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7話 四天王登場 ②


 アクスレイは亀裂から飛びだした魔王アルガナスとガイアスを一番に出迎える。

 



 最優先で確認すべきは、アルガナスの機嫌と訪問理由だ。


 

 密談内容が露呈し、制裁に来たとは考えにくい。 

 

 会話内容が周囲に漏れないように魔法を展開、そして周囲には従順な配下を配置し警戒にあたらせていた。

 


 アルガナスの魔力量の前では、この程度の魔法など薄氷に等しい。



 だが、効力を防ぐことはできなくとも、魔法が発動されたことさえ気付ければ対策は取れる。

 

 

 

 

 なぜなら魔力はそれぞれの個体で全く異なった色を持つ。

 それは生まれ持ったときに決まっており、特殊な方法を除いて変えることはできない。

 


 視覚などの感覚器官では識別はできないが、魔法に精通する者なら第六感でそれを識別し、魔法使用時に誰が行使したか判別が可能だ。

 

 


 特にアルガナスの魔力色は、未だかつて見たことがないほどに、どす黒く不気味な色合いをしている。

 


 脳裏に焼き付くその色は、一度見れば絶対に見間違えることはない。更には念には念を入れて、探知と索敵に秀でた者を配置している。


 

 以上の点からアルガナスによる盗聴は無いと断言できる。

 

 


 ではアルガナス以外の魔族はどうだろうか。

 



 魔王軍に属する有能な者は適当な理由をつけ、四天王の管轄に移らせた。



 アルガナスの管理下である魔王城に留まっているのは、ほとんどが無能で取るに足らない者たちばかりだ。

 


 中にはアルエルのように、打診を断り留まる愚か者もいるが、かなり少数だ。

 

 

 その中には探知能力を突破できるような力を持つ者はいない。潜入させた配下からもその報告は上がっていない。

 

 


 

 では、何のためにここに来たのか。




 

 アクスレイはアルガナスの一歩後ろに立つガイアスへと視線を移す。


 

 『弱者』『雑魚』『醜悪』『無能』

 足の先から頭のてっぺんまで眺めても、それ以外浮かばない。

 

 

 考えたくはないが、まさかこの程度の人間との顔合わせに、魔王がわざわざ出向いたというのか。

  



 

 「これはこれは魔王様、このような場所になんの御用で?」

 


 アクスレイの発言と同時に、四天王は一列に並んでから膝を折り身を屈める。

 


 不思議と、忠誠心なんて全く無くても口当たりの良い言葉や態度は示せるものだ。


 屈辱には違いないが、アルガナスの首さえ落とせたら溜飲も下がるだろう。

 


 「アルエルから通達があったと思うが、挨拶は必要だと思ってな。これがガイアスだ」

 

 アルガナスの表情は明るく尾は左右に揺れている。

 危惧していた機嫌も問題は無さそうだ。

 

 


 「あぁ、ソレが例の────────」

 

 アクスレイの鼻から息が漏れる。大笑いしそうになるのを必死に堪え

 

 「──────────トクベツコモン…デスカ」

 

 


 

 滑稽。なんとも滑稽すぎる。


 


 歴代魔王最強と名高いアルガナスが人間と足並みを揃えようなどど。


 漠然とした野望は聞いてはいたが、実際に目の当たりにすると面白さが一段増す。

 


 アクスレイは人間を見下しているが、それは差別意識から生まれたものではなく、その無能さをただの事実として心の底から侮っているだけだ。

 


 だが無力を補うように発達させた知識は、奴らの生存戦略に大きく影響し、この戦争を長引かせていた要因でもある。

 


 人間の中でも多少、頭の回転が良い者もいることは知っているし、奴らの加工技術や美的感覚には多少の─────ほんの小さな美点もあるとは思っている。

 


 

 それでもこの男の顔つき、立ち振る舞い、件の決闘、その全てを鑑みた結果褒めるべき点の無い『無能』と結論付けた。

 

 

 


 歳を取ると脳が弱るらしいが、アルガナスの唯一の長所と言えた目利きすら効かなくなったらしい。

 

 


 やはりアルガナスは魔王に相応しくない。魔界のためにも魔王の名をこれ以上汚さないためにも早急にご退場願いたい。

 



 

 「私は四天王!のアクスレイと申します。お見知り置きを」

 

 『四天王』という部分を強調した口調は暗に立場の差を示すためだったが、当の本人は理解できていないようだ。

 

 


 短い付き合いなれば良いが、さてどうしたものか。

 



 「これから互いを知っていくのに良いと思ってな!貴様らも、何かあれば頼ると良い」


 

 タヨル?ダレガ?ナンデ?

