厨房近くで保管していたのだろう、あまりの油臭さに鼻を摘んだ。
パンフレットは観光客用での名所や成り立ちについて書かれてある。軽く目を通してみるが、醸造蔵以外にアルガナスが求めるものは無かった。
地図はというと、黄ばみが酷いものの読めないほどではない。使い込まれた形跡があり、大まかな地形の上から手書きの文字が滲んでいた。
「ふむ…なかなか面白い地形だな」
ハーフバーグを3つに分断するかのような水平に伸びた2つの運河とそれに沿うように建造物が所狭しと建てられている。
ただ、南側の地区は他に比べ開発が進んでいないのか内陸へ行くほど建物が減っている。
「ああ、そこにはワイバーンの巣があるんだ」
首を傾げたアルガナスに気付いた店主が答えた。
「それも大規模な巣みたいで駆除が追いつかなくてな、アイツら近付くもん全てに喧嘩を売ってくるから絶対に近づくんじゃねぇぞ」
「ワイバーンは知っておるが……そんなに好戦的な魔物じゃなかったはずだが」
ワイバーンとは蝙蝠のような翼腕を持ち、蛇のような尾を持つ二足の中型の魔物だ。
性格は臆病かつ神経質で群れで行動する。巣は高所の岩肌をくり抜き、協同繁殖で子を育てていく。
「いやいや…この前も食料品を盗られたって同業者が泣いてたんだぞ。臆病なら巣から出ないはずだろ」
「環境の影響か……まあだからといって興味は無いんだがな」
今必要な情報はこの都市の責任者だ。
そこかしこにいる魔物の生態はどうでもいい。
「店を出すには誰に許可を貰えば良いのだ?」
「あぁそれは二区にある…この建物だ」
店主が言うにはハーフバーグは区画で分けられているようだ。
北にある運河の上方、海沿いが一区。内陸側が二区だ。
三区は上下の運河に挟まれる形で海沿いに位置し、南にある運河の下、海側が四区。そして南の運河を横断するように、余った内陸側の地域が五区だ。
一区は高級住宅街で一般人は立ち入り禁止になっていて入る為には許可が必要らしい。
二区は商業区。大規模な娯楽施設や冒険者組合、そして目当ての商業者組合がある。
三区から四区は旅館や観光の名所、蚤の市が開催されている場所だ。住民の居住もここが一番多いらしい。
そして五区、この酒場もある区画だが、ワイバーンの巣側の運河にあるためか区域全体が他と比べ貧相な印象を受ける。
「目指すは商業区だ、行くぞアルエル」
アルガナスは口を袖で拭いながら立ち上がる。
「おいおい地図持たずに行くつもりか、また返してくれれば良いから持ってってくれ」
「いらん。アルエルがおれば問題無い」
店主の視線はアルエルとアルガナスを行き来する。
信じられない物でも見たように、口を開け目を瞬かせている。
お節介、いや面倒見が良いと言うべきか。顔付きが凶悪過ぎることを除けば善人だ。
「もう覚えましたので結構です」
店主はそう言い切ったアルエルに押されながらも頭を掻きながら続ける。
「二区まで行くなら馬車でも呼んだらどうだ?地図で見ると小せぇが、実際はかなり遠いぞ」
「いらんよ」
アルガナスは細木のような指を立てながら笑う。
「飛べば直ぐだ」