 

 アクスレイの脳内に疑問符が浮かぶ。

 

 何をどうすれば、四天王(われわれ)が人間に援助を求めることがあるというのか。



 

 例え天地がひっくり返ろうとも、それは無いと断言できる。

 人間の手を借りるぐらいなら、潔く死を選ぶ。それが魔族だ。

 


 

 「……ガイアスだ、これからよろしく頼む」



 

 恐怖で萎縮したらしい口調に泳いだ目。

 何度も行き来する視点は、どうやらルフタルを避けているようだ。


 

 遠慮がちに伸ばされた手を見ながら 「あ~~、申し訳無い。私は雑魚(ニンゲン)アレルギーでして、接触の類はできないのです」 アクスレイの口角が卑しく吊り上がる。



 

 「ルフタル、確か君とトクベツコモンさんは面識があったはずですねぇ」

 


 ガイアスの肩がわずかに震えた。



 秘めた恐怖を悟られまいと必死の抵抗が伺える。

 

 間違いない。あの人間はルフタルを恐れている。

 

 殺されはしなかったが、相応の恐怖は味わったのだろう。

 



 なんと素晴らしい。



 

 アクスレイの胸中はルフタルへの賛辞───とても軽度なもの──で満ちていた。

 

 


 あの人間を殺すことも考えた。


 魔王軍に属さない魔族をけしかけ暗殺させる。これなら我々がアルガナスの逆鱗に触れることはないだろうし、処理も楽だ。

 



 この煮立つような怒りを沈めるには、最も解決速度が早い、が懸念もある。

 

 


 第二、第三の特別顧問(にんげん)の出現だ。

 

 

 人間は繁殖力が異様に高く、生まれてから十五年足らずで繁殖を始めるらしい。


 年中発情し、生涯出産数も多いと聞く。

 


 数百年から数千年の生涯で一度、多くても二度しか繁殖しない魔族とは桁が違う。

 

 

 個体数が多ければ、ガイアスのようにアルガナスに協力を申し出る奇特な生物がいる可能性が高いということになる。

 

 それが何か策略あってのことならば理解もできるが、心から平和を願って申し出る輩が次々と出てくるのではないだろうか。


 

 その都度、消していればさすがに怪しまれるだろうし、いたずらに時間を浪費するだけで根本的解決には至らない。


 それまでアルガナスの無理難題(パワハラ)に付き合わされれば身が持たない。

 

 

 そう考えれば今取るべき行動は、殺処分ではなく──────────

 

 「アタシは初めましてよねぇ」

 

 

 同じ考えに至ったであろうファナールが立ち上がり、ガイアスへと向かう。

 

 

 ゆるりと伸ばした手をガイアスの首に回す。豊満な胸が圧迫され形を変えた。


 

 「ナ、カ、ヨ、ク、しましょうねぇ」


 

 ファナールは耳元で囁き、背中を指で優しく撫でた。片足を絡め、体重をかける。

 

 そして部屋全体に甘ったるい匂いが散乱した。



 

 『夢魔(むま)』の能力のひとつであるそれはファナールの魔力を混入(ブレンド)した特別製。

 呼吸器官から体内に侵入し対象の欲を煽る。

 

 

 大抵の人間なら彼女を一目見れば陥落するのだが、ルフタルへの恐怖からか、周囲を観察する余裕も無かったようだ。


 

 「離してくれ!!」

 

 ガイアスは慌ててファナールを突き飛ばした。

 

 

 「いやんっ」

 

 人間の男に突き飛ばされたところで、彼女の肉体はビクともしない。だがあえてそのままに反応を楽しんでいる。

 

 どうやらガイアスの魔法抵抗は低いようだ。

 

 無様に腰を屈め、息を荒らげている。血走った目でファナールを注視し、今にも飛びかかりそうだ。


 

 本人はなんとか正気を保てていると思っているに違いないが、ファナールを襲わないのは、彼女の許可が下りていないからだ。


 

 許可さえ下りれば、即座にただのケモノに成り果てるだろう。

 



 「ファナールよ、その臭いのをしまえ」

 

 「臭いって何よ!!」

 

 ガイアスにはこの世の物とは思えない甘美な香りに違いないが、魔法抵抗が高い者には、ただの胸焼けしそうな甘ったるい香りに過ぎない。


 

 事実、アルガナスは不快そうに顔を歪め、鼻を摘んでいる。

 

 

 アクスレイは破顔する。

 


 この手が効かなければ、精神的に追い詰めて廃人化させるしかなかったが、ファナールの操り人形のほうが都合が良い。

 

 

 彼には末永く、そして無意味に生きて貰わなければならない。私が王になるその日まで。

 

 


 拡散していた香りが消え、ガイアスの腰が徐々に伸び始めた。

 


 「ガイアス、大丈夫か?」 

 

 アルガナスの問いに、ガイアスは手を挙げることで答えた。

 

 顔にはまだ紅潮の余韻が残り、息も荒い。

 

 

 

 

 

 アルガナスはガイアスを庇護対象とは見てはいないらしい。直接闘った故の決定か、ただの気まぐれかはわからない。

 

 信頼がある、と言えば聞こえが良いが実際はただ放任しているだけだろう。

 

 竜族らしい無関心さと言えるが、庇護対象やお気に入りになれば話は変わってくる。

 


 となれば、ガイアスとこれ以上親しくなる前に徹底的に叩き潰すべきだ。

 

 

 直接、傷つけることは流石に許されないだろうが、それもやりようによっては不問となるだろう。

 

 

 

 人間は愚かな生き物だ。最初に、ちゃんと上下関係を叩き込まねばならない。

 

 

 恐怖を煽るならルフタルの出番だが、この男が動くとは思えない。

 

 先程の会話からガイアスを脅威と感じてはいないのはわかっている。それは心からのもので、あえて手を出すことはしないだろう。


 

 ルフタルの()()()()()を絡めれば話は変わるだろうが、それはこちらの陣営にも損害が発生する。

 



 ならば──────────

 

 

 「魔王様!ここらでひとつ余興でも致しませんか!?」


 

 「ほう?余興とな」

 


 「はい!是非この場で懇親会を行いたく存じます!聞けばトクベツコモン殿は中々の力自慢!そこで、余興として四天王ブロスとの力比べはいかがでしょう」

 

 

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!なんでそんなこと」

 


 少し強引過ぎたようだ。ガイアスは怪訝な顔でこちらを見ている。


 

 単純な力比べは自分の立ち位置をよりよく理解する助けになるだろう。

 


 例えどんな地位を得ようと、どんな能力を持っていようとも 魔族(われわれ)人間(おまえ)を認める気は無いと知らしめてやる。


 

 

 そしてなにより、ルフタルとの戦闘に負けた屈辱をもう一度思い出してもらいたい。

 


 「これが魔族流の歓迎方法ですよ」

 


 さすがに意図に気付いたようで、ガイアスは怒りのこもった顔つきに変わった。


 

 「やらないと言ったら?」

 

 「えぇ、それも自由ですよ。ですが、トクベツコモン殿は我々と仲良くする気は無い、とそう受け取らせて貰います」

 

 

 「なるほど、そうくるか。いいだろう、受けてたってやる」

 

 これで本人のやる気も充分。あとはアルガナスの許可次第だが─────────


 

 「ほほう!面白そうだな」

 


 なんの心配もいらない。決闘が好きなのは魔族共通。特にアルガナスは野次馬根性が染み付いている。



 争いあるところにアルガナスあり、と言わしめるほどに目撃情報が頻発しており、場を荒らし尽くすことには定評がある。

 



 

 「素晴らしイ!良い勝負にシヨウ!!」

 

 オマエは何普通に仲良くしようとしてんだ。

 

 

 察しの悪い牛はガイアスの元まで駆け寄り、握手を交わす。悪意が全く感じられない言葉に、ガイアスは困惑し、アクスレイは頭を抱える。

 

 

 やはりブロスの頭のデキの悪さは魔界随一。筋肉に知能が吸い取られでもしたのか。

 

 まあ、ブロスは所詮魔物の突然変異によって産まれた異種。そこまで求めるのは可哀想だ。



 

 四天王の中でも最弱─────────どころか四天王の座にいることも相応しいとは思えない。

 

 魔界にはブロスよりも強力な魔族が多数いる。


 

 アルガナスは何故、こんな牛如きを選んだのだろうか。

 ガイアス同様、ただの筋肉馬鹿は目障りこの上ない。この場で潰しあってくれることを祈るのみだ。

 


 

 「しかし勝負ト言ってもドウするノダ?体格が違イ過ぎルが」

 

 バカか。それを言うと勝負内容が限られるだろうが。

 魔族のくせに、何故正々堂々(クリーン)な戦いをしようとしている。


 

 その言葉に何も考えていなかったはずのアルガナスでさえ「それはよくないな」と言い始める始末。




 

 アクスレイは浮かんだ青筋を必死に隠しながら、短く思考し──────────そして思いついた。

 






 

 

 

 

 「腕相撲なんていかがでしょう?」

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